32.気になる木のある日の風景2
ペーター君に迫る野犬の影。救出に向かうアリサとリティア。
果たして無事に、最終防衛線の社長の木まで戻って来る事が出来るのか!?
二人が慌ててペーター君の両脇を抱えた。
ペーター君は戸惑っている。
「ダァー!重いー!」
アリサが踏ん張る。魔力全開でなんとか浮上させたようだ。
自分よりも身体が大きなものを浮かせるとは、魔法の力は凄いな。
一緒に持ち上げているリティア君は・・あ、涼しい顔で普通に持ち上げてた。流石は元女神。
あれ?これリティア君一人で良かったのではないか?
アリサが可哀想なので、真実は告げずにおこう。
そしてゆっくりとこちらに向かって飛び立った。
安全の為、低空で飛行する。
ペーター君大喜び。
「ちょっと、アンタ動かないで!重いんだから!」
そこへ野犬が動き出す。
狙われているな。
「旦那、そいつは町の近郊で姿を見たって報告が上がってた奴だ。」
ザイン君が私の発言を聞いて、野犬の群れに心当たりがあったようだ。
「危険なのかね?」
「恐らく普段は森の中にいる奴等だろう。腹空かせて、森から人里に出て来た可能性が高い。まだ被害は出てないが、この辺にいるって事は、つまり腹が減ってるってことだ。」
「なるほど、危険だね。」
私はペーター君に迫る野犬を魔力感知で追っていた。
思ったより迫るスピードが速い。
既に彼女達の後方近くまで来ていた。
「ギャー!来た!でっかい犬!恐いんですけど!」
アリサがパニックに。救助隊が取り乱したら駄目だろう。
牽制を入れておこう。
「土魔法『グランドアッパー』。」
私はアリサ達に迫る野犬の腹を、土柱で突き上げてやった。
不意を打たれた野犬は、ギャンと鳴いてのたうち回る。
「急ぎたまえ。」
「うへぇ、何あの魔法、エッグい威力ね。」
三人が低空で飛んで来るのを、ザイン君を含め、全員が視認する。
そして、それを追ってくる野犬の群れも確認。
「お、見えた!って、ありゃ野犬じゃねえ!バレイウルフ、狼だ!」
おお、狼だったのか。前世の国では絶滅した動物ではないか。
自然豊かなこの世界では普通にいるのだね。
「厄介な奴なのかね?」
「犬より強靭で速くて群れで連携もとってくる。獲物と定めたら、しつこく追ってくる最悪のハンターだ。何でこんな所まで下りて来てんだよ。」
普段は峡谷を縄張りにして、水を飲みに来た鹿や猪等の動物を捕食する、熊も逃げ出す森の王者だそうだ。(鑑定情報)
「ザイン君、全員、私の周りに集めてくれたまえ。」
「チビども、こっちに来い!」
「どうしたの?」「なーに?」
ザイン君が子供達を呼び寄せた。
元々私の傍にいた子もいるので、すぐに集合完了。
「アリサ達が合流したら魔力障壁を張るので、私の傍から離れないように。」
「来てる来てる来てる来てる!イヤー!追い付かれるー!」
「シャチョー様ー!助けてー!」
騒がしい逃亡者だ。
「光魔法『レイヴァブレイド』。」
リティア君から教えて貰った、この世界での一般名称で魔法を放つ。
スキル名で光魔法Lv4と表現すると、スキルポイントを知らない一般人には変に思われるからね。
太陽光を収束させて、高熱の熱線を照射する魔法だ。
光がある場所なら、威力が飛躍的に増すのと、攻撃範囲が限定的なので、狙い撃つに適する魔法だ。
私はアリサ達に迫る戦闘の狼に、熱線を照射。
魔法の自動補助機能を受けて、正確無比に激しく動き回る狼の頭部に当たる。
熱線がバレイウルフに触れると、その部分から突然発火。凄い熱量だ。
体毛が派手に燃え、目を焼かれたようで痛みにのたうち回る狼。
「ひー!助かったぁ。」
アリサ達が魔力障壁の範囲内に入った。
すかさず魔力障壁Lv5を発動し、全員を障壁内に囲う事が出来た。
これで安全だろう。
「シャチョー様ー!怖かったー!怖かったですー!」
いや、君は女神だろ?
本来の実力なら何とでも出来るのではないかね?
何故身も心も妖精に成りきっているのだね?
