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18.隠れて下ネタに和んでいたら緊急事態発生!

討伐対象に認定され、討伐隊が送り込まれることになった。

善良な木を問答無用で伐採するなんて酷い。

切り倒されたくないので、頑張って逃げるが、一日に2km程度では逃げきれない。

 

木は逃げるに適さないと判明。

だが、森の中に隠れるならイケるのではないか?

それから私の逃避行が始まった。

一番まずいのが、私が歩いた跡。

 

ズルズルと根を引き摺るので、何とも分かり易くて、追跡し易い足跡を残してしまうのだ。

 

私は風魔法で枯葉を巻き上げて跡を覆ったり、土魔法Lv1を乱発して、その跡を消すと同時に、周囲にも同じような、隆起した土塊を作って、足跡を誤魔化しながら進んだ。

 

 

数日しても討伐隊はやって来ない。

脅しが効いたのか、準備に手間取っているのか、それとも町が遠くて、まだあの三人が移動中なのか。

とにかく、時間が許す限り距離を稼ぐ。

 

その際、身を隠すには良い場所を発見した。

逃げ切ることは出来ないだろうから、ここに身を隠してやり過ごそう。

 

 

 

 

一週間後、討伐隊がやって来た。

私一体を狩るのに、20人ほど引き連れてきた。

私はどんな凶暴な魔物なのだ。

 

「この何かを引き摺ったような奇妙な跡が怪しい!気を付けろ!近くに潜んでいるやもしれぬ!」

 

隊長なのか、領主様って人物なのか。

的確に指示を出しながら、集団を纏めていた。

 

私は隠れながら、魔力感知でその様子を観察する。

 

 

討伐隊を見てみると、人間に、熊っぽい人、兎っぽい人、犬っぽい人など、様々な亜人がいた。

亜人族と一括りに云われるのが、よく分かる。

 

犬っぽい人が、猟犬のような犬を連れている。

 

君達、何が違うのかね?

 

 

皆一様に革の武具を身に付け、弓と剣や鉈などの金属刃物の武器を持っていた。

槍は無い。森の中だから取り回せないと判断して持って来ていないのか?

 

先日の男3人とは違い、少しだけ身なりが整っている。

領主の私設兵隊なのだろうか。

 

野営用の大きな荷物も担いでおり、動きはあまり早くはない。

森の斜面をガチャガチャと音を鳴らしながら、警戒しつつ登って来た。

 

 

さて、彼等は私が付けた足跡を追って、全く迷うことなく森の奥へと入ってくる。

私の付け焼刃な誤魔化しカモフラージュなど意にも介していない。

真っ直ぐに私の隠れている方に向かってくる。

 

ならば、じきにその先の崖に行き着くだろう。

 

 

「領主様、ここで跡が消えております。」

 

部隊の足が止まった。

彼等の目の前は、切り立った高い崖になっていた。

 

「この高さの崖から飛び降りたのか?」

 

私の足跡は、その崖で終わっていた。

部隊長はそこから崖の底を見下ろし、崖の下を流れる川を見詰めている。

 

崖の高さは数十メートルあり、ほぼ垂直の岩崖だ。

人が岩壁を伝って下りれるような斜度ではない。

 

「現在索敵員が、崖の下に回り込めるルートを探しております。」

「分かった。他に痕跡は?」

「見当たりません。」

 

「うむ・・・。」

 

部隊長は顎に手を当てて考え込んでいる。

そうだ。魔物はこの崖を落ちて死んだのだよ。

これ以上追い駆けるのは無意味だ。

 

さぁ、帰れ帰れ。

 

 

「念の為、様子を見る。部隊の半数は、食料を置いて町に戻れ。私を含めた半数は、ここで数日探索を続ける。」

「了解しました。」

 

ええ~~?

 

「領主様、危険ではないですか?」

「あの痕跡から、何か大きなものを抱えているようだ。まだ遠くには行っていない可能性があり、戻って来ないとも限らない。」

 

うぬぬぬ、慎重だな、この領主様。

 

「しかし、この森には・・。」

 

部下は心配そうだ。

この森は何か危険な動物でもいるのか?

 

「分かっている。どちらも見付かれば討伐対象だ。こちらにとっては都合が良い。しかし、ガイムがあのような重傷を負ったのだ。そちら方が脅威ではないか。」

「ハッ・・失礼しました。」

 

ん~、あのガイムとかいう野蛮なオッサン、この品の良さ気な領主様と旧知なのだろうか?

