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第三時間 『入室前のひと騒動』

『魔力』

この世界に存在する、超常的な現象を引き起こす力。あらゆる生命体などから生成され、あらゆるものに蓄積されていく。

生命体ごとに生成する魔力は性質がちょっとずつ異なり、人間と魔族に至っては正反対の魔力を宿している。人間が宿している魔力を『正の魔力』、魔族が宿している魔力を『負の魔力』という。しかし、正反対とは言ってもある程度は共存出来るため、正の魔力と負の魔力を両方宿す者はそんなに珍しくない。とは言っても、完全に混ぜ合わせ新しい魔力とする実験は盛大に失敗している。

魔力は心臓から生成されるとされ、血管とは別の『魔力回路』というもので全身を巡っていく。魔術の行使には、この魔力回路が重要な役割を持っている。

基本的に魔術を生成するのは生命体で、無機物からは生成されない。しかし、それでもこの世の鉱山などに魔力を帯びた『魔石』という鉱石が発掘されるのは、生物の死体などから流れ出た魔力が蓄積されていくためである。また、魔石は体内環境とは違う環境で長年保存されてきた証拠でもあり、稀にとんでもない性質を持った魔力を帯びた魔石も発見される。


「入学式、長かったね...」

「え?そう?」


 入学式が終わった途端、色んな場所からそんな言葉が聞こえてくる。そして当然のように、隣にいたミリアもそんなことを言ってきた。

 俺的には、ずっとワクワクしてたせいか、そんなことは感じなかった。来年、新入生が来た時の入学式はもっと長く感じるようになるのだろうか。


「アーカード君って入学式好きなの?」

「うーん、好きっていうか...今まで学校行ったことなかったし、さっきのが初めて経験した入学式だったしな...そのせいかもしれない」

「初めての学校...?今まで何してたの?」

「えっと、実家の近くの山に東洋人の人が住んでて...その人の元で魔術のことを学んだりしてたんだ。ほぼ実戦形式だったけど」


 あの頃は割と辛いことが多かった気がする。師匠っておしとやかに見えるんだけど、教え方が体で覚えろッ、一択だったから...


「えっと、大丈夫?苦笑いのまま固まってるけど」

「...いや、うん。ダイジョウブデス」


 どうやら俺は自分の考えを隠せないような体質らしい。顔に出てしまうようだ。今更思い知った。

 実家では別に、隠すようなこともなかったし、師匠のところでは、そういうこと全く指摘もしてくれないから、途中で自分で気づいて恥ずかしくなる時があるんだよな、シャツ出てたり。

 その時、人込みの中から、さっき俺たちよりも先に出ていったジョーカーがうんざりしたような顔で出てくる。確か、自分のクラスが何処か見に行く、と。張り出された紙の方にさっさと行ってしまった。

 入学式での先生の話によれば、1~2組は見下ろす者(オーバールックズ)、そして3~20組までが風下住民(ダウンウィンダーズ)のクラスだと聞かされた。というか20組って多くないか?前に友達に聞いた時は8クラスでも多いって聞いたんだが。

 そんなことよりジョーカーが何組か気になる。一応、友達みたいになってるし、超気になる。こういうのも、俺が学校生活初めてだからだろうか。


「ようジョーカー、お前何組だったんだ?」

「...8だな」

「へぇー、俺も見てこよっと」

「お前も8組だったぞ」

「え」


 俺の分まで見てきてくれたのか?こいつ、見た目のわりに親切...?いや、たまたま覚えててくれたのだろうか?しかし、こいつの表情からそれを確認するのは不可能に近い、諦めよう。


