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14.切なさを抱き締めてジョブチェンジしました

まだ出発前準備です。

早よ旅立てや!と言わないで。

木には色々と準備があるのです。

出発の日。

私は10年以上世話になった「倒木日向」から、遂に旅立つことにした。

 

決死の覚悟で、本当に死にかけながら辿り着いた、陽の当たる場所。

鹿との戦い、病魔の脅威、嵐に耐えた夏の日、そしてアリサとの出会い。

振り返れば思い出深い。

 

光合成に適した、本当に良い場所だった。

 

 

私は成長し、そろそろ幼木を卒業しようとしていた。

 

但し、あれから枝は伸ばしていない。

幹を集中的に鍛えた。

理由は、これから鬱蒼とした森を抜ける為のシェイプアップだ。

 

狭い木々の間を通るには、スリムな方が良い。

枝葉は動かせるので、邪魔な木々は避けて進むことは出来るが、折り畳むにも限界がある。

 

その為、私は盆栽のように、幹を集中的に太く鍛えるようにした。

逆に枝は、鞭のようにしなやかに、竹のように柔軟に、俊敏な動きが出来るよう努めた。

イメージは、柳の木のようなスタイル。

 

お蔭で幹だけドッシリと直径10cm程になっていた。

これで簡単には折れたり、切られたりはしないだろう。

 

 

現在の私のステータスを見ておこう。

 

レベル23

種族:動く実の生る広葉樹 →

耐力:120

魔力:80

体力:31

腕力:15

脚力:20

知力:100

精力:2

財力:1

スキルポイント5

獲得スキル:

補助系:吸収Lv5、魔法障壁Lv5、威嚇

魔法系:水魔法Lv3、土魔法Lv2、風魔法Lv2、光魔法Lv7

耐性系:毒耐性、風耐性

機能系:機能閲覧、魔力感知Lv5、視覚情報補正Lv4、思念通話Lv1、鑑定Lv3

 

 

私は種族ツリーから、再びジョブチェンジをして、「実をつける木」になった。

 

花咲く木は、私には向いていないと判ったからだ。

 

 

花・・花か。

華が無かったなぁ、私の花は・・。

 

種族:花咲く広葉樹になった時、イメージは満開の桜だった。

春になれば木全体で咲き誇る美しい姿を想像して、胸躍らせていた。

 

だが、私の花ときたら、小さな小さな黄緑色の花がポツポツと咲く程度だった。

花数が少ない上に、色が黄緑色なので、葉の色に紛れて見分けがつかない。

 

「よく見たら花?なのか?」

 

それが私の花を見て、誰もが思う感想だろう。

 

本当に誰も花と気付かなかった地味過ぎる花。

実はアリサと出会った時も、花は咲いていたのだ。

なのに、彼女は私の花を、会話の間暇だったのか、ボールのように蹴飛ばして遊んでいたのだ。

 

ショックで立ち直れなかった。

あの日から、私は花咲く広葉樹で子孫を増やす事を諦めたのである。

 

 

私の華のない花には、虫ですら寄って来なかった。

 

威嚇も、魔法障壁も、吸収も解いて、「受粉キャンペーン」を開催。

「今ならウエルカムドリンクに、私の魔力入り蜜を提供します!」

とさえ思っていたのに、蝶の一匹ですら寄って来なかった。

 

蜂にも無視された。

 

 

まるで前世の私の写し鏡のような、地味で、質素で、大人しい花。

記憶は引き継いだが、そんなところまで引き継がなくても良いではないか・・。

 

目立たない、華が無い、覇気がない。

そんな無い無い尽くしな花に、誰も見向きしてくれないは当然だ。

 

おまけに前世同様、咲いたばかりの花なのに、何故かくたびれていた。

何で花弁がしわしわ、(しお)れているのだ?

満開時期なのに、病気で枯れかけているように見えるのだが・・。

自分で咲かせておいて、自分の花に落胆した。

 

 

木になろうと思ったのは、容姿を気にせずに済むと思ったからだ。

木になっても容姿の良し悪しは付き纏うのだな・・。

 

木になってもモテないとは、私はどこまで彼女イナイ歴を伸ばせば良いのだろうか?

