202.妖魔の王を無力化する極北の魔獣達 だが鳥、お前は駄目だ!
アンゴラトード狩り開始直後。
私達は大口を叩いた事を後悔する事となった。
『・・・すまない。確かに君達の言う通りだった。コイツは私達では倒せない。』
何てことだ。
こんなの狩るなんて無理だった。
「そうだろ?まあ、世間知らずだったと反省するんだな。」
「お前らは後ろで身を守ってろ!危ねぇぞ!」
Bランクハンター「雷光」が、私達の前に出て守ってくれた。
何だかんだと私達を心配してくれている。
口は悪いが、心根は良い奴等だったんだな。
「そうだな、世間は広いと再認識した。前は任せて良いか?」
クルティナ君が退がる。
クルティナ君でもどうしようもないようだ。
「マジゴメン!やっぱ無理!攻撃はお願いね!」
アリサも手が出せない。
アンゴラトード、まさかこれほど戦い難いとは思わなかった。恐ろしいトドである。
私達は取り敢えず後退し、ゼムノークス有志隊がどう戦うのか眺めていた。
するとまずは一人がターゲットのアンゴラトードに迫り、何かの袋を投げつけて、身体に内容物を付着させた。
するとターゲットのトドから、他のトドが離れていく。
どうやら袋の中身は、アンゴラトードの天敵であるグレイトブルズリーの臭いがする糞のようだ。
それを嫌って距離を取るらしい。
本来仲間意識が高く、一体が敵に襲われると集団で助けに来るのがアンゴラトードの習性だ。
そんな事になったら、巨大な肉の壁に挟まれて、押し潰されて圧死確定である。
だから他の魔獣も単体ではアンゴラトードを狩らない。
返り討ちに遭うのが分かっているからだ。
しかし、あの臭い袋があるお陰で、仲間から切り離して孤立化出来る。
そうなれば残るは鈍重な脂肪の塊のようなものである。
「ア゛ン!?ア゛ン!?」
仲間からハブられたターゲットは、右往左往している。
だが、その動きだけで地面が揺れるようだ。
恐ろしい重量である。
デカイ。
とにかくデカイので、近くに来ると迫力があった。
そして群れから引き剥がされ孤立したターゲットへ、弩が向けられる。
手に持てる程度の大きさの汎用弩だ。
あんな物でダメージが与えられるのか?
と思っていたら、三人一組で複合魔法を発動させた。
「・・・風魔法第三階位フラッシュブレス!」
おお!流石はゼムノークスの有志隊だ。
魔法で威力を引き上げ、取り回しが効く小型弩で、大型弩の威力を実現したのか!
弩の発射と同時にフラッシュブレス。
すると小型弩とは思えない威力で矢が発射された。
だが、頭狙いなので外れた。
それでも構わず、その後も三人一組の弩隊が次々と攻撃を仕掛ける。
そしてやはり頭狙い。
あ、また外れた。
どうやら執拗なヘッドショット狙いにも理由があるようだ。
巨体なので胴体狙えばいくらでも当たるが、中途半端なダメージを与えても、興奮されて暴れ回られたり、海に逃げられたりする。
そこで最初に急所に一撃入れて、一気に動きを鈍らせる事が肝要となる。
確かにあんな巨体で暴れられたら、手が付けられないな。
あ、当たった。
「ア゛ーン!ゴラァー!」
あの鳴き声がアンゴラトードの名前の由来か。
あ、また当たった。
「ア゛ン!ゴラァー!」
なんだコラァ!と怒ってるように見える。
リーゼントと長い襟足のせいで余計にそう見える。
「ワースゲイン!」
「ワースゲイン!」
なるほど追撃は闇魔法で弱らせるのか。
詠唱してるので、遅いけど良い連携だ。
動きが弱まったところで更に「スロウ」を重ね掛け。
最後に袋叩きにして、一体を仕留めた。
なるほど、よく研究された効率的な狩りだな。
近付いたときに、ヒレで張り倒された隊員がいたが、軽傷で済んでいる。
ここまでは順調だ。
問題はこの後・・
「来たぞ!グレイトブルズリーだ!」
灰色の巨熊が猛突してきた。
「アンゴラトードから離れろ!」
「雷光、行くぞ!」
ハンターが前に出て、ゼムノークス有志隊は後方へ退避する。
「身体強化!」
おお、流石Bランクともなれば、スキルの1つや2つは使えるのだな。
魔境の前庭の連中も、大抵三つ位は使えていた。
「まずは獲物に食らいつかせ、動きが止まったところで突撃するぞ!」
ハンター達は事前に調査したのか、大きな盾と槍を構え、防具もしっかり装着していた。
