第二章 B.C. (3)
「あ、はい、こちらは……?」
「ああ、この方は瓦木紗綾さんといって、警察の関係者なんです」
「はぁ……、そうですか。それで、聞きたいことは……?」
紗綾はちょっと恥ずかしそうに頭に手を当てると髪をワシャッと掴んで離した。
「いえ、三条さんのお仕事について知っていないかなと思いまして。津野さん、現場はごらんになりましたか?」
これはどうやら津野の探られたくない所を突いたらしい。津野はさらに顔色を悪くすると、ふるえながら頷いた。
「え、ええ。花があるとか……」
「三条さんは、何か花に関係するお仕事でもしているんですか?」
「い、いえ、それはわからないです。昭代が何をしているかは、たぶん高井さんの方が詳しいと思いますけど……」
「けど……?」
「あ、昭代のお姉さんが、花屋を……」
「何ですって?」
警部はつと立ち上がると驚きの声を上げた。
「さ、三条昭代には姉が居るんですか?」
「え、あ、いや、ご存じ無くても、仕方がないかもしれないです。昭代もつい最近姉の存在を知ったみたいで」
「ちょっと、そこのところ詳しくお話していただけませんか? 津野さんは三条昭代の姉に会ったことがあるんですか?」
警部は落ち着きを取り戻すようにソファに座ると、津野に話すよう促した。津野は一度だけコクリと頷いた。
「以前、T駅の中にある花屋で、昭代が店員として働いているのを見たんです。それで、後日昭代にその話をしたら、それは私じゃなくて姉だって。双子の姉だって言われたんです。たしかに、少し昭代とは雰囲気が違うかなって思ったんです。眼鏡もかけていたし……。なにより、すこし陰のある方のように見えて」
「三条さんも最近になって自分の姉の存在を知ったというのは……? それまで知らなかったんですか」
「そうだって、昭代は……。昭代は物心つく前に、両親が離婚したそうなんです。そのとき、父方に引き取られたのが姉の晴代って方だそうで……。幼いときから、自分の父について昭代は母に聞くことができなかったみたいです。そういうわけだから、最近まで昭代自身、姉が居るだなんて夢にも思わなかった、と。それが、半年くらい前になって、父を亡くした晴代が、妹の昭代を頼って上京してきたそうです。とにかく何か仕事につかないとっていうことで、花屋で働いてもらってるって、昭代は言ってました」
「そうですか……。何かあったらまたお呼びするかもしれません。とりあえず、今回はこれで。また向こうの部屋で待っていてもらえますか?」
警部は興奮を隠すようにそう言うと、津野を控え室に下がらせて、立ち上がった。
「紗綾ちゃん、これはおもしろくなってきたじゃない」
「というと?」
警部はニコリと笑うと、ピョコンと体ごと紗綾の方を振り向いて言った。
「双子をDNA鑑定で判別するのは難しいじゃない」
「確かにそうですね。それに、ここでようやく被害者と花屋の接点も出てきた」
「とにかく、T駅の花屋に人を向かわせるわ。それで、次は誰に話を聞く?」
「じゃあ、高校時代からの友人に話を聞いてみてはいかがでしょう? ドラムの大平さんですね」