 

前世の嫌な事実を思い出して憂鬱になった。

 

 

精力パラメータ2は伊達ではない。

生殖能力がゼロに近く低い、つまり、魅力が無いという意味だ。

 

 

精力2 = モテない

 

 

泣 き た く な っ た 。

 

スキルポイントを振ろうとする、私の欲望を止めるのに苦労した。

 

前世の私を思い起こすので、精力パラメータから全力で目を背けたくなった。

そして私は、自分の花を見たくなくなったのだった。

 

 

そして実をつける、「果樹」となる事を決意する。

多少見栄えは悪くても、美味しい実が生れば、小動物に人気が出るかもしれない。

外見は自信が無いので、中身で勝負!

小動物や鳥などに、我が種を運んで貰って、子孫繁栄だ。

 

もうモテない人生は嫌だ。

 

 

 

 

他に、長距離の移動に備え、「脚力」「腕力」にもポイントを付与した。

脚力が20になると、種族名が「動ける」から「動く」に変わった。

 

脚力20で、人間の速めの匍匐(ほふく)前進程度の移動が可能になった。

時速にして、約2km/h。

その速度で、アリサの住む高原を目指す。

 

しかし、問題はどれくらいの距離があるのか、判らないという点だ。

 

アリサに山の高さを訊いておくべきだった。

山の高さが判れば、三角関数による計算で、概略の距離が計算できるのだが・・。

 

 

この森の木々の高さは大森林というだけあり、50m近い巨木が多い。

アリサは飛び上がってから、自分の住む山を見ていたが、完全に森の上空まで上がらずに見付けていた。

あの高さから、森の木々を越えて山が見えるとなれば、相応に標高の高い山なのだろう。

 

ちなみに、倒木日向の倒木も、かなりの樹齢の古木だったのだろう。

折れた株を見るに、幹の太さが10m近かった。

お蔭で倒れた時にその枝が、他の木々を広範囲に薙ぎ倒してくれており、周囲の背の高い木々の影に邪魔される事なく、陽当たりが確保されていたのだ。

 

 

判らない事を悔やんでも仕方ない。

ここから目に見える高い山というのであれば、約150km程の距離ではないかと推察した。

 

私の最大速度2km/hで、森という整備されていない障害物が多い空間を進むと、更に速度は落ちる。

更に、休憩要らずに進めるのかと言えば、それも違った。

 

 

私は出発前に、1日に何時間動けるのか、比較的障害物が少ない「倒木日向」でマラソンをしてみた。

障害物が少ないと言っても、平地ではない。

朽ちた倒木が折り重なって横たわっているので、段差が大きく山あり谷ありだ。

 

すると、陽が当たり光合成が出来る状態で、連続3時間の移動が限界だった。

それ以上続けると、下葉が萎れ始めたのだ。

命の危険を感じた。

 

木にとって移動とは、なかなかにエネルギーを消費する行為のようだ。

 

 

では、光合成が出来なかった場合はどうか?

鬱蒼とした森の中は、当然僅かな日光しか届かない。

日中でも薄暗いのだ。

 

そんな環境の中を、植物たる私は光合成無しで、何日も過ごすことが出来るのか?

水を持たずに砂漠を歩くようなものである。

大森林の中を進むとは、そう言う事になる。

 

対策なしでは踏み込めない。

そこで私は、魔力をエネルギーにして動く事にした。

魔力なら「吸収」で補充が早く、容易に手に入るからだ。

 

そして魔力をエネルギーにする方法とは、要するに「光魔法による光合成」である。

魔法があれば、日光無しでも光合成可能なのだ。

 

 

しかし、効率は悪かった。

1時間も動けば、エネルギーが枯渇してしまう。

日光は偉大なり。

光魔法の光合成では、日光の1/3程度しかエネルギーに変換できないようだ。

 

ならば、光魔法を照射しながら歩けば?等と衝動的に思い付いたが、よく考えたら絶対にお断りである。

 

暗い森の中を、ピカピカ光り輝きながら歩く木が居たら、目立って仕方ない!

怪しいヤツが、ここに居ますよー!と宣伝して歩いているようなものだ。

どんな危険な生物が居るか判らない。

お呼びでない何者かを、呼び寄せてしまわないように、そんな危険は冒せなかった。

 

また、常時魔力を失い続けるのも危険だ。

 

 

つまり、魔力の補充と、エネルギー補充の為に、移動の後、半日休憩が必要だった。

安全な場所に身を潜め、光合成を行いつつ、吸収Lv5を発動して魔力を補充する。

この繰り返しで進むほかない。

  

そのペースで100km進むには、おそらく5ヶ月はかかる。

150kmなら8ヶ月必要な計算になる。

 

 

だが、種の時に比べれば格段に早い!