「うおおおお!おいおいおい!バレイウルフが来てるぞ!旦那、何とかしてくれ!」
「大丈夫。」
見えないけど、強靭な壁があるからね。
「ギャオオ!」
牙を剥き出しに、涎を振り撒き、プロレスラー並の体格をした巨体の狼だった。
鋭い牙と爪で威圧感が凄い。
魔法がなければ、あんな獰猛な狼に出くわしたら一溜まりもないな。
ただ、野生動物の割に意外と毛並みがよく、チャコールグレーの長めの毛が綺麗だった。
そんな狼が猛スピードで迫る。
「うわーー!」
「キャーー!」
子供達の悲鳴が響く。
ゴスッ!ゴンゴスンゴスッ!
しかし、狼は私の周囲3m手前で、見えない壁に衝突し、その勢いを失った。
その後も魔力障壁に阻まれ近寄れない。
「何だ!?何故あれ以上来ない?」
「来ないのではなく、来れないのだよ。私が魔力障壁という魔法を展開しているからね。」
「そうなのか?見えねぇから、不安で仕方ねぇよ!」
「シャチョー様、スゲェ!」
狼は全部で12匹いた。
私の周囲を囲んで、グルグルと警戒しているが、獲物は逃がしたくないのか、離れようとはしない。
先程の衝突一回で学習したのか、見えない壁があるのを理解して、少し距離を取って牽制態勢だ。
頭がいいな。
だが、それでも近付き過ぎだ。
『ライオネルト』の射程圏内だよ。
「全員目を瞑りたまえ。光魔法を使う。」
「もしかして『ライオネルト』?・・オジサン、分かってるよね?」
アリサが勘付いた。初めて出会った時の状況と似ているから思い出したようだ。
あの時は、アリサごとライオネルトの餌食になったものだ。
「ああ、勿論同じ轍は踏まないさ。」
今回は味方まで「アバババババ」はさせない。
「全員頭を低くして、耳を塞ぎたまえ。」
全員が頭を抱えて座り込み、目を瞑ったのを確認。よし。
「光魔法『ライオネルト』。」
全方位に電撃を放つ魔法である。
以前は全方位過ぎて、守るべきアリサまで感電させてしまったからね。
今回は彼女達を避けて、放電した。
眩い光と、一瞬バンという空気を裂く電撃の衝撃音。
高電圧の大容量電流が、全てのバレイウルフを貫き、余波がバチンバチンと周囲に火花を散らしていた。
バレイウルフは何が起きたのかさえ分からなかっただろう。
突然の光で、次の瞬間には全身を激痛が走り、動けなくなった。そんな感覚だったに違いない。
毛が焼け焦げる臭いが、周囲に立ちこめた事だろう。
嗅覚が無いので、私は分からないが。
「マジかよ・・。バレイウルフを一撃だなんて。」
ザイン君が驚愕していた。
「ふっふーん、凄いでしょー!」
「私のシャチョー様にかかればこんなものです!」
「何故君達が誇らしげなのだね・・?」
妖精二人が威張っていた。
私はバレイウルフの様子を観察する。
動かないが、息がある個体もいた。
痺れて動けないだけかもしれないので、トドメを刺す必要がある。
「光魔法『レイザーレイン』」
レイザーレインは光魔法Lv5の熱線を多数乱射する魔法の一般名称だ。
ザイン君の両脚を焼いたやつ。
「ぐえ、その魔法は見たくなかった。」
嫌な思い出が甦るかな?
狼の喉を焼き貫き、絶命させた。
相変わらず指定した場所を正確に撃ってくれる。
知性50から得られる自動補助機能も、知性100になれば恐ろしい程の精度と反応性を見せる。
このチートが無かったら、魔法の制御なんて無理だっただろう。
「よし、もう大丈夫だ。目を開けていいぞチビ共。」
ザイン君が狼の全滅を確認して、警戒を解いた。
子供達が恐る恐る目を開けた。
大きな音もしたし、大きな体躯の狼が飛び掛かって来たのだ。怖かっただろう。
その狼が1匹残らず倒れているのを見て、歓声が上がった。
「すっげぇ!シャチョー様強ぇー!」
「カッコいい!ねぇねぇどうやったの?」
子供達からキラキラ目を輝かせた尊敬の眼差しと、熱烈な質問攻めを受けるが、アリサが割り込んで、代わりに自慢気に語ったことで、私の出番は失われた。
「この死体はどうするのかね?」
「バレイウルフの死体なんて、なかなか手に入らないぞ。コイツの毛皮は高く売れるからな。勿論引き取らせて貰う。」
ザイン君は手揉みしながら、その換金額を計算していた。
「アリサ君、君は町に戻って領主にこの事を伝えてくれないか?バレイウルフの死体が12体あるので、荷車も持ってくるように。」
「いいよ。ついでに、アタシ蜂蜜貰ってきていい?疲れたし。」
お遣いの後は日課の蜂蜜巡業に飛び立つようだ。
ペーター君を持ち上げた(気でいる)ので、魔力を無駄に消費したようだ。
肉体疲労時の魔力補給に、リポビタン蜂蜜!
