21.私、ネゴシエーターになります。
偶然にもアリサの足跡を掴んだ。
まさかの囚われの身!?
彼女を救出すべく山賊の頭領に交渉を挑むが、彼はなかなか手強かった。
山賊が掴まえているという妖精。
まさかのアリサご本人。
いや待て、この男が嘘をついている可能性がある。
先に名前を聞き出して、本人という事にして、交渉の材料に仕立て上げている疑念がある。
先程の話の流れから、妖精を捕えているというのは、恐らく本当だろう。
だが、アリサであるというのは疑わしい。
確証が無い。
私は確認の為に探りを入れた。
「何故君に名前が判るのかね?」
「ガンガン話し掛けて来るうるさい奴なんだ。訊いてもないのに自己紹介しやがった。」
アリサっぽい。
「どうやって捕まえたのかね?」
「ウチの蜂蜜壺に首ツッコんで、抜けなくなってやがった。」
アリサっぽい。
「妖精は魔法を使うのではないか?攻撃されなかったのかね?」
「突風を吹かせてきたが、妖精相手なら吹き飛ばせるんだろうが、人族相手には意味は無いな。」
一応抵抗はしたようだな。
だが、アリサの得意とする風魔法はLv3の『フラッシュブレス』。
加速させる弓矢や投石がなければ、殺傷能力は殆ど無い。
「それでも大人しく捕まったとは思えないのだが。」
亜人族は野蛮だから遭遇したくないと嫌っていたからね。
噛みついて、魔力を吸うことも出来た筈だ。
「蜂蜜やるから、大人しくしろ。って言ったら、自分から鉄籠に入りやがった。」
ア リ サ だ そ れ !
蜂蜜の為なら死の危険も顧みず、無鉄砲に蜂の巣を荒らす命知らずのアホの子。
無類の蜂蜜好き妖精。
あの娘、山賊に捕まっていたから約束を守れなかったのか?
・・・いや、多分忘れているに倍BETだ。
「高く売れると思って飼っていたが、蜂蜜をくれ!とうるさいんだ。早く売り飛ばしたかったが、あの領主の取り締まりがキツくなってよ。売り飛ばす為に、街に行けなくて困ってたんだ。」
ふむ、事情は把握した。
これは救出の必要があるな。
逆に幸運でもある。
どこにあるか分からない妖精の里を探し、山中を彷徨う必要が無くなったのだ。
目的地は変更としよう。
「・・・分かった。君の交渉に応じよう。但し、私が出来る事は限られているよ。」
私は私が出来る事を、彼に伝えた。
彼を逃がす事まではできないが、命を助けるように話を持ち掛ける事は可能。
なので、以下を条件として提案した。
「『私が君の味方になり、処罰を軽減する交渉を領主側にする。結果は保証しない。』これでどうかね?」
交渉するだけで契約は完了だ。後腐れが無くて、手離れが良い。
逃がすまで保証は出来ない。
それを保証すると、交渉が決裂した場合、領主と対立関係となり、せっかく取り付けた討伐されない為の約束が白紙に戻ってしまう。それは負えないリスクだ。
この条件で首を縦に振ってくれれば良いが・・。
「もう1つ条件がある。」
やはり上乗せしてきた。
彼は賢く、頭の回転が速い。
私の足元を見て、可能な限りの好条件を引き出しにくると思っていたが、案の定だ。
「過剰な要求は飲めないよ?アジトの場所を教える事は、これから囚われの身となる君には、何ら損害にはならないだろう?」
私は”足元を見るな”と、牽制の為に釘を刺す。
捕まってしまえば、アジトには戻れないし、一帯を隈なく調査されれば、アジトは見付かり盗品は接収される事だろう。
「だがアンタは妖精を助けたいんだろ?それに、アジトは俺しか案内できない。」
それは言い過ぎだな。
「アジトの場所は、君の仲間に訊けば済むことだ。」
ここには場所を知っている者が多くいる。
尋問相手は、この頭領だけに拘る必要はないのだ。
「あいつ等は、俺が許可しない限り喋りはしないさ。」
「どうかね。私は自白を促す良い方法を知っているのだよ。」
前世の記憶を活用しようか。
まずは個別に投獄監禁し、仲間同士で会話出来ない様にする。
尋問の際、「アジトの場所を教えれば恩赦を与える、口を割らなければ処刑だ。」と餌をチラつかせる。
早い者勝ちで、口を割った者は一人だけ解放され自由の身だ。
他の仲間は既に教えると宣言している者がいる。と嘘も流せば、猜疑心が刺激されペラペラ喋ってくれる事だろう。
山賊の結束がどれほど固いのか、私の知るところではないが、人間の信頼とは、脆いものである。
「やってみればいい。それより、条件を聞いてから考えてくれ。」
「面倒ではなければ良いのだがね。」
確かに提案に乗った方が話が早い可能性がある。
「俺はアンタの配下になった、という事にしてくれ。」
は?
