39.急襲爆撃編隊突入!
やっちゃえアリティア隊。
私は彼女達の位置と、敵陣営の状況を魔力感知で確認しながら、突入のタイミングを見計らう。
「アリサ君、そこで止まりたまえ。」
「はいはい。」
アリサが降下位置についた。
敵は丁度進攻前の朝の作戦会議中であり、指揮官や将校が一か所に集まっている。
上空はがら空きだ。
こんな前世の現代戦法、彼等は想定してないだろうから、上空は無防備で警戒されていない。
私は連日、夜襲は仕掛けていたが、朝から昼にかけては、新たな砲台設置場所まで移動する必要があった為、午前中だけ敵軍は落雷の恐怖から解放されていた。
敵の指揮官はその傾向を把握しており、進攻前のこの短い安全な時間を、軍の休息に充てていたのだ。
朝だけが、敵に与えられた唯一の休息時間。
落ち着いて食事ができ、短時間だが仮眠がとれるので、この時間を敵軍は最大限活用していた。
しかし、それは私の罠でもある事を彼等は知らなかった。
朝は安全なんて、幻想だよ。
油断したね?
「アリサ君、作戦開始だ。そこから真下の旗が立っている天幕内に投下して欲しい。では、急降下開始。」
私の合図でアリサが降下を始める。
重力加速度を受け、グングン速度を上げていく。
そして、地上が近付いて来たところで水平飛行に。
敵兵が呑気に寝ていたり、食事をとっている直上を、突風が吹き抜けるように目にも止まらぬ高速で通過する。
目標の天幕の入口に向かって一直線に飛行。
すると、流石に天幕の入口を守っている衛兵に発見される。
「!? 妖精だ!」
しかし、時既に遅しである。
「今だアリサ君、死神爆弾投下!」
「喰らえー!」
アリサは土瓶を手放すと同時に急上昇。
土瓶は天幕の入口に下がった布を突き抜け、吸い込まれるように中へ。
アリサは速度を落とすことなく上昇。天幕の屋根スレスレを駆け上がり、大空へと離脱。
直後、天幕の中から、毒に苦しみながら、敵軍幹部達がぞろぞろ逃げ出て来た。
「うぐっ!あがっ!」
「ぐぎっ!息が!」
敵幹部っぽい人物が集まる場所に全量投下された死神茸毒液。
土瓶は天幕内で砕け、毒液が飛散。
熱湯状態だった毒液は、蒸発して毒霧を発生させた。
少量でも気化した毒液を吸い込むと、身体が麻痺する猛毒だ。
また皮膚からでも浸透し、感覚を蝕む恐ろしい毒なのだ。
前世の世界であれば、非人道的と使用を禁止されそうである。
その為、少しだけ薄めて毒を弱めておいたが、それでも効果は覿面。
敵の護衛隊も突然の出来事に、何が起きたのか理解が追い付いていない。
バタバタと倒れる敵幹部。
残った幹部を助け出そうと、天幕内に入った兵も毒で倒れた。
「敵襲!敵襲だ!」
敵軍の中央が騒然となった為、全ての兵の注意が中央に向いた。
その混乱に乗じて、敵陣背後からリティア君が忍び込む。
食糧を積んだ荷車の周囲に敵兵は居なかった。
まさかこのタイミングで背後から妖精に急襲されるとは思いも寄らなかったのだろう。
また、朝=安全説のお蔭で、油断していた事もある。
リティア君はその隙に荷車の中に飛び込み、次々と油を撒いていく。
そして最後に火を着けるのだが・・・
火・・火か・・
どうやって彼女は火を着けるのだろうか?
