38.ランクシャー防衛軍急襲爆撃編隊
まさかの敵凶刃に倒れるリティア。
ここまで順調であった形勢が、一撃でひっくり返された。
リティアを失い、窮地に立たされる社長。
果たしてこの戦局をどう乗り越える?
敵軍を食い止めるのもここまでなのか?
腹部を貫き、深々と矢が刺さったリティア君。
何てことだ。
私が彼女を戦場に連れ出したが故に、とんでもない事になってしまった。
あの迂闊な娘を、危険な前線に送り出してはいけなかった。
後悔が怒涛のように押し寄せる。
だが、悲しみに暮れるのは後だ。
敵弓兵はまだ健在だ。今度はアリサも危ない。
ここで冷静さを失えば、被害は拡大する一方。
私は心の中で歯噛みして、その矢を放った敵弓兵を狙い、ヴォルドアークを放った。
轟音と共に、歓喜に湧く敵兵の中に轟雷が落ち、衝撃で敵兵が吹き飛ばされる。
その中には、先程の魔力の高い弓兵の姿も確認した。
直撃は免れたようだが、側撃雷により気絶した。
これで、アリサまで危険に曝される事は無いだろう。
次はリティア君の救出と救命措置だ。
どうすれば良い?
私は救出に向かいたくても鈍足で役に立たない。
駆け出したくても、歩く事しか出来ない。
自分が木である事を悔やんだ。
焦る私の魔力感知の視界に、リティア君の下へ急行するアリサの姿が映った。
そうだ、今はアリサにリティア君を連れ帰って貰うしかない。
「リティアー!アンタ、何してんのよバカー!」
涙ながらに彼女を抱き締める。
リティア君の血がベットリとアリサの服に移る。
リティア君は矢を腹に突き刺さしたまま、茫然と空中で静止していた。
まだ飛行を継続出来ているのが奇跡的だ。
あの傷で意識があるのか?
いや、飛行を維持したまま気絶している?
妖精の小さな身体にとって矢の傷は、人間が太い丸太で貫かれたと同等の傷だ?
内臓はグチャグチャ、大量の失血、背骨すらバラバラのはず。
完全に致命傷であり、即死レベルの・・
「ひーん!シャチョー様ー!やられちゃいましたー!」
・・・。
「「は?」」
私とアリサは、一瞬思考が停止した。
リティアが放った、緊張感のない気の抜けた言葉に、言葉を失う。
「やられちゃいました~、じゃないってば!何呑気な事言ってんのよ!」
「だって、あんな奴等の矢に当たってしまうなんて、秘書として恥ずかしいです。」
いや、秘書関係ないだろ。
それよりももっと重大な事に気付いて!
「リティア君、腹に矢が生えているのだが?」
「あ、そうですね。すみません、秘書として格好悪いので抜きます。」
「だから秘書の体裁云々を言ってるのではなくてだね。」
いまいち話が通じない。
彼女は平然としており、特に痛みに苦しむ様子も無ければ、失血で青褪めている様子もない。
と言うか、何故あの傷で平然としていられるのか?
逆に我々の反応の方を訝しく思い、「何を慌ててるのかしら?」といった表情である。
殆ど狂気の沙汰だ。
「おりゃっと。」
バキ、ズボッ
リティア君は、矢を折って、そこから引き抜いた。
その小さな身体で、よく折れたね・・って、今腕が伸びなかった?
「わわわ、バカ!それ抜いたら血が吹き出・・・さない?」
普通は矢によって堰き止められていた部分が、堰を失い、大量出血となるはずである。
それが何事も無かったかのように、腹部の穴が塞がっていた。
アリサが目を見張って驚いていた。
本当にどういう事だ?
