第二章 B.C. (2)
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次にやってきたキーボードの津野も何か不安を抱えているような面もちであった。眼鏡はその人の印象を決めると言うが、先ほどの山田と違ってフレームの見えない眼鏡は、彼女の神経質そうな表情をより深刻なものにしていた。居心地が悪そうにソファに腰をかけると、怯えるように警部を見つめ、長袖の裾を手繰ると、下を向いたままスカートの端をいじり始めた。
「津野さんですね?」
警部が口を開くとハッとしたように顔を上げて、小さな声でハイと返した。
「まず、一昨日の夜のことを聞かせていただきたいんですが、最後に会ったとき、三条さんは何かに怯えているとか、そういうことはありませんでしたか?」
警部の言葉に津野はいいえと小声で返した。先ほどの山田とは大違いである。
「三条さんとは、どういうつながりで。あっ、このバンドに加入したきっかけは……?」
「それは、大平さんに誘われて」
「誘われて……?」
「……サークルに入ったんです」
必要最低限の回答しか帰ってこない。こういうのが聞き取りではやっかいなのだ。これが作為的なものだとしたら……。しかし、その様子は真実怯えているようにも見える。だとすると……、紗綾はこの女が何にそこまで怯えているのか、気になって仕方がなかった。
「三条さんが、誰かから恨まれるとか、そういうようなことを聞いたことありますか?」
「いいえ、そこまでは……」
「そこまで、ということはいくつかはあるんですか?」
警部の質問に津野は再び顔を上げると、いよいよ怯えの色を濃くした。
「そ、それは、昭代はかわいくて、きれいで、男の子にも人気があるから、恋愛の話は……」
「山田さんのことですか?」
津野は首を縦に振ると、あわてて、
「でも、山田さんは山田さんで納得していたみたいですから……。それに山田さんがそんなことするとは思えません」
山田にかかるであろう疑いを打ち消すように言った。
「津野さん、ちょっと伺っていいですか?」
ようやく口を開いた紗綾に、津野は初めて紗綾の存在を知ったようであった。