206.目クソ、耳クソを嗤う
「また君達か・・。」
デスクに両ひじを置いて俯いた支部長が、溜め息混じりにそうボヤいた。
おやおや、疫病神みたいな扱いだね。
失礼ではないかね君。
ウチには疫病神の親玉である、死神様がいるのだ!
疫病神ごとき下っ端と一緒にされては困る。
敬意を払いたまえ!
『依頼をこなしたのに、ランクアップしてくれなくて困っているのだが。』
事情をトップに訴えて、改善を図るよ。
「中身が妖魔の王とは理解しています。だから一般常識が通用しないのも理解していますが、一般常識に合わせて頂く社会性はお持ちですかな?」
おやおや、この支部長殿、私達が非常識だと批評しているぞ。
しかも社会性さえも疑うとはけしからんな。
これには遺憾の意を表さざるを得ない。
『おっと、私達を反社会的勢力扱いか?』
「あらあら、おじぃちゃん、ちょっと裏手に行きましょうか?」
「非常識扱いとは心外です。常識には疎いですが。」
「リティア様は反社ではない!社会性があるかは別だが!」
「我等を愚弄するとは良い度胸だ!魔王四天王が相手になるぞ!」
「そういう所なのですが・・。」
だから確認したと言いたげだな。
うん、悪乗りしてすまない。
だからヒビらないで欲しい。
『冗談だよ。ある程度の常識は理解しているが、確かに私達は普遍的、一般的、常識的行動を取れているかは自信はない。』
「はぁ?アタシを一緒にしないでよ!」
「シャチョー様が最も非常識な存在でしょう。」
「モザイク姿のどこに一般性があるのだ?」
「ボ、ボクはこの中では一番マトモと自負してます!」
『君達にだけは反論されたくなかった!』
どこに一般性と常識が備わってるのだ!
非常識な者達が常識を語るとは片腹痛い。
目くそ鼻くそを笑うとはこの事だ。
「はあ!?何よ!じゃあ誰が一番常識が無いか、白黒ハッキリさせようじゃない!」
「ふふふ、アリサそんな事を言って大丈夫ですか?」
「それよりも、あんなブサイクに常識知らずと言われるのは我慢ならん!」
『モザイクだ!』
常識の無さを争う時点で、既に常識知らずなのだが、その事実に気付かないという時点で、常識を持ち合わせていない証拠になっている。
語るに落ちるとはこの事だ。
「で、でもでも、一般性と常識が一番無いのは・・」
『ああ、そこは議論の余地はないか・・』
んー、あー、そうか、取り敢えず一番ダメなヤツを決めておこう。それは確定事項なので簡単だからね。
「そうですね。」
「んじゃまあ、取り敢えず最下位だけ決めよっか。」
「むう、仕方ないな。」
リティア君、アリサ、クルティナ君も同意した。
「じゃ、じゃあせーので言いましょう・・せーの。」
『リティア君』「リティア」「リティア様」「リ、リティア様」
「シャチョ・・って、ええええ!?」
当の本人が驚いてる事がもう残念でならない。
あと、シャチョーって言おうとしたな、今はモザイクなのに。
「ええええじゃないでしょ!何でアンタが驚くのよ!」
『リティア君が驚いてる事に、こっちが驚いてるのだが?』
「申し訳ありませんリティア様。残念ながら一択です。」
「な、何故リ、リティア様が自分ではないと自信満々だったのか理解が及びません。」
そこで驚く事自体が常識が無い訳なのだが。
「まさかの結果です!」
『その反応がまさかなのだが!』
「アンタがどんだけ周りを気にしてないか、よく分かる反応だわ・・。」
流石はリティア君だ。
客観的視点を全く持っていない。
「こんなグループ内で最下位・・ブルーですぅ。」
「今更気付いて今更凹むわけ!?」
『今、こんなって言ったぞ。』
「し、しれっと罵られましたね・・。」
「リティア様、その馬鹿にした仲間内で最下位なのですが・・」
とにかく、ドンケツは確定で覆りようがない。
存在も言動も嗜好も頭も、一般性が欠片もないのがリティア君だ。その上変態性も持ち合わせてる。
話の通じ無さが突き抜けるからね。
オールマイティーにオール満点で奇神変神。
「なら、次に常識が無い人は誰なのですか!?」
リティア君が次の犠牲者(仲間)を探し求める亡者と化した。
『ここからが微妙な所だな。』
「大きく差が開いて、二番目に非常識なヤツね。」
「ぜ、全員普通じゃないですから・・。」
「おい、ワタシまで枠内なのか!?」
おやおや、寝惚けたヤツがまだ居た。
枠内なのか?じゃない、ガッツリ枠内に居るよ!
