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私、木になります。~精根尽き果てた社長が、転生先に樹木化を希望~  作者: 湯
第四章 私、妖風盆栽になります。
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101.王女誘拐事件の全容とホコリ魔神

さて、落ち着いて来たところで、色々知りたいことを訊いてみよう。


『リティア君、済まないがこれまでの事を教えてくれないだろうか。』

「はい、構いません。」


『取り敢えず私が眠った後はどうなったのかね?』

「えーっと、前回の武闘大会の途中でしたよね?」

『ああそうだ。発動していたスキルが切れていたので、実況放送も切れたのではないか?大丈夫だったのかね?』

 

広範囲思念通話はアリサの能力と周囲に説明していたが、彼女にそこまでの思念通話は展開できない。

つまり、私の体力切れと同時に突然聞こえなくなった筈だ。

マイクが切れたように。

 

「問題はありませんでした。アリサが「ごめーん、魔力切れで思念通話もう無理ーテヘッ」と説明してました。」

『それは説明なのか・・。』

 

まあでもどうしようもないか。

電池切れのオモチャに、気合いで動けと念じても、電池を替えない限りは動かない。

 

それに誰が悪い訳でもないからな。

元々善意のボランティアである。

契約による放送品質保証の取り決めもないし、完璧を要求されても困る。

 

「決勝戦はクルティナにお願いして、一時的にシャチョー様レベルの疑似思念通話を展開してやり過ごしました。」

 

なるほど、神託通話を利用したのか。

 

誰もそれが神託通話とは思わないだろうなぁ・・神の御業の無駄遣いだ。


この世界に来て、神託の安さに驚きを隠せない。

神託のバーゲンセール。

神託の叩き売り。

 

『そしてゼムノア君は無事に優勝したと。』

「はい、実に見応えがありました!」

 

おお、食い気味に来た。

そんなに白熱した闘いだったのか。

是非聞かせて欲しい。


「登場はいつもの通りミステリアスに、でもいざ試合が始まると激しくスタイリッシュに!クライマックスを演出する魔法を欠かしませんでした。そして本人だけがカッコいいと思い込んでいるポーズをキメまくり、相手を翻弄しながら叫ばなくても良い技名を連呼し、一生懸命考えてきた威力は無いのに地味にカッコいい魔法を勿体ぶりながら小出しに出して、わざとらしくピンチを演出してからの、最後は何故か新しい力に覚醒しての無駄な逆転勝利で優勝を飾りました。しかし、演技力がまるで無いので、相手に舐めプが全てバレバレで「試合を愚弄するな」と大いに怒りを買ってオドオドと挙動不審になったのもゼムノアらしい一面。その浮き沈みの激しさこそゼムノア鑑賞の醍醐味&カタルシスです!また、表彰式では我慢できなくなって、「優勝?当然だ!我こそ200年の時を経て復活した魔王ゼムノーディア=クライシスなのだからな!フハハハハハハ、はーっはっはっはー!」と正体バラシを始めたのもグッと来ました。むしろよくそこまでの我慢したと褒めてあげました。」


多分これ、後々ゼムノア君をイヂるネタになるのだろうなぁ。

リティア君、本当はゼムノア君のファンなのではないか。

鼻息荒く興奮しながらゼムノア君の活躍・・いや黒歴史を語っていた。


『・・魔王と身バレしたなら、ゼムノア君はお尋ね者になったのではないかね?』

「いえ、人気爆発し多くの追っかけファンを得ましたが、冗談と思われてその辺はスルーされていました。本人は大変凹んでましたが。」

 

まあ魔王モード時の勇ましい言動と普段の挙動不審者姿のギャップが激しいからなぁ。

妄言と思われるのも無理はないか。

実力はあるのに、認められない人の典型例だな。

 

 

『ん?待てよ。当時他にも重要な問題が無かったかね?』

「? いえ、特に何も無かったと記憶しておりますが。」

 

いや、リティア君の感覚はアテにならない。

彼女は私絡みのこと以外は些事としか思わない傾向が強いからね。

私にとっては昨日の事みたいなものだ。

思い出すのは簡単・・

 

『あ、王女誘拐事件があった。』

「あー、そんな事もありましたね。」

 

やっぱりリティア君は興味ゼロか。

 

『アレはどうなったか分かるかね?未然に阻止できたのかな?』

「え?普通に誘拐され、普通に今も幽閉されておりますが?」

 

ちょっとぉぉーー!