「わたしはシャチョー様と一緒に居ます。いつでも、いつまでも、一生お傍に。やだ、言っちゃった。」
「リティア君もアリサ君と一緒に行ってくると良い。」
「早くもお別れ!」
ちなみに、リティア君もアリサと並んで、ランクシャー領民に受け入れられた。
美人妖精が二人になって、住人たちは大歓迎。
リティア君は近寄り難いほど完璧な容姿をしているので、最初は「女神の生まれ変わりのようだ」と高嶺の花扱いをされていた。
女神の生まれ変わりなのだけどね・・。
本人も満更でもない様子で、チヤホヤされるのが嬉しいようだ。
普段怒られてばかりだから、心が癒されるのだろうか?
しかし、数回喋れば持ち前の天然ボケが連発され、化けの皮がボロボロ剥がれ落ちるわけで、次第に・・
「あー、残念な人なのか・・。」
と、正当な評価で扱われるようになった。
それが本人には不服であるようだ。
妖精になっても溢れ出る女神様オーラで、敬われるものと確信していた様子。
その自信がどこから湧いて来るのか不思議でならなかったが、まぁ本人の自由だ。
最初の内は良かったが、次第に扱いはぞんざいになり、今ではバンバン遠慮なくツッコまれる立場。
「何故こうなったのでしょう!?」
「口は災いの元なのだよ。」
正当な評価と扱いだと私は思う。
皆から愛されているから良いのではないかね?
天真爛漫元気溌剌なアリサと、冷静沈着に見えて天然なギャップ萌えリティア。
街ではどっちがカワイイかで派閥論争まで起きる人気者となっていた。
「いやー、旦那はマジで、金の生る木だよ。」
ザイン君はリティアを見た瞬間に「これだ!」と言って、
「アリティアファンクラブ」なるものを作った。
町の酒場で会員募集すると、すぐに話が広まり会員が集まった。
年会費の支払い額に応じて、会員特典が色々貰えるシステムで、初回は握手権だった。
妖精という珍しい種族の手に、実際に触れられるのはプレミアムで人気があった。
ザイン君は、アイドルプロデューサーになる気かね?
ノリノリなアリサは分かるが、リティア君までやる気なのが意外だったので、ザイン君に裏を確認したところ。
アリサは蜂蜜ですぐに釣れるし、リティア君は私を餌にすればすぐに釣れるらしい。
どうやらザイン君に唆されているようだ。
二人ともチョロ過ぎである。
■
そんな事を考えながら、待っていると、領主一行がバレイウルフの死体の回収にやって来た。
ザイン君と子供達は、その荷車で一緒に街に戻る事となる。
私とリティア君は、当初の予定通り町の外壁補修の為、町外れに向かった。
遅れてしまったが、依頼主の所にはアリサが遅刻の事情を伝えてくれている筈だ。
アリサは町の放送メディアだからね。
ゆっくり歩いて町の外れが近付いてきた。
既に捕集する外壁のところで、工事道具を揃えた男衆が打合せをしているのが見えた。
私は遠くから声をかける。
「おーい、遅れて済まなかった。」
「あ、シャチョー様・・」
彼等が私の方へ振り返る。
「 ギ ャ ー ! 化 け 物 だ ー ! 」
私の姿を見ると、依頼主達が逃げ出した。
えええええぇ・・。
■
「本当に申し訳ない。あまりに不気味だったもので。」
正直で良いが、ストレートに傷付く。
「歩く姿は初めて見せるので、驚くのも無理はない。」
だが、逃げ出すことはないのではないか・・。
「本当に歩けるんですね。」
作業員全員が、ウネウネする私の根を見てドン引きしていた。
気持ちは分かる。
「ああ、ただ歩くと疲れるので、普段は歩かないようにしてるのだよ。ところで、どこを手伝って欲しいのかね?」
「はい、そちらになります。」
外敵害獣の侵入防止に、町の外周は壁で囲っていた。
しかし土壁なので、長年風雨に曝され崩れ、草も生えてしまい、現在は単なる盛り上がった土手のようになっていた。
壁としての役割は、殆ど果たしていない。
