25.私の名は ~ランクシャーの町での日々~
新章の始まりです。
町に中で暮らし始めた妖木は、どんな風に過ごしているのでしょう。
まぁ、またアリサが色々やらかすのであるが・・。
■■ 第三章 妖木期 ■■
あれから3年が経過した。
私はランクシャー領主の屋敷の横にある教会の前に根を下ろしていた。
周囲には高い木や、建物の影がなく、日当たり良好。
光合成に最適の、実に居心地の良い場所だった。
ランクシャーの町は、人口2千人程の田舎町。
領の中心であり、東と南は森と山、西と北は草原が広がっており、主な産業は農業。穀物を育てている。
金属類は原料を交易に頼り、加工は独自。
建物は木造が多く、殆どがログハウスだった。
ランクシャー領は、エイングランド王国の南端の地域。
西にバイルラウンド王国があり、長年敵対関係にある。
アイン殿とザイン君の父親が、度々国境領地戦争を仕掛けていたのが、その国だ。
東の森と山を越えた先には、交易で栄える大河の国がある。
私が見た街道は、そちらに通じているようだ。
■
教会の地下は牢獄があり、ザイン君はそこにいる。
山賊となっていた元孤児達の罪は、ザイン君が全部引き受ける事で、彼等は2年間の更生を経て、放免となった。
町に到着した当初は、それはもう大混乱だった。
ザイン君に石を投げつける裕福そうな者。
逆に感謝して、彼を庇う貧しそうな者に二分され、彼の処罰の決定には時間を要した。
アイン領主殿は、処刑を保留し、彼の働きを見て二年後に決めるとした。
そして、彼は投獄されるも教会で献身的に働き、
「おはよう旦那、今日も葉っぱ貰ってくぜ。」
自由の身を獲得していた。
さすがは有能な男である。
彼は被害総額を超える、莫大な利益をランクシャー領に齎し、領の発展に貢献したとして、刑期がみるみる減免されていった。
私の推薦もあったのだが、人心の掌握に長けている彼は、アイン領主と共に、領民の信頼を勝ち取り、その功績から罪を許されたのだった。
ちなみに、この町における私の存在だが、
「シャチョーのおじさん、木登りしていい?」
「ブランコしてー!」
「ちょっとアンタ達、揺らさないでよ。今アタシ食事中なんだけど!」
「コラやめなさい、シャチョー様が困るでしょ。あ、おはようございますシャチョー様。」
完全に知れ渡っていた。
アリサが早々にバラしてしまったのだ。
あのお喋り蜂蜜妖精め。
■
まさか着いて早々、私を教会の前に植える際、多くの人がいる前で、
「ねえオジサン、喋れるんだから挨拶くらいしなさいよ。昨日から全然喋らないし、動かないからつまんないんだけどー。」
と言ってしまったのだ。
アリサに関しては、秘匿を約束した領主の、責任範囲外項目なので仕方ない。
アリサに口止めを忘れていた、私の落ち度だった。
アリサは隠れているのが面倒になり、町に到着するや否や外に飛び出した。
妖精を初めて見た人も多く、町民は驚き、騒然となったが、
「アタシはフォレストフェアリーのアリサ。そこに横になってる木のオジサンと一緒に、この町に住むことになったからヨロシク!」
そんな軽いノリの挨拶で、場の雰囲気は和らいだ。
「キュートなアタシと御近付きになりたいなら、蜂蜜頂戴ね!」
蜂蜜壺に隠れていただけに、全身蜂蜜でベトベトの姿はコミカルで笑いを誘った。
そして、彼女の明るく天真爛漫な性格と可愛らしい容姿は、領民の心を掴み、一瞬にして溶け込んでしまったのだ。
今では町のマスコットとして、彼女を模した人形が、子供達に大人気になっている。
そして、そんなアイドルの言葉は、それなりの説得力と信用性を備えていた。
木が喋る?動く?