いや、そうか・・・そうだった。
いつか彼女はキツツキの嘴にヘッドショットを喰らい、額に穴を空けられても平然としていた。
その時は単なるギャグ上の演出と認識していたが、確かにあれは重度の怪我だったのだ。
普通は額に穴が開けば死ぬ。
腹に大穴が空いても死ぬ。
だが、彼女は普通ではないのだ。
なんたって、女神なのだから。
既に傷は修復され、何事も無かったように復活していた。
「お、おい・・なんだよアレ・・。」
「矢で貫いたんだぞ。」
「嘘だろ・・何で生きてんだ?」
その様子を見て、敵軍に激しい動揺が走った。
同時に戦慄も走る。
矢で貫いても死なず、ピンピンしている。
その事実はつまり、妖精は不死身。倒せない事を告げていた。
つまり、この落雷は止む事が無い。
そう認識されたのだ。
多くの犠牲を払って、必死に当てた矢も無駄。徒労に終わった。
先程の歓喜からの落差による反動も相まって、その絶望感と悲壮感は計り知れない。
想像を絶するショックとなった事だろう。
「て、撤退!一時撤退だ!ロックを守りつつ退け!」
さしもの指揮官も、この結果には肝を冷やし、もう一度対策を講じる必要ありと、撤退を選択せざるを得なくなったようだ。
「あれ?シャチョー様、敵軍が撤退していきますよ?」
リティア君・・。
君は思いがけず、敵軍を恐怖のどん底に叩き落としたのだよ。
彼女の天然は、軍隊をも退かせるようだ・・。
敵軍がランクシャーの町に到達するまで、残り45km
■
ランクシャー領防衛戦 雷撃戦車要撃作戦4日目
この日もバイルラウンド軍は諦めずに進攻してきた。
総指揮官がいた部隊が的確に狙われたので、肝を冷やしたのか、午前中に3部隊に分けた隊を、もう一度集結させ、午後からは元の大隊に戻った。
現在敵軍の戦闘可能な兵員数は、1600に減員。
数こそランクシャー領軍の倍以上の兵員がいるが、私の陰湿な夜襲により、休息を取れず、その殆どが寝不足と心労でフラフラだった。
「本当に神が敵に味方してるとしか思えない!」
「被害は甚大だ。このままでは町に着く迄に、まともに戦えるものがいなくなる。」
リティア君のお蔭で、妖精不死身説が知れ渡り、敵軍に再び神罰説が蔓延していた。
士気は下がり、撤退を支持する者も少なくない状態となった。
ま、よく考えたら、リティア君は真剣に”神”だった。(天然の駄女神様だが)
神の遣いじゃなくて、本当に神なのだから救われないな敵軍は。
そして、本日も私は遠距離からの雷撃砲となり、敵の進攻に合わせて後退しつつ、安全圏から雷を落とし続けた。
「ひぃぃ!悪夢の妖精がまた来たぞ!」
「死神の遣いだー!」
アリサとリティア君は、死を降らせる「死神の遣い」として恐れられていた。
姿を見るなり散開し、密集しないことで、落雷の被害を軽減するだけで、弓矢による攻撃はしないようになっていた。
また、雷の射程距離も計算され、迂回進路をとったり、兵の散開も訓練されて早くなった。
敵指揮官は、こんな状況でもなかなか冷静である。
だが、進軍を遅らせる事は出来ているので、こちらとしては問題はない。
本日は私が隠れる場所が少ない平原が多い地形であった為、私達は大きく後退を余儀なくされる。
敵軍に進軍距離を稼がれてしまった。
しかし、不眠による肉体疲労と恐怖による心労は、敵兵から気力を奪い続け、遂に進軍中に倒れる者が続出するようになる。
敵軍は既に満身創痍だ。
結果、敵軍の戦闘可能な兵員数、1500名。
敵軍がランクシャーの町に到達するまで、残り25km
あと一日で、敵軍が町の前まで到達する距離。
王手である。
後が無くなったが、ここで私は切り札を切る事にした。
次なる作戦に移行だ。
戦車の次は「戦闘機」だ。
■
前世の世界では、時代が進むと戦車の天敵が現れた。
