33.遂にモテ木がきた!?
今回も日常エピソードです。
ある日の午前中の出来事。
コココココココッ!
ん?
コココココココッ!
何だこの振動は?
何かが私の幹を叩いているような感覚。
私は魔力感知を展開して、その原因を確認した。
すると、
・・おおっ!!
「アリサ君!アリサ君!起きたまえ!」
私はその正体を確認して歓喜に震えた。
この喜びを分かち合いたくて、枝の間に吊られたハンモックで眠っているアリサを起こした。
「ん~?何よ。まだ眠いんだけど~。」
「鳥だ!鳥だよアリサ君!」
そう、音の正体は小鳥だった。
私の幹に鳥が来訪したのだ。
「はあ?鳥くらい来るでしょ?木なんだから。」
そう、それが普通。
木に鳥が留まるくらいは、普通なのだ。
しかし、私にはその普通がこれまで一度もなかった。
威嚇スキルを取得して、虫すら寄り付かなくなったあの黒歴史が思い出される。
あれ以来、威嚇はOFF設定にして、発動した事はないのに、何故か全っっっ然、小動物が寄って来ないのだ。
何故だ!?私はこんなにもウエルカム態勢なのに!
私は憤り続けた。
私の身体からは、鳥を寄り付かせなくする不気味なオーラでも噴出しているというのか?
前世もモテなかったが、現世ですら独りぼっちなんて悲し過ぎる!
アリサとリティア君がいる?
彼女達はうるさいし、疲れるから、癒しにならない。
私は癒しと安らぎが欲しいのだ。その為に木になったのだから。
「それが何故か一度も来てくれなかったんだ。」
「あ~、確かにオジサン、パッと見た目が怪しいし不気味だもんね。」
「サラッと傷つく事を言う!」
そこから目を背けたかったのに!
コココココココッ!
「鳥って、この音の正体?」
「そうだよ。ほら、あそこに。」
私は小鳥が逃げないように、アリサに鳥がいる場所をそっと伝えた。
コココココココッ!
アリサが見上げると、パラパラと木屑が落ちて来た。
「って、キツツキじゃん!オジサン、幹に穴掘られてるよ!?」
ん?あー、どうりで何か振動がするなぁと思っていたのだ。
確かに嘴でコココココココッ!っと幹を突いているね。
「いやぁ、かわいいよね~?」
「そうじゃない!和んでる場合じゃないってば!穴!ガッツリ巣穴掘られてるんですけど!?」
慌てているアリサ。
確かに樹皮が円形に無くなっているが、まだ大した傷ではない。
それよりも小鳥が可愛い。
「遂に私にもモテ期が来たんだ。」
「いや違うってば!単に巣穴候補にされただけだから!」
精力5でも鳥は来てくれるんだ。
有難い。なんと有難い。
「ヤバいって、あのキツツキなんかデカくない?あんなのに巣穴掘られたら、そこから幹が折れちゃうよ!」
「思えば長い道のりだった・・」
「 人 の 話 聞 け ぇ ! 」
え?あー、確かにキツツキの割には大きいね。
でも可愛いじゃないか。
「これで私も小鳥のさえずりで、朝、目を覚ましたりできるかな?」
「永遠に目を覚まさなくなるよ!」
「心配性だなぁアリサは。あはは、あははははは。」
アリサが何か訴えているが、何の事か分からない。彼女の意見なんてどうでも良い。
私は小鳥を眺め続ける。
やっと来た。
やっと私にも春が来た。
これからだ。これから私は小鳥の楽園、小動物の憩いの場、人々が集う安らぎの木となるんだ。
もう妖木なんて言わせないぞ。
孤独と非モテな人生にさようなら!
この鳥はモテ期の兆候!
幸せを運ぶ木突く鳥!
「あはははははは。」
「ダメだこれ、別の世界に逝ってるわ。」
アリサは諦めた様子で、私を無視してリティア君を起こしに行った。
「リティア!起きてる?」
「は、はひ、おはようございます。」
まだ寝惚けていた。
「リティア大変よ!オジサンがキツツキに穴掘られてトリップしてんのよ。」
待て、穴を掘られたからじゃない。
愛らしいからほんわかしているのだ。
「ええ!?穴を掘られてトリップ!?シャチョー様!?」
「二人で追い払いましょ。」
どうやら事態に気付いた様子だ。
「掘られているという事はシャチョー様、”受け”なのですか!?受けが良いのですか!?そんな!性別的にはわたしの役割なのに!」
「・・リティア?」
彼女は一体何を言っている?