「配下?私は単なる放浪の木だぞ?」
配下を連れた放浪者など聞いた事が無い。
「何が”単なる”だ!木が放浪する事自体がおかしいんだよ。」
私の非常識な認識をツッコまれてしまった。
「放浪している木が、配下を持つなど現実的ではないだろう。私は食事を必要としないのだぞ?一緒に旅をするなんて無理だ。嘘だとバレるのではないか?」
私は光合成さえ出来れば、どこでも生きていけるが、人間は食事が不可欠だ。
一緒に旅をするのは不可能。
人間には必ず拠点が要る。
つまり、配下など持てない筈なので、嘘だと疑われるのでは?
「だから仮の配下でもいい。俺をアンタの所有物としてくれ。ドランの威を借るキャッツネ方式だよ。領主はアンタに礼がしたいと言った。つまりアンタの言う事なら耳を傾ける。報酬は俺という事にして、俺の処刑を延ばしてくれ。俺は死罪さえ免れればそれでいい。」
どうやら彼は死罪になる可能性が高いようだ。
何をやったのか知らないが、簡単に死刑が成立する厳格な規律制度なのだろうか?
そして、彼は命あっての物種と考えている。
命だけは助かるには、私の配下となり、私の許可無しに処刑が出来ないようにして欲しいという要望だった。
あと、『虎の威を借る狐』は、こちらでも同じような言い回しがあるのだな。
ドランとキャッツネが、どんな動物なのか知らないがね。
キャッツネとは、猫なのか狐なのか・・。
「私のメリットが少ないように思えるが?」
「別にそのままずっと配下でも俺は構わんがな。身の回りの世話はしてやるぜ。」
「正直、君のようなむさ苦しい男に世話されてもなぁ。」
「なんだ?女が良いのか?木のクセにスケベなんだな。」
「いや、そうではないのだが。」
前世の記憶を引き摺っているからとは言えない。価値観の問題だ。
「俺を配下にすれば、俺の仲間も漏れなくついて来る。俺達全員、アンタの配下だ。仲間には女も居るぜ。そいつにアンタの世話を任せるようにするさ。」
「なるほど、そういう目論見か。」
自分さえ助かれば良いという事ではなかったのだな。
彼の所有権を私が主張すれば、彼の保有する仲間という財産も私に所有権が移行する。
そう拡大解釈して、領主と交渉して欲しいという依願なのだろう。
やや無理がある拡大解釈なので、正直通るか判らないが、結果を求められないのであれば、特に問題は無い。
彼は私が出した条件には、一切口出しはしなかった。
つまり、交渉はするが保証はしないという条件でも良いと解釈できた。
だが、配下になるという口約束だけでは、物理的にも法的にも縛れないので、強制力がなく、基本的に放し飼いだ。
お遣いに行かせたら、そのまま帰って来ない事も出来る。
「配下やーめた。いち抜けた!」で契約反故完了である。
そんなザル配下契約では、せっかく捕まえたのに、実質逃がしてしまうのと同義。
であれば、領主も首を縦に振らないのではないか?