戦車の死角である上方から、一方的に高威力の攻撃を加える事が出来る兵器が登場したのだ。
航空戦力、つまり「戦闘機」である。
圧倒的な速度による一撃離脱。
攻撃の届かない高高度からの一方的な爆撃。
兵器や兵員の大量輸送、敵地への偵察、地形に左右されない広大な作戦領域。
現代戦では、制空権の確保が戦況を左右したものだ。
戦車でさえ経験の無い、この世界の敵軍に、更に進化した兵器である、戦闘機の恐ろしさを教えてあげよう。
■
ランクシャー領防衛戦5日目、早朝。
「こちらF-A型急降下爆撃機アリサ、行きます!」
「こちらF-R型後方急襲爆撃機リティア、テイクオフ。」
こちらには妖精という強力な航空戦力がいた。
そう、妖精=戦闘機である。
私は彼女達の小ささと静穏飛行によるステルス性に着目。
敵の死角から高速で、秘密裏に接近する事で、発見される事なく安全に、敵の中核へ直接ダメージを与えられると判断。
ここに妖精による精密爆撃作戦の決行を宣言する。
「アリサ君、作戦通り敵が視認出来ない高高度で接近。敵軍を確認したら、私の指示通りの場所に急降下し、手持ちの袋を投下して帰還、これが君の任務だ。いいね?」
「面白そう!」
アリサは終始、この戦いを楽しんでいた。
空中という、脅威の居ない空間からやりたい放題できるのだ。遊び半分でも大して問題がない。
たまに拾ってきた石を落としたりして、敵兵をからかっていた。
私はそれを見て、精密爆撃作戦を思いついたのである。
上手く行けば、敵指揮系統に大打撃を与える事が出来るので、残存兵力や士気の状態から考えても、これで撤退を選んでくれるはずだろう。
「目標は敵の総大将や指揮官だ。」
私が魔力感知で敵の本陣を確認し、上空のアリサに位置を伝える。
そこにアリサが急降下し、ピンポイント爆撃だ。
「任せてよ!ぶっ掛けてやるんだから!」
成功を祈る。
アリサが持っている土瓶には、死神茸から抽出した毒液の熱湯が入っていた。
死神茸の毒は、触れただけでも神経が麻痺・硬直するという恐ろしい毒性がある。
また、蒸発したものを大量に吸い込むと、肺が麻痺して死ぬ事もある。
その為、毒液を作ること自体が危険なので、毒耐性のある私と、毒すら無効なリティア君で作った。
―――――毒作り中
鍋を借りて、味方陣営から離れた所で煮出して抽出する。
鍋の目の前は、毒耐性がある私でも危険らしいので、リティア君に任せた。
リティア君は高濃度の毒霧の中で終始ニコニコしながら、鍋をかき混ぜていた。
正気の沙汰と思えない光景だ。
悪い魔女にしか見えない。
君、女神だったよね?
「シャチョー様と初めての共同作業ですね♪」
それが彼女の笑顔の要因か・・。
「毒作りを披露宴のケーキカットと一緒にするのはどうかと思うのだが・・。」
なんという物騒なケーキカットだ・・。
尚、死神茸の毒の抽出方法は、鑑定で調べた。
普通に調べると抽出方法までは判らないだろう。
その為、裏技を使う。
鑑定発動→リティア君から「お願い♡」→鑑定の中の人、大奮起大奮発→情報ザックザク
という作戦を実行してみたところ・・
リティア君の「お願い♡」だけで、鑑定さんはホイホイ情報提供してくれた。
鑑定すら使う必要が無かった・・。
そ れ マ ズ く な い か ね !?
今回の鑑定の中の人もチョロい。
―――――と言う事があった。
私はアリサに引き続き、リティア君にも作戦を繰り返す。
「リティア君は敵の食糧が目標だ。アリサ君の突入後、敵陣後方から接近。派手に燃やして欲しい。」
「こちらリティア、目標視認、エンゲージ」
リティア君には、敵の食糧を狙って貰う。
彼女は大きく敵後方に回り込み、地面スレスレの低空飛行で、敵の背後に迫る。
次回、アリサとリティアが暴れます。
ランボー 怒りの爆撃