接点がなさそうに見えるのだが。

 

 

 

 

その後、崖の下からアダンの実が見付かり、正体不明の魔物は、崖の先に去って行った、という見解で一致。

 

日も暮れ始めたので、討伐隊は野営の準備を始めた。

川に水を汲みに行く者。

寝床を確保する者。

火を焚く者など、慣れた様子で手分けしている。

 

 

領主様はアダンの実を眺めながら、「これは素晴らしい」と満足げに微笑んでいた。

そのアダンの実をあげるので、一晩寝たら帰っていただけると有難いのだが・・。

 

 

集団を動かした場合、その大義名分に見合う成果物がないと素直に帰り辛いものだ。

「勇んで出発したが、何も収穫が無かった」では、「何の為に行ったのだ?」と揶揄されてしまうからな。

 

何か手土産を渡してやるのは、厄介者を追い払う常套手段である。

今回の場合がアダンの実。

 

ちなみに、前世で税務署が来た時に、仕方なく追徴税を渡したな。

まったく、我が社のような貧乏会社ではなく、儲かっている会社に行けば良いものを・・。

 

 

 

 

その晩、私は野営している彼等を監視していた。

 

「領主様、ガイムの話は本当だったのですね。」

「うむ、この上等なアダンの実。こんな物がこの森にある筈がないからな。」

 

どうやらアダンの実は、人間達の間では、大変珍しい実のようだ。

ガンプ大森林では、結構見掛けたのだけどな。

冬の間、天日干しが進んで、見た目は甘そうな干し柿だ。

 

「この甘い香り・・堪りませんな。」

「食べるでないぞ。健常者が食べると、興奮して3日眠れなくなると聞く。」

「そうなのですか!?」

 

魔力を多く含んでいるから、彼等のような低い魔力総量の者が摂取すると、魔力の過剰摂取になるのだろう。

 

ちなみに鑑定さんで彼等を鑑定してみた。

私の隠れている場所から距離はやや離れているが、何とか鑑定は可能だった。

 

彼等の魔力は平均4。

亜人族ってあまり魔力がないのか。魔法は使えないようだ。

そして、全員”可食”だった。

兎人族に至っては、コメントに「美味しそう」とあった。

 

鑑 定 ス キ ル さ ん !?

 

 

「うむ、貴君のような若者が食せば、幾らでも女性を悦ばせる事が出来るらしいぞ。」

「そんな効果まで!?」

 

アダンの実、バイアグラ代わりになると判明!

 

「はっはっは、そんな効果は無いさ。」

 

無いんか--い!

 

「酷いですよ領主様。からかわないで下さい!」

 

しかし・・

 

ぷっ・・

 

ははは、どこの世界に行っても下ネタは鉄板なのだな。

下ネタは世界を超えるか。

人間がやる事は、どこに行っても同じだ。

 

 

「シッ・・・今、何か音がしなかったか?」

 

ギクッ

思念が伝わったのか?

気を付けていたはずだが・・。

 

この領主様、鋭いな。

 

 

「・・・火を消せ、何者かに狙われている。」

 

・・・は?

私はそんな事はしていないが?

 

 

もしや、この領主様・・・中二病?

見えない闇の組織と戦っている人か?

片眼が魔眼で、右腕に宿した邪竜が疼いたりする人か?

 

「どこでしょうか?」

「山手側だ。頭を低く、武器を手に取れ・・襲撃に備えよ。指示を回せ。」

 

緊迫した雰囲気が伝わって来た。

私は不思議に思い、視覚情報補正スキルをOFFにする。

すると、確かに彼等の周囲に、魔力反応があった。

 

鬼人族スゴイな。よく判ったな。

 

 

緊張感が野営地を走る。

シンと静まり、火が消えた事により、周囲は暗闇に包まれた。

 

 

すると、施設兵の一人の悲鳴で、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「ぎゃっ!」

「エイン!総員戦闘態勢!敵は山手、弓矢に注意!」

 

姿を現さないが、どうやら山賊のようだ。

なるほど、この領主様、魔物が見付からなかった場合でも、山賊を捕えて手柄にして帰るつもりだったのか。

 

「領主様、弓に毒が・・」

「卑劣な、全員木の後ろに!敵は武器に毒を塗っているぞ!」

「ぐあっ!」

「痛ぇっ!」 

 

領主様が指示を出すが、次々に彼等の腕や、脚に矢が突き刺さっていた。


山賊にとって森はホームグラウンドだ。暗い森の中の戦いに慣れていた。

闇夜に紛れ、身を隠し、遠距離から領主軍の戦力を削ぐ事に専念。

射線を悟られぬように息を殺して矢を連射。

圧倒的有利な状況を確保し、一方的に攻撃していた。

 

そして、矢を撃ち終えた山賊は、各々武器を持って立ち上がり、雄叫びを上げた。

 

「うおおおおお!」

「!?」

 

その数20名。

領主軍の倍である。

これは領主様、劣勢である。

 

山賊は15名が武器を手に突撃して来た。

 

「密集陣形!」

 

領主様は冷静に指示を飛ばす。

一時、混戦状態に陥ったが、現状の把握と敵の数を目的に、固まって防御に徹っする。

 

火を消した為、周囲は殆ど暗闇だ。

森の中は木々の枝葉が夜空を覆い、しかも空には雲もあり、月明かりも期待できない。

 

なのに彼等は見えているかのように的確に動く。

この世界の人間、全員暗視スキルでも持ってるのか?