「わたしという者がありながら、BLな世界に走られたなんて、何という事でしょう!」
「ちょっと?」
リティア君?君、暴走してないか?
アリサでさえついて行けてないぞ?
「ハッ!?まさかのシャチョー様は総受け!? ザイン×シャチョー、アイン×シャチョー、アリね。いい!シャチョー様総受けいい!!デュフッ・・デュフフフフフ!」
「あーもーポンコツばっかり!もういい、アタシが追い払う!」
何だって!?追い払う?バカな真似はよしてくれ!
「や、やめたまえアリサ君!せっかく私にも鳥が懐いてくれたんだ!ここで追い払ったら、もう二度と来てくれないかもしれないんだぞ!」
鳥や小動物に愛される憩いの木という夢の第一歩が!
こんな愛らしい動物を追い払うなんてとんでもない!
「よく見てよ、キツツキだってば!幹に穴掘られたら、最悪そこから腐っちゃうよ!」
コココココココッ!
「あ~かわいいなぁ。小鳥。」
「ダメだコイツ!」
アリサは私の枝を蹴りつけた。
ヒドイ扱いだ。
アリサはリティアの下に戻り、頭を悩ませていた。
「参ったわ。このままじゃ、アタシの朝晩の食事が無くなっちゃう!」
「アリサ、シャチョー様と書いて食事と読むのはやめましょうね。」
「え?じゃぁ、家かな?」
「残念。シャチョー様はわたしの旦那様ですよ。うふふっ」
何もかも違うのだが・・。
彼女達の勝手解釈の方が、キツツキよりも迷惑度は上だと思う。
「リティア、このままだとアンタも魔力吸えなくなるよ!」
「ハッ!?シャチョー様汁の危機!」
「魔力だってば・・。」
アリサを呆れさせるリティア君は、時折凄いと思うのだが。
「そんな不届きな鳥、私がボコボコにしてやります!」
「急に好戦的になった・・。」
リティア君が燃え始めた。
「アリサ、どこなのその敵は!?」
「あそこよ。何てふてぶてしい鳥なの。」
アリサが場所を教えて、二人が見上げると、キツツキと目が合った。
「ケケケケ。」
キツツキはアリサを視界に捉え、不敵に嗤った。
キツツキは身体が小さな個体が多いのだが、この鳥は結構大きい。
鋭く長めの嘴を持ち、綺麗な柄の羽根をしていた。
「ケケケケケ。」
「アイツのどこがかわいいのよ。憎たらしい顔してるじゃない。」
「確かにムカッとくる鳥です。それに、何か悪意のオーラを感じます。」
何を言うのだ。実に美しいではないか。
こんな鳥が沢山来てくれたら嬉しいなぁ。
「リティア、アイツを鑑定してみて。」
アリサはリティア君が、鑑定の中の人だったと勘付いている。
クビになっても、元中の人だ。鑑定する能力があるはずである。
「わ、わたしは単なる秘書なので、鑑定は出来ない設定になってまして・・。」
「そういうのいいから早よ!」
”設定”って言ってる時点でダメだろ。
「わかりました、やってみます。これは鑑定ではありません。繰り返します。これは鑑定ではありません。」
「はいはい。」
「・・・ジャイアンノクマゲラ(雄)、魔力5、勿論可食、プリプリの肉質で焼き鳥や唐揚げがお勧めです。首の肉がコリコリして美味しいです!」
「 相 変 わ ら ず の メ シ 話 ! 」
遂に私の代わりにアリサからツッコまれる事に・・。
「鳥はやっぱりモモ肉が最高ですよね?」
鑑定の中の人をクビになったお蔭で、彼女のブログは閉鎖中である。
ニコニコと無邪気な笑顔で、久し振りの出番に嬉しそうだ。
今、涎をじゅるっとしなかったかね?小鳥さん、リティア君から逃げるんだ!
「だーかーらー!メシの小噺は要らないって何度言ったら分かんのよ!張り切って報告されるとイラッとするんだけど!」
「そんな・・美味しいのに・・。」
リティア君、再び読者に批判され涙目に・・。
本人に悪気はなく、良かれと思ってやってるので、実に居た堪れない。
でもイラッとする。
「妖精のアタシは鶏肉なんて食べないの知ってるでしょ!そんな無駄情報いいから!」
「無駄!?」
確かに妖精にとっては、全く必要が無い情報だ。
アリサのツッコミが的確過ぎて、少し嫉妬。
「もーいいから、鑑定結果に弱点とか特徴とかないの?」
「えっと・・生木の幹に穴を掘り巣を作る習性あり、巣にメスを連れ込み繁殖・・コイツ!わたしのシャチョー様の体内でイチャつこうと穴掘ってるんですね!なんという不埒な!許せません!」
「いや、イチャつくって・・鳥は子孫残そうと必死なだけなんだけど。」
キツツキはイチャつく為に巣を掘るわけではない。
そんなチャラい理由で巣作りする鳥がいたら見てみたいよ!
