王都にて
コンスタンタンとリュシアンが婚約者時代のお話です
コンスタンタンはリュシアンと王都にでかける。
気分転換にと思い、連れ出したのだ。
しかしながら、ドレスを見にいっても、雑貨店で買い物をしていても、人気だという喫茶店で甘い物を食べていても、リュシアンはどこか元気がなく、笑いかたも控えめだった。
心配になったコンスタンタンは、舞台を観にいく前にリュシアンに声をかける。
「アン嬢、もしかして、今日は具合が悪いのではないのか?」
リュシアンはコンスタンタンの問いかけに驚いたのか、目を見開く。
「体調が万全でないのならば、舞台はまた今度にしよう」
「あ、いえ、わたくし、元気ですわ!」
「しかし、今日のアン嬢は、どこか元気がないように思えたのだが」
「それは――」
リュシアンは表情を曇らせる。
やはり、具合が悪かったみたいだ。
「アン嬢、すまなかった。私がもう少し早く気づいていたらよかったのだが」
「いいえ、違うのです。わたくしは本当に元気でして――そうではないように見えたのは」
リュシアンは顔を俯かせ、もじもじし始める。
大きな声では言えない話だと察し、コンスタンタンは身をかがめた。
それに気づいたリュシアンは、耳打ちしてくれる。
「わたくし、コンスタンタン様の正式な婚約者になったものですから、はしたない言動や行動はしてはならないと、自らを戒めていたのです。その態度が、その、元気がないように見えてしまったのかもしれません」
そうだったのかと、腑に落ちた気持ちになる。同時に、コンスタンタンは内心反省した。
リュシアンを気分転換にと連れてくる場所は、ここではなかったようだ。
もっと言えば、同行する相手はコンスタンタンではない。
「……すまなかった。私はアン嬢を楽しませようと思って誘ったのだが、逆に気を使わせてしまった」
リュシアンが心から楽しむとしたら、共に過ごす相手はロザリーやソレーユだろう。
友達と一緒に、好きな場所へでかけてくるようにと提案すればよかったのだ。
「いいえ、そんなことはありません。わたくし、今日という日を、心から楽しみにしておりました。控えめな態度でいたのは、その、個人的な見栄だったのです」
「見栄?」
「ええ。つまりは、周囲の方々から、コンスタンタン様のすてきな婚約者に見られたいという、願望があったからだったのです」
「――っ!」
なんて愛らしい願いを心に秘めていたのか。コンスタンタンは言葉を失ってしまう。
そんなことをせずとも、リュシアンはコンスタンタンにとってすてきな婚約者だ。
無理なんかしなくていいと訴えた。
「私は、アン嬢がいつでも元気よく、朗らかでいると嬉しい。どんな場所でも、自分を恥じずにあってほしいと思っている」
そして、特別に飾らなくとも、すてきな婚約者であることを素直に伝えた。
「コンスタンタン様……。わたくしにはとても、もったいないお言葉です」
「そんなことはない。私は正直社交が得意ではないが、今はひとりでも多くの人達にアン嬢が婚約者だと紹介して回りたいくらいだ」
そう訴えると、リュシアンは照れたのか顔を真っ赤にさせる。
ここが街中でなければ、抱きしめていたくらいの愛らしさであった。
と、ここでのんびり話している間に、舞台の上演時間が迫る。
コンスタンタンが手を差し伸べると、リュシアンはそっと指先を重ねる。
ふたりは微笑み合って、舞台を観にいったのだった。




