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堅物騎士は、お嬢様と共に帰宅する

 コンスタンタンは、ロザリーとソレーユが上手くやっていけるのか心配していた。

 ロザリーは庶民的で、貴族ではない。一方、ソレーユは生粋の貴族令嬢だ。

 育った環境が、あまりにも違い過ぎる。

 コンスタンタンは独り、二人の邂逅をハラハラしながら見守っていた。


 そんなコンスタンタンとは違い、リュシアンはいつも通りのおっとりとした様子で紹介を始める。


「ロザリー、新しい侍女のソレーユさんです。仲良くしてくださいね。ソレーユさん、こちらは長年わたくしに仕えている侍女、ロザリーです。何かわからないことがありましたら、彼女になんでも聞いてください」


 ロザリーとソレーユは会釈し合い、見つめ合う。

 先に反応を示したのは、ロザリーだった。


「うわあ、お人形さんみたいに、綺麗な人ですねえ。アンお嬢様が太陽の女神なら、ソレーユさんは月の女神です」

「だったらあなたは、胡桃色の髪をしているから、大地の妖精ね」

「妖精だなんて、初めて言われました!」


 ロザリーは嬉しそうに、はにかんでいた。ソレーユも、『月の女神』と呼ばれて満更ではなかったのだろう。口元が綻んでいた。

 そんな二人を、リュシアンは温かく微笑みながら眺めていた。

 まるで太陽の女神のようだとコンスタンタンは思い、見とれてしまう。


 ロザリーの紹介が終わったら、今度は旅の仲間も紹介する。

 リュシアンの前にのっしのっしと出てきたのは、ガチョウのガーとチョーだ。


「あと、ソレーユさん、こちらが、わたくしのガチョウで、白いほうがガーで、黒いほうがチョーですの」


 リュシアンに紹介されたガーとチョーは、心なしか誇らしげで胸を張っているように見えた。


「ガチョウって、食用として育てているってこと?」

「最初はそのつもりでしたの」

「育てていくうちに、情が移ったとか?」

「いえ、コンスタンタン様が、食用にするのは可哀想だから、飼育するといいとおっしゃったので」

「アランブール卿は、顔に似合わず優しい人なのね」


 どういうふうに見えていたのか。コンスタンタンは問いただしたくなったが、リュシアンがいる手前ぎゅっと口を結んでおいた。


 昼前には、フォートリエ子爵領を出て行く。


「リュシアン、あまり、無理をするな。困ったことがあったら、なんでも相談しろ」

「隠し事は、禁物ですからね」


 両親の言葉に、リュシアンは真剣な面持ちで頷く。


「さあ、皆が待っている。行きなさい」

「はい。お父様、お母様、行ってまいります」


 こうして、フォートリエ子爵領から旅立つこととなった。


 帰りの馬車の中では、女性三人で大いに盛り上がっていたようだ。

 心配は杞憂だったというわけである。

 アランブール伯爵邸までの道のりは、大変賑やかだったようだ。

 馬車に並走すると、賑やかな笑い声が聞こえたほどだ。

 リュシアンが笑顔のまま、帰ることができて本当によかった。コンスタンタンは、心から安堵していた。


 三日後――アランブール伯爵家に戻ってきた。

 リュシアンの帰宅を、コンスタンタンの父グレゴワールは涙を流しながら喜んだ。


「よく、無事だったな!」

「はい。ご心配を、おかけしました」


 グレゴワールは心配するあまり、眠れぬ夜を過ごしていたようだ。今晩はゆっくり眠ってほしい。コンスタンタンは、父の背中を見つめながら思う。


 午後からは、王太子に面会に行く。

 昨晩、王太子から手紙が届いていて、一週間の間は執務室で仕事をしているから、事件の経緯について報告しに来てほしいと書かれていた。


「アン嬢も、一緒に行ってくれ」

「ええ、わかりましたわ」

「私はパスさせていただくわ」


 同行しないと宣言したソレーユは、腕組みしながら険しい表情を浮かべていた。

 ソレーユと王太子は結婚するはずだったのだ。それが破談となった今、あまり顔を合わせたくないだろう。

 そんな事情を、リュシアンは知らない。いったい、どのような反応を示すものか。


「わかりましたわ。それでは、ソレーユさんはわたくしの部屋で、ドレスの生地の整理を」

「ええ、任せてちょうだい」


 ソレーユがピリッとした雰囲気だったのは一瞬で、いつもの尊大な様子に戻った。

 すぐに別の仕事を振ってくれたリュシアンに、内心感謝していた。


 ◇◇◇


 午後──リュシアンを伴い、ロザリーを引き連れて王太子の執務室を訪問する。

 出迎えたクレールは神妙な表情で迎えてくれたが、リュシアンが無傷で帰ってきたと知るとホッとした表情を見せていた。


 王太子は、二人の帰還を喜ぶ。


「無事で、本当によかった。婚約も正式に結んだようで、祝わせてもらおう」

「ありがとうございます」


 ついでに婚約期間を一年設け、その後結婚する旨も報告できた。

 自分のことのように喜んでくれた王太子だったが、目の下にクマが在ることに気づく。最近、睡眠時間を削らなければならないほど忙しいのだろう。

 多忙の中、コンスタンタンとリュシアンのために時間を作ってくれた王太子に、心から感謝する。

 コンスタンタンにできることは、早めに面会を切り上げることだろう。


「それでは、また、王の菜園関係で進展しましたら、ご報告いたします。今日は、これで」

「待て、コンスタンタン」


 コンスタンタンを引き止めたのは、クレールだった。


「お前に、頼みがある」

「クレール。その件はいい」

「しかし、頼める相手はコンスタンタンしかいないかと」

「……」


 何か、王太子は困った状況にあるようだ。

 コンスタンタンは何度も助けてもらった。今度は、コンスタンタンが王太子を助ける番だろう。


「何か、お困りのことがあれば、お話しください」

「いいや、お前も忙しいだろう」

「王太子殿下ほどではありません」

「殿下、コンスタンタンもこう言っていますし、思い切って、頼んだらどうですか?」

「……そう、だな」


 王太子は苦渋の表情で抱える事情を話し始めた。


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