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第一時間 『入学前の二人』

とりあえずの用語解説


『この世界』

おおよそ五つの大陸に分かれており、人間が住む『人間領』と、魔族が住む『魔族領』が勢力を二分しており、それぞれ二つの大陸を完全に掌握しており、真ん中に存在するボリア大陸を完全に二つに分けている状態にある。

また、魔力が存在し、これがこの世界の重要な要素として機能している。

魔力による、魔術文化が発達した影響が文明レベルは少し低く、中世から産業革命前後の文明レベルの国が多い。しかしその代わり魔術文化が発達しているため、現代で言う精密機械のようなもののような機能を持った魔術道具が少なからず開発されていたりする。

また、現代のような高度な文明を持つ土地が何処かにあると推測されているが、どこにあるかは全く分かっていない。しかし、たまに人知の及ばない技術を持った人(現地の人にとっては)が現れることがあり、そういった人は『渡来人』と呼ばれる。しかし、渡来人は自分の出自については決して喋ったりしない。

ボリア大陸の中央部付近には、最大の魔術学校である『ミハネ魔術学園』が存在し、そういった最先端の魔術道具は、この学園が多数所持している。またほかの国の文明レベルよりレベルが高い。

人間と魔族は長い間、戦争と休戦と繰り返しており、今のところは休戦の時期である。また、今現在の休戦は珍しく200年も続いており、第三次平和時期と言われたりもしている。ミハネ魔術学院は第二次の際に作られた合同学校である。

主力な種族は人間と魔族に分かれるが、エルフやケットシー、リザードマンなど、細かい種族が各地に集落を作り散らばっており、これらの種族は人間と魔族の戦いにはあまり関与していない。また人間も魔族もこれらの種族に戦いを挑むこともこれまでなかったとされている。

最後に、この世界ではステータスと呼ばれる個人個人の力を文章化したものが存在し、このステータスを開く力を種族問わず、全員が持っているとされる。


 春の陽気な風が髪の間を吹き抜けていく。

 こういう定形文を使うと、誰もが俺が今ワクワクしていることを連想してくれると、師匠から教わった。

 そう、学校の入学式というものだ。

 俺、『アーカード=アルサケス』は、今日やっとこさ、名門中の名門の魔術学校、『ミハネ魔術学園』に入学できるようになった。

 この日をどれだけ待ち望んでいたことか。ミハネ魔術学園はこの世の誰もが憧れるほどの名門校である。

 俺たち人間が住む『人間領』と、魔族が住む『魔族領』の狭間に作られたこの学院は、様々な種族が集まってくる。そして、その種族の伝統たる魔法の研究や、その発展なども手掛けるなど、あらゆる分野の魔術を学ぶのに最適な場所でもある。

 周りの空間も、どんな種族でも馴染めるようにあらゆる文化が融合されている節がある。人間領の中で美しい木だと言われている桜の木もあれば、エルフ御用達の世界樹の品種改良のような木も植えられている。

 話によると、ほかの場所にはまるで魔族領の中のような場所も多数あるという。

 俺はこんな名門校に入れるほどの生まれではないが、師匠がこの学院の卒業生であるらしく、なんと俺の要望を叶えるためにわざわざコネを使ってくれたらしい。

 それほどの期待がかけられていると思うと、胸が熱くなってくる。


「(それにしても、学生が多いなぁ)」


 回りを見渡してみると、俺と同じ青を基調とした制服を着ている少年少女が多数の流れを作って歩いて行っている。

 行先は当然ミハネ魔術学園だ。全て、今日が入学式であるためだろう。というとこの流れは新入生の流れか。

 よく見てみると、獣耳が生えている者や、耳が異様に尖っている者もいる。様々な種族が集まってくるというのは嘘じゃないらしい。

 こんなのワクワクするなという方が無理だろう。

 新しい魔術の世界というのもワクワクするが、今まで学校というものに行ったことがない俺は、学校生活というものにも憧れていた。

 これからその憧れが―――夢が叶うと思うと、笑みが自然に浮かんでくる。


「...?あれは?」


 そんなことを考えていると、視線の先に一人の少年が映った。

 その制服からして、どうやら彼も新入生のようだが。

 桜の木を見上げて、無表情のまま硬直している。周りからもなんだかぶつぶつと言われているみたいだった。

 そのくどいと思えるほど黒い髪と赤い眼が特徴的で、なんとなくだが筋肉質のような気がしなくもない。顔も爽やかなイケメンのようだが、その無表情がクールというか無機質のような印象を与える少年だ。

 どう見ても種族は人間のように見えるが、もしかして桜の木が気になるのだろうか?

