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恋の季節  作者: yuu19
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第三話 舞散る花びら

「ねえ、織倉くん、ちょっといい?」


僕が桜川と初めて話したのは、それから2日後の昼休みだった。


僕はいつものように、教室で部活の友達と窓際でわいわい騒ぎながらお弁当を広げていた。


時たま空いた窓から吹き込んでくる桜の香りの春風が心地よい。


そこに突然桜川が現れたのである。


「え、お、俺?」


僕はあまりに突然のことで言葉を失った。


(な…なんだろ…わざわざ俺に用って……)


心臓の鼓動が速くなってくのが自分でも分かった。


僕は立ちあがって、ゆっくりと彼女の方を見る。


教室に駆け込んでくる風が、彼女の髪をふわふわとなびかせた。


(すごい…さらさらだ……)


僕は思わずそれに見とれてしまっていた。


「ヒューヒュー! お熱いね〜!」


周りの友達がはやし立てる。


桜川は、彼らをキッと睨みつけて黙らせると、ふっと息をつき、こんどは僕の方にその鋭い視線を向けて言った。


「…やる気ないんなら辞めてくれる?」


「……………へっ?」


彼女の口から飛び出した思いがけない一言に、僕は反応できなかった。


(え…俺なにかしたのか…?)


「…昨日よ」


と言われても全く心当たりがないのである。


「昨日………なにかあったっけ?」


僕の言葉を聞いて、桜川はさらにあきれたようだ。


ふうとため息をついて、


「新歓委員の設営係で集まるってホームルームで先生から言われてなかったかしら?」


そう言われても……ホームルームと言えば、周りとのおしゃべりタイムと、うちのクラスでは相場が決まっていた。


いつも、特にそこまで重要な連絡事項もないものだから、皆(かどうかは定かではないが…)聞き流していたのだ。


自分が設営係になっていたことは、最初に新歓委員で集まっていたときになんとなく聞いた記憶がある。


しかし、集まりがあるという話は、どうやら僕の耳の右から左に受け流されていったようであった。


「えっと…ごめん……忘れてた…かな…」


僕は、申し訳なさそうに彼女に謝罪の言葉を告げる。


その言葉を聞くやいなや、彼女は近くにあった机を勢いよく叩いた。




ドンッ!




机と手の当たる鈍い音が昼休みの和やかな教室中に響き渡った。


辺りの空気が凍りつき、時間が一瞬止まったようだった。


桜川は、そこでふうと一拍おいて深呼吸した。


そして、物凄い形相で僕を向いて、


「何考えてるの!? 忘れるなんて信じられない! あなたみたいな人がいるからチームワークが乱れるのよ!? 大体私近いうちに集まりがあるって最初に言ったわよね!? そんなことも聞かずに挙句の果てには集まり忘れてたなんてまったくもう!! しかもね!あなたがそんなこと……



彼女のお説教は止まらない。


まさにマシンガンである。


友達はクスクスと笑いをこらえているが、桜川はそれに気づくこともなく、僕に向かってどなり続けていた。



「ちょっと聞いてるの!?」


彼女は再び机をたたく。


今度はクラス中の注目が集まっていた。


彼女のどなり声は、クラス中に響き渡っていたのである。



ガタッ




そのとき、僕の机が揺れて、乗っていた、開きっぱなしの僕のカバンの口から、何かが滑り出てきた。


(あっ、…やべっ)


彼女はその滑り出てきた「何か」に気づき、そこに視線を寄せる。


「あ、いやっつ、これは…」


それはまさしく、つい先日、僕が宮下から借りた「読み物」だった。


それを見て、周りの友達も、「あっ」と小さく声をあげる。


女子たちも「ヤダあの人〜」と言わんばかりの視線を向けてくる。


僕あわてて弁解しようと彼女の方を向いたが、彼女はその「読み物」を見つめて固まっていた。


(えっ…あっ……あれ?)


てっきりまたどなり散らされるかと思った僕は、少し拍子抜けだった。


彼女の表情が、両手で口元を覆いながら、徐々に顔が赤くなっていくのが分かった。


その表情は、生まれて初めてこのような「読み物」を見たようだった。


(うわあ…純情な人だな〜…)


自分の置かれている状況も忘れ、彼女の表情に僕は見入っていた。


そしてしばらくして、我に返り、あわてて口を開く。


「あ、あの、これは友達からムリヤリ……




バチン!!




その弁解は、彼女の耳に届くことはなかった。


いや、彼女の平手打ちが、僕の口をふさいだといった方がいいだろう。


彼女の顔は、これまで見たことがないほど真っ赤で、しかも耳の先まで真っ赤に染まりあがっていた。


「この変態!!!」


彼女は思いっきりそう叫び、勢いよく教室を出て行った。


もしかしたら、学校中に響いたかも知れないほどの大声だった。


取り残された僕は、「読み物」を彼女に見られたショックと、どなられたショックで、しばらく茫然とそこに一人で立っていた。

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