「契約を反故にして、逃げる事は十分に可能だろう。配下だからと言って、私に同行は許されないのではないか?」
「そりゃそうだな。じゃぁ逃げられない様に領主に手を回させればいい。アンタが出来ない事は、他人にやらせればいいんだ。」
成程、自分で出来なければ人を雇ってさせれば良い。
経営者的な考えだ。
では、普段は牢に入っていて貰い、必要な時だけ脱走防止の警備員付きで呼び出せる。
そんな人材派遣サービスにすれば良いのか。
これなら私の管理責任はない。
私はこれでも良いか?と彼に尋ねると、問題ないと答えた。
本当に命が助かれば、それで良いと考えているようだ。
それなら私にデメリットは特に無い。
派遣の必要が無ければ、彼等は無期懲役で禁固されているだけ。
領主も山賊被害が食い止められて鼻が高く、彼とアリサも命拾いできる。
誰も得はしないが、損もしない関係だ。
領主は命を助けられた御礼がしたいと言っていたが、どんな物を想定してるのだろうか?
財宝など貰っても、私は光合成さえ出来れば良いので猫に小判だ。
彼等の命を貰い受けるという要求なら、領主の出費も少なくて済みそうだし、手切れも良く、丁度良い報酬になるだろう。
放浪の身なので、人族の町限定で配下を得られても、使い道がないのだが、アリサ救出の目的が難なく達成できるならそれで良い。
木になって、欲が無くなったのか、前世のお人好しな性格を木になっても引き摺っているのか、私はそれで良いと思った。
それに、自己防衛の為とはいえ、彼等の脚を焼いた傷害のお詫びも兼ねて、彼の条件に乗ることにした。
しかし、やはり彼は経営者の素質があるな。
交渉術も、人を遣う事にも慣れている。
私は何でも自分で抱え込んでしまう癖が抜け切れず、過労死したので、経営者失格である。
「私は木で、君達が言う魔物だぞ?そんな存在の配下でも良いのかね?」
「それがどうした?生き残る為には、強い奴につく。当然だ。」
彼は真剣だった。その言葉に他意は全くなかった。
「分かった。配下になりたいのであれば、君が好きにすれば良い。私は報酬に君の利用権を得ると言う事でどうかね?」
「それでいい。」
■
その後、毒の治療を終えた領主と、交渉の場が設けられた。
ちなみに、百年草の解毒効果は抜群だった。
毒の作用で意識が朦朧としていた者が、起き上がれるようになっていた。
まだボーっと一点を見詰めて座り込んでいるが、回復の兆しを見せていた。
どうも致死性の毒ではなかったのが幸いだった。
意識を混濁させ、眩暈や平衡感覚を失わせる類の毒らしい。
そこで、元気な領主の部下の一人が先行して、街まで応援の人員と輸送馬車を呼びに向かった。
こんな暗い中を歩いて、よく方向が判るものだ。
本当に夜目が利くのだな。
尚、交渉は呆気なく成立。
「本当にそんな事で良いのか?」
と念を押されたくらいだ。
山賊の頭領め、こうなる事が分かっていて条件を付け足したようだな。
交渉の結果はこうだ。
・今回の勲功報酬は、山賊全員の命とする。
・山賊のアジトには領主も同行し、強奪された金品の内、領民の物と判別できるものは、領主が接収する。その他は、私の物とする。
・山賊は10年間の禁固と労働の刑に処す。本来は死罪だが、私の所有物(奴隷に近い)となったので、刑を軽くし、10年後、社会的な人格なっていれば、牢獄生活から解放する。人格改善が無い場合は、その時点で死罪。
・山賊は領内の牢に入る事。私からの要請で外出が認められるが、脱走防止の為、警備兵を付き添わせる。一人でも脱走を試みた場合、全員翌日死罪とする。
私の要求は、難なく通った。
領主からの条件付けも、特に問題ないので承諾した。
トップ会談は結論が早くて良い。
前世の社長という立場で、唯一楽だったのが、代表権があった事だ。
代表者が決めてしまえば、そうそう覆らないからね。
問題は、その先の事で・・
「やはり命を救って頂いたのに、賊の命だけというのは私の気が収まらない。」
「いや、私は木だ。日光を浴びていれば、それだけで幸せなのだよ。」
「いやいや、他に何かさせて欲しい。」
「いやいやいや・・」
領主が他にも何か御礼をさせて欲しいと、しつこく迫ってきたのだ。
何だか懐かしいな、この妙な駆け引き。
取引先を食事に連れて行った時、「ここは私が」「いやいや、それは駄目です。」「私がお呼びしたのだから」「いいえ、勘弁して下さい」等と、支払いをどっちがするかで伝票の取り合いになっていたものだ。
これ日本人特有なのかね?