どこを見て枠外とか言ってるの!?
完全に非常識界隈の住人だよ!
『おっと、まだ周囲が見えてない変神がいたぞ。』
「クルティナ、アンタもリティアと同種なだけあるわー。引くわー。」
そうだアリサ、目が覚めるようにビシッと言ってやりたまえ。
「待て待て、ワタシはリティア様程酷くはないだろ!?」
「クルティナが地味に酷い!」
何かにつけてディスられるリティア君が不憫だが、事実なので放置する。
「リティアと比べたら誰だって常識人じゃん。」
「リ、リティア様と比べる時点で、程度が割れるという事実を噛み締めて・・。」
『確かにリティア君程は酷くはないが、君もかなりアレだからね。って言うか、そんな甘い認識だったとは愕然とする。』
まさか自覚が無かったのか。
流石は自由神だな。
「皆からしれっと侮蔑される!」
流れ弾に当たり続けるのは得意だろうリティア君。
「だが、ワタシの普段の行動はお前達より大人しいはずだ!」
『おい、露出狂手前のストーカーが何か言ってるぞ?』
「アンタは存在が断トツでヤバいでしょうが!」
「か、身体の構造がもはや非常識。神剣にドン引きされていたのを忘れてませんか?」
何を普通アピールしてるのだ。
普段の行動が一番危ないのが君だぞ?
「真っ先に派手に暴れるのクルティナじゃん。」
『独断専行多いし、言うことも聞かないね。盗賊を呼び込むわ、暗殺犯とターゲットを引き合わせるわ、本来の業務(鑑定)は公然とサボるわ、好き放題やってるではないか。』
「か、鏡を見たことがないのでしょうか。」
ゼムノア君が辛辣だ。
いいぞ、もっと言いたまえ。
「なんだと!?ふざけるな!」
『あーそれそれ、スグにキレる短気なところとか、もう反社そのものではないか。』
「ナ、ナ、ナチュラルに威嚇レベル7。」
「クルティナ、言動が怖いんだよね。」
「うっ!」
普通の人は、すぐに殺すとか死ねとか言わないし、ましてや即刻実行に移さない。
移すからなーこの娘・・。
流石は死神だ。
ま、何はともあれ、クルティナ君が突出して非常識なのはコレだ。
『取り敢えず、君は歌が最も非常識だよ。』
「「「それ!!」」」
「はあ?」
はあ?じゃないんだけどなー。
分かってくれない、この切なさと歯痒さ!
「まあ音楽性の非凡さは認めよう。」
「無駄にポジティブ!」
「アンタそういう所よ!」
『これだけ揃って、自分は常識人とかチャンチャラ可笑しい。』
「・・・・。」
沈黙した。ショックだったようだ。
「クルティナ、だから常識知らずと言われるのです。」
「まさかリティア様から常識を語られる日が来るとは・・。」
リティア君に言われたらお仕舞いだ。
残念だクルティナ君。
やはり君もリティア君と同じ穴の狢だよ。
ここでもう一人、常識を語る非常識人が現れた。
「でもさ、取り敢えずアタシは無いでしょ?アンタ達みたいに規格外じゃないし。」
『アリサ、一般常識的存在というのは、世間が決めるものだ。私達の正体を知らない者から見れば、妖精族というだけで、君が一番一般性がないのだよ。』
「何よそれ!?」
おいおい、コイツも周りが見えていないのか。
そんなんだから蜂蜜妖星王女とか呼ばれるのだ。
「このメンバーに付いてくるアリサも、つまり規格外と言う事は理解しているか?」
「えー?」
あ、クルティナ君から諭された。
この世界のプロパー存在で、私達規格外存在に付いて来てるアリサが、一番規格外だと私は思う。
『街の中に居て、酒場で酔いちくれてくだ巻いてるアイドル妖精なんて、他にどこにいるのかね?』
「こ、こか、股間ばかりを執拗に狙う、鬼の男の娘製造兵器って常識的?」
「アリサ、普通の人は息をするように股間を潰さない。」
「えー?」
『えー?じゃない!』
認めないところも常識を疑う。
「アリサ、普通の妖精族はスノーエールをぶん投げられない。判っているのか?」
「ムグッ!」
おっとクルティナ君の猛攻が止まらない!
