36.ランクシャー零式社長砲
敵軍を迎え撃つシャチョー遊撃隊。
一体どんな作戦で立ち向かうのでしょうか?
「では、アリサ君、リティア君、頼んだよ。」
「任せてよ!こーゆーの超得意だし、余裕余裕♪」
「お任せ下さい、シャチョー様の敵は私の敵!」
結局私はアリサとリティア君を巻き込んで、ランクシャー領防衛戦に参戦することにした。
私のような反則臭い存在が、一方に肩入れするのは、あまり良い事ではないが、ランクシャー領には世話になった恩もあれば、人とのふれあいから自然と情も湧き、愛着が生まれるのは仕方のない話だ。
バイルラウンド王国軍の略奪目的の侵攻は、看過できない話である。
それに町が敵国に占領されれば、私とて無事に済むかも定かではない。
自衛の為にも、先手を打ちたかった。
「申し訳ない。君達にまで戦いに参加して貰うとは。」
「上手くいったらご褒美弾んでよね!」
領主がアリサを心配そうに送り出した。
「アリサたん、頑張ってー!」
「リティアたん、攻撃してきら、すぐに逃げるんだよー!」
アリティアファンクラブの面々が、二人の妖精を送り出した。
私は魔力感知と思念通話で、西に向かって飛ぶ二人を追う。
まだ距離があるが、飛行出来る彼女達なら、高高度から直ぐに敵軍を発見する事が出来る。
薄っすらと残る街道沿いを飛行して行くと、ランクシャーの町に向けて侵攻する、バイルラウンド王国軍の姿を捉えた。
「作戦開始だ。」
私の合図でアリサ達が敵軍の上空にホバリングする。
「うわー、いるいる。臭そうなムッサイのがいっぱい。」
アリサは思念通話を全開に開いて、敵軍に聞こえるように喋り始めた。
当然、どこからともなく聞こえる声に、敵軍は困惑する。
「何だ?妖精!?」
「二匹いるぞ!」
「初めて見たな。」
敵軍がその声の主に気付き、珍しげにその姿を見上げていた。
アリサとリティア君は、上空を飛び回って、たっぷりとその姿をバイルラウンド軍に見せる。
その間、進軍が止まった。
そして、注目が集まったところで、リティア君の演説が始まる。
「えー、こちら神の加護を得た無敵のランクシャー領軍。バイルラウンド王国軍に告ぐ、そちらは領域を侵している。それ以上の侵攻は、神の怒りを買うことになるだろう。犠牲者を出したくなければ、今すぐ引き返す事をお勧めする?」
リティア君が、私が伝えた言葉をそのまま朗読した。
最後、疑問系になっているぞ、リティア君。
「神?・・ぷっ!ブハハハハハハハ!」
バイルラウンド軍から、一斉に笑いが起きた。
そして、次々に嘲笑が上がる。
「今にも飢餓で潰れかけの貧困領に、神様がいるかよ!」
「神に見放されたから、激弱駄目領主に寄生されてたんだろ。」
「何回攻めて来ても、ボコボコになって帰っていった激弱ランクシャー領軍、ついに妖精頼みのハッタリかます!」
「正直に命乞いしろや!食べるもの無いので戦えませーんってな!」
「ギャハハハハハ!」
リティア君の演説を嘲け笑い、誰も真に受けてはいなかった。
敵軍は、ランクシャー領が貧困で弱りきって、余裕で勝てると踏んで攻めてきたのが確認出来た。
どうやら領内にスパイが紛れていたようである。
そんな爆笑中の敵軍を見下ろし、二体の妖精が次に放った言葉は、彼等の意表を突く内容であった。
「はぁ、弱い上に臭い猿とか猪が何か言ってんだけど?バカなんじゃない?」
「本当に臭い。あんな臭い足で、これ以上シャチョー様が根を下ろす大地に近寄らないで欲しいです。汚染されます。」
逆に敵軍を挑発するアリサとリティア君。
「ああ?」
これは敵軍も無視出来なかった。
小さな妖精ごときに、弱いだ臭いだと侮蔑され、黙っては居られない。
一瞬で多くの敵兵から怒りを買い、注目の的となる。
だが、更に挑発を続ける二人。
「えー?足だけじゃなくて全身臭くない?見てよアレ、キモッ!」
「確実に息も臭いですね。」
「あの分じゃ頭の中さえ臭いとかー?超ウケるんですけどー!」
「うわっ、視線すら臭いです!」
矢継ぎ早に挑発を繰り返す二人。
敵兵は皆グラグラと怒りが煮え滾り、遂に噴出した。
「なんだとゴラァ!」
