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第四時間 『吸血鬼の自己紹介によって魔道生物を召喚する儀式は有効か否か』

単語解説のコーナー


『スキル』

対象者が身に着けている、技術や知識、技の総称のこと。特に、ステータスに記される類のもののことを言う。

ゲームのような感じではなく、逆に対象者が出来る何か特別なことを、名前を付けて、示しているだけのものと言われている。

ある意味、対象者が何ができるか、という免許証のように使われることが多い。

またスキルがどういったものなのか、効果ややり方を示す解説も付与されるが、使う本人にはほぼいらないものと化しており、人に自分のスキルの概要について教える時に言葉足らずになる人が使う程度にしか役に立っていない。

このシステムもまた謎が多く、どうやったらスキルとして認識されるのかなども、まだ解明出来ていない。

精霊の力を使った、大規模地殻変動をスキルとして認識しないこともあれば、五歳児が作った適当な剣術が『剣術:漆黒破壊剣』なるスキルになったという事例もある。(なお、この名前ではあるが、ただ剣を上段に構えて突っ込むだけのものである)


「おお遅くなりましたあああぁぁぁぁ―――ッ!?!?」

「ちょ、ちょっと姉ちゃん...押さないで...!?」

「あ、そこで立ち止まられると、キャアッ!?」

「...っと」

「何やってるんだろう、あいつら...」


 始業のチャイムが鳴り響き、遅刻が確定した俺たち。確定したんだし、別に急ぐ必要もないと思って小走りだったんだけど...


「いてて...」

「姉ちゃん...降りて...」

「キュウ―――...」


 ミリアとさっきまで騒いでいた銀髪の女の子と男の子は、急いで教室に入ろうとした結果、目の前で衝突事故を起こし扉前で山となって、ただの障害物と化していた。

 同じスピードで入っていったはずのジョーカーは三人の山を飛び越えて、教室内にスタッと降り立つ。さっき魔力弾を顔面に食らったのがまるで嘘のようだった。ん?なんかこっち睨んでる気が...怖い怖い怖い怖い、目が赤く光った!?あ、いや...気のせい、か。気のせいだよね?


「すみません、遅くなりました...」


 そして俺は、この人のお山とは無関係です、という顔で教室に入るのだった。


***


「もう、こんなことはないようにね」

「「「はい...」」」


 お山から戻った三人とジョーカーと一緒に並んで怒られる。別に遅刻したことを怒られるのはいいんだけど、さっきまで衝突してお山になってた人たちと並ぶと急に惨めになってくるのはなんで?

 怒ってきた先生は、なんだかとてつもなく優しくて柔和な男性だ。穏やかな笑みはなんというか本能的に安心させてくれるというか、胡散臭さが無い。十人中十人がいい人と答えるタイプの人だった。


「さて...初めまして、皆さん。これから1年間皆さんの担任をさせていただく『ディル・オーレリア』と言います。これからよろしくお願いしますね」


 そう言って深々と頭を下げるとディル先生。


「では、そうですね...一人ずつ自己紹介してもらいましょうか」


 え、そういうこともするのか...いや、驚いてる人もいないし、これが普通なんだよな?どうしよう、ちょっと緊張してきた。


「はい!はい!私最初にやりたいのだ!」


 そう言って元気よく挙手したのは、さっき会った銀髪の女の子だ。さっきまで涙目だったのに底なしに元気な子だな。それかもう忘れたのか、どっちかだが。


「うーん、ちょっとこんがらがりそうだし、席の端っこから順番にさせてもらえるかな?」

「むー、しょうがないのだ」


 先生が手を合わせてお願いして、女の子はおとなしく席に座った。というか席順?なんか引っかかって教室を見渡す。


「では、僕から見て左前の人から自己紹介してもらおうかな」


 ま、まずい!左前から!?俺の席、一番左後ろの端だ!?早いよ、俺の順早いよ!?

 冷静になってよく見てみると、ジョーカーは右後ろの端だ、窓にも近いし、あいつなんつーいい場所を...いや、こんなことで羨ましがってる場合じゃない。どうにかしなくては。

 そんなことを考えている瞬間も前の方から自己紹介が終わっていき、俺の順番が近づいてくる。というか後1人終わったら俺の番なんだけど!?


「えーと、じゃあ今度は―――」


 俺の番来ちゃったよ!俺の意図を察してか、ジョーカーがなんかこっち見てるんだけど。どうしよう、いつも通りの表情だけど、笑っているようにしか見えない。


「えっと、アーカード=アルサケスと言います!え、えっとえっと...」


 やべぇ!?こっからどうすんの!?趣味とか言うの!?つーかジョーカー!ニヤニヤしてんじゃねぇ!?やっと正体を現しやがったな!?


