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35.ランクシャー領の危機 作戦会議

突然の隣国の侵攻。

まさかの戦争。

前世でも社長は戦争経験はない。

高度経済成長後、バブルを経験している程度の世代である。

 

一体どうなってしまうのか。

隣国、バイルラウンド王国軍は、2千人の兵を率いて、このランクシャーの町へと侵攻しており、4日後には町の西の丘に到着する。

 

そんな報が瞬く間に領内に回って、動揺と緊張が走った。

 

慌ただしくなる町。

空気は張り詰め、街は喧騒に包まれた。

 

 

2千のバイルラウンド王国軍に対して、ランクシャー領の戦える成人男性の兵員は約7百名。

内、半数はまだ成人になったばかりのような、半分子供のような男達だ。

当然、戦闘の経験など無い。

 

絶望的兵力差である。

 

前領主の好戦的な政策で、極端に成人男性が減り、老人や女子供が人口の多くを占めているこの領は、まだまだ戦が出来るような態勢は整っていなかった。

敵国はその辺の事情を突いて攻めて来たのだろう。

 

 

子供の志願兵もいたが、アイン領主とザイン君が断固拒否して兵員に加えなかった。

 

ただ、皮肉にも前領主の負の功績で、領民は戦時下の状況に小慣れていた。

緊急事態への対応が早く、領民同士の団結力は強かった。

兵員の招集や避難準備など、各自が自分で判断し、適切に分担し、テキパキとこなしながら、同時に日常生活も継続。

慌ただしく緊迫していながらも、統率がとれた行動をしており、突然敵軍が襲来してきた割に落ち着いていた。

実に逞しい。

 

 

そして、昼から各地区の代表者が集まり、対策会議が教会前の広場で執り行われる事となった。

私はその様子をじっと眺めている。

 

 

「アイン様、戦える者は正確には680名です。」

「分かった。報告を感謝する。」

 

領主は次々と寄せられる情報を受け取っていた。

その情報によれば、状況は芳しくなく、ランクシャー領は危機的状況に瀕しているのは明確であった。

アイン領主は表情を変えず、冷静沈着に指示を出し続けている。

だが、内心は激しく動揺し、困惑し苦悩している事だろう。

 

彼が取り乱しては、領民全員に不安が伝播し、恐怖が蔓延する。

だから彼は気丈に振る舞っていなければならなかった。

相変わらず責任感が強い。

 

 

「ねぇオジサン、これってヤバい状況なわけ?」

 

アリサは戦争というものが、どんなものなのか分かっていない様子だ。

妖精の世界には、戦争が無いのだろうか?

 

人間だろうと、亜人族だろうと、何故か人は人同士で争う。

世界が変わろうと、皮肉にもそこは同じだった。

 

「ああ、かなりマズいな。何も対策を打たなければ、この町は敵国に占領され、財産を奪われたり、建物を壊されたりする。」

「ええ!?何なのそいつ等、バカじゃない?」

 

うむ、心から同意する。

 

 

現在のところ、ランクシャー領側が絶望的状況なのは明らかである。

まともに戦って勝利する事は100%無理だろう。

 

勝利が無理なのであれば、次に「どう負けるか」をしっかりと見定めなければならない。

どこまで立ち向かい、どれだけ被害を軽減し、どうやって次に繋げるか。

そんな最善の撤退方法を模索するべきなのだ。

 

恐らくアイン領主は、一度この町が占領される前提で、ダメージコントロールを既にシミュレートしているのではないだろうか。

そして、再度領地を奪い返す筋書も描いている筈である。

 

しかし、そんな彼の筋書きは、描いたそばから崩れ去る。

この作戦本部には、状況が悪化する悪い知らせしか届かなかったからだ。

 

 

「アイン様、武器が足りません。」

「今調達に回っている。」

 

「領主殿、領民の避難に牛馬を回すと、戦場に出せるのは50頭がせいぜいですぞ。」

「仕方ない。避難が優先だ。」

 

「アイン領主様、弓矢は殆ど残っていませんでした。」

「急いで作らせてくれ。」

 

とにかく物資が足りない、人が足りない、時間が足りない。

無い無い尽くしだったのだ。

 

それは仕方ない事で、アイン領主が悪い訳ではなかった。

損耗し疲弊しきった領地を、立て直そうと奮戦する事4年間、やっと満足な生活水準を維持出来るまでに回復したばかりなのだ。

とてもいつ使うか判らない武器や軍備を整える為に、予算を割く余裕は無かった。

 

唯一防衛費に捻出できたのは、昨年、町を囲む壁の補修費程度だ。

アレも私が手伝ったお蔭で、かなり予算が浮いたと大喜びであった。

 

ランクシャー領は、まだまだ極貧領地なのだった。

 

つまり、撤退戦は過酷でシビアなものになる事が、容易に想像できた。

 