 確かに人間領でもよく考えれば桜の木が生えてるところは世界規模で言えばわずかな気がする。今までそんなこと考えたこともなかったが。

 こういう時は何も考えずに話しかけるのが一番だ。これから学校生活を一緒に送る仲になるわけだし。


「よう、綺麗な木だろ?」

「...?」


 話しかけると、少年は無表情のままだが、確かにこっちを見る。

 しかし、すぐにまた桜の木を見上げ始めた。もしかして普通に無視されているのか?いやでも、ここでめげたら意味がない。


「俺、アーカード=アルサケスっていうんだ。えっと、貴方の名は...?」

「...名?...名前を聞いているのか?」

「う、うん」


 なんだろう、よくは知らないけど無口系というものなのかな?

 今日まで、師匠とずっと魔術の修行してたのが響いてるのかな...


「...『ジョーカー=ミラー』だ」

「ジョーカー=ミラー...ジョーカーって呼んでいいですか...?」

「好きにしろ、敬語もな」

「う、うん...じゃあ敬語やめる...えっと、よろしくな?」

「...あぁ」


 短く返事すると、ジョーカーは今度こそ桜の木から離れて、人の流れに沿って学園の方に行ってしまった。

 なんというか、取っつきにくいけど、悪い奴ではなさそうだな。

 とにかく、気合を入れないといけないかもしれない。最先端の魔術学校ということは、ここは都会ということだ。今までずっと田舎の方に引っ込んでいた俺では、皆と仲良くなるのに時間がかかるかもしれない。積極的に話しかけていかないとな!

 そう決意を新たにして、俺も学園に向かっていく。


***


 学院の門をくぐり、塀の中に入ると、まるで広大な草原のような庭に出た。

 中央には見たこともないぐらいにでかい噴水があり、その周囲にも四つの小さな噴水がある。ベンチも割と多い数が設置されている。俗にいう噴水広場というものだろうか。両側には二つの大きな建物がある。

 屋根が青色と赤色で分けられている。もしかして学生寮だろうか?

 というか、よく見ると、その建物から生徒と思しき人たちが出てきていた。うん、学生寮だった。青が男子寮、赤が女子寮だろう。

 それにしてもこれが本当に学校なのか?

 あまりの広さに眩暈がしてきそうだった。これが都会の普通なのか?

 そういえば都会には魔力なしで煙を出して動く乗り物だとか、別の場所の風景を見ることができる箱のようなものがあると聞いたことがある。それを思えば、この学校の広さも納得...納得できるのか?

 しかし、ここで茫然としている時にも、時間は過ぎていく。入学式に遅刻する生徒とか、先生にまで呆れられてもしょうがない所業だ。

 それだけは回避せねば。そう思って俺が小走りで学園の本館に向かおうとしたとき、視界の端に今度はある少女が映り込んだ。

 俺は初めて見る、見事なまでの金髪碧眼の美少女で俺が言うのもなんだが、可憐な雰囲気の子だ。なんというか花のようで、匂いがここまで飛んできそうな気さえする。

 しかし、よく見てみると様子がおかしい。うずくまって、膝を抑えている。もしやこけた?


「くぅ~~~...ぅ...」


 あーいや、確定だ。涙目で膝を抑えている。絶対にあそこでこけて痛くて歩けないやつだ。

 えーと、こういう時どうしたらいいんだろうか?医務室?いや、歩けないんだから困ってるわけだし...

 回復魔術が使えないから、俺が行くのはやめた方がいいか...?現に周りの生徒たちは皆無視して本館の方に向かっている。ここは出しゃばらない方が...