何を何事も無かった体で語ってるの!?

起きてるじゃないか!しかも現在進行形で囚われの身ではないか!

 

『どうしてシカトした!?』

「え?特に指示は受けておりませんでしたので。」

『指示待ち人間!』


確かに指示はまだしていなかった。

実際に動き始めて対処する予定だったからな。

 

リティア君は亜人族の事には基本不干渉。

リティア君に従うゼムノア君も自発的に動く理由がないので極めて消極的。人見知りなので我関せずが基本スタンス。

だから指示がないと彼女達は動かない。

 

アリサなら自発性はあるが、基本自由人なので、気が向かないと指示しても動かない事もある。

 

つまり亜人族の王族に何があろうと、知ったことではないというのが、彼女達の基本スタンスなのだ。


更に誘拐事件の事など伝えていないアイン子爵が動くはずもなく、近衛隊の失態を吹聴する訳にはいかない国王サイドは、アイン子爵への支援要請もないので、私達に救援が求められる事も無かった。


つまり、あの場にいて唯一未然に阻止出来た存在の私達は、単なるカカシとなって傍観。

王女誘拐は見事に成功し、国王は完全に出し抜かれたという訳だ。

 

自身の暗殺未遂事件が起きた直後だ。

自身への警備警戒を強めたが故に、王女側に矛先が向いている事に気付かず、王女の護衛選定を他人任せにしたのが失敗だったようだな。

 

あるいはそれも策略の内か?

暗殺を手引きした者の足取りを辿れば、王女誘拐犯の真の主格犯人に行き着くだろう。

 

犯人側の作戦はこうだ。

仕込みとして王女直近の護衛にそっくりさんを忍び込ませ、王女直轄のメイドの一人を家族を人質に脅し、王女が観戦に訪れる決勝戦で、王女の飲み物に下剤を仕込む。

そして王女がトイレへ行った時、一気に畳み掛けて連れ去るのだ。

 

えげつないのが、魔法で眠らせトイレに落として糞尿まみれにする作戦。

それから処理業者を装った仲間が、排泄物を入れる大きな桶に詰め込み、別の仲間に引き渡すという手筈。


そうすれば誰も近付かず、警備のチェックも避けられて、堂々と会場から出られるという大胆な作戦だった。

 

『確かにアレは成功する可能性が高かった。よく練られた作戦だったからね。』

 

おそらく年単位で計画された犯行だ。

人の執念は恐るべきだな。

 

『ちなみに幽閉されている場所は?』

「リインシス領の古城です。」

 

やっぱりね。

 

クルティナ君からもたらされた、この事件のネタバレ情報を暴露すると、主犯はリインシス=ヨルメノー伯爵だ。

 

元々リインシス領は別の国で、領主のヨルメノーはその国の王だった。

精力的に領土拡大に勤しんでいた前エレンゼクト国王の政略により、リインシス王国はエレンゼクトに吸収され、ヨルメノーは若い王女を前王の妾に取られてしまった。


地位も国も愛娘も失い、絶望と怒りに狂ったヨルメノーは、表向き従順にエレンゼクトへ従う振りをしながら、その怨念の炎を絶やすこと無く復讐を計画した。

王女を奪い、自分と同じ思いを味あわせてやる!

それだけを生き甲斐としながら。


つまり、王女誘拐事件は、単なる反社会的組織が企てた金目的の誘拐ではなく、かといって独自の正義感に燃えた反政組織の対抗戦略でもない。

 

リインシス=ヨルメノーの復讐である。

 

そしてこの復讐は現実性を帯びていた。

 

元リインシス王国の配下達は志を同じとし、固い結束で結ばれていた。

その優秀な人材に、秘密裏に事を進めるに適した遠隔地の作戦本部、周到に準備できるだけの豊富な資金、国王直轄部へのコネを得られる伯爵という地位と、全てがリインシス領には揃っていた。

 

故に王女誘拐は実行出来たのである。

 

正直、事情を知った身としては、リインシス=ヨルメノー伯爵に同情しない事はないが、その復讐は前王に向けられるべきであって、現エレンゼクト王に責任はあっても過失はない。

だから未然に阻止してやろうと考えていたのだが、一歩遅かったか。

 

いや、今に至っては一歩どころではないのだがな。

 

一年間も幽閉が継続されているという事は、つまり王国はその足取りも犯人も掴めていないという事だろう。

 

うーん、どうしたものか。

全て知ってるが故に悩ましいな。

おのれクルティナ君、余計な情報を寄越してくれて!

