37.ランクシャー防衛戦 要撃隊の奮戦
ランクシャー領へ侵攻してきたバイルラウンド王国軍。
2千対7百の圧倒的な数的不利。
迎え撃つ社長を含めた雷撃戦車部隊。
接敵交戦を避け、遠距離砲(光魔法Lv7)の雨を降らせ、初日は進攻を遅らせる事に成功した。
しかし、敵軍は尚も進攻をやめない。
2日目の戦いが始まろうとしていた。
雷撃戦車要撃作戦2日目
再び進攻を開始したバイルラウンド軍。
その鼻っ柱に、昨日に引き続き、挑発陽動妖精隊アリサ&リティア出陣。
軽快に挑発を開始する。
「また来たのぉ?早く帰った方がいいよー。」
しかし、敵軍は彼女等を無視。
進軍を止めず、突っ切るつもりだ。
「妖精が出たぞ!」
「構うな、走れ!」
「一箇所に固まらず散開!距離を保って進め!」
どうやら敵軍は対策を考えてきたようだ。
先日とは違い、隊列を細長く、そして騎兵部隊を先行させ、進行速度を上げて対応してきた。
落雷の被害を最小限に抑える為に、密集しないようにしたのだろう。
なるほど。よく考えている。
敵軍の指揮官は、有能な人物らしい。
しかし、そうくる事はこちらも想定済だ。
「あれあれぇ?無視?無視していいの?もしかして言ってる事の意味が分らないおバカなの?」
「言葉を理解することも出来ない猿なのではないでしょうか?見るからに頭悪そうです。」
「あーなるほどね。だから昨日、あんなに危ないから来ちゃダメって教えてあげても、進もうとしたんだ。バカじゃないのって思ってたんだけど、ホントにバカだった訳ね。キャハハハ、ウケるー!」
「無駄に被害を出した上に、恐くなって逃げ出してましたよね。」
「頭悪い上に臆病って事?バカ丸出しじゃん!」
「ダサ過ぎて可哀想です。」
「臭いし、頭悪いし、腰抜けって、うーわ、最っっ低。」
「よくそれで生きて来れましたね・・不思議です。」
無視されても、飛行して追従するアリサとリティア君。
敵軍の牛馬より、彼女達の方が速いので、振り切れないのだ。
その為、並走されながらバカにされるという、極めてウザい事をされている。
「おのれ、言わせておけば!」
「やめろ、頭にくるが無視して走り続けろ!」
そんな風に上空に気を取られながら走っていると良い事は無い。
「うわあ!」「ぐべっ」「おぶっ!」
林間の街道に突如現れる、横に渡されたロープに引っ掛かって落馬する騎兵。
そのロープは、我々の罠である。
何も私の魔法攻撃だけが、足留め作戦の全てではないのだ。
敵の進軍は避けられない。それは事実だ。
だが、進軍を邪魔して遅らせる事は出来る。
私を前線に運んでくれたランクシャーの男衆は、進攻を遅延させる為に出来る事はやりたいと、私を森に隠した後は、独自に動き回り、街道に罠を張っていたのだ。
彼等は自警団の者が多く、街道の地理をよく把握しており、罠の設置もお手のものだった。
そして狙い通り、先頭を駆ける敵兵の進攻を、止める事が出来た。
落馬して呻く騎兵のもとに、後続の部隊が次々とやってくる。
「気を付けろ!ロープが渡してある!」
落馬した一人が注意を促す。
それを聞いた後続の騎兵は急ブレーキ。
馬を止めて、なんとか罠に引っ掛からずに済んだ。
「小癪な真似を。」
後続の隊が次々に立ち止まり、落馬した兵を助けに向かった。
小隊長は忌々しそうに、街道の両脇に生える木の幹に渡されたロープを切断した。
これで再度進攻が出来る。
ところで諸君、そんな所で止まっていて良いのかね?