重装備なので動きは遅くなるが、身体強化である程度補える。
何よりあの巨熊の丸太のような腕を食らったら、防具や盾が無いと一撃で瀕死の重症を負うだろう。
「グモォォ!」
灰熊がトドに食らい付く。
その瞬間に動きが止まった。
ザクッザシュッ
体重を乗せた槍の突撃。
灰熊の厚い体毛を貫き、刃が刺さる。
「尖転撃!」
お、一人更に強力な攻撃スキルを持ったヤツがいるな。あの攻撃は流石の灰熊も悲鳴を上げた。
「グモォォ!」
「うわぁ!」
槍を抜こうとした男に、熊の裏拳のような反撃が入る。
盾でガードしたが派手に吹っ飛ばされた。
もう一人も吹っ飛ぶ。
「そこをどけ!」
ゼムノークスの弩隊がフラッシュブレスを乗せた矢を放つ。
射線にいるハンターに退避を警告。
「これでも食らって眠れねぇ日々を過ごしやがれ!」
「人族に敵対すると痛い目に遭うって覚えとけ!」
矢尻に返しが付いた鉄の矢は、射程は短いが威力が高い。
熊の巨体には針みたいなものだが、当たると抜けないので、これから刺さった矢と共に過ごす事になる。
肉が化膿し自然に抜けるまで、嫌な痛みが熊を悩ませるだろう。
嫌がらせには十分だ。
「最悪そのアンゴラトードはくれてやっても良い。倒しきれなくても良い。再度襲って来ない程度に撃退出来れば上々だ!」
学長の護衛君が指示を出す。
トドは無難に倒せるが、灰熊は対峙すると死傷者が出るので、安全を優先するようだ。
おや、吹っ飛んだハンターで起き上がれないヤツがいるな。
『ゼムノア君、彼の治療を頼むよ。』
「畏まりました魔王様。」
いや、そういうムーヴ要らないから。
ちなみに私は、私の運搬係がいないので固定砲台化している。
遠くからコッソリ聖魔法で支援や治療を入れていた。
クルティナ君は遊撃で、ゼムノア君は後方支援の援護や救護に徹するので、私を運んでくれる人がいないのだ。
尚、リティア君はこの場には居ない。
「トド肉!トド肉!」とうるさいので、彼女は単独行動させている。
恐らく遠くで手頃なアンゴラトードを肉のサンドバッグにして、お土産を仕入れている事だろう。
私達にはとてもそんな事は出来ない。
今回の私達は役立たずだ。
アンゴラトードにも、グレイトブルズリーにも、攻撃出来ない腰抜けだ。
本当に申し訳なく思う。
だって・・
「ア゛ンゴラァ?」
だ っ て 可 愛 い ん だ も の !
大きく円らな瞳で見られると、キュンとなる。
ポッコリ膨らんだ頬がまん丸キュート。
たらんと垂れ下がった長い髭も愛らしい。
リーゼントみたいな角コブが無垢な子供ヤンキーみたいで、背伸びしてるように見える。
まん丸に太って、ダランと無防備に寝転がってる姿なんて平和そのものだ。
あの顔に弓矢をぶっ刺すなんて信じられない!
悪魔の所業か!
ましてやアレを食肉として見るなんて、リティア君の感性はやはりぶっ飛んでいる。
私の意見にクルティナ君とアリサも完全同意。
ゼムノークス歴が長いゼムノア君でさえ、この子を狩るのは抵抗があるそうだ。
そこで今回、私達は不殺を決意した。
私達にはアンゴラトードを狩るなんて出来ない!
それに・・
「グモォォ!」
「くっ、カワイイ!」
「熊ちゃん、かわいそう。」
灰 熊 で さ え 可 愛 い !
あんなフワフワ丸くて可愛い熊を虐めるなんて、私達には出来ない!
アレのどこが狂暴なのかね!?
愛 ら し さ し か な い !
一人でトドの群れに向かっていくと、圧倒的質量攻撃で圧殺されるから、人族が仕掛けた時にあやかろう。一体くらい良いよね?と言って、お裾分けを貰いに来てるだけではないか。
こんなにいっぱいいるのだから、一体くらい分けてあげれば良いのだ。
ほーら、灰熊ちゃん、アンゴラトードですよー。
美味しいよー。
更に「ハクエナ」も来た。
うわッ、コイツらもカワイイではないか!
どうなっているのだ極北の生態系は!?
ハクエナは、所謂白い狼だった。
敏捷性に優れるので、飛びかかられて鋭い牙で、首の肉を食いちぎられないように注意が必要だ。
集団で連携して、ヒットアンドアウェイを繰り返し、じわじわ弱らせてから一気に襲い掛かるという陰険な狩りをするので、狙われると逃げられない。
雪原の狩人として、最も恐れられる魔獣だ。
だがフワフワモフモフである。
カ ワ イ イ !