皆一様に「え?」という驚きに包まれる。
更に自警団員のガイムが持ち帰った「籠が付いた珍しい葉の木に近付いたら攻撃された」という報告が、一部の者に知れ渡っており、疑惑はより真実味を増して噂として広がっていく。
また、私の持ち物が、領主の屋敷に保管されているのを、使用人が漏らしてしまっていたのもある。
そして、領主が魔物の討伐に出掛けて、戻って来たら、怪しげな木を持ち帰ってきた。
疑われて当然だった。
珍しい葉の木、高価な素材の籠、そして妖精が住み着いている木だ。
ガイムの負傷という事実があり、次第に私の存在を「危険ではないのか?」と不安視する声も上がり始めた。
騒ぎが大きくなり、領主は口を割れずに汗ダラダラ。
私が植えられている教会に行くのが怖いと苦情まで出始めた。
このままでは迷惑をかけてしまう。
私はそんな空気に居たたまれなくなり、自分からカミングアウトした。
■
後日、町の人々を集めて、私は自己紹介をした。
「えー、聞こえるだろうか?私は木である。」
驚き腰を抜かす者、拝む者、戸惑う者、様々な反応を見せ、その場は騒然となった。
「皆さんに不安を与えてはいけないと思い、私の正体を明かします。まず、私は皆さんに危害を加える事はない。安心して頂きたい。そして、私はこの通り人族と意志疎通が出来る。また、このように動くことも出来る。」
私は枝葉を動かして見せた。
これにより更に騒ぎは大きくなった。
子供は泣き出すし、中には恐怖で逃げ出す者もいた。
確かに不気味だよね・・。
そこで敵ではないアピール兼パフォーマンスをする。
「私からプレゼントだよ。」
私は母親と一緒に、一番前で見ていた女の子に、近くに生えていた花を摘んで渡した。
枝を使って、器用に差し出す様子に、驚きの声が上がる。
女の子が恐る恐るだが花を手にしたことにより、その場が静かになった。
「あー、みんな怖がらなくていいよ。このオジサン優しいから。」
アリサからのフォローもあって、概ね落ち着いて話を聞いてくれる姿勢になった。
「尚、魔法も使える。ガイム君という者が、私の魔法により怪我を負ったと、疑われているだろう。しかし、それは私の持ち物を彼が奪おうとした為に防衛したに過ぎない。その事実は、アイン領主殿に伝えてある。領主殿の名誉の為、補足説明すると、彼が皆さんに何も言わなかったのは、私の存在を秘匿するようにお願いしていた為だ。彼は誠実に私との約束を守ったのだ。」
「黙っていて済まない。私の命の恩人故に、約束は守らなければならなかった。」
領主殿はそう弁解した。
「私は攻撃の意志がない者には、何もしない。それは、ここに来て教会に通っている方々に、何ら危害が及んでいない事で明らかと見て頂きたい。」
私は単なる木の振りをして、これまで黙って、じっと往来を眺めていた。
コッソリと鑑定はさせて貰っていたが。
「確かに毎日通ってたけど、何もされなかったね。」
犬人族の恰幅が良い女性が、そう言った。
「但し、酔っぱらって私の前に吐いたそこの男性には、文句が言いたい。」
私は枝で一人の男性を指し示した。
「ひい!俺か!?」
鑑定で名前も分かっているから、犯人は明白だ。
「あんなものは私の養分にはならないよ?気持ち悪いので、土魔法で埋めた。何なら返そうかね?」
私は土魔法Lv1で、目の前の土を隆起させて見せた。
おおー!と歓声が上がる。
「悪かった!許してくれー!」
「ぷっ。」
「ふふふ。」「ハハハハ」「ギャハハハ、返して貰えよダバオ!」
よし、笑いが出ればもう安心だ。
「私は山賊に襲われたアイン領主殿を助けた功績により、ここへ招かれた。そこの妖精アリサの友人でもある。どうか暫くは、滞在を認めて欲しい。」
そして、質疑応答の時間を設けて、町人の意見や疑問に答え、最終的に理解を得られた。
領主の取り計らいにより、町に恵みをもたらす「御神木」という名目で、大切に扱われる事になった。
そして、私の正体は領外の者には、絶対にバラしてはいけないという法律も出来た。
領民の私への対応は、最初は恐る恐るだったが、挨拶を交わしたり、子供達と遊んであげたりした事で、態度は軟化し、緩和されていった。
また、私の色々なアドバイスによって、物事が好転したりしたこともあり、私に対する領民達の信用は、徐々に深まって行った。
私は御神木兼、町の相談役のような立ち位置に収まった。
今では町のシンボルのようになり、様々な人が寄ってくるようになった。
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ちなみに、私に名前も付いた。
呼び難いという意見が多く、どうしようか迷ったが、ひょんな事から広まってしまったのだ。
「ねぇ、以前は名前があったって言ってたよね?何て呼ばれてたの?」
アリサから訊かれた。
私との約束は忘れていたクセに、そんな細かいことは覚えているのか・・。
うーん、前世の本名は、この世界では使いたくないのだがね。
何か良い呼び名はないだろうか。
そう言えば、前世では役職名で呼ばれることの方が多かったな。
肩書きがあると、そう呼ばれ易いものだ。
「皆からは、いつも社長って呼ばれていたね。」
「シャチョー?変な名前ね。」
は?