 

その厳しい状況の中でも、勇猛果敢に敵国を迎え撃とうとする者もいる。

無抵抗で領地を明け渡すような事は出来ない。

 

そんな事をすれば、国家反逆罪に問われるからだ。

 

反逆者の疑いをかけられない為には、勇敢に最大限の迎撃をしなければならない。

応戦しつつ、最小限の損害で隣領に撤退し、国王軍の合流を待って、合同で町を占領している敵軍に反撃を仕掛ける。

これがアイン領主が考え得る最善で現実的な、唯一の選択肢だった。

 

それを分かっている自警団は、迎撃作戦を話し合っていた。

 

「迎え撃つのであれば、西の森が良いでしょう。」

「そうだな。罠を張って少しでも数を減らすべきだ。」

「斥候の数を増やしましょう。」

「そうしてくれ。敵軍の情報が欲しい。兵の構成、進軍ルート、敵の大将等、判る範囲でいい。」

 

その中には、いつか私に電撃を喰らったガイム君の姿もあった。

彼は自警団として領地を巡回しており、いつも街道や領の境界を見回っているので、町に居る事が少ない。

今回のバイルラウンド王国軍の侵攻も、彼等自警団の哨戒網に引っ掛かった故に、早期に発見する事が出来たのであった。

  

  

戦闘に関わる男達がアイン領主を取り囲み、様々な激論が繰り広げられている。

 

対称的に、その横で私は、非戦闘員である老人や女子供に取り囲まれていた。

 

「シャチョー様、お願いだ、この町を助けておくれ。」

「御神木様、お助け下さい。」

「シャチョー様、ご加護を!」

 

う~ん、これはなんとも言えない、困った状況だ。

神頼みされても、私は御神木ではない。ただの木である。

御神木という話は、ザイン君が勝手に言い始めた根も葉もないデマカセなのだから。

 

私は微力である。

戦争を止める事も、敵軍を撤退させる事も、そんな大逸れた能力も魔法も持ち合わせていない。

彼女達が思い描く万能な神様像と、私の姿はかけ離れている。

敵軍の強大な力と比較すれば、私の魔法など矮小だ。

無力とは言わないが、微力なのは確定であった。

 

私が出張った所で、この戦争の結果は覆らないだろう。

 

 

神頼みをするのであれば、私を拝むよりも、本物の女神様であるリティア君に頼んだ方が現実的なのだが、そうも紹介できないので困っている。

 

彼女の正体を明かすと、彼女が果てしなく困るだろう。

こっぴどく神様の上司から怒られそうだ。

怒られた後で、シクシクと私の枝にしがみついて、延々と泣かれるのも困る。

その後、彼女を泣かせた罪で、鑑定の中の人の嫌がらせが増大するのも困る。

 

とにかく皆困る事になるので、リティア君は使えない・・使ってはいけない。

 

 

結局神頼みは意味が無いので、自分達に出来る最良の行動を模索するしかなかった。

 

 

尚、私が魔法を使えることは周知の事実なので、自警団から私にも戦いに加わって欲しいとも嘆願された。

しかし、

 

「駄目だ!シャチョー様はあくまでも賓客だ。危険に巻き込んではならない!」

 

領主がそう言って突っぱねた。

 

 

彼が言う通り、私は部外者である。

私は森から移植された単なる木であり、亜人族の争いとは根本的には関係が無い。

もしも町が敵軍に占領されても、私は物言わず、単なる木としてジッと立っていれば、敵軍は私の存在になど気付きはしないだろう。

私はそのまま、アイン領主達が再び領地を取り戻すのを待てば良いのだ。

  

確かにそんな選択肢もある。

 

 

だが、私はそれを是としない。

 

数年間この町の人々に世話になった手前、何もせずに傍観する気にはなれない。

愛着あるランクシャーの町が、敵国に蹂躙されるのは見たくなかった。

 

 

私は何か出来る事が無いか、彼等の作戦会議に加わる事にした。

まずは情報整理である。

 

「ザイン君、君の見立てではこの戦争、どうなる?」

「旦那、こんなの火を見るより明らかだ。戦力差が違い過ぎて戦いにならねぇよ。」

 

アイン領主が領民に取り囲まれ、真面目に作戦や戦略を練っている間、ザイン君は離れた教会前のベンチで脚を組んで、鼻をほじりながら欠伸をしていた。

 

彼は最初から諦めモードである。

 

「オヤビンのいつもの卑怯な戦法でなら、勝てるでヤンスよ!」

 

元山賊一味の三下感マックスな男が、ザイン君の隣に来て、ザインの指揮下なら勝てると推した。

いや、卑怯な戦法って・・言い方・・。

 

「バカ言うな。あれは森や岩場なんかの隠れる場所があったから出来たゲリラ戦法だ。今回の主戦場は小細工が利かない平原だ。単純に兵力差がものを言うんだよ。」

 