「えっと、じゃあ私見てくるね?」

「うん、行ってらっしゃい」

「...そういえば、あいつの名前聞いてなかったな」

「...もしかして、聞いてたらミリアの組も見てきてくれてた?」

「...さぁな」


 すぐに目を逸らしたが...いや、逸らすってことはそれ確定だろ、多分。間違いない、こいつは親切だ。


「1年8組教室の場所は、本館2階、一番右の教室だそうだ、お前はあいつを待つか?」

「え?ど、どうしよう」


 なんかここは重大な選択な気がする。待っていてもいい気がするが、ストーカー?という奴と認識されても困る。とは言ったもの、待たないのも、ちょっと薄情な気がして...いやいやいや、そもそも俺たちはそんなことを気にするぐらいに仲良くなったのか?ニーズヘルさんに『任せます』的なことを言われたは言われたけど、冷静に考えると、ただミリアがケガしてた時にハンカチを渡しただけで...


「それじゃ、俺先に行ってるから...」

「ちょーっと待たんかーい、そっちから振ってきといてそれはねーだろ?」

「いやだって、そんなに考え込むとは思ってなかったし」


 だからって、そこまであからさまに逃げなくてもいいじゃないか。

 そう言おうとすると、その悩みの種であったミリアが小走りで帰ってきた。


「お二人とも!私も8組でした!」

「え、そうなんだ...20組もあるのに、こういう偶然ってあるんだな」

「えぇ!お二人とも、これからよろしくお願いします!」

「うん、よろしく」

「あぁ」


 まぶしい笑顔をこっちに向けてくるミリア。控えめに言って可愛いです、はい。ジョーカーはあんまり動じてなかったけど、そういうこと感じないのかな?

 でも、やっぱり俺たち全員が8組って運命?みたいなものを感じる。これは、これからの学校生活にますます期待がかかるってもんですよ。

 

「んじゃ、さっさと行くぞ」

「お、おう」

「はい!」


 ドンドンと先に行ってしまうジョーカーにミリアも少しテンション高めについていく。

 俺も遅れないように、少し早歩きで二人の後ろをついていくのだった。


***


「しっかし、広いな...」

「20組が3年分と考えればな」


 本館は1年生と2年生の教室が主であり、別館に3年生の教室と特別教室が存在する。他に研究棟というものが存在し、そこには4年生から6年生までの教室と、各教授の個人研究室が存在する。

 ミハネ魔術学院は3年間勉強した後、さらにその後、専門的な分野の勉強を3年やるかどうか選べる仕組みになっている。そこまで行くと、本格的に魔術研究の教授になる人しか選ばない。言っちゃえば学生ではなく、それは教授見習いと言ったところか。

 教授見習いになる人はかなり少なく、ほとんどの人は3年で卒業する。だから、研究棟一つに押し込められる形にギリギリなれるらしい。

 今いるのは、本館の2階、ここを右に曲がった突き当りに俺たち1年8組の教室がある。


「っていうと、めっちゃ遠いな...建物の中でこんな感想抱いたの初めてなんだけど...」

「右が1年、左が2年生の教室だ。階層一つにつき、1~7組までずらっと配置されてるからな、8組が外側に追いやられるのはしょうがない。3階で一番遠い15組じゃなくてまだよかったと思っとけ。というか、別館への渡り廊下には近いから特別教室行く時は便利だぞ」


 いいのか悪いのか分からない位置なんだな、8組って。

 そんな風に思っていると、ミリアが何故か2年生の教室の方を凝視していた。


「迷ったあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!!」


 どうしたの?と聞く間もなく、その2年生の教室の方からなんか幼稚園児の女の子みたいな高い大声が聞こえてくる。

 その声につられて振りむいてみると、そこで二人の子供がワーワー騒いでいた。騒いでいるようなのは、その片方だけだったけど。

 ていうか、明らかに俺たちよりも何歳か年下っぽいのに、この学園の制服を着ている。いや、種族が色々あるから別に驚きはしないけど。


「もー!ギーク!8組の教室、端っこって言ってたけどこっち2年生の教室なのだ!」

「いやだから...左じゃなくて―――」

「これじゃまた遅刻しちゃうのだ!?入学式と同じように!」

「それも姉ちゃんが勝手に別館に行くから...」


 なんだあいつら。致命的にかみ合ってないぞ。というか、なのだって初めて聞いた...