 いや、そうも言ってられないか。

 回復魔術は使えなくても、ハンカチを渡すぐらいしなきゃダメだろう。


「えっと、これ使う?」

「え...?」


 でも、女の子と面と向かって話すのはちょっと恥ずかしいので、目は逸らさせて貰います。

 目を逸らしながらも、ハンカチを手に乗せて、手を伸ばしていると、見えないがどうやら女の子がハンカチを受け取ってくれたらしい。


「あ、ありがとう...」

「い、いえ...回復魔術は使えないけど、これぐらいなら...」

「ううん、とっても嬉しいわ」


 チラッと見てみると、ハンカチで膝を抑えながらも、とても可愛い満面の笑みでこっちを見ていた。

 ダメだ、これは長時間見ていると昇天するやつだ、とても尊い。守りたい、この笑顔。


「私は『ミリア=クラウド』。ミリアと呼んでちょうだい。貴方のお名前は?」

「え?あ、あぁ...アーカード=アルサケスだ」

「アーカード君ね、うん改めてありがとう」


 女の子にお礼を言われるのは、あまりなかった気がする。なんとなく嬉しい。

 そんなことを思って内心ほのぼのしていると、急に辺りが暗くなった感じがした。というか暗くなった。

 太陽に雲でもかかったのだろうか?と上を見てみる。


「え...?え!?」

「あ、『エミリア』」

「お待たせしました、お嬢様」


 上を見ると、黒いパラソルを開いて、ふわふわと重力をほぼ無視してゆっくり降りてくるメイド姿の女性がいた。

 短いショートヘアの黒髪で、ミリアよりも更に小さい。まるでジョーカーのように無表情で、動かなければ人形と言われても信じるかもしれないぐらいだった。

 パラソルを持った逆の手には、救急箱のようなものが握られており、降り立ちパラソルを閉じると、すぐさま箱を開けて凄まじいスピードでミリアの膝を治療し始めた。

 ミリアの治療が終わり、膝にガーゼを貼ると、ようやく俺を認識したようにキョトンとした顔で俺を見た。


「このハンカチは貴方のでしたか?」

「え?あ、はい。そうです...」


 さっき俺がミリアに渡したハンカチをメイドさんが返してくる。その表情はずっと無表情。なんだろう、やっぱり余計な事はしない方がよかったかな?


「お嬢様が迷惑をかけたようで、どうもすみません」

「え!?い、いやそんなことないですよ!?」

「ちょ、ちょっとエミリア!」


 そう思っていると、メイドさんは不意に少し微笑んで、こっちに会釈してきた。

 急に向けられた笑顔に、少しドキッとする。


「私は『エミリア=ニーズヘル』、ミリアお嬢様のメイドを務めさせてもらっています」

「に、ニーズヘルさんですか。えっと、俺はアーカード=アルサケスです』

「アルサケスさんですね。本当...ミリアお嬢様はドジっ子でして、流石にこのミハネ魔術学院に入学するとなると、私もずっとお世話することができないので不安でして...」