 

バイルラウンド王国は西にある。

敵軍が進攻してくる町の西方は、なだらかな丘陵に森と平原が交互に続くような、穏やかな地形をしていた。

確かにゲリラ作戦には向かない、見晴らしが良い地形である。

 

また、両国の間にも、途中に深い谷や高い山、大河などが無く、攻めるには楽で守るのが難しい、防衛上好ましくない地形が続いている。

この地形が永く、両者を争わせる要因となっていた。

 

 

そして、私と付き合いが長いザイン君は、私の魔力総量もよく把握している。

その為、私が戦いに参戦しても、この戦争には勝てないという事を理解していた。

その見通しは正確で間違っていない。

 

 

ちなみに私がランクシャー領軍に加わって、戦争に参加したとしよう。

 

そして、私が強力な光魔法で暴れ回ったとする。

しかし、それでも私単体では敵を3百~4百名倒せるかどうかだ。

そこで魔力が尽きて何も出来なくなる。

 

その後、ランクシャー領軍の7百名が一人一殺出来たとしても、敵軍はまだ千名以上が残る。

町を占領するには十分な兵数だ。

どう転んでも、町は占領されてしまうだろう。

 

だからザイン君も、私の参戦は断固認めなかった。

 

彼も私には迷惑をかけたくないと思っているようだ。

そんな殊勝なところがあったとは意外である。

 

 

頭の良いザイン君は、この戦いは、まともに戦っても犠牲が出るだけで意味が無いと結論付けていて、だから彼は、最初から街を放棄して、安全に撤退する算段しか練っていないようだった。

 

 

 

 

行き詰った状況、現実的ではあるが逃げ腰な対応、足りない物資と時間、纏まらない意見。

焦りや不安から、次第に場は荒れて、怒号が飛び交い始めた。

 

「じゃあ何もせずに敵に町を明け渡すのか!?」

「違う!町で迎撃するのは被害が大き過ぎる。市街戦になる前に、リバーエイカー領まで撤退し、国王軍と合流してから再度奪い返すのが賢明だ!」

「国王軍は何をしてるんだ!」

「こうしてる間も敵は迫ってるんだろ?女子供を町の外に逃がした方が良いのではないか?」

 

地区の代表者だけでなく、外野からも野次が飛んでくる始末。

意見の内容も、投げやりで雑になっている。

これは良くない兆候だ。

 

 

「国王軍の援軍はいつ来るのですか?」

「今王都に伝令を走らせている。早くても8日後になるだろう。」

 

電話のない世界。

もっとも確実で早い情報伝達手段は、早馬であった。

 

「隣のリバーエイカー領は?」

「あちらは兵を募るのに時間がかかる。期待はせずに国王軍を待った方が確実だ。」

 

お隣さんも頼れない。

辺境の領は、どこも財政状況は似たり寄ったりである。

例え援軍として駆け付けてくれても、数百人程度では、戦況はひっくり返らない。

リバーエイカー領の領主も、国王軍と並走してやって来ることだろう。

 

「厳しいな。要するに8日後まで持ち堪えれば勝ちって事か。」

「そうなる。」

 

国王軍さえ援軍に加われば、敵勢力を上回れる。

 

「700で2000を4日ね・・。」

「無理だ。」「終わったな。」

 

絶望感。

 

例え後で町を奪い返したとしても、これまで積み上げた財産は略奪され、耕した畑は荒らされる。

尚、バイルラウンド軍も、ランクシャー領を統治しようとは思っていないそうだ。

略奪して、儲かれば撤退する。

国を挙げての山賊行為に近い行為だろう。

 

そんな事が許されるのか?と憤慨したが、以前にランクシャー領側から仕掛けた侵略戦争の報復であるという大義名分が敵にもあるので因果応報。非難する言葉も弱くなるのであった。

 

しかし、そんな私欲にも似た理由で、他国の町を襲撃するのか、バイルラウンド王国は。

 

私はなかなかに腹の底が煮えて来た。

 

 

私は情報を整理する。

 

4日後に到着するバイルラウンド王国軍。

8日後に到着する国王軍の援軍。

これから私達が出来る事、敵の反応・・

 

私はシミュレートする。

 

・・・そうか!

 

「ザイン君。つまり4日間、町を守り切れば良いのかね?」

「そうだな。」

 

 

「では勝てるのではないか?」


私は自分の考えを話した。

社長に策あり!

さて、どう立ち振る舞うでしょうか。

 

ちなみに、貯まったスキルポイントを光魔法につぎ込んで、光魔法Lv10で無双するとか、そんなパワープレイはしません。社長は慎重なので、スキルポイントは極力使いたがりませんので。



【作者より】

前回でまた評価頂きました。ありがとうございます。

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