表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/168

お嬢様は突然の知らせに驚愕する

「アン嬢、パーティーが終わり、しばし落ち着いたら、共にフォートリエ領に行って、父君と話をしたいのだが」

「コンスタンタン様が、直接父と話してくださると?」

「そのほうがいい。それと、もう一つ」


 コンスタンタン様はそう言ったまま、銅像のように動きを止めてしまった。


「コンスタンタン様、いかがなさいましたか?」


 リュシアンがそう尋ねると、眉間に皺を寄せていく。リュシアンは心配になり、顔を覗き込んだ。すると、コンスタンタンは苦しげな表情で話し始める。


「少々、揉めるかもしれない」

「それは、そうですね……」


 フォートリエ子爵家の歴史の中でも、未婚で自身で身を立てるという令嬢は前例がない。

 世間からも、奇異の目で見られるだろう。


「それでもわたくしは、ここにいたいのです」

「わかった。それならば、できる限りのことをしよう」

「コンスタンタン様……本当に、ありがとうございます」


 会話が一段落したのと同時に、パーティーが始まるという知らせがやってくる。

 コンスタンタンとリュシアンは、招待客を迎えるため会場へと向かった。


 ◇◇◇


 パーティーは夢のような時間だった。

 たくさんの人達がやってきて、王の菜園の野菜を使った料理をおいしいと言ってくれる。

 それから、一人一人話をして、いかに王の菜園が大切な場所であるかと知らせることもできた。

 

「──と、このように、王の菜園を上手く運営することは、雇用、生産、集客を促し、将来的に大きな利益を生み出す起爆剤となるのではと」


 王太子は表立って、意見してくれる。

 コンスタンタンとリュシアンには、強力な味方が付いていた。

 困ったことといったら、コンスタンタンとの婚約を祝福されることだった。

 お似合いだと言われ、ついつい表情が綻んでしまう。

 しかし、コンスタンタンが時折見せる険しい横顔を見たら、我に返ってしまった。

 コンスタンタンにとって、偽物の婚約者がいるというのは、迷惑でしかない。

 きちんと、身の程をわきまえなければ。

 婚約が破談したと、報告する日はいつかやってくるのだ。

 そして、コンスタンタンに新しい婚約者ができた時、リュシアンは祝福ができるのか?

 考えたら、胸がズキンと痛んだ。

 覚悟を、決めないといけない。王の菜園で働くためには、コンスタンタンの結婚も見届けないといけないのだ。

 大丈夫、平気だと、今すぐはいえない。

コンスタンタンに対する複雑な感情とは、長い時間をかけて心の中に溶かし、透明な水のように綺麗なまま大切にしようとリュシアンは思った。


 パーティーは大成功だった。

 驚くべきことに、多くの参加者から出資したいという申し出があったらしい。嬉しい悲鳴である。

 すぐさま、雇用拡大について動くという。

 続いて、旅人や商人が休める喫茶店を造るようだ。

 喫茶店は王の菜園にある、王族専用の平屋建ての建物を改装する。

 ここは半世紀前、国王が執務から逃げ、身を隠すために造られたものである。王族専用と決まっていたので、今まで使っていなかった。

 王太子が好きにしてもよいと許可を出してくれたおかげで、喫茶店として利用できる。

 

 コンスタンタンと共に、建物の確認に向かった。


「ここが、国王陛下の使われていた……建物、ですか?」

「そうだ」


 一見して、簡素な物置小屋にしか見えない。


「臣下に見つからないよう、敢えてこのような造りにしていたらしい」

「ああ、そういうことですの」


 内部はいつ歴代の国王が来てもいいように、こまめに手入れがなされているという。

 リュシアンはドキドキしながら中へと入った。


「──まあ!」


 慎ましい外観とは違い、内部は国王が使うにふさわしい内装となっている。

 水晶が惜しげもなく使われたシャンデリアに、大理石の床には真っ赤な絨毯が敷かれている。金を使った猫足の長椅子に、虎斑模様が美しいオーク材の円卓など、豪奢な雰囲気にリュシアンはうっとりしてしまう。


「この内装は、そのまま使えそうです」

「そうだな。一世紀前に造られたものらしいが、十分綺麗だ」


 部屋の中心に四人がけのテーブルと長椅子、窓際に円卓と一人がけの椅子が二つ。

 最大六名が使えそうだ。


「部屋の家具の雰囲気を損なわないよう、内部は最大六名のまま、あとは外にテーブルと椅子を置いて、王の菜園の景色を楽しみながら飲み物と料理を楽しんでいただく、という形はどうかなと」

「明日の話し合いの時に、提案してみよう」

「はい」


 王の菜園のあぜ道を歩いていると、ロザリーが走ってやって来る。


「ア、アンお嬢様~~!」

「ロザリー、慌ててどうかしましたの?」

「大変です! お屋敷のほうに、ランドール卿が!」

「え!?」


 ロイクール・ド・ランドール。それは、リュシアンの幼馴染であり、第二王子の親衛隊員でもある。

 なぜ、突然やってきたのか。コンスタンタンにも、知らせは届いていないという。


 屋敷に戻り、応接間へと向かう。

 ロイクールは脚を組み、客人とは思えない不遜な態度でいた。


「アン、遅いです」

「約束もないのに、どうやって時間を守るというのですか?」

「そうではありません。なぜ、フォートリエ子爵への返事を出さないのかと、聞きたかったのです」

「お父様への返事? 出しましたけれど」

「ならばなぜ、ここに居続けるのですか?」

「お話が、まったくわからないのですが?」


 ロイクールは怪訝な表情をしながら、懐から書類を出してリュシアンに見せた。


「これは──!」

「あなたと私の、婚約を許可する証書ですよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