 

 

領主軍は、密集陣形を組み、死角を無くし迎え撃つ。

山賊側の武器は、ナイフ等のリーチが短い物が多く攻め込めない。

領主軍は立て直したかに見えたが、毒が効いて来たようで、徐々にフラフラと倒れる者が出ている。

 

そこへ山賊側は、先程放って外した矢を回収し、後方から弓矢を再度放ち始めた。

また山賊側には遊撃者がおり、機動力を活かして、後方や樹上から弓矢、吹き矢、投石などでチクチクと嫌がらせを継続。

これが地味に効いていた。

 

領主軍前衛は、山賊の前衛に釘付けにされており、その遊撃者を捉えきれずにいた。

遊撃者はやりたい放題だ。

 

チクチク遠距離毒攻撃で相手の戦力を削ぎ落とし、数的有利を崩さない為に深く斬り込まず、ヒットアンドアウェイで時間稼ぎ。

山賊側が密集陣形を着実に切り崩して押していた。

長期戦は毒攻撃がある山賊に有利だった。

 

この山賊のリーダーもなかなかの戦術家だ。

 

 

「二人一組だ!一人ずつ確実に仕留めよ!」

 

長期戦は不利と判断した領主様は、密集陣形を解き、突撃命令を出した。

 

そして領主兵は個人技と練度の高いチームプレイで必死に応戦していたが、毒で弱った状態では、数で勝る山賊に及ばない。

 

一人、また一人と倒れ、残すは4人となった領主サイド。

こりゃ領主様、死んだな。

 

 

「くっ、完全に準備されていたようだな。」

 

ジリジリ後退しながら、崖の淵まで追い詰められた領主様。

 

「ハッハー!そうだぜ領主様、俺達ぁこの日をずっと待ってた!アンタがのこのこ出て来る日をな!」

「作戦勝ちでヤンス!」

「お頭、カッコいいー!」「ヒャハハハハ!」

 

やっと山賊側のリーダーが口を開いた。

部下の三下ぶりがスゴイ。

 

「いつの間にこんな数を増やした・・報告では5人の筈だ。」

「俺達は常に5人でしか動かなかった。お前等に、そう思わせる為にだ!」

 

おお、山賊のリーダー頭がいいな。

 

「狡猾な・・。」

「頭使わねぇと山賊は生き残れねぇんだよ!よし、お前等、そいつ等を崖に突き落とせ!」

「くそっ。」

 

 

え?

 

それは困るのだが。

 

 

実は私は崖の岩に根を張り巡らして掴まり、崖の途中に生えている、一本の木と成り澄ましていた。

尚、籠は見えないように岩陰に隠している。

 

人間には到達が困難な垂直の崖でも、私には余裕だ。

私は根を広範囲に広げれば、逆さまでも、年単位で掴まっていられる。

ロッククライムなんてお手のものなのだ。

動きは鈍いが、悪路には強いのである。

 

そして、険しい崖の岩にへばりつく木など、人間は危険を冒して、敢えて調べたりはしない。

それに崖に生えている木は他にもあるのだ。

私の木一本が増えたくらいでは、不自然には見えない。

 

 

私はここで諦めて帰るまで、ジッと耐えておこうと考えたのだ。

我ながら、良いアイデアだと思った。

 

 

しかし、まさかの私が身を隠している崖の上で領主vs山賊の開戦。

その結果、私の直上には、領主様4名が追い詰められ、固まっていた。

 

あの状態で突き落とされたら、私の上に降って来ることだろう。

 

 

人間数人が落ちて来たら、枝がバッキバキに折れるではないか・・。

最悪、幹に致命傷が走る。

 

魔力障壁で守ったとしても、恐ろしい木の化け物がいるとバレて、また討伐隊が組まれるだろう。

しかも、領主が死んだとなれば、次は大々的な山狩りになる。

山に火を付けられるかもしれない。面倒な事、この上ない。

 

 

いずれにしても、私に良い事が無い。

 

既に小競り合いで、小石がガラガラ落ちて来て、コンコンと私の幹を覆う魔力障壁に当たっていた。

非常に迷惑な連中だ。

 

 

「仕方がない。」

 

私は悪態をつきながら、この場を制圧することを決めた。

先程の戦闘を見るに、魔法を使えば、この程度の人数なら容易く組み伏せる事が出来るだろう。

 

 

人 間 シ ャ ワ ー な ん て 御 免 で あ る !

次回、覚えた魔法で社長が暴れる!

強力な魔法を放ち、闇夜に現れる動く木に戦慄が走る!

これは戦闘などではない。蹂躙だ!

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