207.普通とは何なのか?全力で普通に挑む!
その後、こっぴどく説教された。
「こちらも暇ではないのですが?(クドクド)」
「あの話は人を待たせるほど急を要するものでしたか?(クドクド)」
「噂に聞く妖魔の王のマイペースぶりをよーーーく理解しました。で?アレは必要でしたか?(クドクド)」
「常識?普通の人はあそこで内輪ネタを始めませんが?(クドクド)」
この歳で、ここまで説教される事になるとは思わなかった。
私もこの世界に来て長い。
どうも以前のような謙虚な姿勢を忘れてしまっているように思える。
私も非常識に毒されているのを、身に染みて理解させられた気分だ。
「とにかく、どうやってるのか理解が及びませんが、ゼムノークスのハイレベルな依頼を、短期間で達成して戻ってきたのは認めましょう。」
『そうかね。それは重畳だ。』
流石はキーフェル君のサインだ。
これで少なくともFランクには昇格してくれるのではないかな。
「ですが、あまりにも早い昇格は周りが納得しない。非常識過ぎて、特別扱いしていると他のハンターに勘違いされると、支部の評価制度の根幹が揺るぎ兼ねません。」
『理解はする。』
優遇措置と捉えられ、癒着や汚職を疑われたら困るだろうからね。
支部長とモザイクおじさんのズブズブの関係が明るみに出てはいけない。
「そこで提案です。普通の依頼を、普通にこなして、普通に報告してくれませんか?」
おやおや、この支部長、何て事を言うのだ。
私達は妖魔の王だぞ?
普通の依頼を、普通にこなして、普通に報告?
ハッ!
チャンチャラ可笑しいな!
私達を舐めて貰ったら困るよ!
「はぁ!?舐めてんの!?」
「まったくだ。」
『やれやれ、支部長殿も人が悪い。』
どうやら私達全員が同じ気持ちの様だ。
ではアリサ、言ってやりなさい。
「 そ ん な の 無 理 に 決 ま っ て ん じ ゃ ん ! 」
その通りだアリサ!
私も追撃しよう。
『不可能だ。さっきのやり取りを聞いていただろう?そんな無理難題を突き付けるなんて鬼かね!?出来る訳がない!』
断固抗議する!私達の非常識さを先程見ていたではないか。
妖魔の王の常識の無さを舐めて貰っては困る!
「困りますぅ。」
「今更普通にやれとは・・どうすればいいのか見当が付かん。」
「む、むむむ無理、無茶振り過ぎる・・。」
ほら見たまえ!
全員困ってしまっているではないか。
そんな無理ゲーを強いるとは、鬼畜の所業だ。
「どうしてその反応に・・。」
呆れを通り越して、頭を抱えている支部長。
『どうしてと言われても、まず普通という概念が理解出来ない。』
正直に答えるとそう言うことになる。
「簡単と思うのですが・・。」
『普通と言われると手も足も出ない。もはや俗世の普通レベルが全く分からなくなった。』
「難儀な事ですね・・。」
普通ではない者に普通にしろと言うのは、魚を陸に揚げて、「陸では肺呼吸が一般的だ、肺呼吸しろ」と言ってるようなものだ。
その自覚を持って欲しい。
『その課題は普通とは一体何を指すのか、指標が無いではないか。具体性に欠く曖昧なオーダーではクリアなんて出来ない。そうだろう?』
普通にやれ?