「ちょ、ちょっとエミリアってば!」

「アルサケスさん、ミリアお嬢様のことをよろしくお願いします」

「は、はい...分かりました」


 うん、とにかく余計なことをしているわけじゃないらしくて、よかった。

 しかし、ほっと胸をなでおろすと同時に、ちょっとした疑問も湧いてきた。


「あの...さっき、パラソルだけで落ちてきましたよね...」

「え?」

「あれって、どんな魔術ですか...?それとも特殊な『スキル』?」


 スキル―――この言葉に関しては説明が必要だろう。

 この世界には『ステータス』という個人個人の力を示すものが存在する。

 ただ念じて、紙などの情報媒体に触れるだけでそれが文面として浮かび上がり、自身の力を確認できるというものだ。

 そして、その中の重要な要素のうちに『スキル』というものがある。

 『スキル』というのは、対象が身に着けているなんらかの技術や知識、技などの総称のことである。

 これらステータスは全種族共通であり、どの種族も、なんで自分たちがこんなことが出来るのか理解できていないらしい。

 ただ、生まれた時から、自分たちにステータスが存在し、それを媒体に記すことが出来る。俺も師匠もそうだった。

 おっと、話が逸れた。スキルの話だった。

 スキルについてだが、さっきも言った通り対象の身に着けている何らかの技術や知識、技などの総称であり、数えきれないぐらいのものが存在する。

 『薬学知識』だったり『剣術:破斬』など、世間一般に知られているスキルはまだ1割程度だという噂もある。

 しかし、勘違いしないでほしい。これらを取得したからと言って、急にそれが出来るわけではない、というか、これらは勝手に取得されるわけではないということだ。

 例えば、『薬学知識』の場合だ。

 ある学者が、薬学の分野に手を出し、二年の年月を経て『薬学知識』のスキルを得たとする。

 だが、この状態になったからと言って、勝手に勉強してない分の薬学の知識が身につくというわけではない。

 ステータスというのは、自分の力をある種データ化して、記したものだ。

 その一部であるスキルの項目は、単に自分がやれることを分かりやすく示しているだけに過ぎない。

 人の『剣術:破斬』のスキルを見て習得したいと思うなら、実際に教えてもらうか見様見真似で完全再現を試すしかない。何回、何十回と。

 自分一人の力で破斬を再現できるようになれば、自分のステータスに『剣術:破斬』としっかり明記されるようになる。

 所謂、免許のようなものとも言える。自分はこういうことが出来るよ、という。

 破斬が使える人には『剣術:破斬』と書かれ、薬学について造詣が深いとされれば『薬学知識』とスキルの項目に書かれる。

 ステータスのスキルの項目にはこれ以上の意味は含まれない。

 魔術なども、何かしら覚えれば勝手にスキルとされてしまうぐらいだ。

 卒業間際には、自分と同じスキルを持つ同学年の人が大量に出ることだろう。

 さて、物凄く長々と喋ってしまったが、本題はニーズヘルさんのスキルだ。

 もし魔術による効果なのだとしたら、どうにかして自分も習得してみたいものだ。そのためには魔術について深く勉強しなくてはならないだろうが、そのためにこの学園に来ているのだから問題ない。もくひょうが一つ出来るというものだ。

 

「はい...確かに私が上から降りてきたのはスキルによるものですが...これは『固有技能(ユニークスキル)』というものなのです」

「ゆ、固有技能(ユニークスキル)!?』


 ...もう一つ話すことが出来たようだ。

 スキルはある意味、ただ名前を付けてこういうことが出来ますよ、という印でしかない。『固有技能(ユニークスキル)』も実質そうなのだが。

 だが、『固有技能(ユニークスキル)』は、その個人しか出来ない芸当。血統か?体質か?あるいは単純な才能か?

 とにかく、あらゆる原因によって、その個人特有となったスキルは特別に『固有技能(ユニークスキル)』として扱われる。まぁ、結局ステータス欄に書かれてるからって、その『固有技能(ユニークスキル)』には何らかの法則に則った理由があるんですけど。

 しかもどんなにくだらないことでも、実質その人だけにしか出来ない芸当なら『固有技能(ユニークスキル)』扱いされてしまう。歴史上では『放屁で空を飛ぶ』固有技能(ユニークスキル)が確認されたらしい。確認されてしまったらしい。

 と言っても、『固有技能(ユニークスキル)』自体が珍しいのも確かだ。

 ステータスがどうやって、普通のスキルと固有技能(ユニークスキル)を分けているのか、とかの疑問も湧いてくるが、それはこの際無視しよう。

 要するに、目の前にいるメイドさんは、自分一人にしか出来ない方法でパラソルだけでふわふわと上から落ちてきたということなのだ。


「私の固有技能(ユニークスキル)は一定時間、体重を減少させる『身体操作:体重』というものでして...」

「へぇ、それでパラソルだけで...いや教えてくれてありがとうございます」


 体重の一定時間の減少...確かに全く聞いたこともない。魔術によるものなのか、そもそもニーズヘルさんは人間ではなく、何か他の特殊な種族なのか...こういった謎も解き明かせるようになりたいとも思い始めてきた。


「って、え、エミリア...今時間は?」

「え?あぁ...もうすぐ入学式が始まりますね」

「えっ」


 こんなところで喋ってる場合じゃないじゃん。

 早く行かないと、さっきまで恐れていた、初日から遅刻が達成されてしまう!

 俺よりも先にミリアさんが先に本館に走り出し、俺もすぐさま追いかけるようにして本館に向かうのだった。


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