「うわっ臭っ!喋らないでよ、もう、あり得ない!」
「降りてこい!八つ裂きにしてやる!」
「殺せ!」
ほぼ敵軍全員が怒りに燃え上がっていた。
よくもまぁ、あれだけヘイトを溜められるものだ。
「あんたバカぁ?誰が降りるかっての。さすが脳まで腐って臭いだけあるわー、キモいわー。」
「あーもー、見られてるだけで臭ってきそうです。早く掃除してしまいましょう。不愉快です。」
そんな敵軍の怒号など素知らぬ顔の二人。
その態度を目にして、更に怒りが燃え上がるバイルラウンド軍。
うーん、相手を小馬鹿にするのが上手いなぁアリサは。
リティア君も上手く乗っている。
「許さん!弓兵、あの目障りな妖精を射殺せ!」
完全に頭にきた敵将が、二人に対して攻撃を指示した。
「やめてー!弓矢も臭いからー!」
ブチッと何かキレた音がした気がした。
「構え!」
攻撃準備の号令が発せられた瞬間、リティア君が私へ合図を送る。
『シャチョー様、お願いします。』
『了解した。光魔法Lv7ヴォルドアーク発動。』
バイルラウンド王国軍が弓を構え、今放とうとした瞬間。
彼等の中央に極太の落雷が、強烈な雷鳴を轟かせ、突如として降り注いだ。
槍兵や、騎兵に落ちた直撃雷は、有り余る電圧が周囲に拡散、側撃雷を発生させ、その周りの兵もバタバタと倒れた。
また、爆音で鼓膜が破れたり、衝撃によって吹き飛んだ兵も多い。
一瞬の出来事。
一撃で15人程の兵が動けなくなった。
「落雷!?まさか、雲などないぞ!?」
魔法ですから。
不自然極まりないが、魔力という不思議パワーが無理矢理に引き起こす現象なので、勘弁して欲しい。
大気中の静電気でも集めて落としているのだろうか。
不思議であるが、何もない中空が、突如として眩しく光り、稲妻が走るのだ。
敵軍にとっては、まさに青天の霹靂であろう。
尚、『ヴォルドアーク』という魔法名は、リティア君から教えて貰った。
現在のこの世界では、使用出来る者は殆ど居ない、忘れられた超超上級魔法になるらしい。
地上は混乱していた。
まさか、落雷が突然起きるなど、誰も予測出来ない事態に、思考が追い付いていない。
「ほーら、言ったじゃん。これ以上、アタシ達に何かすると、全滅するよ?」
「もう一度試してみます?命懸けのテストになりますけど。」
その妖精の言葉に、敵兵は絶句していた。
悪夢を見ているように感じたに違いない。
ここで私が提唱した作戦を説明しよう。
私は牛馬車に乗せて貰い、丸1日掛けて移動し、敵軍の手前20km地点まで接近した。
そして、敵軍の進路上の林に隠れ、敵が魔法の射程距離に入るのを待ち伏せていた。
その後、敵軍がやって来た時点で、アリサとリティア君を飛ばす。
彼女達は陽動である。
空を飛び、弓の射程外となる安全な位置から、思念通話で煽りたいだけ煽って、敵の注目を浴び、ヘイトを稼ぐ。
私は敵の後方数キロメートル離れた林に隠れて、魔力感知で敵軍を捉え、遠距離から魔法で狙撃する。
こうして、敵軍の兵力を安全に削いでいくようにしたのだ。
光魔法Lv7ヴォルドアークにしたのは、上から落ちる魔法なので、射線が読めず、潜んでいる場所がバレないからだ。
アリサとリティア君が敵の視線を引き付けているので、こちらに気付かれることなく、撃ち放題の固定砲台となって、敵を蹴散らす事が出来る。
実際にヴォルドアーク使って、その威力に私自身がドン引きである。
あんなの個人が放って良い攻撃ではないな。
何せ私の傍にいた味方も、その轟音に開いた口が塞がらなかったくらいだ。
敵は原因不明の神の雷に混乱。
どうしても気になる存在の妖精二匹に意識が持っていかれ、隠れている私達には気付かない。
いやー、アリサ、どんだけ相手をバカにするのが上手いのだ。
敵兵から熱烈な殺意を浴びているのに、本人どこ吹く風。
その態度に余計腹が立つ。
人をからかい、ヘイトを稼ぐ事に、天性の才能を感じた。
「諦めて自分の国に帰った方がいいよー。」
「これは警告です。警告を無視すれば神の怒りに触れることとなるでしょう。」
「黙れ!もう一度だ!構え・・」
『光魔法Lv7ヴォルドアーク発動。』
ドゴォォーン!