狼?ワンコではないか!
「チッ、今回はレベルを上げられないな。」
「全部カワイイじゃん!なんなのここの魔獣!」
「も、もももう少し醜悪な姿なら遠慮なく倒せるのですが。」
やはり彼女達も無理か。
今回はとことん厳しいな。
ハンター達はグレイトブルズリー対策に重装備としていたので、ハクエナの動きに付いていけない様子だ。
必然的に撤退を余儀なくされている。
「クソッ、乱戦になってきやがった!」
「固まれ!ハクエナに背を見せるな!」
「疾風、お前達は弩隊を守ってくれ!」
「落ち着け、グレイトブルズリーとハクエナを争わせるように仕向けるんだ。」
隊員達は身を守りながら陣形を整えていた。
戦闘に慣れているので、乱戦でも統制が取れていた。
だが劣勢に追い込まれている。
そんな時、血の臭いを嗅ぎ付けたのか、ジャコウドリまで飛来した。
お邪魔魔獣、遂に勢揃いである。
そしてジャコウドリに対してだが・・
『レイヴァブレイド。』
「コ゛ラァ邪魔すんなこのハゲ!」
「オラァ!今夜は焼き鳥だ!」
「我等の獲物には近寄らせない。」
あ、全員ジャコウドリは容赦なくイケるっぽい。
確かに可愛くない。
鬱憤を晴らすかのように、飛来した黒っぽいハゲ鷲みたいな鳥を積極的に蹴散らしていた。
「何だアイツら、急にキビキビ動き始めたぞ。」
「うわ、ジャコウドリが次々と。」
「だが助かった。アイツらが来ると目障りで、目の前の敵に集中出来ないからな。」
「そのままジャコウドリを引き付けておいてくれモザイクおじさん!」
「このパーティー名、なんとかならねぇのか・・。気か抜けるんだよな。」
うん。やっと活躍できた。
オラそこのハゲ!私のアンゴラちゃんに何をする!
エアロスプレッドダブルキャスト!
暫くは膠着状態が続き、隊員に疲れの色が見える。
獲物が持ち帰れずにイラつくグレイトブルズリー
グレイトブルズリーからアンゴラトードが奪えず焦れるハクエナ
両者が牽制し合って戦況膠着が続き、疲労で集中が切れかかっているゼムノークス有志隊。
ガードは堅いが、決定力不足で状況を打破できずに歯痒い思いのハンター達
うーん、ジリ貧だな。
「アヒャヒャヒャヒャ!落ちろ落ちろ!アンゴラちゃんはアタシが守る!」
「ワハハハハ!灰熊の敵はワタシの敵だー!」
「ヒャッハー!動く鳥は殲滅だ!動かない鳥は訓練された鳥でやはり殲滅だ!」
少し離れたところで、ジャコウドリを追い回している三人が実に対称的だな。
「オイ、モザイクおじさん!ジャコウドリはもういい!可能ならハクエナを一体でも引き付けてくれ!」
「無理はするなよ!」
「ハクエナは危険だ!決して一人で相手をするな!」
状況の打破の為、藁にも縋る思いなのか、私達にも助勢の声がかかった。
「カワイイから倒せないよ?」
「カワイイから追い払う程度にするが良いか?」
「カ、カワイイので足留めに留めます!」
ふと手を止めそんな生温いことを平然と言う。
「何でもいいから、こっちに向かって来ないようしてくれ!」
「理由に脱力する!」
「あんな甘ったるい感覚で足留めなんて出来んのかよ。」
ですよねー?
だが、カワチイは正義なのである!
今この場所で、尊き命の優先順位を決めるとしたら、
1位 アンゴラトード
2位 ハクエナ
3位 グレイトブルズリー
(大きく差を開いて)
4位 ゼムノークス有志隊
5位 ハンター
(越えられない壁)
6位 ジャコウドリ
という順番なのは、大きな声では言えなかったりする。
君達の命は、灰熊にも随分劣ってるぞ?