では普通とは何なのか示すのは、指示を出す者の使命である。
それを放棄して、ぶん投げるのは業務怠慢である。
そんな事ではハンター協会の信頼性を疑わざるを得ないな。
課題とは明確でなければならない。
具体的な指示もなく、クリア条件が不明確な課題など、無茶振りにも程かある。
「頭痛がしてきました・・。これまではそのような説明が不要でしたので、初めての事例となります。従って特殊事例となり、指標を用意する準備が出来ておりません。」
そうだろうね。
一般的なハンターは、何も言わなくても普通にこなして、普通に達成出来るのだろう。
実に羨ましい。
ところが、私達にとっては最難関だ。
普通じゃないハンターに普通とはどうすれば良いかを、明確な指示を用意して欲しい。
それがその依頼を請ける条件となる。
『では準備が整えば請けよう。いいかね支部長、特殊事例とは規模が大きくなると、どうしても現れる問題だ。そして何事にも例外がある。一流の組織とは、その例外も網羅する経験と、それに対処できる対応を備えたとき、初めて一流と名乗れるのだ。この依頼はハンター協会をまた一歩高みへと押し上げてくれるだろう。貴重な経験と捉えて、前向きな対応を求める。』
準備が出来ていないのであれば、準備さえ出来れば良いのだろう。
「何故我々が責められるのか理解に苦しみますが善処します。」
『頼んだよ。』
特殊事例とは大抵理解が及ばないものだ。
今後に備えた一つの経験だと割り切って精進してくれたまえ。
「非常識とはこうも話が通じないものなのですね。」
『良い経験になったな。』
「何故上から目線なのでしょうか・・。」
こうしてハンター協会側の準備が整うのを待ち、私達は次の依頼へと邁進する。
◆
私達はFランク昇格をかけた試験として、一つの依頼を請けた。
そして現在、レールモンドのハンター協会の前に早朝から集まっている。
「は、はじめまして!Fランクハンター『嵐の波濤』のリックスです。今回は宜しくお願いします。」
まだ初々しい若者が私へ挨拶に来た。
『初めまして、私はGランクハンター『モザイクおじさん』のモザイクだ。こんな非常識な姿をしていて申し訳ないが、これはある種の呪いなのだ。あまり警戒せず、普通に接して欲しい。』
私も丁重に挨拶を返す。
「よ、宜しく、おね、お願い・・します?」
この喋り方はゼムノア君と勘違いしそうだが、なんとアリサだ。
普通にする為に、どんな喋り方をすれば良いのか分からずガチガチに緊張していた。
「女性の兎人族ハンターって珍しいね。俺はライト、宜しくな。」
「アタシはアリサよ!アンタ達・・アダダッ!」
『アリサ、普通のGランクハンターは、先輩であるFランクハンターさんにタメ口で話さない!そして、彼等は私達には持ち得ない常識と普遍性を持ち合わした大先輩だ!尊敬の念を持って敬語を使いたまえ。』
アリサが大先輩に失礼な物言いを始めたので、相手に聞こえないように思念通話を絞り、戒めに微弱なスタンヴォルトを流しながら注意した。
「そ、そうだった!し、失礼しましたライトパイセン!」
「べ、別に気にしないよ。緊張しなくていいから、自然体で接してくれ。」
な、何だって・・?
「し、自然体!?そんな難しいこと出来ないんですけどー!?」
ここで自然体だと!?とんでもない!
アリサが自然体で接したら、やらかしの嵐だ。
それが分かっているから、アリサが困惑していた。
やらかさずに自然体で振る舞うなんて高等技術は、今の私達には無理難題である。
そんな高度な要求をこのタイミングで求めるとは、普通のFランクハンター、恐るべし!
「こ、こんな時に自然体で!?・・なんてハイレベルな要求を!」
「自然体なんてなったら、その時点で試験が終わってしまうな・・。」
「ど、どどど、どうすれば自然体で居られるのでしょう?」
他のメンバーも身に染みて分かっているので、ガチガチに緊張している。
「ははは、まあ初めてのFランク依頼に緊張するのも仕方ないけど、肩の力を抜かないと、本来の実力が出せないよ。」
ライト先輩は、にこやかに言って、剣の柄をポンポンとした。
他の『嵐の波濤』のメンバーも笑っている。
どうやら私達の緊張を解そうとしてくれているようだ。
「凄い・・リラックスしてる。信じらんない。」
本当だ。これから普通のFランクの依頼に普通に挑むのだぞ?
「わ、わたし達には、まだ無理ですぅ・・。」
「流石だ。これが普通のFランクハンターなのか・・。」
「こ、ここ、こんな高度な事を普通に出来るなんて・・。」
私達は完全に萎縮してしまっていた。
『流石はFランクハンターさんだ。私達に出来ないことを事も無げに。どうか今日は胸をお借りしたい。』
もはや尊敬の念しかない。
彼等こそ私達が見習うべき、普通の事を普通に出来る普通のハンターなのだ!
「いやいや、大袈裟だよ。でもまあ、危なくなったら任せてくれ。」
『是非お願いしたい。恥ずかしい話だが、私達はGランクとしての常識が無い事で叱られてしまってね。普通の事を普通に出来るようになりたいのだ。今回は皆さんを見倣って、学ばして貰えたら嬉しい。』
普通とは何か。
それを今回身に付けるのだ!
「いや、俺達だってまだFランクなんだ。そんな大したもんじゃないけど。」
『いや、もう既に先輩の凄さに圧倒されている。』
そこの不安そうな四人娘を見たまえ。
どうすれば良いのか、何が正解なのか、暗中模索、疑心暗鬼の真っ只中にいる。
「あははは、確かにこの程度で圧倒されてちゃまだまだだな。」
「いいぜ、出し惜しみしないから、見て盗んでくれ。」
『有難い。』
普通に良い人だ。
これが普通なのだな。
「それに今回は何故か支部長まで同行してるんだ。不測の事態でも全く恐くないぜ。」
「支部長は、元Bランクハンターなんだぜ。」
「『黄昏の水平線』のシモンって言えば、レールモンドじゃ有名なんだ。」
「現場に出てくる事なんて滅多にないんだ。俺達メチャクチャラッキーだぞ!」
おお、高ランクハンターに憧れるのも普通っぽい!