リティア君任せだった為、私はその方法を聞いていない。
―――――作戦会議中
「リティア君は後方から忍び込み、まずは糧秣に、この油を撒いてくれたまえ。」
「臭いです~。」
ランクシャーの町から取り寄せた、動物性油脂。
煮溶かして土瓶に詰められていた。
時間が経つと臭うようだが、私は鼻が無いので関係ない。
「そして火を着けるのだが、リティア君なら火くらいは、自分で出せるよね?」
女神なんだし。
「な、何の事かサッパリ分かりません。ただの妖精に火が出せる訳がないじゃないですか。あははは」
一生懸命誤魔化している。
ただ、火を出して貰わないと困るので、ここは強引に作戦遂行力を引き出す。
「ああ、済まない。言い方を間違えた。”秘書”なら火くらいは出せて当然だよね?」
「勿論です!」
彼女の無駄に熱い秘書魂を利用させて貰った。
どうでも良いが、秘書とは火を出す職業ではない。
秘書だから火を出すという認識自体がおかしいのだが、彼女は全く疑っていなかった。
都合が良いので、そのまま放置することにして、作戦を実行に移す。
一体彼女の中の秘書とは、どんなイメージになっているのか、甚だ心配である。
―――――現在、リティア君作戦行動中
そして私はリティア君が、どうやって火を着けるのか興味深く観察した。
尚、この世界に「火属性魔法」はない。
ゲームの世界では、よくある「火・水・土・風」の4属性魔法。
しかし、この世界の4属性は「光・水・土・風」であり、火は別物扱いされていた。
よく考えれば、炎は燃焼現象。
燃焼とは、可燃性ガスと酸素と熱源があって生まれる化学反応であり、自然にあるものではない。
火は起こすものである。
その為、残る3属性とは扱いが違う。
尚、アリサとリティア君に聞いた話では、「水魔法」なら液体、「風魔法」なら気体、「土魔法」なら個体、「光魔法」はエネルギーを操る魔法となっているそうだ。
火は「風魔法」に近しい。
その為、火魔法は風魔法と光魔法と土魔法の合成魔法として扱われ、高度な魔法として位置付けられていた。
ゲーム等では初期に使用可能となる火炎球の魔法は、この世界では超高等魔法なのだ。
無駄に現実的である。
私のスキルツリーには、一応「火魔法」があったが、光魔法で十分代用が利くので、無用の長物としてシカトを決め込んでいた。
さて、何もないところから火を生み出す為に、リティア君がとる行動とは何だろうか?
カチッ・・ポッ
・・・普通に100円ライターで炙ってた。
そ れ 持 ち 込 ん じ ゃ 駄 目 で し ょ !!
やりたい放題だなリティア君!
オーパーツ!オーパーツ!
だが、私以外に見られてないので、この際ヨシとする。
リティア君は、松ヤニのような樹脂を塗った枝に火を着けて、松明のようにした。
それを次々と荷車の油脂が沁みた部分に放り込んで行く。
中央の騒ぎで、後方の警戒が薄れ、更に糧秣警備の人員は、連日の疲労と寝不足で夢の中だ。
荷車から盛大な火の手が上がった頃には、リティア君は離脱しており、敵軍は多くの食糧を失った。
尚、あまり敵軍を追い詰めない様に、撤退に必要な食糧は残してやっている。
それも失うと、町から奪うしか彼等に残されて道が無くなるからである。
この急襲によって敵軍は大混乱に陥る。
敵軍は何が起きたのかさえも判っていなかった。
結局、この日は少し進軍され、翌日にはランクシャーの町を捉えられる場所まで移動した程度で進攻を終える。
敵軍の戦闘可能な兵員数、1400名。
敵軍がランクシャーの町に到達するまで、残り10km
■
ランクシャー防衛戦6日目
敵軍は遂にランクシャーの町から少し離れた平原にやって来た。
私は既に町の教会の定位置に戻っており、敵の出方を見ていた。
教会前に集った老人や女性達は心配そうに、戦いに赴いた男達の無事を祈っている。
