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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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お嬢様は早朝に害獣退治をする

 玄関に向かうと、すでにコンスタンタンはいた。


「アランブール卿、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 騎士隊の外套を纏い、銃を持つ姿は実に様になっている。

 思わず、ぼーっと見とれてしまうくらいだ。


「アン嬢、どうした、眠いのか?」

「い、いえ。目は覚めておりますわ」

「だったらいいが。銃は、昨日手入れをしておいた」

「ありがとうございます」


 コンスタンタンはリュシアンではなく、従僕に銃を手渡した。上げた手は、宙をさ迷うこととなる。用意していた猟銃用の三脚も、従僕が持ち上げた。


「まだ陽は出ていないが、大丈夫か?」

「ええ、もちろんですわ」

「ならば、ゆくぞ」


 コンスタンタンがランタンを持ち、先導する。

 夜明け前の王の菜園は、まっくらで何も見えない。

 吹く風は冷たく、吐く息は白い。そんな中を、黙々と進んでいった。


 途中、夜勤の騎士達は広場に集められ、コンスタンタンが門の外を警備するよう命じる。

 これで、畑の周辺を歩き回る者はいなくなった。


 そうこうしているうちに、空が明るくなった。もうすぐ、太陽が昇ってくるだろう。

 ウサギも、人の少ないこの時間帯に活動が活発になるはずだ。

 リュシアンは、ウサギの糞が集中していた野菜を調べていた。


「ここ最近のお気に入りは、ダイコンですわ」


 ウサギは大根を掘り起こし、一口食べては放置することを繰り返していた。


「わかった。では、ダイコン畑に向かおう」


 今度はリュシアンの先導で、ダイコン畑を目指す。

 地平線に橙色の明かりが差し込んできた。夜の闇は、空高く押し上げられつつある。

 薄暗い中に目が慣れてきたので、ランタンの火は消した。ここで、ロザリーや従僕と別れる。リュシアンの銃と三脚はコンスタンタンが受け取った。


「あ、あの、銃は……」

「気にするな。今は、気配を消して歩くことだけに集中しろ」

「わかりました」


 ウサギに勘付かれないよう、ゆっくり、ゆっくりと歩みを進める。


 リュシアンは姿を隠すために用意していた、木箱の後ろに回り込む。コンスタンタンもあとに続いた。

 コンスタンタンは三脚を設置し、木箱と木箱の隙間から銃口を差し出す。自身の銃も構え、様子を窺う。


 ダイコン畑は静かだった。緊張で、胸の鼓動が速まる。

 唾をゴクリと呑む音も、大きく感じた。

 今日は来ないのか。そう思っていた矢先、ダイコンの葉が揺れる。

 リュシアンとコンスタンタンは顔を見合わせる。巨大ウサギがやってきたようだ。

 双眼鏡でその姿を確認する。目の周りにブチのあるウサギだった。

 農業従事者が見かけた巨大ウサギの特徴の一つである。

 巨大ウサギは罠にかかるウサギの一回り以上大きかった。


「アランブール卿、三時の方向に、ウサギがおります」

「了解……捉えた」


 コンスタンタンの銃が、ウサギのいるほうへと向いた。

 リュシアンも二射目に備え、トリガーに指先を添える。

 ウサギはダイコンに夢中で、銃口を向けられていることなど気づいていない。

 ダイコンを掘り上げ、本格的に食べ始める。

 そこを狙っていたのか、コンスタンタンは銃の引き金を引いた。

 静かな大根畑に、銃声が響き渡る。

 巨大ウサギの体は傾き──倒れた。コンスタンタンは一撃で仕留めたようだ。


「アランブール卿、命中いたしました!」

「ああ」


 リュシアンは興奮し、銃を置いたコンスタンタンの手を取って喜ぶ。


「素晴らしい腕前ですわ!」


 ひとしきりはしゃいだあと、ふと我に返る。

 異性の手を取るなんて、はしたない行為であったと。

 カッと、頬が熱くなっていくのを感じていた。


「も、申し訳ございません」

「いや、構わない」


 恥ずかしくなり、コンスタンタンの顔を見ることができない。

 顔を逸らしながら、謝罪をすることとなった。

 コンスタンタンが寛大でよかった。リュシアンは神に感謝した。


 ダイコン畑に、巨大ウサギの回収に向かう。

 銃弾はウサギの頭に命中していた。


「これは……高値で買い取ってもらえるでしょう」

「そうか」


 ウサギを罠で捕まえて得た金は、農業従事者の給料に加算されている。今回はコンスタンタンが仕留めたので、彼が受け取るべきだろう。


「ならば、王の菜園に新しく造る施設の建設費に充てさせてもらおう」

「よろしいのですか?」

「ああ。どうせ、費用もでないだろうから」


 その後、ニンジン畑とカボチャ畑で巨大ウサギを三羽仕留めることに成功した。

 すべて、コンスタンタンの銃弾で一撃だった。


「わたくしの出る幕はありませんでしたわ」

「今日は調子がよかっただけだ」


 まぐれで、四発も銃弾が頭を貫き通せるわけがない。

 コンスタンタンの銃の腕前は、かなりのものだったのだろう。


「アランブール卿は、猟師としても暮らせそうですわ」

「騎士をクビになったら、考えておこう」


 巨大ウサギは毛並みがよく、脂が乗っていた。精肉店は大喜びで買い取ってくれた。

 目撃された巨大ウサギは四羽すべてを仕留めたので、畑の被害も減るはずだ。


「これで、ウサギ問題は解決ですわね」

「そうだな」


 ただ、精肉店の青年はがっかりする。


「評判なんですけどねえ、ここのウサギ」

「野生のウサギだから、定期的な出荷は難しい」

「でも、ここの野菜を食べて育ったのなら、育てて出荷することもできそうですが」

「畜産か……しかし、ここは王の菜園だ。ウサギに与える野菜はない」

「ですか」


 もしも、野菜を使うことが許されるのであれば、ウサギの飼育も可能だろう。

 監査の結果次第では、検討してもいいとコンスタンタンはいう。


「畜産農家出身の者も数名いる。知識を借りることも可能だろう」

「王の菜園の野菜を食べて育ったウサギ……。ブランド肉として売り出すことができそうですね!」


 コンスタンタンと精肉店の青年が二人で盛り上がっている。

 ウサギは年に二回出産すると聞いたことがある。

 うまくいったら、王の菜園の施設を造るための資金作りができるかもしれない。


「その前に、監査だな」

「話が進みそうだったら、店にご連絡ください。協力できることもありますので!」

「わかった」


 精肉店の青年は足取り軽く帰っていった。

 目的が達成したからか、急に欠伸が出てしまった。慌てて口を手で覆う。


「アン嬢、少し休むといい」

「いえ、わたくし、今日は何もしていませんのに」

「朝からウサギ狩りをしただろう」

「仕留めたのは、アランブール卿ですわ」

「畑の中でウサギを見つけたのはアン嬢だ。私は、獲物を撃ったまでにすぎない」


 感謝すると言われ、リュシアンは頬が熱くなるのを感じた。 


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