自分が非常識扱いされたから、道連れにしようとしている様子だ。
「こ、公然と賄賂を要求する常識ってあったかなぁ?」
「ギクぅ!」
ゼムノア君も攻撃に加わる。
『シェルダグラスでの非常識なやらかしをもう忘れてるという非常識。』
「うぐぅっ!」
アレこそ最たる証拠だ。
「・・・・。」
沈黙した。ショックだったようだ。
「アリサ、だから常識知らずと言われるのです。」
「アンタにだけは言われたくなかった!」
アリサ撃沈。
そして満を持してゼムノア君が前に出た。
「なら、や、やっぱりボクが一番常識的でしょ?」
おいおい、これだから非常識神は。
さっきから自分は大丈夫という主張がウザかったので、ここでコテンパンに叩きのめしておく必要がある。
そんな事を言うなら、普段の君の行動が、どれだけ常識から離れているか指摘してやらないといけないな。
「マジもんの伝説の奇行士が何か言ってる。」
『良いかねゼムノア君、頭のおかしさなら、君が飛び抜けて残念なんだよ?』
「千年単位で中二病コジらせてるヤツが常識を語る滑稽さ。」
「ゼムノア?あなたの非常識が植え付けられた世界がここです。忘れたのですか?」
「あーあー聞こえなーい!」
全員から集中砲火を浴びせられていた。
こうなることは判りきっていたのに、バカなのこの娘!?
『ゼムノア君、常識があればヴォルティレイズヴァーミリオンなんて撃たないよ・・。』
「呆れ!?」
存在そのものを消し去るような、ヤバ過ぎる魔法をデモンストレーション的にぶっ放す危険人物は、間違っても常識を語るべきではない。
「ゼムノア、何故わたし達があなたを観察しているか?それはあなたが常識を逸脱した行動ばかり取るからです。つまり、あなたの言動はわたしやクルティナ以下。それが事実なのです。」
「リティア様に淡々と指摘されるのが一番堪える!」
中二病患者が一般的で普通か?と問われたら、少なくとも違うと私は答える。
ゼムノークスに於いては、ある程度一般性が認められるかもしれないが、あそこは街全体に中二病が蔓延しているから街自体が普通ではない。
「当の本人がコレだから、頭のおかしい連中ばかり増えるのだ。お前の非常識は世界を揺るがす。」
「規模が世界レベル!?」
実に質が悪い。
「ノアちゃん、可哀想・・。」
「憐憫を感じるほど!?」
この娘、本気で自分は大丈夫とか思ってたのか?
四人娘の中では一番理知的なので、客観視出来るものと信じていた私が馬鹿だった。
今更気付いてる時点で、コイツも駄目だ。
どいつもこいつも分かってない!
『決定的な事実を突き付けよう。君に常識があれば、ゼムノークスはあんな有り様にはなっていなかった。』
「あーあー聞こえなーい!」
揺るぎ無い常識外れの歴史的証拠である。
言い逃れは出来ない。
『ゼムノア君、君の非常識は時代を超えるから質が悪いのだ。』
「時をかける魔女!」
影響力が大きいのが、本当に困る。
そしてゼムノア君責めはまだまだ続く。
リティア君が急にイキイキし始めたからだ。
「ゼムノア、この世界に邪眼なんてスキルはありません。いつか習得出来ると信じて練習してますが、無駄です。」
「ちょ、ちょー!」
自分は大丈夫とかイキるから、リティア君がワカらせにきたようだ。
「ゼムノア、常に追っ手を気にして背中を壁に付けているが、お前を追う者など見たことがない。」
「や、やめっ!」
あーあー、可愛そうに。
四方八方からフルボッコではないか。
「ノアちゃん、封印なんて無いし、左腕なんて痛まないでしょ?小さな子供が真似するからやめてね。」
「教育によろしくない!」
アリサ、エグいな。
最後のはかなり効いたようだ・・。
「・・・・。」
沈黙した。ショックだったようだ。
「ゼムノア、だから常識知らずと言われるのです。」
「リティア様に言われる屈辱!」
まあこのなんちゃって四天王に、普遍性、一般性、常識を当て嵌める事が既にナンセンス。
存在自体が非常識。
非常識が服着て歩いてるだけだ。
彼女達に比べれば、私なんて可愛いもの。
それを知らしめてやろう。
『順番から言って私の番だね。』
「あー、オジサンは・・」
『まあ待ちたまえ。君達から言われなくても分かる。私だって非常識の塊だ。』
「ふん、判っているではないかブサイク。」
モザイクだと言ってるだろ。
「種族が非常識の木だもんねー。」
何だその種族は!
