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この木何の木?木になる気?

プロローグ

『あの~、本当に良いのですか?』

 

声の主の姿は見えない。だが、極めて心に穏やかに響く女性の声色だ。

 

「ええ、良いのです。働く事に疲れました。」

 

私は虚ろな意識の中、答え続ける。

 

『でも・・普通は誰もが忌避する対象ですよ?』

「いや、それが良い。私はもう働きたくない。絶対に働きたくないんだ。」

 

ニートのような事を言っているが、私は生粋のニートではない。

むしろ逆。

生粋の働き者だった。死ぬまで働く、働き者だった。

 

そのせいで死んでしまったのだから、真の働き者だったのだろう。

 

ここは冥界?天国?

どこなのかは分からないが、真っ白の視界だけが広がる殺風景過ぎる空間。

そこに天使なのか?女神なのか?

美しく落ち着く声だけが意識の中に響いていたので、その呼び掛けに私は取り敢えず答えていた。

 

 

ところで、この声、どこかで聞いた事があるんだけどね。

まぁ似てる声など、いくらでも世の中には溢れているものだ。

 

それとこの声も物理的な「音」ではないのだろう。

死んだ後に実体が・・耳が無い状態で、何故か聴こえるんだから。

直接意識に語りかけてくる感覚・・これがテレパシーというものなのだろうか?

 

そのような超常の存在と会話しているとは、なかなか興味深い体験をしている。

 

ただ、この超常の存在を、神だとか、天使だとかは信じない。

私は無神論者だ。

現在は解明できないだけで、この不思議な状況も、いつか科学的に解明可能な事象だと信じて疑っていない。

 

私は神がどれほど薄情なのか知っている。

神にどれほど祈っても、何も変わりはしないのだ。しなかったのだ。

だから私は無神論者となり、ここ20年以上、1円たりとも賽銭を払った事はない。

そんな無駄な事ができるほど、金も余裕も無かったのだ。

 

だから、この超常な優しい声の主を、私は大変訝しみ、怪しみ、疑わしく思いながら会話していた。

 

 

ところで、実体(脳)が無いのに、思考が出来る時点で、私も超常の不思議存在になっていると気付いたのだが、今はその「何故?いつの間に?」等の疑問に関しては置いておこう。

特に害はなさそうなので、原因が判らない事は棚に上げて、都合が良い事は歓迎しておく事にした。

 

  

『過労で亡くなった貴方の事ですから、その気持ちは分かりますが・・。』

「いや、分ってない。零細企業の自転車操業の会社社長が、どれだけ過酷で苦しくて厳しいのか、君は全く分っていないだろう!

死にもの狂いで奔走し続ける事25年!起業して以来ずっとだ!ずっと私は走り続けた!

客先、仕入先、同業者、銀行、役所、保険屋、職安、車屋、病院・・ずっと通い詰めた!

あらゆる人に頭を下げて、あらゆる人に借りを作り、あらゆる人に見放された。

何故だか分かるかね?私が貧乏だったからだよ!

自慢にならないが、私には経営の才能が無かった。だから、儲かった事など全然ない!

借金を返しては借りて、返しては借りての繰り返しだ。

自他共に認められる「お人好し」が過ぎて、いつも採算ギリギリの取引しか受注出来なかった。

職が無く、行き場が無かった人を出来るだけ多く雇い続け、食わせてやった。

彼等の笑顔だけが、私の唯一の安らぎだった。

毎月毎月、従業員の給料を払い終えた後に安堵して、翌日からまた走り続けること25年!

そして私は気付いた。さすがに、自分を犠牲にし過ぎでは?

もういい。もう十分ではないか?従業員からも心配されていた。

身体にもガタが出始めた。少し楽がしたい。少しくらい休んでもいいだろう。

そう思ったら、死んでいた。楽になり過ぎでしょう?

