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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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堅物騎士は、精肉店の店主を問い詰める

 あれは、リュシアンの愛鳥、ガーとチョーではないのか。

 白いガチョウはよく見かけるが、黒いガチョウは珍しい。さらに、黒と白のガチョウがコンビのように一緒にいることはめったにない。

 コンスタンタンはケージに近寄り、確認する。

 二羽のガチョウはコンスタンタンに甘えるように、クワクワと鳴く。この鳴き方は、よくリュシアンの近くにいる時に聞いたことがあった。

 じっと二羽のガチョウを見つめる。残念ながら、顔の識別はできない。ただ、コンスタンタンを見つけた瞬間、大人しくなったことだけはわかった。

 間違いなく、このガチョウはガーとチョーだろう。

 なぜ、肉屋の店頭で売られているのだろうか。コンスタンタンは理解できないでいる。

 とりあえず、ガチョウ肉になっていなくてよかったと安堵した。


「ああ、お兄さん、そのガチョウに興味があるのか?」


 いかつい顔をした精肉店の店主らしき男が、ひょっこり顔を覗かせながら問いかけてくる。


「このガチョウは?」

「猛烈に暴れるから、さばけやしないんだ。しかも、ガチョウの癖に筋肉質で、食べても筋があっておいしくないだろうよ。スープの出汁くらいにはなるだろうが」


 精肉店の店主の言葉をガーとチョーは不服に思ったようで、ケージの中で暴れ出した。

 バサバサと翼を動かすので、白と黒の羽根が舞い上がる。


「これは、どこで入手を?」

「若い兄ちゃんが、ガチョウに付きまとわれて困っているから、買い取ってほしいと頼まれたんだ」

「若い……。それは、黒髪に眼鏡をかけた、高慢そうな男か?」

「あ、ああ。たしか、そんな男だったと」


 ガーとチョーを売り飛ばしたのは、ロイクールだったようだ。なんて酷いことをするのか。

 コンスタンタンの胸の内は怒りで支配された。


「兄さんが二羽いっぺんに買うんだったら、半額からさらに値引きをしようか」


 そんな調子がいいことを言う精肉店の店主に、コンスタンタンは冷ややかな視線を向ける。

 黙ったまま、店の中の肉を見させてもらった。

 値札を見ると、王都の精肉店よりもかなり安い。だが、肉質は怪しかった。

 特に豚肉は、全体的に黒ずんでいる。血抜きが上手くできていない証拠だろう。

 どうやら、ここの精肉店は質の悪い肉を安価で売っているようだ。

 しかし、買うか買わないかを見極めるのは客だ。質に関しては責めるべき点ではなかった。

 問題は、肉の買い付けについてだ。

 精肉店は畜産農家や狩人と契約し、肉を買い取る。飛び込みの場合も、長く取引している客でないと取り合わない。

 国には『生鮮肉取引法』と呼ばれる法律があり、信頼を築いている関係でないと取引をしてはいけないという決まりがあるのだ。

 つまり、まったく知らない相手から、肉は買い取ってはいけないのである。

 これは二十年前、羊肉が流行した時代に起こったトラブルが発端で成立したものだった。当時は薬漬けの肉や、腐りかけの肉など、酷い品質の肉が多く出回っていた。

 コンスタンタンは今までこの法律を知らなかったが、ウサギの畜産をするにあたって一通り勉強したのだ。

 以前ウサギ肉を売った精肉店とは、二代前のアランブール伯爵家当主が契約を交わしていた。そのため、飛び込みでもウサギ肉を売ることができたのだろう。


 目の前にいる精肉店の店主とロイクールは、契約関係にあるとは思えない。その点を、突いてみる。


「このガチョウは、どこで育った?」

「え……、そ、それは、聞いてなくて……」

「自分の店のガチョウなのに、知らないと?」

「た、たぶん、王都の郊外、かと」

「曖昧な情報だな。では、どこで買い取った?」

「場所は、町の入り口にある宿だ」

「なるほど」


 精肉店の店主の額に汗が浮かんでくる。

 ロイクールが精肉店の店主と取引したのは、コンスタンタンが以前宿泊した宿だったようだ。そこに、リュシアンもいるのだろうか。すぐに、確認に行かなければならない。

 時間がもったいない。コンスタンタンは精肉店の店主に、さっさととどめを刺すことにした。


「生鮮肉取引契約書を見せてくれないか? ガチョウを売った男というのが、確かな畜産農家か気になる」

「あ、いや──あ、このガチョウは、タダであげよう。さあ、持ち帰れ!」


 ガーとチョーが入っていたケージは精肉店の店主の手によって開かれる。

 やっと解放されたからか、ガーとチョーはコンスタンタンのもとへバタバタと走ってやってきた。そして、怖かったとばかりに、翼を広げてヒシッと抱き着いて離れない。


「いい、買い物だっただろう? そ、それじゃ!」


 ここで別れるわけにはいかない。ガーとチョーは助けられたが、今後も似たような形で大事な動物を勝手に売られたという人が出たら困るだろう。


 ちょうど、二人組の騎士が通りかかった。

 コンスタンタンは引き留め、ガーとチョーが勝手にロイクールに売られた件についてと、生鮮肉取引法を守っていない可能性がある精肉店の店主について通報した。


 騎士はすぐさま、精肉店の店主に話を聞きに行ってくれた。あとの問題は、彼らが解決してくれるだろう。


 コンスタンタンは町の入り口付近にある宿へ急ぐ。

 ガーとチョーは勇ましくガアガアと鳴き、あとに続いた。


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