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堅物騎士と、害獣対策委員会

 コンスタンタンは目玉が飛び出るほど驚く。

 ここ最近、結婚を急かしているグレゴワールだったが、まさか初対面の女性に息子を勧めるとは想像もしていなかった。


 リュシアンは眉尻を下げ、明らかに困っている。

 コンスタンタンは父親を責めるように指摘した。


「父上、このようなことを、初対面の女性に言うのは失礼では?」

「あ、ああ。そう、だったな」


 グレゴワールは頭を下げる。リュシアンは困った様子のまま、首を横に振った。

 若干気まずい中での朝食となる。


 朝食後は、部屋を案内した。

 廊下を歩いていると、手のひらサイズのまだら模様の蜘蛛が目の前を横切った。

 歩みを止め、ちらりとリュシアンを見る。彼女は笑顔で言った。


「王都の蜘蛛は、オシャレな模様でしたわ」


 どうやら本当に、虫が平気らしい。

 コンスタンタンの母親だったら、悲鳴を上げて顔色を青くしていただろう。


 リュシアンの部屋は二階の客間だ。


「夜は冷えるので、暖炉の火を絶やさないようにしています。それから──」


 じっとリュシアンに見つめられ、わずかにたじろぐ。


「なんでしょう?」

「アランブール卿、敬語は使わなくてもけっこうですわ。わたくしは、お客様・・・ではありませんので」


 あくまでも、この王の菜園の長はコンスタンタンである。リュシアンはその下で働くつもりで来たという。

 ならば、その要望には応えなければならない。コンスタンタンもまた、彼女を働く仲間の一人として認めなければならなかった。


「わかった。敬語を使わないと、このように少々喋りが武骨になるが構わないか?」

「まったく問題ありませんわ。領地にいる父に比べたら、アランブール卿の喋りはずっと丁寧で紳士です」


 運び込まれたリュシアンの荷物はそこまで多くない。木箱が三つある程度だ。女性なので、これの倍以上あると思っていた。


「小物は、王都の商店で揃えようと思いまして」

「ああ、それがいい。社交期は、店の品揃えも豊富になる」

「まあ、楽しみですわ。アランブール卿、あのよろしければですけれど……お買い物につきあってくださいません?」

「買い物?」

「嫌だったら、いいのですが」


 リュシアンはサクランボ色の唇に人差し指を当て、小首をかしげてお願いしてくる。

 このように愛らしい人からの誘いを断る男がいるのか? コンスタンタンは己に問いかける。

 答えは決まっていた。


「では、案内しよう」

「ありがとうございます! アランブール卿は、お優しいのですね」

「初めて、言われた」

「本当ですか?」


 というか、今までこのように、女性と長く喋ったこと自体初めてだ。

 リュシアンは不思議な女性である。

 肌が白い点は気になるものの、魅力的に映っていた。

 母親と違い、生命力にあふれているからだろうか。


「では、今日はゆっくり休んで、買い物は私の次の休暇──四日後になるが構わないだろうか?」

「わたくし、午後から働き始めるつもりですが」

「疲れているのではないのか?」

「いいえ、まったく。働いていないのに、どうして疲れますの?」


 リュシアンは、旅疲れという言葉を知らないらしい。


「そうか。わかった。では、午後から畑を案内して、そのあとはウサギの──」

「ミートパイですわね!」

「あ、いや……まあ、そうだな」


 害獣対策について話すつもりだったが、リュシアンはミートパイかと思ったようだ。

 今日は初日だ。急ぐことはないだろう。

 ひとまずスケジュールは決まった。コンスタンタンはリュシアンと別れ、通常業務に戻る。


 ◇◇◇


 午後から、予定通り王の菜園を案内する。

 リュシアンは使用人が纏っているような、質素なエプロンドレス姿で現れる。

 帽子はつばが広く、顎の下でリボンを結ぶシンプルなものを被っていた。

 革の手袋をはめ、準備は整っているようだ。


「ここが、王の菜園だ。フォートリエ子爵家の大農園に比べたら、小規模だと思うが」

「野菜の種類ごとに、畑が区切られているのですわね」

「そうだ」

「なんだか、可愛らしく見えます。絵本に出てくる、ドワーフの畑のよう」


 大規模な農業をしている者から見たら、王の菜園は妖精の畑のように見えるのか。

 今の時季は、キャベツにホウレンソウ、レタスなど、秋から冬にかけて収穫期となる野菜を中心に国王へ献上されていた。

 リュシアンはしゃがみ込み、ダイコンの葉を軽く掴んで観察している。


「何か、変わったところがあるのか?」

「ウサギが、葉を齧っていますわ。こちらは、鳥が摘まんでいるようです」

「葉に残った痕で、どの動物かわかるのか?」

「いいえ。フンが落ちているので」

「なるほど」


 秋の食欲旺盛な害獣には手を焼いている。収穫量がぐっと減り、王宮の料理部から苦情が出るほどだった。


「一応、罠は仕掛けているようだが、最初は効果があったようだが、最近はまったく捕まらないと報告書にあった」

「動物は賢いので、学習しますの。仲間が捕まっているのを見て、同じ目に遭わないよう罠には近づきませんの」

 

 ならば、どうすればいいのか。薬剤散布は、できない。王の菜園は、無農薬で作る決まりがある。当然、獣除けの忌避剤は葉に付着する可能性があるので使えない。


「アランブール卿、ウサギ狩りをしたことはあります?」

「何回かある」


 士官学校時代、騎士の付き添いで狩猟に出かけたことがあった。

 ウサギ狩りも、何度か付いていったことがある。

 犬が捜し出し、跳び出したところで狙撃するのだ。


「ということは──」

「ウサギ狩りをするしかありませんわ」

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