そんな私の気持ちが、君に分かるのかね!?え?」

 

『わ、分かりました。地雷を踏んだことは理解しましたので、そのくらいで・・』

「とにかく、私はそんな苛烈な生活は二度と御免なんだ。だから、これ以上はもう絶対に働きたくはない。」

 

働かずに生きていく。

そんな存在に私はなりたかった。

 

『ですが、”転生先”は、もう少し慎重に、落ち着いて選ばれた方が賢明ですよ?』

 

彼女の問いかけの主旨は、「生まれ変わったら次は何になりたいか?」であった。

「そんなタラレバ話、何の意味がある?」と、最初は遺憾に思えたが、彼女曰く「生命体は、生命活動を終えると、魂は次の活動媒体に移ることが出来る」らしい。

要するに、輪廻転生すると言うのだ。

 

実に怪しい。疑わしい話だ。

 

しかしながら、今まさに超常的な現象が起きている現在。無下に「そんな訳がない」と一蹴するまでには、私は確信が持てなかった。

私は馬鹿馬鹿しいと思いながらも、万が一を考えて真面目に答える事にしたのだ。

 

「私は冷静だ!ゆっくり、ゆったり、のんびり、穏やかに過ごしたい。癒されたい。私の希望を全て揃えている転生先はコレしない。」

 

私は結論を既に彼女に伝えている。

なのに、彼女は「本当に良いのですか?考え直しませんか?やめた方が良いですよ?」等と、私の決意と希望を否定し、覆そうとするのだ。

実に邪魔である。

 

『だからと言って、別にそんなものにならなくても、働く必要がない転生先は他にも沢山あり・・』

「そんな物とは何だね!?もしも転生先が人間やそれに近い生物になったら、また働かなければならない可能性があるではないか!」

 

蟻や蜂なども嫌だ。

とにかく、集団生活をする動物は、働く必要がありそうで恐い。

単独で自給自足が出来る存在で、ゆっくり、ゆったり、のんびり過ごせる存在。

 

私は閃いたのだ。

 

『わ、分りました。決意は固いようですので、もう止めません。では、輪廻転生を実行します。その魂を次なる命へと導きましょう。では、宣言下さい。貴方は、何になりますか?』

  

「 私 、 木 に な り ま す ! 」

 

 

その後、意識を失い、私の視界は暗闇に包まれたのだった。

 

 

 

 

次に意識を取り戻した時、そこは真の暗闇の中であった。

「うむ。何故か思考できるな。」

 

本当に樹木になったのであれば、脳がないはずだ。

なのに、何故思考出来るのか。

物理法則を無視した、不思議な超常現象は継続中なのか?

 

「視界はゼロ。臭いも音も無し。身体は全く動かない。感覚自体が無い。だが、意識だけある。」

 

 

「・・・意識だけ、思考だけできるか・・。」

 

 

「なるほど、まさかの”植物人間”に転生したとは・・。」

 

そう来たか・・と、出せない筈の溜息を吐いた。

 

そうだ。思考だけ出来るのであれば、その可能性が高い。

 

思考出来る=人間

動けない感覚が無い=植物状態

 

「植物は植物でも、植物人間とは・・転生先は”木”って伝えたはずだ!」

 

私はクレームを申し立てたが、その返答は一向に返って来なかった。

 

「なんと雑な扱いだ。」

 

あんな単純なオーダーも間違えるとは・・。

そもそも、私の希望に応える気があったのかさえ疑わしい。否定的であったし。

素性不明の不思議存在に期待した私が馬鹿だった。

 

「微妙に願いが叶っている点も腹立たしいな。」

 

確かに植物人間ならば、働かないで済む。

なるほど、その望みは叶っている。

 

だが、植物人間は一人では生きられない。

恐らく、誰かに生命維持をして貰っている事だろう。

うーん、迷惑はかけたくないなぁ。

その点、木であれば、地面から水分を吸い、光合成によって自給自足が出来るのに。

 

 

第一に、そもそも植物人間に転生など出来るのか?

