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堅物騎士は、ロイクールの実家を訪ねる

 コンスタンタンの馬は疲れていたので、フォートリエ子爵の馬を借りることとなった。


「半年前まで競走馬だったのだが、気が荒く使い物にならなかったのだ。もしかしたら、乗りこなせないかもしれないが」

「お借りします」


 フォートリエ子爵の馬は、筋肉質でコンスタンタンの馬よりも大きい。美しい青鹿毛あおかげの毛並みを持ち、前髪から流れる毛はツヤツヤピカピカだ。ひと目で、いい馬だということがわかる。

 名前はラピーという。コンスタンタンは優しい声で呼びかけた。


「ラピー」


 すると、フォートリエ子爵の馬ラピーはコンスタンタンのほうを向き、ふんふんと匂いをかいでいる。手の甲の匂いをかがせてやると、満足したのか頭を下げる。


「ふむ。大丈夫そうだな。私以外の人間には、警戒心を剥き出しにする馬なのだが」

「馬との付き合いは、慣れておりますので」


 見習い騎士時代は、一人一頭馬を持つことなんてできない。共用の馬を使い、訓練するのだ。馬は大人しい性格のものだけではない。気性が荒い馬や、いたずら好きの馬など、人と同じように性格は多岐にわたる。

 今まで散々、噛みつかれたり、蹴られたりと、馬の洗礼を浴びてきたのだ。

 それらを繰り返しているうちに、馬と仲良くなる方法は会得した。


 コンスタンタンは鐙を踏み、馬上へ上がる。鞍に腰かけたが、暴れる様子はない。


「問題ないようだな」

「はい」

「ランドール家はこの先にある街道を二時間ほどまっすぐ進んだ先にある。申し訳ないが、アンを連れ戻してくれ」

「かならず、連れ戻してきましょう」

「頼んだぞ」


 フォートリエ子爵にロイクールとの婚約解消の書類と、ロイクールがリュシアンの意思を無視して誘拐したという被害届を書いてもらった。

 もしも、これらを提出して尚リュシアンを解放しないのであれば、騎士隊の協力を仰がなければならない。

 そうなったら、大ごとになってしまう。リュシアンの名にも、傷が付くだろう。

 穏便な解決を、コンスタンタンは切に願う。


「では、行ってまいります」

「気を付けていってくるのだぞ」

「はい」


 フォートリエ子爵に見送られながら、コンスタンタンはリュシアンの実家を発った。


 青鹿毛の美しい馬ラピーは風の如く、全力疾走する。

 コンスタンタンの馬より、ずっと速い。さすが、競走馬だと思った。

 途中で休ませながら、どんどん先へと進む。

 ラピーは体力もかなりあるようで、休んでいる間も早く走りたいと鼻をふんふんと鳴らすほどだった。


 フォートリエ子爵はランドール家まで二時間かかると言っていたが、一時間半で到着した。


 リュシアンは、ここにいる。

 出発した時間を考え、ロイクールが近道を選んで馬を飛ばしていたら、すでに一晩明かしたあとかもしれない。


 もしも、無理矢理婚姻を結んだ形にされていたとしたら──。

 最悪の展開が脳裏を過る。

 まだ、どうなっているかわからない。悪い方向へ考えることはよくないだろう。

 それにそうだったとしても、辛いのはコンスタンタンではなくリュシアンだ。

 なるべく、優しい言葉をかけてあげなくては。

 コンスタンタンはかぶりを振って、即座に腹を括った。


 門番と話し、中へと入れてもらう。

 フォートリエ子爵の手紙があったおかげで、すんなりと中に入れた。

 執事はコンスタンタンを丁重に扱い、ランドール辺境伯と話ができるよう話を取り持ってくれる。


 ランドール家は思っていたよりも静かだ。

 リュシアンを突然連れ帰ったことは、そこまで騒ぎになっていないのか。

 それともランドール家では、花嫁を誘拐するように連れ帰るのは日常茶飯事なのか。

 そんなことを考えていると、ランドール辺境伯がやってくる。


「あ、ど~も~、こんにちは、はじめまして~~」


 ふっくらとした、人の良さそうな中年男性が、スキップしながら登場した。


「ランドール、辺境伯、でしょうか?」

「そうですよ~~」

「……」


 あの、悪辣非道なロイクールの父とは思えない、陽の雰囲気のある人だった。

 リュシアンの厳格な父親とロイクールの陽気な父親は、逆ではないかと思うほどである。


「フォートリエ子爵から、お手紙を預かっていると聞いたんですけれど~~?」

「ええ、はあ」


 コンスタンタンは懐からフォートリエ子爵の手紙を取り出し、ランドール辺境伯へと差し出す。


 すぐさま、手紙を読んでくれた。


「ふむふむ、ふむふむふむ、むむっ!?」

「……」


 穏やかだったランドール辺境伯の表情が、一変する。顔を真っ赤にさせ、眉毛はピンと吊り上がった。


「なんてことだ!! あの、馬鹿息子が!!」


 フォートリエ子爵の手紙を丁寧に折りたたみ、弾かれたバネのように立ち上がった。

 いったい何をするのか、コンスタンタンはランドール辺境伯を見つめる。


「愚息が、ご迷惑をおかけしました!!」


 ランドール辺境伯は頭を深々と下げ、謝罪した。


「それと、我が家に愚息とリュシアン嬢がいるだろうと書かれていましたが、ここにはおりません!!」

「え?」

「まだ、ここへ到着していないのでしょう」


 フォートリエ領にはいなかった。ランドール領にも来ていないという。

 だったら、リュシアンは今、どこにいるというのか。


「もしかしたら、うちの愚息めが、足手まといになっているのかもしれません。温室育ちで、体力がないので」

「そう、ですか」

「体力と根性を付けさせるために、騎士隊に入れたのですが……本当に、申し訳ありません」

「私への謝罪は、必要ありません」

「そ、そうですね」

「今は、一刻も早くリュシアン嬢を探さないと」

「ええ、もちろんです」


 ランドール辺境伯はすぐさま調査隊を結成し、探させるという。


「私も、協力します」

「あ、ありがとうございます~~!」


 コンスタンタンも、リュシアン捜索作戦に参加することとなった。


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