そ こ は 私 の 射 程 圏 内 だ 。
光魔法Lv7ヴォルドアーク発動
私は落馬兵を救出する為に、渋滞し、密集した騎兵部隊の中心に落雷を落とした。
「「「ギャー!」」」
効果覿面。一撃で騎兵隊20名ほどが意識を失った。
その後も、後続の部隊は、その街道上で気絶した騎兵達に足を止められ落雷を受ける。
このロープの罠は、騎兵部隊を殺傷する為に張ったものではない。
馬を止めさせて、密集状態を生み出す為の布石だ。
流石に味方が道に倒れていれば、それを踏みつけて先に進もうとはしないだろう。
この罠のお陰で、敵軍の進軍が再び停滞。
停滞した所には、私のヴォルドアークが待っている。
停滞は、イコール兵員の損耗に直結。
妖精による挑発で敵の気を逸らし、罠に嵌めて、雷撃で一網打尽にする。
街道にはこのような単純で簡単な罠が、この先にも沢山仕掛けられていた。
シンプル故に回避が困難。
敵軍は私達のこの作戦になす術がなく、悪戯に数を減らし続けた。
「ねぇ、もうやめた方がいいってば。死んだり、動けない人いっぱい出てるでしょ?頭悪くて、こっちの忠告の意味が分ってないみたいだけど、無駄だから帰った方がいいよ。」
「本当に頭悪くて可哀想です。言葉さえ通じれば、分ってくれるんでしょうか?通じてもダメそうですけど。」
「黙れ!」
執拗に煽りまくる妖精二人に、敵軍のイライラ感は募っていく。
思念通話なので、耳を塞ごうと聞こえるのがとにかく鬱陶しいのだ。
すると、面白いように罠に嵌る。
「くそっ、あの妖精共、舐めやがって!」
「おい!前!前!」
「うわあ!」
街道に深い堀が掘られていた。
飛び越えられず、続々と落ちる騎兵。
普通なら気付く単純な罠も、アリサのウザい挑発とのコンボになると、凶悪な罠となった。
そして、停滞する進軍。
停滞して、密集すればヴォルドアークの餌食。
この堀は、私の「吸収」の跡地である。
私の「吸収」は土から魔力を吸収すると、土は不活性化され、サラサラの灰や砂状態になってしまう。
すると穴を掘るのが、格段と楽になるのだ。
ランクシャーの町の周囲に、堀を掘った時と同じ要領である。
敵の進攻に合わせ、こちらも後退するのだが、その際、失った魔力を吸収で回復させるついでに、敵軍進路上の街道に穴を掘って、敵の進攻を遅らせる罠にしたのだった。
穴程度では騎兵や歩兵には、一時的に進軍を止める程度の効果しかないが、敵の物資運搬用の後続車両には効果的だ。
軍隊の行軍には、必ず補給物資や野営用の物資などを運搬する必要がある。
深い溝や穴があると、その荷車が通れなくなり、進行が止まるのだ。
人海戦術ですぐに埋められてしまうが、後続部隊の到着が遅れるので、軍全体の進行速度は少なからず落ちる事となる。
これも地味にディレイ効果を発揮した。
■
この日は夜も敵陣に落雷を落とした。
魔力温存の為に夜は乱発は出来ないので、約1時間置きにヴォルドアークを敵野営陣内に落とす。
これは敵戦力に打撃を与える殺傷が目的ではない。
敵を精神的、肉体的に疲労させ、追い詰めるのが目的だ。
木である私は眠る必要がないので、昼夜は関係が無い。
だが、亜人族達には休息が必要だ。
特に昼の進軍の間は、ウザい妖精による止む事の無い侮辱と嘲笑に耐え、いつ落ちるのか分からない落雷の恐怖に、常時曝されながら移動する事となり、心臓を鷲掴みにされながら敵兵は歩いていた事だろう。
そのストレスたるや想像もしたくない。
想像するだけでハゲそうだ。
実際、恐怖で逃亡する者も現れていた。
そんな心労を唯一回復させ得るのが、野営時の食事と睡眠の時間である。
やっと恐怖から解放され、一息つけると思った矢先に、雷が降ってきたらどうなるだろうか?
