12.アリサさんのデリバリー指名予約でキレる
妖精アリサとの会話から様々な事が判った。
そして、社長より年上だったとは・・。
年下と思っていたが、私の前世の年齢と、この世界での年齢を合わせても、彼女の方が年上だった。
そんな彼女からオジサン呼ばわりされるのは遺憾である。
でもまぁいいか。
見た目で行こう、見た目だ。
「フォレストフェアリーはどれくらい生きるんだい?」
「う~ん、最長老で350歳くらいだから、それ位じゃない?大抵、何かに巻き込まれて死んじゃうから、寿命って分かんないよ。」
そうか。長寿命な種族は、寿命よりも災害などで亡くなる事の方が多いか。
この娘も蜂に殺されかかってたし・・。
さて、スキルの話に戻ろう。
「ちなみにアリサは、『ステータス』って見れる?」
「何それ?おいしいの?」
キミは知らない言葉は全て食べ物として処理する子なのか?
「アリサの魔力ってどれくらい?」
「結構強い方。」
実にザックリしている。
「レベルは?」
「食べた事ない。」
「食べれるの?」
「・・・ごめん、テキトーに答えた。」
「おい。」
知らないらしい。
「アリサは私のような喋る木を他に知っているのかね?」
「うん、会ったことあるよ。」
「この森にいるのかい?」
「いたけど、どこに居るか忘れちゃった。」
使えない。
「う~~~~ん・・。」
「何か判った?」
アリサはこの質疑応答に早くも飽きて来たようだ。
私の枝にぶら下がったり、葉を蹴ったりと、つまらなそうにしていた。
103歳の割には、実に落ち着きが無い。
だから葉を蹴るんじゃない。
ここまでの話で判った事がある。
私のステータス閲覧やスキルツリー閲覧等の能力は”特別”らしい。
なるほど、確かに私のステータス機能は”特別”だ。
だが、その”特別”とは絶対的なものなのか?
”一般的ではない”という意味の特別なのか?
それがどちらなのか判然としなかった。
ステータス閲覧は私にしか存在しない、絶対的な私だけの権利なのか?
それとも、知られていないだけで、何か特殊な条件を満たす事が出来れば、誰もが得られるものなのか?
私は前者に懐疑的だ。
後者の方が現実的だと思い始めた。
私とアリサは同じ世界に生きている。
同じ世界に生きているなら、普通は同じ物理法則や、因果律に縛られて生きているのではないか?
事実、彼女にもスキルはあるし、魔法も使える。
言葉も話せるし、魔力だってある。
私以外の喋る木も存在していれば、他にも文明や文化をもった種族がいるのだ。
共通項は幾らでもある。
前世の世界と比べたら、この世界は極めて自由度が高く、非常識だが、私だけが絶対的に特別な力を持って、存在を許されているとは到底思えなかった。
つまり、私に出来る事は、本当は彼女も出来る。
その方法や条件を知らないだけで、知られていないだけで、それが判れば特別ではなくなるのではないか?
そう考えた方がしっくりきた。
すると私は、とてもとても知りたい気持ちなる。
私 と ア リ サ の 違 い は 何 だ ?
その差異を、調べたくなった。追究したくなった。
それが判れば、私が何故”特別”なのか、判るかもしれない。
私は見たい。
彼女のステータスを猛烈に見たくなった。
自分以外のサンプルデータが欲しい。
比較対照がしたい。
そこから読み解ける情報は極めて客観的で、参考度が高いだろう。
私は彼女のステータスを見る為に、必要となるスキルに目星が付いている。
恐らくはあのスキルを取得すれば、見る事が出来るようになるのではないか?
スキル「鑑定」
しかし、私の残りスキルポイントは5しかない。
あと半年で次のレベルになるが、脅威がいつやって来るのか判らない。
今使うべきではないだろう。
だが使いたい。
今スグ「鑑定」に全部投資したい。
よし、後は野となれ山となれ!全額BETだ!
・・・なんて、そんな衝動的な判断をするほど、私は愚かではない。
使うべきではないのなら、使わない。
この当然の判断を、冷静に、当然のように下して、厳守出来るのが、大人なのだ。
それが出来ない、自己管理能力が低い者、自分を律せない者、リスクヘッジが甘い者は、いずれ潰れて行く。
戒めを守る為に自ら敷いたルール。
そのルールを破る為の新しいルールを都合よく作り上げたり、大義名分や屁理屈を捏ねて、結局戒めを守らない人間がどれほど多い事か。
それをして失敗した人を、私は多く知っている。
命を左右するスキルポイントの貯金を、命懸けで切り崩す愚。
そんな暴走暴挙を許す程、私は馬鹿ではない。
目の前の欲望に負けて、命を危険に晒したりはしない。
だが、諦めきれないので交渉を入れて、紐付ておく。
留保だ。
予約だ。アリサ予約。アリサさんご指名予約。
「アリサ、今日はありがとう。大変参考になった。」
「うん、どういたしまして。」
質問攻めから解放されて、アリサは機嫌が良くなった。
「最後にお願いがあるんだが、聞いてくれるかな?」
「何?エロいのは駄目よ。」
この娘は私を何だと思っているのだ?
