第四章 歌姫の棺(2)
津野佑香はこれから先どうするかを迷っていた。公園に向かう道。よく、独り考え事をしていた。振り返ると木立の先に湘南の海が見えた。船が気付かれないようにゆっくりと水平線をすべってゆく。どこかからヘリコプターが、けたたましい音を立ててやってくる。風が葉の擦れる音を作って、生まれ育った町に吹き降ろしていた。もう一機、ヘリコプターが飛んできた。津野佑香はそれを見上げて、視界から消えるのを指で追うと、麦わら帽子を深くかぶりなおして、再び坂を上り始めた。
坂の上の公園はとても小さい。公園と言っても遊具は無い。ただベンチがあるだけの、彼女にとっては丘だった。いつもはそのベンチに座って詩作をする。ここがお気に入りの場所だった。ベンチの背もたれに手をかけると、木はほんのりと温かい。先ほどよりも登ってきて、眼下の風景はひらけていた。遠く霞む先には江の島が見える。定番とは決して言えないデートコースだけど、津野佑香はそこに好きな人と来ることを夢見ていたのだ。
今日も今日とて長袖にロングスカート。しばらくそこで吹き下ろす風に身を任せていた。スカートがなびいている。でも、そうしてもいられないのか、津野佑香はベンチから手を離すと、その先の林の中に足を踏み入れていった。林の中は木漏れ日がゆらゆらと揺らめいていて、一面、海の底を照らす水面模様のようであった。その中を進んでいくと、木陰に一つの石がある。津野佑香はその前に座り込むと、一輪の白い花を手向けて手を合わせた。
「やっぱり。ここだったんですね」
それは彼女にとって青天の霹靂だった。津野佑香はさっと振り返ると、そこに立っている人物が誰であるかを知った。
「あ、あなたは……」
「ごめんなさい。でも、ついてきたわけじゃないんです。津野さん、あなたに会うために公園に来たんですよ。そうしたら、こんな林があったから、ちょっと歩き回ってみたんです」
瓦木紗綾は淡々と語ると、手を後ろに組んで、一歩津野のもとに寄った。津野はそれに合わせて後ずさりすると、背中が石に当たるのを感じた。
「そこの土は、最近掘り返されたみたいですけど……。そこの石といい、やっぱりそうなんですか?」