それからアリサが言いふらしてしまった。
お陰で私の名前はシャチョーさんだ。
あの蜂蜜妖精、毎度毎度余計な事ばかりしてくれる!
飛び回る情報拡散メディア、アリサ。
その可愛らしい容姿とコミカルな動き、明け透けな物言い、嫌味の無い毒舌で、領内では完全に芸能人かアイドルのような扱いを受けているので、ここでは彼女の発言には多大な影響力がある。
そして彼女は、毎日のように町に出掛けては、蜂蜜を貰って回っている。
アリサ = 蜂蜜
町に行けば、皆から話しかけられ、ひとときの話題と軽快なトークを残し、蜂蜜を貰って次の場所に飛び立つという、アイドル活動を日課としていた。
蜂蜜に釣られて、どこにでも現れる、身近なアイドルなのだ。
お蔭でこの町では、養蜂業が盛んになりつつある。
この抜群の機動力を活かした巡業のお蔭で、町内の殆どの話題は、アリサから提供されているくらいだ。
町内放送のように、瞬く間に情報が広がる。
その効果たるや絶大で、すぐに間違った私の名前が領民に拡散されてしまった。
シャチョーさんって・・。
呼ばれる度に、飲み屋にいる気分なのだが・・。
ただ、聞き慣れた呼び名なので、違和感なくて良い。
だが、もっと格好の良い名前が良かった・・。
尚、この世界には「会社」というものがない。
会社がなければ、社長もいないのだ。
つまり、アリサの勘違いも仕方のない事なのかもしれない。
私が不注意だったと反省するしかなかった。
■
ところで、今朝もザイン君が私の葉を数枚千切って持っていった。
これは、私の葉から薬が出来るからだ。
町の教会では、私の葉を原料とした薬を作っている。
と言っても、擂り潰して、栄養価の高いものと混ぜているだけだが。
この薬、解毒や抗生作用がある事で、絶大な支持と莫大な利益を上げていた。
鑑定結果から、ザイン君に病気の人に処方してみるように奨めていたら、不治の病から回復した人もいて、瞬く間に広がった。
この世界の医療は、まだまだ原始的だった。
細菌の存在すら知らないし、無論細菌や寄生虫が原因の病気があるという認識もない。
怪我にアルコールをかけると、何故か治りが早い。
「殺菌」という観念が無いので、こんな認識なのだ。
抗生物質が無いので、細菌感染症等は患ってしまうと、原因不明で治らないというのが通例。
薬効がある草を食べたり、休んだりする民間療法や、経験による対処療法しか手が出せなかった。
衛生観念にも乏しいので、多くの人が苦しんでいたのだ。
私の葉の薬が登場した事により、毎年の死者が減り、私の御神木としての徳が大きく積み上がった。
薬の噂は領外にも広がり、各地から注文が殺到している。
だが、全てのオーダーに応えていたら、私は丸裸になってしまう。
その為、通常の収穫量は制限させて貰い、秋に落葉する前に大量に収穫して、ストックする事でザイン君と合意した。
薬の販売権はザイン君が持っており、彼はそこで大儲けしている。
富裕層からは、搾れるだけ搾って高値で売り付け、貧困層には無償で提供していた。
お蔭で、教会と孤児院の運営は潤い、余剰利益は領の保全に回され、外貨を獲得する事で、領は次第に豊かになっていった。
「笑いが止まんねぇぜ!」
そして私の信用とザイン君の功績はうなぎ登り。
「ザイン君、新芽を採らないようにしてくれたまえよ。」
毎朝、葉の収穫の度に、彼は上機嫌だった。
大罪人であるザイン君を配下に持つ私の存在を、最初は訝しく思っていた富裕層の領民からも、「息子の病が治った!」「妻の症状が改善した!」と感謝の声が次々に届き、私の存在は完全にこのランクシャー領に認められ、磐石となっていった。
次回はステータスから見る、社長の動向ですが、基本的にギャグ回となっています。
第3章も暫くは2日に1話のペースでアップします。