「あの、アルサケス君?何も思い浮かばないなら、もう大丈夫だから...」

「...はい」


 これ以上生き恥を晒す前に座った方がいい。こっちの方も十分生き恥な気がするけど。ジョーカーの方を向くと、口笛を吹きながら目を逸らされる。あいつ、これ終わったら覚えとけよ。

 ジョーカーを睨んでいると、どんどん自己紹介は先に進んでいく。


「ミリア=クラウドと申します。この度は魔術について学ぶためにこの学園に入学しました。皆様、どうかよろしくお願いします」


 一礼して終了、割と大きい拍手が起こる。さっきまでの人たちと結構態度違うね?皆さん。確かにミリアは可愛いけど、それがここまで左右しますか。そうですか。

 更に自己紹介は続き、今度は最初に自己紹介したいと言っていた銀髪の女の子の番になった。


「ふっふっふ」


 なんか嫌な予感がプンプンするんだけど。その笑いは俺のそんな勘を働かせるのに十分なほど、間抜けなものだった。

 その当人はというと、椅子の上で立ち上がり、机に片足だけドカッと乗せて、大声で自己紹介を始めた。


「『ベルネ=ブラッド』と言うのだ!誇り高き『吸血鬼』の血統を受け継ぐ、赤き月の番人なのだ!ひれ伏すがいいぞ、庶民共~~~~!!」

「わー...わー...」


 予想を超えたひどさだった。そして多分だけど、弟君。その下から紙吹雪まき散らして、ワーワー言うのは演出なんだろうけどね?仲の良さは分かるけど、そのフォロー演出はただギャグっぽさを加速させるだけで、ベルネの求める反応を増やすものじゃないと思うんですけど。分かっててやってるのか?無気力な表情だからジョーカー以上に分からん...

 ちょっとだけ怖がってる人もいるけど、ベルネ自身じゃなくて吸血鬼って言葉に反応してたしな。

 吸血鬼...エルフと並ぶ寿命が限りないと言われるぐらいの長命の種族。他の種族の血を欲するという吸血本能があるとされている。怖がられる要素はこの吸血本能ぐらいしかないだろう。でも、やらなくても命に関わるわけではないし、心配はいらないだろう。もし問題があっても、学園に来るってことは対策とかしてるだろうし。

 まぁ吸血鬼なら、ベルネぐらいの見た目でも多分300歳ぐらいだろうっていうぐらい寿命が長い。魔力に関しては自身の身体構造を変化させ、細胞レベルでの変身などを可能にする性質を持っている。吸血鬼の逸話で有名な霧や蝙蝠に変身するというのは、この魔力によるものだ。ちなみに、もっと有名な逸話に太陽の光が苦手とかいうのはあるけど、今現在の吸血鬼にそんな体質はないらしい。詳しいことは知らないけど。寿命が長い代わりに絶対数は少ないため、種族的には珍しい部類に入る、だから、変身魔術もぜひとも見てみたい。


「あ、僕は『ギーク=ブラッド』です...ベルネ姉ちゃんの弟です...361歳です」


 ついでのように自分の自己紹介をくっつけるギーク。というかやっぱり300歳越えかよ、ベルネの年齢がそれ以上という確証がついちゃったよ。

 そして、俺が待ちに待ったジョーカーの番になった。

 無言で立ち上がるジョーカー。落ち着いているが、ここで何かミスしてもらわないと、俺のこのムカつきが収まりません。お願いします、ミスしてください。そういう意図を込めた、とびきりの笑顔をジョーカーに向ける。

 それに気づいたジョーカーがこっちを向いて、親指を下に向けてきた。ハハッ死ね。


「えっと、ジョーカー=ミラーと言いま―――オボボボボッ!?」

「「「「「......?」」」」」


 え?何事?なんかジョーカーが自己紹介の途中で白い毛むくじゃらの大きな手に首根っこ引っ掴まれて、窒息とか全く無視の怪力で引っ張られて、窓から垂直落下していったように見えたんだけど。

 俺だけじゃなく、ミリアもベルネもギークも、ディル先生さえもキョトンとして立ち尽くしていた...っつーことは幻覚じゃない?

 ゆっくりと窓に近づいて外を見てみると、そこには2mの白い猿みたいな獣に首根っこ掴まれて、噴水広場辺りを傷だらけで引きずり回されているジョーカーの姿だった。


「「「あいつ拉致られてやがるうううううぅぅぅぅぅ――――――ッッ!?!?!?」」」


 俺だけじゃなく、同じように窓に近づいてきたミリアとベルネも一緒に同じセリフを吐くのだった。

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