植物人間は生きているのではないか?

生きている生命体の魂を弾き飛ばして、転生など出来るのか?

考えても判らない事ばかりで、イライラしてくる。

 

あの不思議な声の主、女性の声だったが、どこかで会えるのであれば、一発蹴りを入れたやりたかった。

 

 

いずれにしても、何も出来ないのに思考だけ出来るというのは、由々しき問題だった。

 

「どうしたものか・・。」

 

問題は目の前に積まれていても、私は考える事しか出来ないのであった。

 

 

 

 

この状況を打破する為の方法を暫く思案していたが、妙案も答えも出ず、不安だけが募って行った。

取り敢えず考え疲れたので、思考停止して眠ろうとしたが、眠る事すら出来ない様だ。


 

「困ったな。木になって、悠久の時の流れを何も考えずに、ゆっくりと過ごしたかったのに。」

 

こうなると、下手に思考ができるのは拷問に近い。

どんな屈強な精神力をもった人間でも、全く変化の無い空間で、感覚を奪われると、数時間で幻覚に苛まれ、数日で発狂すると聞いた事がある。

 

それを生涯年数レベルで強制体験など、どんな地獄なのだ?

健常な精神の持ち主が、耐えられる筈がない。

 

 

私が一体、どんな罪を犯したというのだ?

身を粉にして働き、過労で死んで、転生できる等と甘い言葉に(たぶら)かされ、挙句には暗黒静寂地獄だ。

 

私はどこまで苦悩すれば良いのだろうか。

 

 

そして私の長い長い孤独地獄が始まった。

 

 






あれからどれだけの時間が経過したのか判らない。


環境に変化が全くないので、時間の感覚が無い。


だが、この考えてる時間を累計すれば、軽く数ヶ月は経過していると思う。




 


結果から言えば、私は発狂せずに済んでいた。




何故、私は耐えられたのだろう?


自分なりに出した分析結果はこうだ。




人は何らかの変化や刺激を欲する動物なのだ。


だから何も出来ない、何も変わらない、何も感じない、何も伝わらない、そんな環境が耐えられず、刺激を求めて幻覚や幻聴さえ、自ら生み出す。




では、何故変化や刺激を欲するのか?


それは、刺激を感じられる、変化を享受できる、身体や感覚があるから欲するのだ。




では、元よりそのような感受能力が無い私の場合は? 




今の私には発狂する為の身体が無かった。


変化を感じる環境が無かった。


刺激を感じる感覚も無かった。


変化や刺激は欲しくはあったが、元より享受できないのであれば、無くても構わない模様だ。


その為、不思議と精神は安寧を保ち続けていた。


仙人の境地とは、このような状態なのだろうか?




どうやら人間は、生きているからこそ、死んだ状態と似た環境に居続けることが耐えられないのかもしれない。


元より何も持たない、今の私には、真の意味で変化や刺激は不要なのかもしれなかった。




なるほど、人間離れしている。




 


そして私は静寂と無感覚と暗闇に慣れた。




それ故だろうか、私は既にこの何もしなくて、ひたすらに物思いに耽られる時間を楽しみ始めていた。




私は本当に転生を果たしたのか?


転生を果たしたのであれば、前世の記憶が残っている事も、大変不思議な事で、一体自分は何者なのか?


今、私は一体何なのか?


ここは何処で、いつなのか?


そのような思考実験や仮定と推測・憶測を、何千、何万回と繰り返して過ごし始めたのだった。

 

 

 

 

ある時、変化の無い私の思考生活に、変化が現れた。

 

『レベルアップしました。ステータスを確認出来ます。』

 

は?

以前、『ポンコツ女神様の取扱説明書』というギャグ小説を書いてましたが、R15先生の厳しい目に捕まり削除されてしまいました。

なので、新作のテーマは、「 健 全 第 一 」

削除されません、エロ要素無いから!

 

ご 安 全 に ! く(`・ω・´)

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