尚、キツツキの巣は、大抵が腐食していて穴を掘り易い、古木や朽木を狙って巣作りをする。
このジャイアンノクマゲラは、生木を選んで巣にするようだ。
生木の方が巣作りは大変だが、硬くて丈夫なので、安全重視なのだろう。
「シャチョー様の体内でなんて・・体内・・羨ましい!」
「リティアー?おーい、また暴走してるよ?」
アリサが半目で注意喚起しているが、本人は全然聞いていない。
「そ、その巣穴は勿体ないので、わたしが代わりにその巣に住みます!」
「キツツキはアンタのマイホーム作ってるんじゃないんだけど・・。」
巣穴を掘らせて、自分が住む気か。
「リティア、他に鑑定結果ないの?」
「ハッ!すみません。夢うつつでした。」
「アンタ、キツツキに生まれた方が良かったんじゃない?」
妖精になれるなら、キツツキにもなれるのではないだろうか?
「えっと他には・・巣作り中は他の動物を寄せ付けず凶暴になる、お前の巣穴は俺のもの、俺の巣穴は俺のもの、という横暴理念を持ち、他の鳥が作った巣も横取りしたりもする・・・ジャイ●ン!?」
なるほど、それでジャイアントクマゲラではなく、ジャイアンノクマゲラなのか。
え?冗談だよね?
「なるほど。じゃぁ今は凶暴になってるのね。迂闊に近寄ると攻撃されるかも。」
アリサは顎に手を当てて作戦を考えている。
するとリティア君がズケズケと不用意にクマゲラに向かって飛んで行った。
「え?リティア?アンタ何する気?」
そしてリティア君。
クマゲラの前で、腰に手を当て、ズビッと指差し威勢よく言い放った。
「あなた、シャチョー様から離れなさい!その木はわたしの・・」
「ちょ、リティア、危な・・」
迂闊に近寄ると攻撃される危険性があると注意喚起されたのに、迂闊に近寄るリティア君。
次の瞬間、無防備なリティア君の額に小鳥の嘴による強烈な一突きがクリーンヒット。
スカーン!
「んぎゃー!額がぁー!」
「 迂 闊 な 人 ! 」
言ってる傍から、迂闊に近寄ったアホの子だった。
「ひーん、攻撃して来ましたー!」
「アホなの、アンタ!?」
涙目で逃げ帰って来た。
いや、血・・すっごい血が出てる。
「恐ろしい鳥です。」
「自分で出した鑑定結果を、全く理解してないってどうなの・・。」
自分で出した鑑定結果なのに、有り得ないくらいにスルーした残念女神。
お気楽能天気なアリサでさえ警戒してたのに、学習能力ゼロなのだろうか?
ホント、芸術的なまでに綺麗に額を突かれたよ?
無駄にヘッドショット喰らって帰ってきた。
「でも額を貫かれなくて良かったね・・。」
「額の穴がやっと塞がりました・・。」
「開いてたんかい!」
一応女神なので、回復は自前で出来る様だ。
よく額に穴開けて生きてたな。
この娘は、結構雑に扱っても死なないかもしれないな。
ふむ、以後、ちょっとした実験に使えるかもしれない。
え?人体実験?妖精虐待?
いや、そんなエグい事はしないつもりだよ。多分。きっと。
大丈夫。彼女の正体は妖精でもなく、人間でもない、女神という概念生命体だ。
つまり、よく分からない存在。
よく分かんないので、法や倫理の適用範囲もよく分かんない。
つまり、グレーゾーンな生命体なので、何をしても虐待にはならない筈だ。
普段、あまり役に立たないので、使える時に扱き使ってあげよう。
「考えなしに近付くと、またあの鋭い嘴で頭打ち抜かれるかも。」
「一体どうすればあんな凶暴な鳥を追い払えるのでしょう。」
やっとマトモに作戦を練る事になった。
「もう一度鑑定して!弱点がある筈よ、早く!」
「弱点なのか分かりませんけど、雌のフェロモンを嗅ぐとメロメロになって脱力する。って情報がありますね。」
「それよ!」
「え?」
「フェロモンね、そう言う事なら、アタシの魅力でメロメロにしてやるわ!」
「え?妖精と鳥では、フェロモンが違うんじゃない?」
多分、リティア君の言う通りだと思う。
そして断言しよう。
ア リ サ 君 に フ ェ ロ モ ン は な い !