アイン領主に率いられたランクシャー領軍の間には、緊迫した空気がずっと漂っていた。
ここまで敵をチクチクと攻撃し、約600名の敵兵を戦闘不能にした。
残った兵も寝不足で疲労困憊、意識朦朧、士気脆弱で弱り切っている。
到着を丸っと2日遅らせるディレイにも成功。
更に先日の爆撃作戦で、敵の指揮系統は総崩れとなっている筈である。
こちらの被害はゼロに等しい。
敵の被害は甚大。
積み重ねた戦果は、極めて大きかった。
総力を結集して一度だけ全力衝突するより、何度も回数を重ねてチクチク積み重ねた方が、成果はより大きなものとなる。
継続は力なり。
コツコツ地道に続ける事を得意とする、私らしい戦い方であった。
数時間の睨み合い。
ランクシャー領軍は、町の外に隊列を組んで待ち構え、バイルラウンド軍は平原の向こうで微動だにしない。
兵力はまだ敵軍の方が圧倒的に上である。
しかし、士気はランクシャー領軍の方が圧倒的高かった。
暫くすると、敵が動いた。
緊迫の瞬間。
しかし、敵軍は遠ざかって行った。
撤退だ。
撤退していく。
バイルラウンド軍はランクシャーの町まで、あと数キロのところで、踵を返したのだった。
「おおおおおおおお!!!」
ランクシャー領軍から雄叫びが上がった。
その声を聴いて、ランクシャーの町から歓声が響いた。
戦が始まる前から、こちらの戦車部隊と航空部隊の急襲により大打撃を受け、指揮系統の喪失と、多くの食糧を失ったバイルラウンド軍の経戦能力は激しく減耗。
何より正体不明の神の雷に、これからも曝される事への恐怖で、士気は底を着いていた。
敵の進攻は、当初の予定より2日遅れた。
つまり、あと2、3日持ち堪えれば、国王軍の援軍がやって来る状況。
それは敵軍も判っていた。
町を制圧占拠する前に国王軍に合流されると、全滅も有り得る。
略奪目的の侵攻に、そこまでのリスクを冒せないバイルラウンド王国軍は、撤退を余儀なくされたのであった。
「おおおおおおお!!」
「撤退だ!撤退していくぞ!」
「勝った!我々だけで2千の軍を退けたぞぉー!!」
ランクシャーの町は勝利に湧いた。
「御神木様万歳!シャチョー様万歳!」
「シャチョー様は、ランクシャーの町の救世主だ!」
「英雄シャチョー様万歳!」
いや、そんな風に言われると困るのだが。
「作戦に協力してくれた勇士達や、後方支援をしてくれた皆の勝利だよ。私達だけでは、成し得なかった。」
事実、敵の斥候に発見される危険を顧みず、私の重い身体を敵陣近くまで運んでくれたり、敵の進攻にあわせて後退したり、安全に身を隠せる場所を探してくれたから、私は魔法を放つ事に集中出来た。
他領主や国王への根回しや戦の指揮をとった領主。
戦力外の住民を落ち着いて避難させたザイン君。
敵情報を逐次知らせてくれた斥候部隊。
また、移動に使用した私専用の荷台を徹夜で作り上げてくれた町の職人達。
罠を設置した自警団の面々。
死神茸の毒土瓶や油瓶を作ってくれた女性達。
多くの人に支えられ、協力が得られたからこその結果である。
皆の団結力が、敵を撤退させたのだ。
皆が一丸となったから成し得た偉業だ。
なのに私達に感謝する声は鳴り止まない。
う~ん、違う気がするのだが・・。
そんな私の内心とは裏腹に、
「まーねー!殆どアタシのお陰だもんね!」
「シャチョー様、わたしの功労は大きいのではないでしょうか?ね?ね?ご褒美は頂けますよね?」
対して、全く遠慮がない妖精強襲部隊の二人。
確かに彼女達の功績は大である。
この戦いにおいて、航空部隊の役割は大きかった。
彼女達の機動力がなければ、町は戦場になっていたはずである。
だけど、その態度が残念です。
敵軍の撤退により、再び平和が訪れたランクシャー領。
次回、勝利に湧く町。お楽しみに。




