お嬢様は両親と話す
「改めて、アランブール卿、娘を見つけ出した上に救ってくれて、心から感謝する」
「駆けつけた甲斐がありました」
コンスタンタンはリュシアン救出までの経緯を報告してくれた。
驚いたのは、ロイクールの実家であるランドール家が捜査に協力してくれたこと。
「ランドール辺境伯の協力がなければ、今頃フォートリエ子爵領と、ランドール辺境伯領を中心にリュシアン嬢を捜し回っていたでしょう」
リュシアンのために、コンスタンタンはさまざまな場所を行き来していたようだ。
何度感謝してもしきれない。
「それで、アランブール卿。例の話は進めても構わないだろうか?」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
例の話とはなんなのか。リュシアンは首を傾げていたが、すぐに父が教えてくれた。
「リュシアン、喜べ。アランブール卿が、お前をぜひ妻にと、望んでくれている」
「あ──はい」
熱くなる頬に手を当てながら、父の言葉に頷いた。
「なんだ、驚かないのだな」
その件については、コンスタンタンが返す。
「先ほど、リュシアン嬢に申し込ませていただきました」
「おお、そうであったか」
母がリュシアンに優しく微笑みかけながら「よかったわね」と声をかけてくる。リュシアンは涙を堪えながら、大きく頷いた。
コンスタンタンはリュシアンを捜しにフォートリエ子爵家へ寄った際、結婚を申込んでいたようだ。
きちんと段階を踏んで求婚してくれていたようで、リュシアンは喜びで胸が満たされる。
「すぐに結婚を、と言いたいところだが、リュシアン、お前は王の菜園での仕事もあるのだろう?」
「はい。事業を、始めようと思いまして」
「そうか。ならば、それと同時進行となると、婚約期間は一年ほど取らないと、準備が終わらないだろう」
婚約期間にドレスを用意したり、嫁入り道具を揃えたりと、挙げたらキリがないほどいろいろと準備をしなければならない。
婚約期間は早くて半年くらいだが、コンスタンタンとリュシアンには王の菜園の事業がある。
優先すべきは王の菜園の事業であるというのは、コンスタンタンとリュシアンの意見はがっちりと一致していた。
「では、月に一度妻をアランブール伯爵家に向かわせることは基本として、リュシアン付きの侍女を増やす必要があるな。ロザリー一人では、大変だろうから」
「あの、お父様、侍女についてですが」
「なんだ?」
「わたくしの侍女になりたいと望む女性がいらっしゃいまして。どうやらご実家を勘当されたとかで、困っているようでして」
「紹介状は持っているのか?」
「いえ。わたくしの結婚が決まったという噂を社交場で聞いて、やってきたようですの。たぶん、ランドール家との結婚話が広まっていたのだと思うのですが」
「なるほどな」
実家から勘当されたという点が、引っかかっているようだ。フォートリエ子爵は腕を組み、眉間に皺を寄せて険しい表情でいる。
「あなた、とりあえず、話を聞いてみませんか?」
「そうだな」
「それで、今、客間にいるのですが」
「連れてきたのか」
「はい」
「では、すぐにでも話を聞きに行くとしよう」
フォートリエ子爵夫妻はソレーユと話をするため、部屋から出て行った。
コンスタンタンと二人きりになったリュシアンは、ホッと安堵の息をはく。
「アン嬢、大丈夫か? 馬車にずっと乗っていたので、疲れただろう?」
「いいえ、平気ですわ」
両親はコンスタンタンとの結婚に賛成していたので、心配事は何もかもなくなった。
「ソレーユさんのことも、認めてくれたらよいのですが」
「そうだな」
十分後、フォートリエ子爵がソレーユを伴って戻ってきた。
「リュシアン、ソレーユ嬢をお前の侍女として雇うことに決めた」
ソレーユは曇り一つない笑顔を浮かべ、リュシアンに頭を下げる。
「ソレーユ・ド・シュシュよ。誠心誠意お仕えさせていただくから」
「よろしくお願いいたします」
ソレーユと手と手を握り合っていたが、隣に立つコンスタンタンの表情が引きつっているように見えた。
「コンスタンタン様、いかがなさいましたか?」
「彼女は……いや……なんでもない」
そういえば、ソレーユとコンスタンタンは顔見知りのようだった。
「ソレーユさんとコンスタンタン様は、お知り合いなのですか?」
「いや、知り合いというほどではない」
「つい先日、困っているところを、助けてもらったの。お礼をしたいから、名前を教えてと言っても、自分は通りすがりの騎士で名乗るほどの者ではないとか言っちゃって。だから勝手に通りすがりの騎士その一と心の中で呼んでいたの」
「まあ、そうでしたのね」
誰かを助けて「名乗るほどの者ではない」などと言うのは、物語の中のヒーローだけだと思っていた。しかし、現実にも存在するようだ。
改めて、リュシアンはコンスタンタンのことがカッコイイと思ってしまった。
◇◇◇
翌日、フォートリエ子爵邸にロザリーがやってきた。
リュシアンが無事だという知らせを受けたあと、アランブール伯爵邸から馬車でやってきたらしい。
「アンお嬢様~~~~!!」
「ロザリー!」
久々の再会に、抱擁で喜びを分かち合う。
「アンお嬢様、申し訳ありませんでした~~!!」
ロザリーは泣きながら、リュシアンに謝罪する。
「いいえ、ロザリーは悪くありませんわ」
「私が悪いんですよお。アンお嬢様を、一人にしてしまったから~~」
「ロザリー……」
リュシアンはロザリーをぎゅっと抱きしめ、優しく背中を撫でて落ち着かせる。
「わたくしはもう、二度とロザリーの傍を離れません」
「そうしてください~~!!」
震える声で元気よく叫ぶので、リュシアンは笑ってしまった。
「アンお嬢様、笑いごとじゃないですからねえ」
「ええ、ごめんなさい。本当に、ロザリーから離れませんので」
「お願いいたします。私は、アンお嬢様がいなきゃ生きていけないので」
こんなにもリュシアンのことを大事に想ってくれることは、嬉しいことだ。ロザリーと話しているうちに、リュシアンも眦に涙を浮かべてしまった。