海外取引をした事がないので、分らないのだがね。
そして領主から、突拍子もない提案が出された。
「では、こうさせて欲しい。貴殿に私の町に、来賓としてお越し頂きたい。」
「は?」
「日当たりの良い土地を提供させて頂く、そこで暫く骨休めして頂きながら、ゆっくりと他にどんな報酬が良いか互いに考えるというのはどうだろうか?申し訳ないが、私達には、魔物が何を欲するのか判らないのだ。」
だから日光さえあれば、私は本当に何も要らないのだがね。
信じてくれないので困る。
「いや、君の町に私が行くという意味だよね?さすがに歩いて行くには目立ち過ぎる。」
私の存在を秘匿する約束はどうするのだ?
「荷車を用意するので、そちらに乗って頂きたい。貴殿は珍しい葉をした木なので、観賞用に森から持ち帰ったという体にすれば、私の道楽と皆思うだろう。喋ったり動いたりしなければ、貴殿の正体は分からないはずだ。」
「確かに。」
運んで貰えるなら楽だ。
「あー木の旦那、それなら滞在中は俺達を小間使いに使えるじゃねぇか。」
「うーん、そうだな。」
山賊達を好きに使える権が発動可能か。
そうだな、邪魔な所から生えてる小枝を、枝打ち剪定して貰ったり、誤って折ってしまった枝の裂けた所を切り揃えて貰ったりするにはいいな。
植物にとって、枝打ち剪定は、ムダ毛処理と散髪みたいなものだ。
「是非お越し頂きたい!可能な限りのもてなしをさせて頂く!」
領主は食い気味にそう言った。
亜人族の街や、この世界の技術レベル、文化、習慣、常識を知るには良い機会だ。
こんな事でもない限り、恐ろしい魔物である私は、亜人の街には近付けないだろう。
これは意外に有難い提案ではないか?
「ではお言葉に甘えます。」
こうして私は領主、アイン=ランクシャーの街に行く事になった。
領主と話していたら、何故か亜人族の町に行く事になってしまった。
と、その前に山賊のアジトに行って、アリサを救出だ。
次回、アリサ救出劇と感動の再会シーン(?)
また、山賊の頭領の素性が明らかに。
■作者から感謝のひと言
何が起こった!?
何が起こった何が起こった何が起こった何が起こった何が起こった何が起こった何が起こった!?
前回の1日のPVアクセス数が480だとぉ!?
アップ時間を6時に変更してみたら、1日PV150~170くらいだったのが、3倍だとぉ!?
スカウターの故障ではないのか?
恐ろしや異世界転生ハイファンタジー枠!読者人口がコメディ枠の比じゃないぜ。
多分10Pの評価を頂いたお陰で、アクセス数が増えたのだと思います。
評価を入れていただく親切な方のお蔭です。有難うございます!