私が土魔法を使えるので、補修を手伝って欲しいとの依願があり、了解をしたのだ。
領主からもお願いされたので、一肌脱ぐことにした。
特に敵対関係にあるバイルラウンド王国がある、西側の外壁は高くしたいとの事。
「これは・・荒れ放題だね。」
「食うに必死で外壁を直す余裕なんて、ここ数年なかったんですよ。」
雑草が生い繁り、土壁の面影すらない。
「うーん、土で壁を作るのは限界があるのではないかね?」
「そうなんですが、木の柵を作るのは大変なんです。人手が足りない上に、結局木も腐りますから。」
確かに木製の柵は、防腐処理をしていないと頻繁に補修が必要となる。
以前より豊かになったランクシャー領だが、まだまだ生活苦の貧困層は多く、男手が割合的に少ない。
私は一肌脱いであげたいと思った。
「この町の地図はあるのかね?」
「これで良いですか?」
大雑把な地図だが、大体の位置関係が判れば良かった。
「外壁設置の目的は外敵害獣の侵入防止で良いのだね?」
「そうです。」
ふむ。単に補修するだけではなく、少し手を加えれば、より良いものができそうだ。
私は地図を見て、工事計画を練る。
「では、こうしよう。」
私の提案は皆に受け入れられ、早速工事に取り掛かった。
■
土魔法Lv3発動・・発動・・発動・・発動・・。
私は土魔法を連発して、大量の土砂を積み上げていた。
役割はほぼショベルカー。
土魔法Lv3は一般名を『グランドウェイブ』と呼ばれ、広範囲且つ大容量の土を、波のように動かす事が出来る魔法だ。
この工事用に新たに取得した。
除雪機のように、土や瓦礫を放物線を描いて放り出すことも出来るので、高性能な工事用重機として活躍した。
さすがに大きな岩は掘り起こせないので、それは私の土魔法と人力で、皆で手分けして除去する。
掘り出した土は、まずは選別作業。
土や砂利は、土壁の土台用に積まれ、大きめの石は石垣用に取り除き、後で使う。
私達は、私の提案で「堀」を掘っていた。
土壁を作るなら、その周囲を掘った土を盛れば、掘った深さ+積んだ高さで、効率よく高い壁が作れる。
更に、掘った溝に水を流せば、より害獣が近寄り難くなる上に、農業用水路も確保でき、将来的に拡張して小舟も通せる運河にしていまえば、町の外周部に物資を運ぶのが楽になる。
一石二鳥にも三鳥にもなる提案だった。
幸いランクシャーの町の横には、南の丘陵地帯から流れ込む、大きめの川が流れていた。
町がある場所の地形は、全体的に緩やかな傾斜がある平地で、水路を引くには都合が良い。
川から水を引けば、少ない水門で運河にできそうだった。
また、元々土壁になるような粘土質の土である。
保水力もあり、水を流しても抜けていかない土質だったのも大きい。
ちなみに土魔法を連発していると、直ぐに魔力が足りなくなるが、そこは「吸収Lv5」を発動して補充。
地面から急激に吸収すると、土は砂や灰のようにサラサラになって死んでいく。
そうなると土が掘り易くなるので、工事する分には都合が良かった。
私が通過した後は、亜人族達が更に深堀をするのだった。
そして、土壁には木の骨を入れて、吸収で死んだ土で周りを固めた。
死んだ土は腐食性がないので、骨の丸太が長持ちする防腐効果が期待できた。
また、土魔法で出土した岩を積んで石垣にして土留めとした。
土魔法Lv3連発、吸収Lv5で魔力回復で、1日で凄い量の土砂を掘る事が出来る。
掘って積まれた土砂を、亜人族が土壁にしていく作業は、私の掘削量に追い付かない。
その為、亜人族が土壁作りをしている間、私は教会前に戻って休暇。
また、掘削が必要となったときに行く事にした。
これを繰り返し、外周壁の土木工事は進められ、その後5ヶ月で町を半周する堀が出来上がり、領主に大変感謝されたのだった。
次回はのほほん、のんのんびよりな日常です。