木にエロ需要があると思っているのだろうか?
木になって、どうやってムラムラするかも忘れてしまった。
植物になると、あらゆる欲から解放されるのだ。
性欲、食欲、睡眠欲、物欲、征服欲・・すべて失った。
唯一の欲と言えば、光合成したいって程度だ。
従って、エロ不要。
ノーモアエロ。
ところで、妖精にエロは要るのか?
「ははは、そんな嫌われるようなお願いはしないさ。」
「ホントに~?」
悪戯に訝しむアリサ。
こうして見ると、かわいい娘だ。
容姿は整っており、さぞモテるのではないだろうか?
「半年後に、もう一度ここに、私に会いに来てくれないかな?それが私のお願いだ。」
「は?そんな事でいいの?」
簡単に言うが、広大な大森林の中の、ポツンとあるこの場所が、半年後に来て判るのだろうか?
まぁフォレストフェアリーという、森のエキスパートなのだろうから、信じておこう。
「ああ、お願いだ。」
「別にいいけど?やっぱ寂しいの?」
寂しい・・か。
感じた事が無いが、こうして他者と会話すると楽しいものだ。
また話が出来るのであれば嬉しい。
私はそう思って、肯定することにした。
「ん?まぁそんなところだね。」
「そう、わかった!じゃぁまた来るわ!」
良かった。アリサは約束してくれた。
「ああ、約束だ。ちなみにアリサの家は、ここからどっちの方角なんだ?」
万が一、彼女に何あった時の為に、確認しておいた。
「うん?えーっと、アッチ!丁度あの山の高原なの。」
アリサは私の枝を蹴って、空中に飛び出した。
視界の悪い私の枝から、森の木々の上まで飛び上がって、帰る方角を確認しに行ったのだ。
”あの山”と言われても、私は魔力感知の範囲しか、視覚に捉える事が出来ない。
その為、見えないのだ。
だが彼女は、北の『大草原』と東の『ドラム大河』の中間の方角を指し示していた。
つまり、北東だと言う事が、間接的に判った。
「遠いよね?」
「飛んで行けばそんなに時間はかかんないよ。」
なるほど、私にとっては途方もない距離だが、彼女にとってはちょっとした遠出くらいの感覚なのかもしれない。
「羨ましい限りだ。」
「木じゃ仕方ないよ。あ、じゃぁそろそろアタシ行くね。楽しかったわ。」
アリサはお別れの挨拶を言う為に、私の背丈の位置まで下降してきた。
殆ど羽ばたかずにホバリングしていた。
これは凄い。
魔力感知で見ると、広げた羽根に魔力が集中していた。
やはり魔法の力なのだろう。
「ああ、さよなら。気を付けて帰りなさい。」
「うん、アリガト。じゃ、またねー!」
彼女は慌ただしく現れ、慌ただしく去って行った。
明るくて愉快な女の子だったな。
私は魔力感知の範囲外に彼女が出た後で、魔法障壁をいつものようにLv1に戻しておいた。
私は再び独りになった。
いつもの森が、やけに静かに感じた。
今日は大きな収穫があった。
自分以外の知的生命体の確認と、そこから得られた、この世界の情報だ。
まだまだ知らない事が沢山あるが、私に与えられた時間は膨大だ。
ゆっくりと解明してけば良い。
私はアリサとの再会を夢見て、眠りにつくことにした。
次会う時は、彼女にステータスがあるのか確認し、ステータスがあれば、それを比較したい。
今から半年後が楽しみだ。
■
「 あ の 娘 、 絶 対 忘 れ て る ! 」
半年後、アリサは来なかった。
指名予約したらブッチぎられた。
彼女の再訪を心待ちにしていた私は、「鑑定」スキルをLv3まで取得して待っていた。
しかし、一向に彼女は現れなかった。
そのまま待つ事、2年が経過。
「来ないなあの娘!」
結局、一度も再会できず、私はキレた。
「もう我慢できん!こっちから行ってやる!」
あのお気楽チャラチャラ性格で、幸せなお花畑頭脳の持ち主に期待した私が馬鹿だった。
恐らく家に帰った瞬間に忘れたんじゃないか?
ニワトリ並の記憶力しかないのかもしれない。
遂に社長が長年愛した「倒木日向」からの旅立ちを決意?
次回、その準備に獲得したスキルが・・
やっと日間PVが100HIT超えしましたん♪
ありがとうございます!
新型コロナウイルスの為、ステイホームで時間がたっぷりある作者は、怒涛の勢いで書き続け、既に来月分まで予約投稿貯めておきました。(12万文字に到達)
これで忙しくなっても、定期更新できるよ。