 騒いでいる女の子の方は綺麗な長い銀髪をしているが、全く雰囲気と合っていない。終始ハイテンションで八重歯の活発女子だった。

 そして、その女の子の文句を静かに聞いている方は、遠目からだとちょっと分かりづらかったが男の子だ。極めて中性的だが。女の子と同じ銀髪だが、こっちは短い。八重歯も同じだし、姉ちゃんって呼んでたし兄弟か。あと、どっちもトゲ付きの首輪をしている。

 しばらく眺めてると、口論がヒートアップ(女の子の口調が強くなっていくだけ)してきた。ジョーカーはめんどくさくなりそうなのを察知して、口笛を吹きながら8組の教室に行こうとしている。流石にこれ以上ここで口論させておくのもまずいか。そう思って、幼い二人に近づこうとしたその時―――


「うわあぁぁぁん!!ギークのバカあああぁぁぁぁ―――ッ!」

「ッ!?ま、魔力弾使うのはダメだよ...!?」


 女の子が男の子に向かって、魔力を物理干渉出来るまで圧縮して発射する『魔力弾』を撃った。男の子は咄嗟に躱したが、標的に当たらなかった魔力弾がこっちに飛んできた。


「キャッ!?」

「おぉっと!?」


 間一髪で俺とミリアも躱す。あ、危なかった...

 胸をなでおろして飛んで行った魔力弾を見ると同時に気付いた。


「~~~~♪」

「ジョーカー!?口笛吹いて誤魔化しながら逃げるのはいいけど、危なーいッッ!!」

「は?―――ブッ!?」


 あ、やってしまった。ジョーカーが呼ばれて振りむいた瞬間に、顔面に魔力弾が直撃してジョーカーが3mぐらいぶっ飛んで行った。

 バタッと倒れたジョーカーだったが、その後ゆっくりと俯きながらまた立ち上がった。どうしよう、すっごい怖いんだけど、なんか負のオーラ出てるんだけど。

 そして俺とミリアの横を通り抜け、ゆっくりとした足取りで魔力弾を放った女の子の方へ歩いていく。女の子はアワアワと男の子の方に涙目で助けを求める感じで手を伸ばしていたが、ジョーカーに道を開けるように苦笑いで離れていった。


「おい」

「ひゃ、ひゃい!?」


 めちゃくちゃ低いドスの効いた声で女の子の傍に立つジョーカーに対して、女の子はもう漏らすんじゃないかっていうレベルでビビりあがっていた。

 ていうか、殴らないよね?ジョーカーだったら本気でやりそうで怖いんだけど!?


「8組は、向こうの突き当りだ」

「「「...え?」」」


 ジョーカーが1年8組の教室を指さす。

 女の子だけじゃなく、俺もミリアも男の子も素っ頓狂な声が出てしまった。で、でもよかった...うん、やっぱりジョーカー優しいな...この後殴ったりしないよね?


「...え、えっと...」

「...次」

「え?」

「次、やったら関節を外す」

「わ、分かったのだ!?!?」


 ...次やったら、の罰えぐくない?

 ま、まぁ今ここで問答無用で殴らなかっただけでもよしとするか...きっと女の子も次は気を付けるだろうし、知らないけど。

 その時、丁度始業のチャイムと思しきものが鳴り響いた。


「ま、まずいのだ!また遅刻なのだ!」

「姉ちゃん...転ばないように急ぐよ...」

「私たちも急ぎましょう?」

「あぁ、ほらジョーカー」

「ッチ、分かってる」


 これで初日遅刻確定か...

 文句を言っていてもしょうがないので、うるさいと怒られないように小走りで8組の教室に向かうのだった。


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