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お嬢様は看病する

 リュシアンは這いつくばって、食べられる物がないか探す。

 しかし、都合よく見つかるわけがない。

 別名獣ネギと呼ばれるベアラオフに似た草を見つけた。冬眠明けの野生動物が好んで食べることから、獣ネギと呼ばれている。だが、手触りが硬いことが気になった。

 ベアラオフはスズランの葉と酷似している。

 スズランには全草に毒があり、誤って食べてしまうと頭痛、嘔吐などの症状が現れ、最悪死に至るのだ。

 もしもこれがスズランの葉だったら、食べることは自殺行為だろう。

 野草やキノコは、しっかり明るい場所で確認してから採取しなければならない。夜間に食べられる物を探すこと自体、無謀なことだったのだ。

 水があったことだけでも、感謝しなければならない。


 このあとは空腹に耐え、しっかり眠らなければならない。

 寒空の下で眠れるのか、リュシアンは心配になった。

 しかし、彼女は鵞鳥の温もりを感じながら、眠ってしまった。


 翌日──馬の嘶きで目覚める。


「う~~ん!!」


 肌寒い朝だったが、火は途絶えることなく燃えていた。もしや、ロイクールが火の番をしていたのか。そう思っていたが、ガーとチョーが木の枝を銜えて火にくべている様子を目撃する。


「まあ! あなた達が火の番をしてくれましたのね!」


 偉い、偉いと褒めると、ガーとチョーは誇らしげな様子で胸を張っていた。

 ロイクールは大丈夫だったのか。

 視線を向けてみたら、焚火からずいぶん離れた場所に横たわる彼の様子がおかしいことに気づいた。


 顔は青ざめ、全身がガタガタと震えている。


「大丈夫ですの!?」


 リュシアンは駆け寄って、ロイクールの額に手を添える。酷い熱だ。

 一晩のうちに風邪を引き、発熱してしまったのだろう。

 脱水症状にもなっているのかもしれない。

 リュシアンは大きな葉っぱで器を作り、湧き水を掬ってロイクールへと持って行く。


「ランドール卿、水を!」

「う……」


 荷鞍を背もたれ代わりにロイクールを横にして、水を飲ませた。しかし、唇から水は零れていく。


「……」


 こういう時は、口移ししかない。

 人助けなので、躊躇っている場合ではなかったが……。

 相手はリュシアンを誘拐したロイクールである。

 ここまでしてあげる必要性はあるのか。チラリと、疑問が脳裏を過った。


「ダメですわ……!」


 相手は極悪人ならまだしも、幼馴染である。このまま見捨てるわけにはいかない。

 たとえ、相手が大嫌いであっても。


 リュシアンは腹を括った。

 水を飲み、ロイクールの頬を掴む。そして、顔を近づけたが──。


 近くで、ガーとチョーが激しく鳴く。


「?」


 そのあと、馬が急接近していることに気づいた。

 目を見たら、「そこをどけ」と訴えているような気がした。


 リュシアンは一旦水を飲み込み、後ずさる。

 すると、馬がロイクールに顔を近づけ、含んでいた水を顔に噴射した。


「うわっ!!」


 ロイクールは目を覚まし、起き上がる。


「な、なんなんですか!? っていうか、寒っ!!」


 意外と元気そうに見える。リュシアンは水を飲むよう、ロイクールに勧めた。

 さすがに、喉の渇きには抗えなかったのか、ロイクールは素直に水を飲んでいた。


 体調不良なのは間違いないようで、青白い顔色のまま馬に跨る。

 走ると気持ち悪くなるようで、ゆったりとした足取りでしか進めない。

 リュシアンが操縦しようかと提案しても、ロイクールは頷かない。ゆっくり歩むのでは、同乗している必要はない。リュシアンは馬から下りて、歩くことにした。

 ガー、チョーと共に、山道を歩く。途中でベリーや木の実を発見したので、エプロンのポケットに詰めておいた。

 休憩時間、ロイクールに食べるように勧めたが、野生に生えている食べ物は腹を下すかもしれないと言って口にしなかった。

 仕方がないので、リュシアンと動物達だけで食べる。

 ロイクールの発熱は時間が経つにつれて悪化していた。

 ついに──意識が朦朧となり、落馬しかける。気づいたリュシアンが体を支えて、事なきを得たのだ。


「ランドール卿! ランドール卿! しっかりしてくださいまし!」

「……」


 リュシアンは盛大な溜息を吐きながらも、覚悟を決める。


「ガー、チョー、しばし、袋の中で我慢をしてくださいますか?」


 ガアガアと鳴く様子は、「もちろんだ」と言っているような気がした。

 手早くガーとチョーを袋に詰め、荷鞍に吊るす。

 ロイクールの体も、馬から離れないよう縄で固定させた。

 最後に、リュシアンは馬に跨り、腹を軽く蹴って合図をだす。

 一刻も早く麓の街に連れて行き、医者に診せなければ。

 誘拐犯が道選びを誤り、野宿をした挙句風邪を引いて倒れるなんて聞いたことがない。

 本当に、仕方がない男だ。リュシアンはそんなことを思いながら、馬を走らせる。

 夕方には、麓の街に辿り着き、宿に医者を呼んで診察してもらった。

 ロイクールはただの風邪だった。疲労もしているようなので、しばらく安静にしていたら問題ないようだ。

 幸い、ロイクールは金をたくさん持っていたので、看護師を雇って看病をお願いする。

 医者からは、奥方ではないのかと聞かれたが、はっきり「違います」と否定しておいた。


 一刻も早く、王都に戻りたかったが、さすがのリュシアンもくたくたである。

 一泊して、戻ることにした。

 宿帳に名前を書いていたら、主人に思いがけない質問をされた。


「おや、あんた、アランブール家のコンスタンタン殿が探している、リュシアンお嬢様じゃないのかい?」

「コンスタンタン様が、ここに?」

「ああ、そうだ。つい数時間前だったか。あんたを探しているって、焦った表情でやってきた」

「!」


 なんと、コンスタンタンはリュシアンを追って、ここまでやってきたというのだ。


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