「じゃぁハクエナちゃん、こっちだよー!」
「おい、散らばるな!何考えてやがる!」
アリサ、クルティナ君がバラバラに飛び出した。
「はあ!?アンタ達が引き付けてくれって頼んだんじゃない。」
「バカ野郎!固まって行動しろって言ったんだよ!」
「ハクエナに囲まれるぞ!」
言ってる傍から個別行動し始めたので、心配されているようだ。
要らない心配なのだが、見た目が弱そうだからね。
何といっても二人共素手で、単なる服しか来ていない。
「あーもーうるさい!指図すんな!」
「いいから黙って見ていろ!これだから口だけのヤツはウザったい。」
「何だと!」
アリサとクルティナ君は半ギレでハクエナに肉薄する。
「ギャオォ!」
ハクエナの一体がアリサに襲い掛かる。
かなり鋭い踏み込みで、一瞬にして距離を詰めてきた。
「魔風真空投げ。」
だが、カウンターの達人であるアリサに飛び掛かるのは自殺行為に等しい。
しかも擬態スキルを使っているので、ハクエナから見れば兎の亜人族だが、実際は宙に浮かぶ小さな妖精族である。
噛みついた場所にその実体はなく、空振りに終わる。
そんな大きな隙をアリサが見逃す筈もない。
攻撃の勢いをフラッシュブレスにより増幅され、相手に触れずに投げ飛ばす。
投げられた方は、何をされたのか判らないまま、遠くの海に放り出される事となった。
「ギャオォーー・・ン!」
吹っ飛んで行くハクエナ
「・・・。」
その異常な光景を唖然として眺める討伐隊の面々。
一瞬の事なので、何が起きたのか分からない周囲は、海に向かって飛んでいくハクエナの姿を呆然と見届ける他なかった。
「ギャウン!」
「ギャン!」
「!?」
そして振り返ればクルティナ君がハクエナを吹っ飛ばしている光景に出会う。
腕を噛まれてもお構い無しに、首根っこを掴んで放り投げていた。
更に向こうではゼムノア君が奮戦してた。
「拒絶のバーストストリーム!」
「拒絶のバーストストリーム!」
「拒絶のバーストストリーム!」
「拒絶のバーストストリーム!」
とにかく近寄ってきたハイエナを魔法障壁でシャットアウトして、四方八方に吹っ飛ばすゼムノア君。
所謂一つの「こっち来るな」をひたすら繰り返して、襲ってくる魔獣を事も無げにあしらっていた。
「・・・嘘だろ?」
「ア゛ンゴラァ?」
「ギャン?」
気付くと、アンゴラトードとゼムノークス有志隊とハンター達を取り囲んでいたハクエナの群れに穴が開いていた。
不運にも私達に襲い掛かって来たが故に、遠くへ放り投げられたのである。
『雷光、疾風の諸君、今がチャンスではないのか?』
私は千載一遇の機会と見て、彼等に反撃の狼煙を期待した。
しかし、先程の攻防から決定打に掛けると認識のある彼等は、二の足を踏む。
防御力に特化して、攻撃力を疎かにしてしまい、魔獣に致命打を与えられないのだ。
「えぇーい、まどろっこしい!早く動け雑魚共が!」
その様子を見てクルティナ君が先に動いた。
「瞬迅」
静かに、それでいて激しく、そして雄々しく。
クルティナ君が雪を舞い上げながら雷光の如くハクエナの群れに突っ込み、蹴散らした。
足場の不安定な岩礫場を意にも介さず走るクルティナ君。
その姿はまさに敵陣を貫く、雷光のようであった。
魔法に加えて最近覚えた戦闘スキルを組合せ、電光石火の一撃を敵陣に振り撒く獅子奮迅振り。
大森林奥樹海の魔境で、デッドアントラット相手に鍛えた突破力をここで発現する。
そしてトドメは、
「オスト・グローツ・アルヴレイズ・・ハーノ・イクル・メイデン・・ティレイズ・オド・グローツ!深淵より来たりし闇の力よ、我が剣となりて、その猛威を奮いたまえ、弾け飛べ虚空の彼方へ!バニッシュンドブレス!」
香ばしきポーズからの、尊き演出とロマン溢れる詠唱を経て、今、顕現する魔法の真髄!
指定区域内のあらゆる物理運動を、強制的に超加速させるチート魔法。
風魔法第七階位魔法 バニッシェンドブレス
これより数秒間、彼女の絶対領域が展開する。
その指定区域内に存在する、ありとあらゆる動く物は、動いたが最後、その方向に吹っ飛んで行く事になる。
もし腕を動かしたら、腕だけが超加速され、腕が吹っ飛ぶ。
身動き一つで身体部位が意に背き、その身体を離脱する呪いに囚われるのである。
動いたが最後。
決して抗えない神の裁きを受ける。
だから絶対動かない方がお得。
ゼムノア君は、そんな危険なバニッシェンドブレスを、何に使ったのか?
「グゴォーー!?」
グレイトブルズリーの巨体がアンゴラトードの群れの中に吹っ飛んで転がっていった。
「ア゛ンゴラァ?」
「ア゛ーンゴラァ!」
あ、フルボッコに遭ってる・・。
這々の体で逃げ出した。
なるほど「風」を超加速させて、何でも吹き飛ばす強烈な突風に変えたのか。
上手く手加減したな。




