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恋の季節  作者: yuu19
6/7

第六話 アンダリューサイト ~恋の予感~

更新期間が開いてしまいました。

これまで読んでくださった方、心より感謝いたします


一つご報告があります。

これまで読んでいただいた方には大変申し訳ないのですが、本日(2009年10月13日)をもって、キャラクターの設定変更をさせていただきました。

主人公の織倉廉は、森が丘学園の中学3年、という設定でしたが、時系列上の関係で、森が丘学園の高校1年生とさせていただき、同学園の中学1年生の新入生歓迎は、高校1年生が担当する、という設定となりました。


つきましては、その変更に伴い、あらすじ、第一話、第二話を微修正いたしましたが、物語の大筋に変更はございません。


ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。


どうぞ、ご愛読よろしくお願いいたします。

「ほら、それはそっち。 それはむこうにお願いね」


桜川は、体育館内を、忙しそうに走り回って支持している。


新歓の準備も最終日を迎え、いよいよ大詰めだ。


僕たち設営係は体育館の飾り付け、椅子やテーブルの設置で、忙しく走り回っていた。




桜川と本屋で遭遇した日から一週間。


あのことがあってから、まだ話す機会がない。


お互いに避けている…というわけではないが、どうも話しかけるタイミングがつかめないでいるのである。


「さあ、皆!最終日なんだから!気合入れてね!」


桜川が、体育館中に聞こえるような大声で叫んだ。


「ふう、今日もガリ勉ちゃんは絶好調だな」


と、話しかけてきたのは奥原だ。


奥原も設営係で、僕と椅子を運んでいた。



僕はちらりと桜川を見る。


彼女は、いろいろと指示を出しながら、壁のアーチ付けをしている、いつもの強気な桜川侑希だった。


「そう言えばさ、クラスでのあの騒動以来、お前と桜川どうなってんだ?」


あの騒動、とはおそらく、以前僕が新歓委員の集まりをさぼってしまった時に、桜川がクラスまでどなりこんできた、あのことであろう。


もはや学校中で知らないものはいないその事件を、クラスメイトである奥原は、もちろんばっちり目撃していたのである。


「どうなったって……まあ……」




僕は、ここ一週間の出来事を奥原に話した。


本屋で遭遇したこと。


一応は謝り、許してもらったこと。


そして…それ以来話す機会が持てていないこと。




「おお~!仲直りしたんだ!」


その話を聞いた奥原は、盛り上がっている。


なぜかテンションの上がったらしい奥原は、これは人類にとっては小さな一歩だが、お前にとっては大きな一歩だ~!


とか、どこのアームストロングだか分からないことを叫んでいた。


「いや…仲直りしたって言っても…そもそも仲なんてないわけだし…それに、それ以来話してないんだぜ?」


織倉がそう言うと、奥原はどうやらやっと地球へと帰ってきたようだった。


「ん~…まあ、そんなに気にしてないんじゃない?きっとガリ勉ちゃんは他人には興味ないのさ」


奥原はそう言って、並べるための椅子を取りに、倉庫の方へと向かって行った。


僕は、一つ大きなため息をついて、また桜川をちらりと見る。


(ほんとに…何考えてんだろうな~…桜川さん……)


「よっ、やってるか~っ?」


バン、と背中をたたかれ、前につんのめりそうになる。


「おお、わりわり、大丈夫か?」


後ろを振り返ってみると、そこに立っていたのは青山だった。


「なんだ、青山か」


青山は、へへっと笑いながら、当たりを見回す。


「桜川どこにいるか知ってるか? ちょっと仕事の内容で確認したいことがあるんだが……」


なるほど。体育館内には大勢の生徒が動き回っているため、なかなか一目で誰がどこにいるかを見分けるのは難しい。


僕はアーチ付けをしている桜川を指差した。


「おおっ、あそこか!サンキュな!」


僕は、ふっと息をついて、


「お前も大変だな…桜川にこき使われてさ」


と軽く言った。


「う~ん…まあな~。でも、あいつ結構しっかりしてるしな?仕事を一緒にやる上でだったら結構いいパートナーだぞ」


と、青山の言葉に少し意外だった。


(へ~…こいつら…意外に気があうのかな…?)