でも面白そうだから放置してみる!
「だーいじょぶよ!この大人の魅力溢れる色っぽいナイスバディを見なさい。どんな種族でもアタシにメロメロよ!」
「そのぺったんこな胸の、どこからその自信が湧いて来るのかしら・・。」
「なんか言った!?」
「ううん、何も?」
アリサは自信満々でクマゲラの目の前まで飛んで行った。
どこに大人の魅力や、色っぽいさの要素があるのか、皆目見当がつかない。
でも面白そうだから放置してみる!
駄目な未来が明確明瞭に思い浮かぶなぁ。
これはお約束なのか?アリサの身体張ったボケという認識でOK?
「ホラッ、そこのキツツキ、アタシを見なさい!」
「ケケ?」
「うっふ~ん♡」
「・・・・。」
スカーン!
「んぎゃー!目がぁ!目がぁー!」
「アリサー!」
アリサの目が潰れた。
予定調和のオチだった。
かぷ・・チューチュー
「ふう、回復したわ。ふふふ、オジサンの傍に居る限り、アタシは何度でも立ち上がる!」
「カッコつけてるけど、シャチョー様に寄生してるだけね!」
逃げ帰って来たアリサは、私の枝に噛みついて、魔力を吸って回復した。
私は野戦病院か・・。
「ケケケケ。」
クマゲラは、嘴で掘った木屑をバラバラと二人に落とした。
「ぺっ、ぺっ、あの鳥、ワザとやってます!」
木屑が口に入ったり、髪に付いたりして迷惑そうなリティア。
「ケケケケ。」
憎たらしい鳴き声で、ザマァ見ろとでも言いたげに挑発するクマゲラ。
「ぶっ殺す!」
アリサ君、物騒だよ。
「ケケケケ。」
コココココココッ!
意にも介さず、相変わらず巣作りを続けるクマゲラ。
ヘイトを溜めるのが上手いなこの鳥。
「むっかー!なんて太々しい!絶対許しません!」
どうやらクマゲラは、二人を怒らせたようだ。
「オジサンはアタシの家よ!アタシの家はアタシが守る!」
「シャチョー様は私が守ります!」
二人が一致団結した。
「アリサ、行きますよ!」
「任せて!」
リティア君が何故か私の枝から飛び立ち、距離を取った。
すると、地面に落ちていたゴルフボール大の石を拾い上げ、それを持って遠くから私に向かって全力で飛んでくる。
「行きます!高速滑空からの無誘導小石投擲!」
小鳥に対して投石を仕掛けるようだ。
滑空速度と重力加速度を受けて、小石は猛スピードでクマゲラに迫る。
「喰らえキツツキ!『フラッシュブレス』!」
更にその小石に対して、加速させる風魔法を乗せるアリサ。
風を纏い、弾丸のように小石が角度を変えて、クマゲラを捉える。
「ケ!?」
まさかの遠距離攻撃に、油断していたクマゲラは反応できない。
頭部に向かって、一直線に飛来する小石の弾丸を視認し、首を反らして必死に避けようとしたが、
「ギョケ――!」
弾丸はクマゲラの嘴部を掠めた。
しかし、二人が協力して放った小石弾の威力は想像以上だった。
その質量差から、掠めただけで嘴を跳ね飛ばし、衝撃でグルンと首が回る。
首につられて胴体も回転。
軽量な小鳥の身体では、掠っただけで吹っ飛ばされる威力だったのだ。
一撃KO。
クマゲラは錐揉み回転しながら地上に向かって落ちて行った。
「「やったぁー!」」
二人の妖精が、空中で両手を合わせて喜んでいる。
「小鳥さーーん!」
ああああ、私の夢が・・小鳥の楽園が・・。
悲しみに暮れる私の頭上で、妖精二人は勝利のダンスを踊っていた。
こうして私には、再び小鳥も蝶も近寄らなくなった。
シクシクシクシク・・。
■
後日、このクマゲラの襲撃の裏が取れて、私はリティア君を呼んで説教する事になるのだが、その話は別途しようと思う。
アリサとリティアが活躍するエピソードでした。
意外と気が合うこの二人。自然に言いたい事を遠慮なしに言い合える仲となってました。
後日談がありますが、それは別途紹介します。




