堅物騎士と奥さまの、新婚……家族旅行 その六(終)
リリアーヌに挨拶し、茶と菓子を交えて会話を楽しむ。
一時間ほど経つと、リリアーヌがコンスタンタンとリュシアンに、花祭りに出かけたらどうかと勧めてくれた。
「えっと、コンスタンタン様、どうしましょう」
「姉君と話したりないのならば、今度の機会でもいいが」
リュシアンは窺うように、リリアーヌとクリスティーヌの顔を交互に見ている。
「大丈夫よね、リュシアン。楽しんでいらっしゃいな」
「そうですよ。新婚旅行なのですから、二人で楽しんできなさい」
「はい!」
お言葉に甘えて、花祭りに参加する。
リュシアンは花祭りに行きたかったらしい。姉や母を気にして、遠慮していたようだ。 ゆるやかな下り坂なので、行きよりも足取り軽く祭り会場へと向かった。
「ブーゲンビリアの花祭りなんて、わたくしには無縁のものだと思っていました」
「今まで、参加の機会はなかったのか?」
「ええ。ブーゲンビリアの花祭りは、別名恋人達の祭りとも呼ばれているのです」
リュシアンに言われて、周囲を確認する。行き交う人々は、仲睦まじい恋人達ばかりであった。
「気づかなかったな」
「もちろん、恋人達以外も、参加しているのですが」
年若い娘が、単独で参加するような祭りではないようだ。
女性のほとんどが、ブーゲンビリアの生花で作った花冠を被っている。売っている露店があったので、コンスタンタンはリュシアンに買ってあげることにした。
「ブーゲンビリアは、さまざまな色があるのだな」
「ええ、迷ってしまいます」
赤や黄色、薄紅、紫に白、橙と、豊富な花色が存在する。リュシアンはどれにしようか、決めかねている様子だった。
「アンは、紫が似合うのではないか?」
「紫、ですか?」
「ああ」
リュシアンは白か橙で迷っていたようだ。
「紫は、似合わないと思い込んでいました」
店主が差し出したので、コンスタンタンはリュシアンの頭に花冠を乗せた。
「よく、似合っている」
「そ、そうですか?」
鏡も用意されていたので、リュシアンは真剣な表情で覗き込んでいる。
悪くないと思ったのだろう。表情が柔らかくなっていった。
リュシアンが熱心に鏡を覗き込んでいる間に、コンスタンタンは花冠の代金を支払った。
「アン、行こう」
「はい。あ、お支払いは?」
「終わらせた」
「まあ、いつの間に。魔法使いのようですわ」
「そうかもしれないな」
見事に咲いたブーゲンビリアを見ながら、屋台街のほうへと向かう。
リュシアンが花冠はすぐに枯れてしまうと残念そうにしていたので、ガラス製のブーゲンビリアの耳飾りと首飾りのセットを贈った。もちろん、色合いは紫である。
リュシアンはお返しとばかりに、ブーゲンビリアを模った木製のカフリンクスを選んでくれた。
途中、喉が渇いたので、喫茶店で休憩する。
ブーゲンビリア茶なるものがあるというので、注文してみた。
運ばれてきたのは、鮮やかな赤い茶。ブーゲンビリアの砂糖漬けと蜂蜜を入れて飲むらしい。
ブーゲンビリアには薬効があり、風邪や咳、気管支炎などに効果があるという。
「コンスタンタン様、実は、ブーゲンビリアの花は、先端についている白く小さなものなのです。赤や黄色、紫色の花に見える部分は包葉と呼ばれる、花芽を包み込む葉っぱなのですよ」
「そうだったんだな」
つまり、この村で見られる美しい花々だと思っていたものは、葉部分だったと。
「皆、葉っぱだとわかっていても、つい花と呼んでしまうそうです」
「その気持ちはよくわかる。花にしか見えないからな」
ブーゲンビリア茶は、苦みはなくさっぱりしていた。意外と、飲みやすい。
苗を買って帰り、アランブール家の庭に植えてもいいかもしれない。
最後に、コンスタンタンはブーゲンビリアの花束をリュシアンに買って渡した。
「アンは、ブーゲンビリアが似合うな」
「ありがとうございます」
リュシアンはそっとコンスタンタンに接近し、小声で問いかけてくる。
「あの、コンスタンタン様、ブーゲンビリアの花言葉は、ご存じですか?」
「いいや、知らない」
リュシアンは耳元で囁く。
ブーゲンビリアの花言葉は、『あなたしか見えない』と。
まさに、その通りである。赤面しつつ、コンスタンタンは頷いた。
同時に、ブーゲンビリアの花祭りが恋人達の祭りと呼ばれる所以を、正しく理解したのだった。
◇◇◇
そんなこんなで、フォートリエ領での滞在はあっという間に過ぎていった。
クリスティーヌはフォートリエ領に残り、一ヶ月後に再び王の菜園に戻るという。
また遊びにくることを約束し、フォートリエ領を発つ。
実に楽しい旅行だったと、口々に話しながら家路に就いた。




