29.やはりポンコツ女神様の秘書観は間違っている。
「秘書」
組織あるいは上司の書類面における仕事を請け負い、重要書類を扱う職務、職業。
職務は幅広く、上司の身の回りの世話、メールや電話の応対、来客の接遇、スケジュール管理、書類・原稿作成など「総務の専門家」として機能する。
リティア君・・これ分かってる?
私の脳内に、秘書が来た。
その正体は、女神であり、鑑定スキルの中の人であり、そしてポンコツである。
名をリティアという。
取得以降、リティア君は呼んでもないのに、常時私に絡んできた。
私は大人しく、静かにしていろと申し付けたはずなのだが、1秒後には忘れているようだった。
アリサよりタチが悪い。
無視すると泣き出すので、実に鬱陶しい。
さすがスキルレベル1の秘書だ。
まったく使えない。
・・・待て。
これは「スキルレベルが1だから駄目」という認識で良いのかね?
どうもレベルに関係なく、本質的に駄目な人が秘書をやってる気がしてならないのだが・・。
こんな駄目な秘書、本来であれば速攻でクビにしたいところだが、スキルの世界の雇用契約は解雇不可の終身雇用制のようで、雇い主たる私は、この娘を生涯面倒見なければならなくなった。
こんな雇い主側に不利な雇用契約があってたまるか!
解雇する方法が何かないのかね!?
相応の理由による解雇か、依願退職して貰う等、誰か教えて欲しい。
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そして、リティア君に思考内で話しかけられると、私も思考内で答えるのだが、それが思念に乗って放送されてしまう事案が発生。
思念通話が使えない亜人族には問題にならないが、思念通話のレベルが高いアリサには、聞こえてしまうようだった。
しかも、リティア君の声は、私にしか聞こえないらしい。
ある日、アリサから「キモい。」と苦情が入り、「秘書」が出来たと事情を説明したが信じてくれなかった。
「そんな訳ないでしょ?いくらオジサンが変でも、さすがに脳内彼女とこうも喋られたらウザいんですけど。住人のアタシに気を遣ってくれない?」
「シャチョー様・・彼女なんて・・ふふっ。」
もう、どこからツッコんでいいのか。
二人分のボケを捌くのは大変なのだが。
勝手に私の枝に住み着いて、居住権を主張されても・・。
あと、私が変だという前提を、当然のように言わないで欲しい。
それとリティア君は、何故嬉しそうなのだ。
とにかくアリサの誤解と私の名誉の為に、あまり気乗りしないが、「秘書」をレベル3にすることにした。
そうすれば姿を見せる事が出来ると、彼女は言っていたからだ。
「リティア君、秘書のレベルを3にしたから姿を現せるかね?」
「うう、やっとわたしの働きを認めて頂いて、レベルを3に・・感激です。」
勘違いしないで欲しい。
上げたくないけど仕方なくだ。
スキルポイントの無駄遣いになってしまい、非常に勿体ないが、他に手段が無い為の緊急措置だ。
それに、働きを認めたくても、認めるところが見当たらないのだが・・。
食べ物の話ばかりされて、秘書らしい仕事は何もしてないと記憶しているのだが?
「では顕現します。」
リティア君がそう言うと、私とアリサの目の前に、スゥーッと徐々に人影が濃くなりながら現れた。
女神様らしく絶世の美女である。
前世のモデルのような整った容姿に、見事なスタイル。
キューティクル完璧な長い栗色の髪に、今や懐かしい前世で流行っていた髪型を施していた。
ただ、おつむの中身はド天然の駄女神様なのが残念だ。
そして、彼女の”格好”も残念極まる姿だった。
「リティア君?どうしてスーツ姿なのかね?」
「え?秘書と言えばコレですよね?」
ドヤ顔のリティア君。
うん、まあ、秘書と言えば王道はスーツだね。
”前世では”・・という、前提だが・・。
「それは以前の世界の話だ。ここをどこだと思っているのかね?」
ピシッとしたスーツと網目模様のストッキングにハイヒール姿はキマっているが、場違い甚だしい。
時代背景を無視するのは、女神としてマズいのではないかね?
ここは剣と魔法のファンタジー世界なのだが?
化学繊維や高度な縫製技術や金属加工品を、配慮なく異世界に持ち込んで怒られないのだろうか。
オーパーツだよ、それ。
アリサがポカーンと口を開けて見ていた。
「あ。」
この有り様で、よくドヤ顔が出来たものだ。
そもそも何故女神の君じゃなくて、私がそんな事を注意しているのだ?
それと、その着こなし方・・。
どうしてブラウスの胸元を大胆に開き、豊かな胸の谷間をチラチラ私に見せている?
どうして結構深い位置まで入ったタイトスカートのスリットを、チラチラ私に見せている?
そんな扇情的格好をした秘書は、大人のDVDでしか観たことがないのだが?
それに、何故か眼鏡までかけていた。伊達だよね、それ?
そこまでされると、アザとくて、コスプレにしか見えない。
結論として言える事。
この娘、アホなのだろう。
「あわわ、失礼しました。すぐに着替えます!」
彼女はスーツのボタンを外し始めていた。
「ちょっ、ここで着替える気かね!?」
「え?そうですけど何か?」
不満気なリティア君。
「何を言ってるのか、意味が分からない!」と、文句言いたげである。
神経を疑いたいのは、こっちの方だ!
木と妖精しか居ない場所ならOKとでも思っているのか?
普通はそれでも良いが、私は人間の男の記憶を継承しているというのに・・。
いいから、スカートのファスナーを下げるな!
「一旦姿を消して、着替えてから出てくるように。」
「そうですか・・はい。」
何 だ そ の 不 服 そ う な 顔 は !?