確かに青山も、桜川ほどではないしろ、完璧主義者なきらいがあった。


むしろ、桜川と気が会うのも当然なのかも知れないと思った。


「ま、少なくとも俺は会議をさぼって怒られたりはしてないからな~」


と、ニヤニヤしながら僕の方を見てくる。


「ったく……またそれかよ…」


僕は、もう一度大きくため息をついた。


それを見た青山は、わははと笑いだし、


「まあまあ、桜川もそれだけ必死ってことなんだろうさ!最終日なんだし、がんばろうぜ?じゃあな」

青山はそう言って手を振りながら、桜川の方へ歩いて行った。




「あれ?あいつ青山じゃん、何してんだ?」


青山の後ろ姿を見ていると、倉庫に行っていた奥原が椅子を抱えて帰ってきた。


「え?あ、ああ。なんか桜川に用があるみたいでさ。ほら、あいつチーフだし」


奥原は、その言葉を聞いてニヤッとしながら僕の方を見て、


「ふ~ん、それで織倉はちょっとヤキモチ焼いてるわけだ~」


「え、おい、ちょっと……」


僕が言葉を発する前に、奥原は椅子を並べに行ってしまった。


(ヤキモチって…別に…っていうか…なんでヤキモチ……)


そんなものとは無縁の世界にいたもので、ヤキモチを焼くことはおろか、それが何か何を意味するかということすら、いまいち理解ができなかったのである。


僕は再び、大きくため息をついて、桜川の方をちらりと見た。




………そう、うん、だから、ここはこんな感じでいいのかな?……


…ええ……そうね…ここは……うん、完璧!…さすが青山君ね……




かすかだが、二人が話している声が聞こえる。


二人は楽しそうに向かい合って笑っていた。


(あの二人って…やっぱり結構気があうんだな………桜川さん…俺と話してる時はあんな笑顔見せたことないのに……)


そう思うと、少し胸が痛んだ。


ちぇっ


心の中で舌打ちしたが、それがどういう意味なのかも自分でも分からなかった。



    ***



作業は続いた。


それから各部門は、明日のための鬼のように厳しい最終チェック(言うまでもなく桜川のだ)を受けた。


一番最後まで残ったのは、僕たち設営係で、終わったのときには時計の針は夜の9時を指そうとしていたのだった。


「結構すごいよね~これ!」


「うん!大変だったけど、これだけやったら達成感あるよな~」


疲労はあるものの、設営係の皆は、満足していた。


僕も、作業中は桜川のことも忘れて作業し、その成果には満足していた。


ここまで一つのことにこだわることはなかなかない。


本気で勉強して、試験で一位をとるというのはこんな気持ちなんだろうか。


僕は、少しだけ桜川の気持ちが分かったような気がした。


「はあ~やっと終わった終わった~。これでめんどくさい作業ともおさらばだ~」


奥原が背伸びをしながら声をかけてくる。


どうやら、人それぞれ持つ感想は違うらしかった。


「よし、帰るか!」


僕は、奥原と一緒に校門へ向かって歩き出した。


「ったく……どんだけやらせりゃ気が済むんだっつ~の」


奥原は、自分たちが遅くまで残されたことが不満らしい。


まあ、あれだけ厳しいチェックなら、不満の一つも言いたくなるのも分かるのだ。


(掃除など何度やり直しさせられたことか……)


「ま、まあ…桜川さんも頑張ってたんだしさ?」


「ん~、まあ確かに頑張ってんのは分かるけどそれを他人に押し付けないで欲しいつうかさ~……」


奥原は、ふくれている。


ったく…誰が椅子の配置の角度なんて気にするんだよ……


などと、再び愚痴り始めた。




僕たちは、学校から歩いて5,6分ほどのところにある駅まで、電車で通学している。


多少は大きな駅だけあって、普段は混雑しているものの、さすがにこの時間だ。人はまばらだった。


「えっと…あれ?」


僕は、定期券を取り出そうと、カバンの中を覗き込んだのだが、見当たらない。


「ん?何?」


改札に入ろうとした奥原は、止まって僕の方を振り返った。


「あ、いや、定期入れを体育館に忘れてきたみたい。ちょっと取ってくるから、先帰っててくれ。悪いな」


「ん?そうか?分かった、それじゃあな」


奥原が、うなずいて、手を振る。


「おう、じゃあな」


僕も手を振って奥原と別れ、一つため息をつきながら、学校の方へ歩き出した。


(全く……なんで定期券なんか忘れてくるかな~?…ほんとドジだよな……。学校しまってたらどうしよう……)


そんなことを考えながら歩き、学校に到着すると、


「あれ?」


先ほど電気を消したはずの体育館に明かりがついている。


あの桜川に限って、電気を消し忘れるなどということはないはずなのだが……


「誰かいるのかな?」


もしかしたら、自分と同じように、忘れものを取りに来た生徒がいたのかもしれない。


学校が閉まっているかもしれないと考えていた矢先、どちらにしろ好都合だった。


体育館の入り口までたどりつくと、ガサゴソと音がする。


(もしかして泥棒…とか?)


ドアが開いていたので、誰かいるのかのぞいてみる。


するとそこには………




「う~ん…もうすこし……こっち…かな?」


ガタガタっと音がして、椅子の上に立ち、壁に掛けてあった看板を直していたのは、まぎれもなく、桜川侑希だった。


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