表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/168

お嬢様一行は休憩する

「安心してくださいませ。木に登るのは、わたくしとロザリーですので」


 リュシアンの言葉を聞いたソレーユは、ぎょっとする。


「登るのがリュシアンさんでも、安心できないわ。他に、人を呼べばいいのでは?」

「大丈夫ですわ。わたくし、リンゴの収穫期は、毎年お手伝いに行っていましたの。報酬のリンゴを目当てに。一日に、五箱分以上はリンゴを収穫していたかと」

「あなた、本当に子爵令嬢なのよね?」

「ええ。間違いありませんが」


 ソレーユは返事をせずに、盛大なため息をついていた。


「リンゴの木は、そこまで高くないので、大丈夫ですわ」

「そのスカートで、登るのね」

「ええ。ストッキングとドロワーズを穿いているので、心配ご無用です」

「もしも木から落ちてきても、リンゴ以外受け取る自信がないわ」

「受け身は、この前コンスタンタン様から習いましたので」

「……」


 ソレーユが呆れて物も言えなくなった隙に、リュシアンはロザリーとシルヴァンに声をかける。


「さあさ、始めましょう。シルヴァンさんは、ロザリーが収穫したリンゴを下から受け取ってください」

「本当に、あんたら二人が木に登るんだな」

「ええ」

「大丈夫ですよお。リュシアンお嬢様と私は慣れているので」

「ええ。任せてください。ロザリーは、木に登ってリンゴをもいでくださいね」

「はーい」


 こうして、リュシアンとロザリーの木登りが開始される。

 ソレーユはハラハラした様子で木登りを見守り、シルヴァンはロザリーを見上げたらスカートの中身が見えてしまうので、逸らした顔を真っ赤にさせていた。


 リュシアンは慣れた様子でするすると木の上に登っていく。太い枝に腰かけ、エプロンにもいだリンゴを置いていった。五個もいだらリンゴを包み、長い紐で結ぶ。それを、ゆっくりソレーユのいるほうへと下ろしていった。

 一方、ロザリーは豪快に、シルヴァンへエプロンに包んだリンゴを投げる。


「いきますよー」

「ああ!」

「えい!」


 シルヴァンはタイミングよく、リンゴが包まれたエプロンを受け取っていた。

 その後、リンゴは箱に詰められ、エプロンと紐は投げて返される。

 それを何度も繰り返した。

 収穫には三時間もかかった。リンゴでいっぱいになった箱を、荷車でアランブール伯爵邸まで運んでいく。


「たくさん採れましたね。ソレーユさん、お疲れ様でした」

「もう、くたくたよ」


 途中で一歩も歩けないと言うので、シルヴァンがく荷馬車にソレーユを乗せた。


「うわ、重いっ!」

「失礼ね!」

「本当のことを言っただけだ」


 シルヴァンの遠慮のない物言いに、ロザリーは笑う。

 彼はどうやら、自由気ままに育ったようだ。その天真爛漫てんしんらんまんさを、リュシアンは眩しく思う。

 正統な後継者ではないからと、シルヴァンは尖塔に幽閉されていた。息苦しい毎日だっただろう。許されるのであれば、王の菜園でのびのびと過ごしてほしい。リュシアンは切に思う。

 荷車はアランブール伯爵家の裏口に停め、厨房にリンゴを運ぶ。


「シルヴァンさん、ありがとうございます」

「おう」

「リンゴの収穫は、いかがでした?」

「すげえ楽しかった」

「よかったです」


 だが、仕事はこれで終わりではない。そう言うと、ソレーユとシルヴァンは目を丸くしていた。

 二人の体力は限界のようだ。一休みが必要だろう。


「その前に、少しだけ休憩しましょうか」


 ソレーユはホッとした表情を見せ、シルヴァンは「やったー!」と言って喜んでいた。


「では、わたくしとロザリーでお茶とお菓子の準備をしますので、お二人は二階の居間で待っていてくださいな」

「え、待って。私もお茶の準備をするわ」

「俺も、何か手伝う」


 自分たちだけ休むわけにはいかないと思ったのだろう。しかし、ソレーユとシルヴァンは明らかに疲れている様子だった。


「では、お二人には、お片付けをお願いいたします。わたくしたちは、準備をいたしますので」

「いいの?」

「ええ。あとで、楽をさせていただきます」

「だったら、お言葉に甘えて」


 ここで、二手に分かれる。リュシアンはロザリーを連れて、厨房に向かった。

 ロザリーは湯を分けてもらい、紅茶を淹れ始めた。リュシアンは昨晩作った菓子を厨房の棚から取り出し、白磁の皿に盛り付ける。

 作った菓子は、『サブレ・ディアマン』と呼ばれるもの。型抜きしたサブレに、グラニュー糖をまぶして仕上げる。散らしたグラニュー糖がキラキラして見えるので、ダイヤモンドを意味するディアマンが名前についているのだ。

 紅茶と菓子、それぞれ銀盆ぎんぼんに載せて二階まで運ぶ。二階にたどり着いたら、ティーワゴンに載せて、居間を目指した。


 居間で待つソレーユは背筋を伸ばして長椅子に座っていたが、シルヴァンはぐったりと身を預けていた。対照的な二人の態度に、リュシアンはくすりと微笑む。


「お待たせいたしました」

「アンお嬢様特製の、絶品サブレですよ~」


 テーブルに置かれたサブレを見て、ソレーユは驚いた。


「こちらのサブレ、リュシアンさんが作ったの!?」

「はい。お口に合えばいいのですが」


 ソレーユは信じ難い、という目でサブレとリュシアンを交互に見ていた。


「あの、一つ、質問してもいいかしら?」

「ええ、どうぞ」

「なぜ、お菓子作りをしようと思ったの? 普通、お菓子を作るのは、菓子職人パティシエの仕事でしょう?」

「それは──」


 リュシアンが菓子作りを始めたきっかけは、ロザリーの家に訪問していた時だった。

 ある日、ロザリーの母親が、大きなカボチャパイを焼いたのだ。それを見たロザリーの家族は目を輝かせ、笑顔でカボチャパイを頰張る。それを、ロザリーの母親は幸せそうに眺めていたのだ。


「そこでわたくしは、料理を作るとみんなが笑顔になって、幸せな気持ちになれるんだなと気づいたのです」


 ソレーユは、目の前でサブレを頰張るシルヴァンを見た。実に、幸せそうだった。


「お菓子を作ることって、すごいのね」

「ええ、そうなのですよ」


 ソレーユはサブレに手を伸ばし、半分サクリと頰張る。


「すごくおいしいわ」

「ありがとうございます」


 リュシアンも一枚食べてみた。サクサクとした食感の中に、バターの豊かな香りが口いっぱいに広がる。サブレはおいしく焼き上がっていた。


「あの、リュシアンさん」

「なんですの?」

「私にも、お菓子は作れるかしら?」

「ええ、作れますわ」

「本当に?」

「ええ。お菓子は、分量をきちんと量って、作り方の手順を守ったら、誰にでもおいしくできるものです」

「だったら、私にも、作り方を教えてくれないかしら?」


 ソレーユの言葉に、リュシアンは笑顔で頷いた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