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第十時間 『見つけたものは、唐突か』

 キーンコーンカーンコーン

 魔石の魔力放出の実験が終わりかけてきたその時、先にスピーカーから軽快な授業終了のチャイムが鳴りだす。それを聞いたディル先生は残念そうな顔をしながらも、皆に片づけを指示する。


「では、今回はこれにて終了です。ありがとうございました」


 先生がそう言って、教室から出ていった後、瞬く間に教室は授業から解放された生徒達によってにぎやかになっていく。さっきまで授業に没頭して静かだったのに、すぐさまここまで騒がしくなるので、少し驚いた。これが学校か...

 しかし、そう言って驚いてばかりもいられない。これから他の奴の部活動の手伝いという学校初心者にはハードルが高いことが待っている。ボディーガードなんていう危なそうな役だが。


「おーいアーカード、それじゃ行こうぜ」


 その依頼を持ち込んできた、キルスが立ち上がって促してくる。


「その前に、どこを調べるかとか決めてるのか?」

「まず前に石像(ゴーレム)を見つけた山のふもと辺りかな...聞き込みもしていくつもりだ。今日のところはそんぐらい」

「聞き込みとか自分でやってくれよ?」


 いまいち、どうやって話しかければいいのかとか、よく分からない。17にもなって恥ずかしいことだが。


「わーかってるって。あくまで危ないことがあった時にお頼みするだけだから」


 よし言質はとったぞ。


「アーカード君、何してるの?」

「ん、ミリア?」


 無理して話しかけなくていいという確かな安心感を得た俺が心の中でガッツポーズしていると、キルスの後ろからミリアがてくてくとこっちにやってきた。どうやら面白いことをしようとしていると思ったらしい。好奇心でワクワクしている感じの笑顔をしている。


「おっと、クラウドさん、こんにちは」

「あ、確かキルス=シューズ君だったよね、こんにちは。何か二人でお話してたの?」

「これから山の中に消えた石像(ゴーレム)探しだ」

「調査っていうこと?面白そう!」

「それなら、クラウドさんもどうかな?」

「いいんですか?」

「数は多い方が確実だからね」

「ありがとうございます!なんだかワクワクするね!」

「まぁ、そうだな」


 外見は金髪碧眼のお嬢様だが、ミリアは意外とアグレッシブな性格をしている。ジョーカーを助けようと飛び出したり、こういう冒険のような話に食いついてきたりと、色々積極的だ。かといってワガママ過ぎたりもしない。ちょうどいい性格をしている。

 それはそれとして、こういう時ってやっぱり友達を誘ったりした方がいいのか?

 ミリアが入ってきたことで、少しそんなことを思う。しかし、見渡してみてもベルネもギークもジョーカーもいつの間にか教室の中にはいない。ベルネとギークは外で遊んでそうだが、ジョーカーに関してはなんだか予想できない。図書館とか行ってるような気もするし、昨日みたいに既に寮で休んでるような気もする。まぁ、会ったら誘ってみればいいかな。


「それじゃしゅっぱーつ!」

「おー!」

「おー」


 先頭に立ってハイテンションでずんずん先に進んでいくキルスに、それについていくミリアと俺。こう、キルスやミリアみたいに声を大きく張り上げることはしないが。

 なんとなく、楽しいとは思っていた。


***


 さて、だだっ広い学園敷地内を10分ぐらい歩いて、ようやくキルスが写真を撮ったという山のふもとまで来ていた。

 この学園は、山と海に近い場所に建てられ、山に至ってはかなり大きいのに敷地内である。これは、魔術の練習や実験。地下でゆっくりとだが大量の魔力の流れとなる『龍脈』と呼ばれる流れもこの山にあり、その影響によって魔石が多く取れるから、という魔術研究のための意味合いも強い。

 もし、学園が山に石像(ゴーレム)を送るような事情があるとしたら、魔石鉱山の人手不足などだろう。そういう時、簡易的な労働力になる石像(ゴーレム)は非常に便利だ。


「でかい山だね...」

「龍脈が巡ってるのと関係があるのかもな」


 見上げれば200~300mはありそうだ。大体、師匠が家を構える山も同じぐらいの大きさだったが、もう少し斜面がなだらかで人の出入りが簡単なイメージだった。

 しかし、この学園の山は、こうなんというか、まだ未開の地みたいな感じがしなくもない。申し訳程度に一本道が整備されているが、それでも登っていくのは疲れるだろう。


「うーん、でも肝心の石像(ゴーレム)はいないみたいだね~」


 スマホの画面越しで景色を見ているキルス。さっきからスマホからパシャパシャと音が鳴っているのだが、なんだろうか。あんなに簡単に景色を保存できるとすると、監視されてるみたいで嫌になってきそうな気がする。


「まぁ、別にここで往復してる意味もないよな」

「それじゃあ聞き込みとかするの?」

「その予定だよ」

「でも、ここってそんなに生徒来る場所なのか?」


 周りを見渡してみても、俺たち以外の生徒が誰一人としていない。これじゃあ昨日も見ている人が他にいるか、怪しいもんだ。


「学食とかで聞き込んでもいいよ」


 え、なにそれはめんどい...全く手がかりがない中でそんなことされても、砂漠の中で特定の砂粒を見つけるようなものだろう。そして、そうなったら最早ボディーガードなんて全く要らないだろう。


「それ、すっごく長くなりそうだね...」

「他に紛失事件とかあるんだろ?そっち行ってみればいいじゃん」

「そうしようかな」


 よし、とりあえず最も嫌な未来は回避したぞ。まぁ、そんな無駄になりそうな聞き込みはキルス自身も嫌だろうしな。


「それじゃ、まずは研究棟かな」

「研究棟か...」

「......」

「...?ミリア?」


 急に無言になったミリアを見ると、ミリアは山の方でも研究棟の方でもない―――何もないところを怯えた様子で見ていた。怯えていると言っても震えているわけでも、表情がこわばっている訳でもない。ただ、なんとなくだが分かってしまう。それ以上のもっと瞬間的に感じる恐怖により、脳の処理が追い付いていないかのようにフリーズしてしまっている。俺にはそう感じた。

 そしてそれが―――何かあるのか、と俺自身に不安を植え付けてくるようだった。


「お、おいミリア...何があった?」

「ッ...あ、アーカード君...」


 心配になって肩を叩くと、ビクッと肩を跳ねさせると同時に正気に戻ったようで、こっちに振り向いた。

 だが、その表情はいまだ暗く、しかもその表情をどうにかして元に戻すとしているのが、逆にやはり何かあったのだ、ということを確信させる。


「えっと...何か見たのか?」

「それは...」

「...言いたくないなら言わなくても大丈夫だけど...」

「...あの、ごめんなさい。ちょっとお花摘みに行ってきます」

「え...」


 確実に逃げるための口実だが、とにかくトイレに行くということでミリアはゆっくりと校舎の方に歩いて行った。しかし、大体の方角はミリアがさっきまで見ていた方向だ。

 俺とキルスはそんなミリアの様子をただ見ているだけしか出来なかった。どうしてやればいいのか分からなかった。


「...どうする?」

「ちょっと待ってみるか」


 きっと、何かの間違いで、俺の不安は杞憂に終わるだろう。今の俺にはそう盲目的に信じているしか出来なかった。

 今のミリアの様子が、そんなあっさりと終わるはずがない、と心の何処かで分かっていたはずなのに。

 あれが大丈夫なはずがない、と前に知っていたはずなのに。


「......」


 そして、俺が無理やり封じ込めた考えこそが正解だというように―――俺たちがその場で待ってから、15分が経過した―――

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