堅物騎士は、家族と話し合う
「コンスタンタン様、他にも、心配事がありますの?」
「ソレーユ嬢が……」
言いかけて、我に返る。ソレーユが公爵令嬢で、王太子と結婚するはずだったということは秘密だった。
「いや、なんでもない」
リュシアンはコクリと頷くだけで、追求しなかった。コンスタンタンは内心謝りつつも、気を引き締めなければと思う。
「あの、ソレーユさんについてですが、気になることがありまして」
「気になること?」
「はい。両親からは母方の親戚シュシュ家の者だと聞かされておりました。しかし、馬車でお話ししていて気づいたのですが、ソレーユさんはフォートリエ家よりもずっといい家柄のお方なのではないかと」
コンスタンタンは馬車の天井を仰ぐ。
ソレーユは態度やふるまいから、高貴な身分を隠すことができていなかったようだ。
「両親も、ソレーユさんの紹介をする時、少々ぎこちない態度だったのです。親戚に接する時の気安さもなかったなと」
「ふむ」
どうやら、ソレーユ単独の失敗ではなく、リュシアンの両親もやらかしていたらしい。コンスタンタンはどうすればいいのか、天井を見つつ迷った。
今、コンスタンタンが「気のせいだろう」と言ったら、リュシアンはきっとそれ以上言ってくることはないだろう。
しかし、コンスタンタン個人としては、隠し事をしたくなかった。
リュシアンは気づいてしまったのだ。ならば、真実を伝えたほうがいいだろう。
「実は、アン嬢に黙っていたことがある。ソレーユ嬢は、公爵令嬢で、王太子殿下と結婚するはずだった」
「やはり、そうでしたか」
リュシアンはソレーユを王族、もしくは王家の血を引く古い家柄の娘だと予想していたらしい。
「侍女をする際、公爵令嬢であるとアン嬢へ言ったら、気を遣うのではと思ったようだ。フォートリエ夫妻もそれに同意し、隠したほうがよいと判断した。騙すような形を取ってしまい、本当にすまなかった」
「いいえ。逆に、わたくしを想って隠していたのに、探るような質問をしてしまい、申し訳ありませんでした」
王太子とただならぬ関係であったことも、ソレーユの一瞬の表情の変化を見て察したようだ。
「王太子殿下と知り合いともなれば、わたくしが知り合えるはずもない高貴なお方だろうと確信しておりました」
リュシアンの人を見る能力には脱帽する。最初から、隠し事などできる相手ではなかったのだ。
コンスタンタンは王太子とソレーユの関係について語って聞かせた。
「そう、だったのですね」
「ソレーユ嬢は、深く傷ついているように思える。可能であれば、今まで通り、ただの侍女としてそばに置いてくれたら助かる」
リュシアンは複雑そうな表情を浮かべつつも、承諾してくれた。
「ソレーユさんのことを考えたら、王女様の受け入れは難しいですね」
「そうだな」
リュシアンとコンスタンタンは、共に険しい表情で家路に就いた。
◇◇◇
グレゴワールはおおむねコンスタンタンと同じ意見だった。
王の菜園の事業で人の出入りは多くなるし、一年後には結婚を控えている。まともに王女様を迎え入れられる環境ではないと。
「特に予定もなく、コンスタンタンが娘だったら、喜んで引き受けたのだがなあ。娘は、いないし」
グレゴワールは明後日の方向を向き、フウと物憂げにため息をついているように見えた。
「父上、娘がほしかったのですか?」
「なぜ、そう思う?」
「ため息をついたでしょう?」
「リュシアンさんと接していたら、娘がいてもよかったなと思っただけだ。ただまあ、お前と結婚したあとは、リュシアンさんが本当の娘になるのだなと考えたら……嬉しくて」
思い悩んでいる時以外でも、ため息をつくらしい。コンスタンタンはまた一つ、父親の生態について学んだ。
「王太子殿下も無理はするなと言っていたのだろう? ならば、今回はお言葉に甘えるとしよう」
「そうですね」
王女の受け入れは断る。そのような方向で話が進んでいたが、思いがけない方向へと転がることとなった。
クレールが王女からの伝言を運んできたが、それはありえない内容だった。
どこからか王の菜園での受け入れの話が漏れていたようで、是非行きたいと言っているという。
「王女殿下は男装し、男として休養したいとおっしゃっているようだ」
「王女ではなく、別人として過ごしたいと?」
「そうだな」
そうなれば、また話は別のものとなるのか。コンスタンタンは腕を組み、考える。
「ただ、ぼんやり過ごすつもりはない。野菜の収穫があれば、手伝いたいともおっしゃっていると」
「……」
男としてやってくるのならば、リュシアンの負担にはならないのか。
働きたいという気概も、無視できない。
もう一度、家族で話し合うこととなった。
王女が王の菜園で働くことを望んでいる。そう伝えると、リュシアンの瞳がキラリと輝いた。
「まあ、素敵ですわ! 未来の王妃様が、国王陛下のために野菜を作るなんて!」
野菜作りに興味があるのならば、リュシアンと気が合いそうだ。グレゴワールは、コンスタンタンとリュシアンの判断に任せると言っている。
「しかし、問題はソレーユさんですわね」
「王女としてではなく、別人としてくるのならば、気にする点ではないような気もするが」
問題は、隠し通せるのか、だ。
「ただ、王の菜園での受け入れは王女様に知られてしまったし、ほぼほぼ決まったと言っても過言ではないだろう」
「ええ……」
コンスタンタンとリュシアンが協力して、なんとか隠し通すしかないようだ。




