堅物騎士は、ランドール家についての事情を知る
一時間ほどで、客間で待つコンスタンタンとランドール辺境伯のもとに、二十名ほどのリュシアン及びロイクール捜索部隊が結成されたという一報が入る。
二十代から四十代くらいの、働き盛りの男達ばかり揃えられているらしい。皆、革の鎧を装備し、腰には剣を装備しているとのこと。
彼らはランドール家の領土を守る、自警団だという。たった一時間で支度を整えて集合させるのは、驚くべき速さだろう。装備を整え、馬に鞍を乗せ、集合する。最短でも、一時間半は必要だ。コンスタンタンが感嘆していたら、ランドール辺境伯はのほほんと語る。
「わたくしめの領土は国境ですから、すぐに動ける者を常に五十名、待機させているのですよ~」
領地に突然攻め入られた時を想定しているのだろう。
だが、ここには騎士隊も駐屯している。置かれているのは旅団だ。十分な人数は揃えられている。それに加えて自警団もいるのだから、かなりの用心深さだろう。
「騎士という生き物は、国王陛下と国に忠誠を誓っていますからね。一応、民草も守ってくれるようですが、第一に守るべき存在ではないですから」
「……」
確かに、ランドール辺境伯の言う通りだ。人は、あれもこれも守れるほど器用ではない。
しかしながらコンスタンタンは騎士である。この場では、同意出来なかった。
「ああ、すみません。アランブール卿も騎士様でしたね。失礼を」
「いいえ。聞かなかったことにしますので」
「助かります~」
ランドール辺境伯は体をくねくねと動かしながら、喜んでいた。なんというか、ゆるい態度に脱力してしまう。
ただ、ランドール辺境伯の話を聞いていると、彼が切れ者であると考えられる。油断してはならない。こういうタイプは、敵に回したら厄介なのだ。
ロイクールのしたことを悪と判断し、味方についてくれたことを心から感謝する。
「いやはや、なんというか、今回の件は責任を重く感じています。すべて、私が悪いのです」
「しかし、彼はもう分別が付く年頃です。ランドール辺境伯だけの責任ではないでしょう」
「アランブール卿は、お優しいのですね」
そう言って、ランドール辺境伯はウルウルとした瞳をコンスタンタンに向けていた。
「実は、上の息子を厳しく育てすぎて嫌われてしまったので、下の息子はついつい可愛がってしまったのですね……」
欲しいと言った物はなんでも与え、勉強や剣の稽古など、嫌だと言ったら別に辞めてもいいと言って甘やかしていたのだとか。
「次男であるロイクールに与えられるものは多くありません。爵位と領地を得るのは、上の兄ですから。ですので、私は徹底的に甘やかしてしまった。それが、間違いだったのです」
ロイクールの幸せを願うのならば、時に厳しいことを言うのも必要である。
ランドール辺境伯は切なげに呟いた。
「一応、愚息に関しては、このままではいけないと思っていたのですよ」
以前より、ロイクールとリュシアンの婚約話は浮上していたらしい。フォートリエ子爵からも、時折それを匂わせる発言もあったのだとか。
「フォートリエ子爵家のご令嬢は大変しっかりしていて、結婚相手としては申し分なかったのですが、いかんせん、うちの愚息にはもったいないと思い、ずっとお断りをしていたのです」
しかしある日、リュシアンの結婚相手が見つからないので、婚約を結んでくれないかとフォートリエ子爵が頭を下げてきた。
ランドール辺境伯はどうしようかと悩んだが、あまりにも必死にフォートリエ子爵が懇願するので頷いてしまったようだ。
「人の性根は簡単に矯正できません。しかし、騎士隊で厳しく揉まれたら、愚息も変わるのではと思っていたのですが、甘い考えだったようですね」
ランドール辺境伯は、深々と頭を下げて謝罪した。
「本当に、ご迷惑をおかけしております」
「いえ……謝罪は私にではなく」
「リュシアン嬢と、フォートリエ子爵に、ですね」
「ええ」
すでにランドール辺境伯は現状について紙に認め、フォートリエ子爵領へ早馬を打ったらしい。いつの間に、そんなことをしていたのか。国境を任されるだけある、有能な男なのだろう。
もしも、ロイクールがランドール辺境伯から本気の教育を受けていたのならば、今回の事件は起きていなかったのか。
その前に、リュシアンは王の菜園には来ていなかっただろう。ロイクールが有能な男だったら、今頃リュシアンと結婚している。
コンスタンタンは頭を振って、思い浮かんだことを打ち消す。もしもの話は、考えるだけ無駄だった。
自警団の団長が地図を持ってやってきた。人員の振り分けが決定したらしい。
おそらく、リュシアンとロイクールはなんらかのトラブルにより、フォートリエ子爵領にくるまでの道のりで足止めされているのではと想定しているようだ。
移動は馬車ではなく、馬を単騎で走らせている。着の身着のままで移動したならば、リュシアンは作業用のエプロンドレスのままだ。
ランドール辺境伯は頭を抱え、うめくように言った。
「信じられません。この寒い時期に女性を馬に乗せて旅するなんて……」
もしや、リュシアンが風邪を引き、どこかの町の宿屋で休んでいるのだろうか。
苦しむリュシアンが脳裏を過り、コンスタンタンは拳を強く握った。
「一刻も早く、発見しませんと」
主に探すのは、王都を進んだ先にある分岐点──山を越える道と、平坦な道。
それぞれにある村と、合流点にある町、第二の都市を中心的に探すようだ。
「アランブール卿は、どこを探しますか?」
「難しいですね」
リュシアンが誘拐されて、今日で三日目だ。どこまで進んでいるのか、まったく想像できない。
自警団は第二の都市にいるだろうと見込み、そこに捜索の重点を置くようだ。
「でしたら、私は合流点にある町を目指します」
「わかりました。お願いいたします。私はすぐに、フォートリエ子爵のところへ行きますが、何か伝言はありますか?」
「ラピー、馬を、お借りしますと」
「わかりました」
コンスタンタンはフォートリエ子爵の馬ラピーに跨り、合流点にある町を目指した。