再び落雷がバイルラウンド王国軍を襲った。
次は攻撃を指示した、敵の士官を狙った。
「お・・あが・・」
落雷は弓兵を指揮した士官の隣の騎兵に落ちた。
この魔法は遠距離の場合、ピンポイントで狙うのが難しい。
背の高い騎兵や、槍などがあると、どうしてもそこへ稲妻が誘導され易いのだ。
だが、有り余る高電圧は、その周囲に側撃雷を発生させて電撃を拡散。
敵の士官は直撃はしなかったが、一撃で気を失い、乗っていた牛馬ごと衝撃で吹き飛ばされた。
「うわあああー!」「ダービー部隊長!」
「何だこの雷!?」「嘘だろ、悪夢じゃないのか!?」
士官クラスがやられた事で、一層混乱が増した。
「何があった!?報告しろとの命令だ!」
後方の士官が事態の報告を要請していた。
行軍時の隊列は、細長く伸びているので、まだ丘陵の谷部にいる後方部隊からは見えないのだ。
「キャハハハハ!バーカ、バーカ!」
「わたし達の忠告を聞いて、素直に撤退すれば良いのに、神に逆らうからです!」
ドゴォォーン!
「あの妖精を落とせ!何かの罠だ!」
敵は必死に妖精2体を追い払おうと、落雷の恐怖に曝されながら、妖精の姿を見た瞬間に必死に矢を放つ。
しかし、射程を把握しているので、彼女達は弓矢が届く高度では飛ばない。
しかも高速で動き回るので、慌てて上空の妖精に向けて放った矢が、味方軍に降り注ぐ事もあり、敵兵はますます混乱。
たまに腕の良い弓兵がいて届くのだが、飛んでくる射線を見てから避ければ良いので、油断しなければ当たらない。
空を高速移動する小さな的に、弓矢を当てるなど大道芸にも等しかった。
「ぷっぷ~、そんな矢が当たるわけないじゃん。」
『アリサ、こちらに向かって逃げないでくれたまえ。隠れているのがバレる。』
ドゴォォーン!
「天光満る処に我は在り、黄泉の門開く処に汝在り、出でよ神の雷!」
『リティア君、何だねその演出は?』
「神の雷を放つときの詠唱です。カッコいいですよね!」
『いや、分からないが、敵の動揺は誘えている。上出来だ。』
ドゴォォーン!