「ひ、非常識の種をバラ撒き、非常識を繁茂する、非常し木。」
覚えてろゼムノア君。
おっと、ここでムキになってはいけない。
怒りを抑えて、冷静沈着に、淡々と事実を述べれば良い。
それだけで私の常識が際立つのだ。
落ち着け私。
『ま、まあ私の姿、種族、スキル、肩書き、能力、私の非常識な部分を挙げれば枚挙に暇がないのは、甘んじて受ける。だが、私には常識があることを裏付ける論拠がある!』
まずは認める。
私の存在は非常識であると。
それは最後に逆転する為の布石。
だから今は自らを顧みる。
「論拠?何それ美味しいの?」
「それは肉ですか?」
「妖木の虚言癖は今に始まった事ではないが、今は遠慮して貰いたいものだ。」
「存在が非常識なのに、常識を付け足されても。焼け石に水って言葉をご存じですか?魔王様。」
『うるさいな!』
腹が立つが我慢だ我慢。
そうやって余裕で居られるのも今の内。
裁判とは、どうやって勝つのか君達に教えてあげよう。
『一つはツッコミスキルだ。君達の非常識にツッコミ続けて20年だ20年!それは常識的視点が無ければ成し得ない!つまり、私は知識的な常識を備えている証拠だ。』
ク「ほ、ほう?」
リ「なかなかやりますね。」
ア「ま、まあ良いんじゃない、それくらい。」
ゼ「み、みみ、認めない訳でもないですね。」
ツッコミ役
それは常識の発露!
流石にこれは覆らない事実だ。
『もう一つは取り纏め役としての実績だ。これまでの事を振り返ってみなさい。一般人との会話、交渉、商談、一体誰がやってきた?君達に任していたら、纏まっていたと思うかね?これはつまり私の常識力だ!』
「はー?アタシだってやってんじゃん。」
『アリサは提案力はあるが、交渉は苦手だろう。君に任せると蜂蜜で全てが片付けられる。ただ君はアイドルやってるだけあって一般人との会話はイケるな。』
「ま、まーねー。」
ここは落として上げる作戦で、反論を封じる。
アリサはこれで陥落だ。
ふ、チョロい。
「わたしはシャ・・モザイク様の代理で交渉しています。」
『その交渉も私の言葉の代弁だろう?リティア君が主体ではない。ただリティア君は、物腰が柔らかいので、一般人との窓口はイケるな。』
「で、ですよねー。」
チョロい。
「ワタシは・・」
『クルティナ君、君に任せると全て、「うるさい」「ガタガタ言うな」「ワタシ、お前、殺す」で終わるだろう。ただ徐々に改善されている。君は素直だから将来性はあるな。』
「そ、そうか・・。」
チョロい。
「ボボボ、ボクは交渉も出来ますよ!」
『ハァ、ゼムノア君。確かに君はまだまともだ。だが、君は調子に乗るとスグに暴走するから心配なのだよ。』
「う、うん・・。」
落として上げる作戦で全員の承服を得た。
前世で鍛えたプレゼンテーション能力だ。
相手を納得させる為には、相手を肯定する事も大事なのだ。
理解と尊重から、相互の信頼関係が生まれる。
相手を否定し、貶してばかりの君達には辿り着けない領域。
そして、トドメの一撃を喰らうが良い!
『そして私と君達には決定的な違いがある!私には君達には欠落している客観的視点がある!非常識を認識する常識がある。私は私を非常識だと認識している。それは私にはあって、君達には無い資質だ!つまり、私こそ妖魔の王の常識の要石!君達非常識人とは格が違うことを思い知りたまえ!』
「「「「・・・・。」」」」
ふふふ、どうやらぐうの音も出ないようだね。
論破!
ん?
彼女達の視線は、別の一点に集まっているな。
「・・訪ねた部屋の主を放置し、身内の会話で盛り上がるのが、客観的視野のある常識人がやる事なのかな?」
支部長さんのこめかみから、ビキビキと音が鳴ってるように聞こえた。
『・・・すみませんでした。』
一瞬で論破された。