 

 

 

ま、

取り敢えず今は保留だな。

それよりも現状把握を優先したい。

 

『分かった。で、ここは何処なのかな?』

「ランクシャー領のシャチョー様の私室です。」

 

木である私に部屋とは酔狂な事だ。

 

『私室?私の?』

「そうです。ゼムノアの滞在拠点を兼ねて要求しました。」

『なるほど。』


確かにゼムノア君には部屋が必要だな。


『ゼムノア君はどこに?』

「定位置です。」


定位置?

ああ、あそこか。

 

部屋の隅に両膝抱えて座っていた。

変わらないな君は!


『ゼムノア君、久し振りになるのかな。』

「・・ぁんで・・ぅぁ。ブツブツ」

 

何あれ怖い!

 

「ゼムノア、シャチョー様が目覚めました。一人の殻に閉じ籠って良い時間は終了です。さあ目覚めなさい。」


いや、眠っていたのは私なのだが?

私を守る為のゼムノア君が休止しててどうする!?


それによく見ると薄っすらホコリ被ってるよ?

もしかしてあの状態でずっと座ってたの!?

傍で守ってたってアレで!?

あんなのと一年間一緒に居たのか、気持ち悪い!


「ブツブツブツブツ・・。」


あーもー、一年間も放置するから一人の世界に入りきって、負のスパイラルに飲み込まれているじゃないか、可哀想に。

アレ完全に病んでるよ。

見てるこっちの精神も病みそうだよ!

 

「ゼムノアァ!」

「・・ブツブツ・・へ?」


あ、目覚めた。


「ゼムノアぁ!あなたの主人は誰!?」

「リ、リティア様です!」


あ、立ち上がった。

うわっ、ホコリが舞う。


「違ぁーーう!」

「ひぃ!」

 

そして怯えている。

 

部屋の中は清掃が入っているのか綺麗だったが、ゼムノア君の周りだけホコリが積もっていた。

清掃係もあんな状態のゼムノア君に近付きたくはないか。

お陰でホコリまみれだ。

 

もうあんなの魔王でも魔神でもない。ホコリだよ。

ホコリの化身だよ!

 

「魔王(笑)ゼムノアはわたしのもの!万能秀麗秘書であるわたしはシャチョー様のもの!アンダースタン!?」

「ひ、ひゃい。」

 

ホコリを被ったまま直立不動で怯えている。

不憫だ。

 

「繰り返しなさい!」

「ひゃい!」

 

ゼムノア君、「ひぃ!」と「はい!」が混ざって、さっきからずっと「ひゃい!」になってるよ。

 

「魔王(笑)ゼムノアはリティア様のもの!万能秀麗秘書であるリティア様はシャチョー様のもの!アンダースタン!」

 

アンダースタンまで復唱して。

テンパってるなぁホコリ君。

 

「シャチョー様、以上ゼムノアの挨拶でした。」

『あれ挨拶なの!?』


やめてやめて!恥ずかしい!

 

「シャ、シャチョー様、おはようございます。」

『うん、それで良いよ。』

 

太陽の位置的にもう昼だから、おはようではないがね。

 

『ところでゼムノア君、何で魔王(笑)なのかな?』

「うぐぅ!」

 

アレ?胸を抉られたような苦悶の表情を浮かべているぞ?

 

「説明します。聞いた者全てが畏れ、戦慄し、恐慌すると思い、自信と期待に満ちて意気揚々と魔王の復活を高らかに宣言したゼムノアですが、反応は呆れとバカを見る好奇の目しか返って来ず、後に奇行を繰り返す自称魔王として名が売れてしまい、その言動から愛称として「魔王(笑)」となったのです。畏怖の対象どころか、イロモノ芸人扱いです。芸名「魔王(笑)」、笑いしか湧いてきません。」

「ぐぅあぁぁ!胸が!胸が苦しい!」

 

リティア君、本気で苦しそうだよ。止めてあげなさい。

 

ちなみに、今では王都では凄い人気らしい。

「魔王(笑)」として・・

 

居たたまれない。

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