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堅物騎士は、お嬢様の断罪を見守る

 発端は、元傭兵と店で働く女性らが対立したことだった。

 店は女性達がいなければ回らない。それなのに、女性達を軽んじ、雇っている自分達が偉いのだと言い返した。その結果、女性達はいなくなってしまった。

 客の酒を注いだり、給仕をしたり、料理を作ったりする女性達がいなければ、店は営業できない。

 自尊心だけは人一倍高い元傭兵たちは、女性達に謝罪して戻って来てもらうということができなかったようだ。


 どうすれば元通り営業できるのか。

 頭を捻って出た答えが、田舎からやってきた出稼ぎの女性に働かせること。

 しかしながら、元傭兵達は見た目が強面の者が多い。そのため、声をかけても働きたいと言う者はいなかった。

 再び、傭兵達は考える。

 やっと捻り出した答えが、無理やり連れてきて、牢屋に閉じ込めた状態で脅す。そうしたら、言うことを聞くのではないのかと。

 そんな馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない作戦の最中だったようだ。

 幸いと言うべきか、女性達が閉じ込められたのは半日程度。リュシアンは数時間だったらしい。加えて、暴力行為は受けていないと。

 それでも、怖かったことに変りはない。

 元傭兵達は全員拘束され、今度は自分達が牢屋に入ることになる。


 事情聴取を終えたリュシアンが出てきた。

 ガーとチョーが、クワクワという甘えるような鳴き声をあげながらリュシアンを迎える。


「コンスタンタン様、お待たせしました」


 自分達もいると、ガーとチョーは主張していた。


「ガーとチョーも、お待たせしましたね」

「アン嬢、疲れていないか?」

「ええ、大丈夫です」


 リュシアンが無事でよかった。コンスタンタンは心から、彼女の強さと幸運に感謝した。

 待っている間、コンスタンタンはリュシアンとロイクールの実家、そしてアランブール伯爵家に早馬を打った。

 リュシアンを救出したという一報は、皆を安堵させるだろう。


「今日、一泊して、明日、フォートリエ子爵家のほうへ行こう」

「わたくしの実家に?」

「ああ。アン嬢とランドール卿がフォートリエ子爵家にいると思って、真っ先に向かったのだ」

「わたくし達、コンスタンタン様に抜かされておりましたのね」

「戻っていないと聞いて、肝をつぶしてしまった」

「ご心配をおかけしました」

「アン嬢は悪くない。悪いのは──」


 と、ここで騎士と共に、誰かが連行されてくる。

 それは、ロイクールだった。

 今まで宿で事情聴取をしていたらしい。立って歩けるようになったというので、騎士隊に連行されているようだ。

 ガーとチョーは急にガアガアと鳴き、ロイクールを威嚇している。

 ロイクールは鵞鳥の迫力にぎょっとしながらも、語りかけてくる。


「あの、アン!」

「……」


 リュシアンは素早くコンスタンタンの背後に隠れる。コンスタンタンはマントを広げ、リュシアンの姿を隠した。

 ガーとチョーは激しく鳴いて、ロイクールを追い返そうとしていた。


「アン、申し訳ありませんでした。なんと、詫びたらいいのか」

「謝罪など、聞きたくありません」

「本当に、申し訳ないと、思っています」


 ロイクールは騎士に背中を押されるが、その場に踏ん張り続ける。


「アン、その、私を殴ってください!」


 いったい何を言っているのか。呆れてしまう。

 ロイクールを殴っても、罪がなくなるわけではない。彼自身が殴られたことによって、しでかしたことを帳消しになると思われても困る。


「お願いです、アン!」

「おい、止め──」

「わかりましたわ」


 あろうことか、リュシアンは拳を握って前にでてくる。


「ア、アン嬢……」

「コンスタンタン様、大丈夫です。ちょっと、おしおきするだけですので」


 想定外の事態となった。

 リュシアンはロイクールの前に立ち、手を振り上げる。そして、パン! と音と共に、ロイクールの悲鳴が聞こえた。


「うぎゃ!!」


 リュシアンはロイクールの頰を思いっきり叩いたようだ。

 ロイクールはのけ反って倒れそうになったが、騎士の一人が体を支えてくれた。


「うっ…………ア、アン、いいえ、リュシアン嬢、その、ありがとう、ございました」


 ロイクールは騎士に背中を押され、よたよたと歩いていく。なんとも情けない、後ろ姿だった。


「アン嬢、今のは痛かっただろう?」

「ええ、でも、ランドール卿が望んでいたことですので」


 リュシアンは自分の怒りをぶつけたのではなく、ロイクールのために叩いたのだ。

 会心の一撃だったので、叩いた手は痛かっただろう。

 もう、心配はいらない。そんな言葉をかけようとしていたら、再び声をかけられる。


「あら、アランブール卿ではないですか!」


 やってきたのは、ロイクールの父、ランドール辺境伯である。

 コンスタンタンは首を傾げる。ランドール家の領地まで、早馬はこんなに早く到着しないだろう。


「あの、なぜ、ここに?」

「近くの町まで来ていたのですよ。そこで、偶然早馬と会いまして。うちの愚息を拘束したとかで」


 ここで、ランドール辺境伯はリュシアンを発見し、深々と頭を下げた。


「リュシアン嬢、今回の件は、本当に申し訳ないと思っています。すべては、私の責任です」

「いえ……」

「愚息との婚約は、白紙に戻しておきました。そして、今後二度と愚息がリュシアン嬢に近寄らないようにいたします」


 今度から、ランドール辺境伯直々に根性を入れなおすという。

 その手には、バラ鞭が握られていた。


「ちょっと、愚息のお尻をぺんぺんしてきますねえ」

「……」

「……」


 もう一度、ランドール辺境伯は深々と頭を下げ、騎士隊の建物の中へと消えて行った。

 コンスタンタンはゴホンと咳払いし、リュシアンを食事に誘う。


「アン嬢、食事をしに行こう。店を予約している」

「まあ、ありがとうございます。安心したら、お腹が空いたような気がいたします」

「それはよかった」


 コンスタンタンはリュシアンを夜景が綺麗に見える店に連れて行った。

 入口で、ガーとチョーが本日のメインに使う食材と勘違いされてしまったが、誤解を解いて中へと連れて行った。そこの店は個室で、愛玩動物の連れ込みは許可されていた。しかし、鵞鳥を連れてくるとは思っていなかったのだろう。


 リュシアンとコンスタンタンは食事を楽しみ、そのあとは宿で一晩明かす。

 もちろん、別々の部屋で。

 翌日、フォートリエ子爵家を目指し、馬を走らせた。


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