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堅物騎士が望む、結婚相手の条件

「コンスタンタン、一応確認するが、お前、結婚相手を探しにここに来ているんだよな?」

「もちろんだ」

「今日、ダンスは何曲踊った?」

「なぜ、踊る必要がある?」


 クレールは目を見開き、まるで恐ろしいものを見たかのような表情を浮かべる。


「お前、それ、本気で言っている?」

「本気だ」


 コンスタンタンは、夜会のダンスが苦手だった。

 親しくない相手と手と手を取り合い、密着するというのはどうにも居心地が悪い。

 ダンスをして相手を見極めろというが、何がわかるのかサッパリだった。


「いや、こう、目と目を合わせた時、感じるものがあるというか」

「特に、思うことはない。強いて感じることといえば、気まずさだけだ」


 クレールは額を押さえ、がっくりと項垂れる。


「コンスタンタン、お前、女性とダンスをしなかったら、どうやって結婚相手を探すつもりだった?」

「父は、母と出会った瞬間に脳天に雷が落ちて、その場から動けなくなったと言っていた」

「いや、それかなり特殊な例だから」


 コンスタンタンはここで脳天に雷が落ちる状態を、待っていたことが明らかとなる。


「コンスタンタン、思ったことを言っていいか?」

「別に構わない」

「お前、かなり馬鹿! 親父さんの成功体験を参考にしていたら、一生花嫁なんぞ見つからないぞ!」

「それは、困る」


 コンスタンタンは兄弟姉妹がおらず、一人子ひとりごだ。

 結婚し、子どもを生さないと次代の跡取りが必要となる。


「お前、どんな女性がいいんだ? ちょっと、紹介してやるから」

「妻に求める条件は──健康であること。それと、虫が平気なこと」

「は!? 最初はともかく、あとの虫はなんだ!」

「郊外の屋敷は、とにかく虫が多い」


 王都から馬車で二時間半の場所にあるアランブール伯爵家の邸宅は、カントリーハウスと見紛うほど大きい。敷地も広く、大広間は王宮のものと同じくらいの規模がある。

 しかし、しかしだ。問題は虫が多いこと。

 郊外にポツンと建つ一軒家は、唯一灯りが点いているため絶好の虫のたまり場となっている。

 コンスタンタンの亡くなった母は、虫が苦手だと夜な夜な泣いていたらしい。


「健康というのは、お袋さんのことが影響しているのか?」

「そうだな」


 コンスタンタンの母は病弱で、街の医者が家に着く前に酷い発作で亡くなってしまった。

 あの光景は、二度と見たくない。だから、彼は妻となる女性に、絶対的な健康を望んでいる。


「父も、無念だったと思う。だから、妻となる女性は、抜群に健康な人がいい」

「なるほど。ド健康で、虫が平気な女性って──いるわけがないだろう!」

「いないのか?」

「健康はともかくとして、大抵の女性は虫が苦手だ。その条件を外さないと、お前は一生独身だぞ」


 ありとあらゆる虫から、妻を守るくらいの気概を見せろと言われた。


「しかし、私は王の菜園を守る仕事がある。すべての虫から守るのは、難しい」

「本当にしろという意味じゃないからな。比喩だ。大事なのは、気持ちのほうなんだよ」

「クレール、お前の言うことを理解することは難しい」

「俺も、お前に同じ言葉を返すよ」


 クレールは言う。ここに、コンスタンタンが望む条件の花嫁はいないと。


「わかった。もしも、虫が平気で健康な女性を発見したら紹介するから」

「すまない。実は、明日用事があるので、そろそろ帰ろうかと思っていたのだ」

「騎士隊の視察でもあるのか?」

「いや、フォートリエ子爵家の子息がくる」

「フォートリエ子爵家って、大農園を経営している貴族だったか?」

「ああ、そうだ」


 フォートリエ子爵家──国内有数の大地主で、抱える大農園では国内の四割を占める野菜が生産されている。

 新鮮でみずみずしい野菜は王都でも人気で、国王の食卓にも上がることがあった。

 そんなフォートリエ子爵家は働きが国王に認められ、半世紀前に爵位が与えられた新興貴族である。


「その、フォートリエ家の坊ちゃんは何用で来るんだ?」

「フォートリエ子爵家の持つ農業の技術を教えるために、来てくれるらしい」

「なるほどねえ」


 国王陛下においしい野菜を献上したい。宮廷料理人の要請により、フォートリエ家の子息リュシアンが来ることとなったのだ。


 フォートリエ子爵家は八人の子どもがいて、男は一人しかいない。

 次代の子爵がくるというので、王の菜園の農業従事者達は緊張していた。


「よく、跡取りを寄越してきたな」

「フォートリエ子爵の手紙には、見聞を広めさせたいとあった。それと、王都で結婚相手を探したいと」

「そういうことか。だったら、今の時季はぴったりかもな」


 夜会は毎週どこかの家で開かれる。きっと、花嫁探しは捗るだろう。


「仲良くなったら、二人で仲良く花嫁探しをすればいい。年も同じくらいなんだろう?」

「十八歳らしい」

「二つ下か。じゃあ、お前が兄貴分になって、いろいろ王都のことを教えてやれ」

「可能な限り、善処する」


 賑やかな劇場や酒場は正直苦手だが、リュシアンが行きたいというのならば連れて行かなければならないだろう。


 溜息をひとつ落とす。


「コンスタンタン、頑張れよ」

「ああ」


 客が来るのであれば、早く帰ったほうがいい。クレールの言葉に深々と頷き、コンスタンタンは家路に就くこととなった。

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