「退け!一時退却だ!建て直すぞ!」
「退却!退却だー!」
逃げる敵兵にも、ヴォルドアークで追撃を加え、今回の要撃で敵兵150名程度を重症や戦闘不能に追いやった。
どこに落ちるか分からない落雷の恐怖に、敵は恐慌状態に陥っていた。
侵攻中の突然の不意打ちに、態勢が整っていなかった事から一時撤退を選択。
これで侵攻にディレイをかけることが出来た。
狙い通りである。
■
―――――時を遡り、ランクシャーの町での作戦会議時
「いや、いくら旦那が加勢してくれても無理だ。」
私が参戦の意思がある事を伝えると、ザイン君が反対した。
「そうではない。私は両軍が衝突する戦場の中には入らないよ。」
そう、その場合、私とて生きては帰れないだろう。
「じゃあ何をするつもりなんだ?」
「私はザイン君得意の機動力を活かした、ヒット&アウェイ戦法を推奨する。」
「あんなのでチマチマ削っても、たかが知れてる。」
ザイン君は、毒矢での遠距離攻撃を想定しているようだが、そうではない。
「それを私がやったら?」
「旦那が?」
私は光魔法の『ヴォルドアーク』が使える事を伝えた。
実際に何も無いところで使って見せると、それを見た町の人々は腰を抜かしていた。
男の子は目を輝かせて、女の子は泣き出して、殆どの人はドン引きしていた。
ザイン君からは「マジか旦那、只者じゃないとは思ってたが、そこまでぶっ飛んでたとはな。」と、驚嘆され、アリサからは「どうせまた、あの反則臭い方法で会得したんでしょ?」と呆れられた。
「ヴォルドアークなら、1日に10発程度撃てる。」
「10発!?あの高等魔法を!?」
更にドン引きされた。
それも異常な事なのだ。
私は知性100のお蔭で、消費魔力が極端に減っている。
その為、乱発が可能なのだが、通常1回使用すれば、魔力はスッカラカンになる高等魔法だろう。
しかし、ザイン君の顔は尚暗かった。
彼は気付いている。
いくら高威力の魔法が撃てても、もう一つ致命的な問題があるのだ。
「それでも旦那は素早く動けないだろ?」
そう、私には圧倒的に機動力が足りない。
攻撃力は十分だと判明した。
しかし私は動けると言っても、亜人族の脚に比べれば、超鈍足だ。
機動力を活かした、ヒット&アウェイ戦法など、現実的ではなかった。
しかし、方法はある。
「そう、私は速く動けない。だが、私を動かしたらどうかね?」
「は?」
自分に出来なければ、他人を頼る。
ザイン君、お得意のアウトソーシングではないかね?
餅は餅屋だ。
「私を荷車等で運び機動力を確保する。私は遠方から魔法攻撃で、敵の数を減らす。敵に気付かれたら逃げ、また繰り返す。これを町に来るまでに続ければ、随分敵兵の数が減らせると思うがね。」
強力な遠距離攻撃が可能な砲頭(魔法攻撃)と、堅固な装甲(魔法障壁)を有し、悪路を走破し戦場を駆ける機動力(人馬力)がある故に、地上最強と名高い兵器がある。
所謂一つの「戦車」である。
航空戦力の無い時代には、戦車は猛威を奮うものだ。
私はまさに、戦車となって、ランクシャー領軍をこの戦いの勝者に導こうと考えていた。
牛馬車で敵軍の近くまで近付き、道なき道は人間キャタピラーで移動。
幸い私の体重は、300kg程。
人数をかければ、人力でも運べない重さではない。
森の中等に隠れ潜み、魔力感知が届く所まで敵軍が来れば、敵の認識範囲の外から一方的に攻撃が可能なのである。
正直反則臭い。
「敵が町に来る前から、断続的に打撃を与え続け、4日後、決戦前迄に、敵軍の戦闘可能員が1400まで減っていればどうかな?」
ヒット&アウェイで、私の魔力が尽きるまで攻撃すれば、一回の攻撃で100~200名の敵を戦闘不能にすることは可能だ。
消費した魔力は「吸収」で回復させ、再度雷の雨を降らせる。
居場所をバレないようにしなければならないので、敵の斥候には注意が必要だ。
流石に多勢で襲われると、私でもどうしようもない。
特に魔力が尽きたときを狙われたら、死んでしまう。
また、私を運んでくれる牛馬や領民達の体力は無限ではない。
現代の戦車のように、疲れ知らずで動き回る事は出来ない。
敵に発見されてしまうと詰みであるが、私の魔力感知は広範囲に展開できるので、敵斥候に用心しながら、距離をとって攻撃をしていれば、恐らくリスクは低いだろう。
レーダー付き雷撃戦車での、砲撃作戦。
「それ・・イケるんじゃねえか?」
ザイン君は光明を見付けた顔をした。
そしてスグに私を前線に運ぶ牛馬車を手配し、私の機動力となる力持ちの男衆を掻き集め、敵軍が侵攻してくる西へ向かって移動した。
私と妖精二人は、食糧等が不要だが、亜人族達の分は、追って補給隊に届けて貰う手筈。
とにかく、敵軍の足留めを優先し、最低限の休憩で移動したのであった。
そして、先程、見事に敵の侵攻を遅らせることに成功したのだった。
戦車作戦成功。
社長砲、卑怯臭い。