あの時は1日10cmしか進めなかったからね。

 

ちなみに、種の時は光合成が出来ない代わりに、胚乳からエネルギーを得ていた。

身体が小さかったので、魔力消費量も少なくて済んだのだろう。

 

 

時間はかかるが、来るかどうかも判らない相手を、ここで待っているより建設的だ。

 

それに、時間がかかっても個人的には問題はない。

木である私にはたっぷりと時間があるのだ。

ゆっくりで良い。

マイペースを保ち、安全を確保しながら、着実に目的地へと向かえば良い。

例え1年かかっても、何ら問題が無いのだから。

 

 

 

 

それから私は、アリサに情報提供の御礼が出来なかった事を悔やんでいた。

私には、他者に提供できる「財」が無い。

 

そこで、ガンプ大森林を踏破するついでに、鑑定を続け、価値がありそうなものを集めておくことにした。

 

集めるのは良いのだが、私には手が無い。

枝に引っ掛けられる物であれば、持ち歩く事も出来るが、触感もないので、落としても気付かない。

なるほど、木という生き物は、お土産を持参することも難しい。

 

そこで私は、何か入れ物を作ることにした。

 

素材は周囲の茂みから、蔦を調達して来た。

それを編み込んで、籠を作る。

細かな作業は、大変だったが、沢山ある枝や根を駆使して、なんとか袋状の格子網籠を作る事が出来た。

網目が大きいので、小さな物は入れられないが、鶏の玉子程度の大きさなら、抜け落ちない程度の籠。

我ながら力作である。

 


そう言えば、この周辺にも、私以外の喋れる木(思考する木)は居るのだろうか?

草木を光魔法のレーザーメスで切断して、素材にしたが、よく考えたら、私は同じ植物の仲間を傷付けてモノ作りをしているのだ。

 

人間だった時は、物言わぬ植物を引っこ抜いたり、刈ったり、切ったりしても、何ら心痛まなかったが、同じ立場になった今では、罪悪感を覚えるようになった。

物言わぬだけで、私のように自我のある植物だったら、「何をするんだ、やめろ!」と怒ることだろう。

 

私はふと、そのように思いついて、思念通話Lv1を発動してみた。

 

「・・・聞こえますか?誰か、私の声が聞こえ、返答できる方は居ますか?」

 

 

それから暫く待ってみたが、返答も、何かの反応も無かった。

 

喋る木は珍しいようだ。

 

  

だが、これからは相手が植物でも、断ってから素材を頂こうと思った。

 

ちなみに、私のステータスにおける財力が1になったのは、籠が完成したと同時だった。

 

 

 

 

このような出発準備を経て、遂に私は旅立ちの時を迎える。

冬の移動は過酷なので、春になってから、可能な限り暖かい季節に移動する事にした。

 

私は途中で、レベル24になる事だろう。

得たスキルポイントは、鑑定スキルにつぎ込む予定だ。

 

私は出来上がった籠を背負い、自分の枝で保持。

籠を背負った動く木という、怪しい事この上ない存在が爆誕した。

 

 

ここから先は未知の世界。

年甲斐もなく武者震いした。

不思議と恐怖は無い。

私には魔法という強い武器があり、これまでも困難に打ち勝ってきたからだ。

 

私は無事にアリサの住む里に辿り着く事を信じて疑っていなかった。

 

 

だが、日光が届かない森を、植物が旅すると言う事が、どんな過酷な道程になるのか。

 

 

この時の私は、まだ分かっていなかった。

 

致命的な見落としをしていた。

 

 

私はまだ、植物の弱点を理解していなかったのだった。

 

ちなみに社長。倒木日向では、少しずつ場所を変えていました。

社長の木が根をおろした場所は、限界まで魔力を吸われて砂のようになってしまうので、暫く草木が生えなくなってしまいます。

 

 

更に評価を頂きましたん。ありがとうございます!

面白可笑しく描けてるでしょうか。

 

実は前作 (コメディジャンル)よりヒット数がよく伸びてます。

流石はファンタジージャンル、人が多いなぁ。

世界観は異世界転生ファンタジーですが、内容はほぼほぼコメディという卑怯臭い物語です。

 

あ、ちなみに前作はR15大先生に見付かって、神にアボンされました。

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