「そうなんだ。おじい・・アダダダダ!」
「あら、単なる説教臭・・アババババ!」
「ふん、小うるさ・・アダダダ!何をするブサイク!」
コイツら、目を離すとスグこれだ。
戒めのスタンヴォルト三連発(リティア君は強め)
『君達、普通のGランクハンターは、Bランクハンターを見たら憧れの眼差しを向けるものだ。見たまえ、『嵐の波濤』の一堂を。支部長が同行してくれるだけで、目を輝かしている。恐らくあれが普通の反応なのだよ。』
まさにお手本のような普通の反応。
素晴らしい。
見倣わなければならないが、これまた私達には荷が重い。
「マジなの・・あんなおじいちゃんが居るだけで、どうやって喜べばいいのよ。」
「訳が判りません。あの程度の実力者なら、魔境の前庭には沢山居ましたが、誰も特別視なんてしていません。彼等は何故喜んでいるのでしょうか?理解不能です。」
「あれのどこが普通の反応なのか、それすら見当がつかん。とても真似出来ん・・。」
「ど、どど、どうすれば良いのでしょうか。」
これに関しては、私も彼女達に同意だ。
同じ様に振る舞えるとは思えない。
益々私達の普通レベルの低さに愕然とする。
同時に嵐の波濤のメンバーに畏敬の念を抱かざるを得ない。
どうやったら極自然にあれ程見事な普通ムーヴが出来るのだ。
『ここは何も言わないのが正解だ。言葉を発すればボロが出るに決まっている。』
どうすれば良いのか、皆目見当が付かず、私達はただただ固まっているしか出来なかった。
「おいおい、いくらシモン支部長が凄いって言っても、今回は付き添いだけだからな。」
「依頼は自分達でこなさねぇと達成したことにならねぇから気合い入れろよ。」
「そんなに緊張してたら持たねぇぞ?」
『も、申し訳ない。』
いかんな。このままでは迷惑をかけてしまいそうだ。
今回は、私達のFランク昇格をかけた、Fランクハンター推奨の普通の依頼を、普通に達成し、普通に報告する。
それが出来るかを支部長が同行して、判定することになっている。
比較対象として、普通のFランクハンターが同行し、普通であるかの凡例とする。
つまり『嵐の波濤』が私達のお手本だ。
私達が普通じゃない言動をしたら減点され、減点がある程度溜まってしまうと、試験は強制終了となる。
つまり、私達がやるべき事は、普通のFランクハンターである『嵐の波濤』に倣い、普通に依頼を達成するとはどう言うことなのか学びながら、同時に普通のGランクハンターがやりそうな、普通のFランク依頼を、普通なやり方で普通の結果を叩き出すという、極めて高度な縛りプレイをやらされているのである。
おのれ支部長、地味な嫌がらせを・・。
とにかく正解が分からないので、完全に手探りだ。
私の常識もここでは全く通用しない。
私の常識は、世界最凶の秘境であるガンプ大森林で培われてしまっている以上、既に常識外れなのは確定だ。
あそこに集まるハンター達は、最低でもBランク。
そこにいる憧れの支部長ですら、魔境の前庭では底辺となる。
あの環境はきっと一般的ではない。
従ってこの場で私が見習うべきは、『嵐の波濤』の言動のみ!
「普通」とは何か。
この難問に真っ正面から挑んで、突破してみせようではないか。
しっかりと『嵐の波濤』先生を見習い、確実に普通を見極め、必ずや普通と言える範囲で達成してみせよう。
『嵐の波濤先生、宜しくお願いします!』
「パイセンだけが頼りなの!お願いします!」
「先生の言葉、動き、見逃しません。」
「未熟者で申し訳ないが、宜しく頼む。」
「ご、ごごご、ご迷惑おかけすると、お、思いますけど、おね、お願いしましゅ!」
とにかく全員で、改めて先生に挨拶しておく。
「たかだかFランクの俺達に、ここまで言われると何か調子狂うなぁ。」
「この娘達、こんな調子でハンター続けられんのか?」
「よくGランクになれたな・・。」
困惑の先生方。
ハッ!?
この反応、まさか普通ではないのか!?
支部長をチラッ
両手でバツマーク
そして首を横にフリフリ、その上溜め息ぃ!?
まさか、今のがアウトなのか!?
くっ、何が悪いのか分からん!
とにかくあまり先生扱いしない方が良いようだ。