渋々消えて行った。
「ちょっ、ちょちょちょ!何々あの人!?」
アリサが目丸くして、私に突っ掛かってきた。
こら、グイグイ樹皮を引っ張るな、剥がれるではないか!
「あれが君が脳内彼女と疑って止まなかった秘書のリティア君だ。」
これで私の名誉は守られただろう。
「秘書って何なの!?」
「魔法の一種だね。」
「魔法が何で喋れるの!?」
「まぁ魔力が何とかしてるのだろう。」
不思議な事は、全部魔法や魔力のせい。
いやはや、便利な言葉だ。
「出たり消えたりしたんですけど!?」
「君だって唐突に出ていって、蜂にボコボコに刺されて、いきなり帰ってくるではないか?」
「そういう意味じゃなくて!」
似たようなものだ。
アリサは一定期間、蜂蜜を食べないと、禁断症状の発作なのか、『蜂蜜!』と叫んでから飛び出し、考えなしに蜂の巣に特攻仕掛けて、フルボッコにされて帰ってくる事があった。
真性のアホだ、この娘。
よくもあれだけ刺されて、アナフィラキシーショックにならないものだ。
「ちなみに鑑定スキルの中の人だよ。あのポンコツの。」
「あー、あのポンコツな・・って、マジなの?」
「マジである。」
ちなみに、アリサには鑑定スキルの事を話している。
結果を教えてあげて、一緒にツッコミして暇潰ししていた事もあった。
何だかんだと、ブログとしてなら面白いコンテンツだ、鑑定スキル。
本来の機能とは、別の所で活躍してる点がやるせないのだが・・。
アリサと話していたら、リティア君は再び姿を現した。
今度はこちらの世界に合わせて、何かこう、神聖な感じに、一枚の藍く長い布を上手い具合に巻いたら、あんな感じになりそうって服装だった。
美人なので、何でも似合うな。
アリサはリティア君の姿をマジマジと見て、その美貌に溜息を漏らしていた。
「やっばいわー。スッゴイ美人じゃない!アタシの影が薄くなるんですけど!困るんですけどー!」
何それ?自分の事、美人が売りのキャラだと思ってるのかね?
君はギャグが担当だと疑う余地が無いのだけど、本気なの?
「心配しなくていい。君の蜂蜜狂いでトラブルメーカーなお喋りお馬鹿キャラと、彼女の何でも食べる天然ポンコツキャラはかぶらないだろう。」
並べてみると、ヒドいキャラが揃ったと憂鬱になる。
「何よその残念なキャラ!」
「ありのままではないか!」
リティア君も会話に加わる。
「まあ、シャチョー様、二人とも美人というところは否定しないのですね。うふふ♪」
「肯定的な部分だけ抜き出して、前向きに捉える姿勢は悪くないのだが、君は残念だと言われている事を、もっと深刻に捉えた方が良いと思う。」
リティア君は両手を頬に当てて、クネクネしていた。
アホの子だってバレるから、やめた方がいいぞ。
「美人ってさ、やっぱ人から見られるのよねー。アタシもオジサンから、たまにジロジロとエロい視線感じるんだ。」
なんだアリサ君、それは自分も美人だとアピールしたいのかね?
「その視線は鑑定してる時だと思うのだが?エロチックな視線は微塵も出してないぞ?勘違いも甚だしい。私はお子様には興味ない。」
「あー!今胸見て言った!」
「私には目が無いのに、どうして視線が分るのかね君は!?」
ぺったんこの自覚はあるのだな。
「シャチョー様、わたしの事もエロい目で見て頂きたいです!」
この娘が何をしたいのか、全く分からないのは私だけなのか?
すると、アリサがリティア君に話し掛けた。
「そういう事なら、さっきの珍しい格好、アレの方がエロかったじゃん。あれ着てた方が良かったんじゃない?」
「ですよねー?何が気に入らなかったのでしょう?」
何をバカな事で合意しているのだ。
「オジサン、変わってるからねー。」
「本当です。」
「君達にだけは言われたくない!」
おバカ二人に、変わり者扱いで憐れみを受けると、やりきれないのだが!
「そうです!シャチョー様、早速美人秘書の初仕事『オフィスでのセクハラ』をしないと。」
えーっと、このポンコツ秘書は、一体何をしたいのか?
どこの誰が、そんな余計な知識を、この駄女神様に教えたのだね。
説教してあげるから、出てきて欲しい。
「そんなものは秘書の仕事じゃない!」
そういうプレイが専門の店の仕事だ。
「ええ!?」
驚くな!
呆れて、植物には無いはずの頭痛がしてきた。
こうして、私の周りに、また一人騒がしくなる人物が増えた。
ちなみに、人間の姿は流石に目立つので、女神様パワーで妖精の姿に変わって貰った。
アリサがいるので、妖精なら突然増えても目立たないと踏んだ。
アリサは、リティア君が唐突に種族を変えた事は全然気にしてなく、仲間が増えたみたいで嬉しいようだ。
実におめでたい。
町の人々には、妖精の住人がもう一匹増えたと説明。
アリサの仲間だと言う事にした。
しかしリティア君本人は納得いかない様子。
「秘書の仕事が・・。」
いや、人間の姿をしていなくても、秘書の仕事は出来るだろう?
この女神様は秘書の仕事を、一体どういう風に勘違いしているのか・・。
やはりポンコツ女神様の秘書観は間違っている。
次回、ずっと謎だった、あの数値の秘密が判明。
そして鑑定の中の人に物申します。
【作者コメ】
評価ポイント頂きました。いつもありがとうございます。
主要登場人物が一人増えて、より賑やかになりました。
今後ともリティア君を宜しくお願いします。




