第三章 音楽談義(3)
ぐぅ。
瓦木紗綾のお腹が鳴った。
「すいません、クッキー一ついただきますね」
そういうと紗綾は私に持ってきたクッキーを一つ摘み上げると、口の中に放り込んでオレンジジュースで流し込んだ。
「片が付いたかどうか、うん、さあ、それは犯人が捕まってみてのお楽しみというところでしょうか。でも、その結論の前に、先生に聴いてもらいたいものがあるんです」
瓦木紗綾はそう言うと、急に立ち上がって、横に掛けてある手提げかばんの中から黄色い袋を取り出した。
「事件がニュースになって、なかなか探すのに苦労したんですよ。ほらこれ」
瓦木紗綾はその黄色い袋を私に差し出すと、嬉しそうに笑ってソファに腰かけた。私は紗綾の顔と黄色い袋を見比べると、その袋を開いた。中に入っていたのは一枚のCDシングルだった。
「亡くなった三条昭代がボーカルを務めていたバンド、『B・C』のデビューシングルです。最初で最後のシングルですね」
「これを……?」
「ええ、先生に聴いていただきたいんです。私は所詮音楽というとクラシックとか、一昔前の音楽とかしか聴きません。最近の音楽だったらまだ先生の方が詳しそうですし、歌詞を読んで何か発見するかもしれません。だから、今ここで先生と聴いてみようと思うんですよ」
瓦木紗綾はそう言って再び立ち上がった。どうも節操がない。瓦木紗綾は私の手からCDを受け取ると、部屋の隅のオーディオにそれを入れて、歌詞カードを私に手渡した。
「最近の若手アーティストをこれでかけるのは初めてですよ」
瓦木紗綾が三度ソファに腰を下ろしたところで、オーディオが空気を振動させ始めた。瓦木紗綾は眼を閉じて腕を組むとそのまま深くソファに沈みこんだ。一曲目は静かな始まりだった。それがぷっつりととだえると、堰を切るように高速のギターのフレーズが、深い残響音を伴って流れ始めた。吸い込まれるような音は確かに心地よかった。確かに、バンドの初めてのシングルとしては面白い曲だった。その音が広がり消えていくのを見届けると、瓦木紗綾は閉じていた眼を開いて、どこからともなく取り出したリモコンで再生を止めた。
「今のが『SuperVision』タイトル曲ですね。作詞は被害者の三条昭代。作曲は三条昭代の交際相手、ギター担当の高井平介ですね」
「なるほど、いい曲じゃないか? 歌詞もあまり語らず、世界観に合っていると思うよ。なかなか面白いバンドだったんだね」
瓦木紗綾は私の言葉を興味深げに聴いて、コクコクと首を縦に振ると、じゃあ次です、と言ってリモコンのボタンを押した。次の一曲は打って変わって、さざ波の音から始まるアコースティックソングだった。歌詞は抒情的で、一組の男女の出会いと、海の見える丘での思い出について綴る曲だった。間奏を挟んでのメインのフレーズは思わず切なさがこみあげてくるような曲だった。曲が終わると紗綾が注釈をいれた。
「二曲目が『海の見える丘』。作詞はキーボードの津野佑香、作曲が三条昭代です」
「ああ、違う人が書いているのか。なかなか趣のある歌詞だったね。何というか、歌詞を聴かせる曲だね。僕はこっちの方が好きかもしれない」
「そうですか、じゃあ次が最後の曲ですね」