私なら発狂する。
恐怖でとても眠れないだろう。
我ながらえげつない作戦であるが、これに懲りて撤退してくれたらと思い、心を鬼にして撃ち続けた。
翌日、案の定、敵兵は疲労困憊、士気は下がり切っていた。
また、この2日目の進軍により、敵の騎兵は多くの兵や馬を失った。
敵軍がランクシャーの町に到達するまで、残り60km
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雷撃戦車要撃作戦3日目
昨夜までは、こちらが吹聴した神罰説が効いて、「神の天罰だ!」「神の怒りに触れたのだ。」などと、敵軍の中に渦巻いて、畏怖心を掻き立てていた。
思念通話の盗聴で、敵の混乱の様子は筒抜けなのだ。
進攻すると現れる妖精。
神の加護を吹聴され、裏付けのように降り注ぐ雷の雨。
「本当に敵軍には神が味方しているのではないか?」
「あんな落雷が降り注ぐなんて有り得ない。神の御業としか思えない。」
そんな疑惑と疑念で、敵軍の士気は下がりきっていた。
ハッタリを信じて撤退してくれれば、儲けものであったが、敵軍の指揮官はリアリストだった。
「これは神の御業などではない。原理は判らぬが、人為的な罠である!」
と、神の威光に慄く将校達を諌めた。
昨日、人為的な罠を張った事により、何かしらのランクシャー領軍の工作によるものと断定されたようだ。
「神罰であれば、小細工等必要は無い。つまり、ランクシャー領軍のハッタリだ。惑わされるな!」
この檄によって敵軍の士気は持ち直した。
手強いな、敵軍の指揮官。
そして敵軍は、部隊を3つに分けて進軍することにしたようだ。
なるほど、妖精は2匹しかいない。
妖精に出くわさなければ、落雷は無いと考えたようだ。
これには、こちらは対応策が無い。
圧倒的な人員不足。
その弱点は敵軍指揮官に看破されたようだ。
アリサとリティア君を分けるのは、何かあった時の為に避けるべき。
彼女達は安全の為に二人一組が絶対である。
その為、2/3の部隊は素通りさせるしかなかった。
だが、それでもこちらは構わない。
敵軍は罠のある街道を避けて、道なき道を進む事となるので、どうしても進軍速度は落ちた。
それはこちらの望むものであり、思う壺。
加えて、こちらの目的は、敵の数を最終的に減らせれば良いので、兵力が分散されようと、やる事は変わらない。
1つの部隊を徹底的に叩けば良いのだ。
そして、我々の狙いは、敵軍の総指揮官がいる部隊である。
アリサとリティア君に斥候に走って貰い、3部隊のどこにいるのかを予め確認して、待ち伏せる事にした。
だが、流石は指揮官がいる部隊。
精鋭が揃っており、思うように攻撃が決まらない。
こちらは開き直って、ヴォルドアークによる砲撃を連発。
少しずつ敵戦力を削る。
後退しながら「吸収」も併用し、魔力を回復。魔力の限界値を悟られないようにした。
その時、事件が起きた。
アリサとリティア君は、神雷の遣いとしての役割があるので、今回も敵軍上空に待機して、好き勝手煽って貰っていた。
敵軍は、弓を妖精に放ちながら牽制しつつ、進軍を止めずに突破を図る。
すると、敵軍の弓兵に、一際異彩を放つ凄腕弓兵がいたのである。
「! アリサ君、リティア君、気をつけたまえ!敵軍に魔力の強い人物がいる。」
普通の亜人族の3倍ほどの魔力。
アリサよりは少ないが、魔法が使えてもおかしくない魔力量だ。
私が気付いたと同時に、届かない弓矢に混ざって、鋭い一矢がその警戒していた者から放たれた。
風魔法「フラッシュブレス」が乗っている?
「リティア!」
「え?」
信じられない事にその矢は、空を飛ぶリティア君を正確に捉え、届かないとタカを括って油断していた彼女を貫いた。
矢はリティア君の腹部を貫き、深々と刺さり、鮮血が舞う。
「リティア!」「リティア君!」
「やったぞ!一匹仕留めた!」
「さすがロック様だ!」
「英雄ロック!英雄ロック!」
敵軍は鬱陶しい妖精の1体を倒した事に歓喜した。
敵軍がランクシャーの町に到達するまで、残り40km
凶刃に倒れるリティア。
このままではアリサも危険だ。
果たして社長はランクシャーの町を守り切る事が出来るのか。




