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堅物騎士は、お嬢様と茶会をする

 リュシアンとロザリーの頑張りの甲斐あって、小屋は綺麗になっていた。


「部屋は、半日乾燥させたほうがいいかもしれません」

「そうだな。家具も、太陽の光を当てて殺菌したほうがいいだろう」

「ええ」


 茶と菓子が入ったバスケットを見せ、休憩しようと誘う。

 部屋は使えないので、外での休憩となる。


「あ、アンお嬢様、私、敷物を持って──」

「いや、必要ない」


 コンスタンタンはマントを外し、地面に敷く。そこに座るように勧めた。


「あの、アランブール卿、悪いですわ」

「マントは、こういう風にも使うから問題ない」


 見習い騎士時代、よく仕えていた騎士のために地面にマントを広げていた。

 コンスタンタンにとっては慣れっこだが、リュシアンはこのようなことをされたのは初めてのようで戸惑っているように見えた。


「気にするな」


 重ねて言うと、リュシアンは恐る恐るといった感じでコンスタンタンのマントに座っていた。コンスタンタンは離れた位置に腰かける。


「え~っと、では、お菓子とお茶の準備をしますね」


 アランブール伯爵家の庭で育てた薬草茶に、メルヴェイユと呼ばれる砂糖がまぶされた揚げ菓子が並べられる。

 ポットの中の茶は、いい感じに蒸らされた状態だ。メルヴェイユは揚げたてだったようで、ほんのり温かい。

 メルヴェイユはサクサクとした軽い食感で、見た目ほど甘くない。渋い薬草茶を飲むと、口の中はさっぱりとなる。


「王都の近くですのに、ここは長閑ですわね」

「そうだな」


 長閑すぎて退屈だという騎士もいる。週末になれば、街に繰り出して飲み歩くのが楽しみだとも。

 コンスタンタンは近衛騎士時代、街で飲み歩くことはなかったし、遊びにでかけることもなかった。

 休みの日はひたすら鍛錬を行い、暇をもてあませば奉仕活動を行っていた。

 同僚の騎士クレールに「人生楽しい?」なんて聞かれたこともある。

 人生とは、楽しいものなのか? 逆に問いかけると「いや、そこまで楽しくないな」という答えが返ってきた。

 ふと、リュシアンの楽しみが気になり、質問してみた。


「アン嬢。質問しても構わないか?」

「ええ、なんなりと」

「趣味は?」


 穏やかな風が流れる。鳥のさえずりも響き渡っていた。

 なんだか見合いのような質問をしてしまった。

 直接「人生に楽しみはあるのか?」、と聞くことができなかったのだ。

 リュシアンは怪訝な表情を見せることなく、コンスタンタンの質問に答えてくれた。


「わたくしは、やはり自分で育てた野菜を料理にして食べることでしょうか? 生で食べるのもおいしいのですが、火を入れたほうがおいしい野菜もありますので」

「なるほど。だから、あのように見事なミートパイが作れたのか」

「お口に合ったようで、幸いですわ。……そうそう! わたくし、作った料理を食べている様子を見るのも、大好きですの。今まで、家族や親しい友人にしかふるまったことがなかったので、昨晩は緊張いたしました」

「そうだったのか」


 一応、おいしかった旨は伝えていたが、きちんと言えていただろうか。急に、不安になる。


「昨晩のミートパイは、本当においしかった」

「でしたら、また作りますね」


 なんだか、ミートパイが大好きな人みたいなニュアンスで伝わっているようだ。褒めるということは、難しい。新しい課題となる。


「たとえば、ニンジンが嫌いな子どもは、ハンバーグに入れて混ぜるとおいしいと言って食べてくれる。わたくしは、そういう小細工も好きですの」


 リュシアンは話の途中で、コンスタンタンを見てくすりと微笑んだ。


「何か?」

「いいえ、アランブール卿は、好き嫌いのない子ども時代だったろうなと思いまして。間違っていました?」

「いいや、嫌いな物は、特になかった」

「やっぱり!」

「どうして、そう思った?」

「体がとっても大きいので、好き嫌いなくたくさん食べていたのだろうなと」

「間違いない」


 リュシアンがころころと笑うので、コンスタンタンもつられてしまう。

 しかし、子ども時代の食事の思い出は、病弱な母との思い出ばかりでいいものではなかった。これから、楽しい思い出ができるのか。

 

「それにしても、ここの野菜達は不幸ですわ」

「それは──」


 否定できない。王の食卓に上がる野菜のみが消費され、それ以外は処分される。


「たくさん食べないのならば、小さな菜園でもいいと思います」

「いや、それもできない」


 毎月、国王の側近は王の菜園の野菜の収穫量を確認し、昨年より減っていたら物申してくる。

 

「食べない野菜は捨ててしまうのに、そういうところだけはしっかり気にしていますのね」

「まあ、そうだな」


 それには大きな理由がある。


「王の菜園は、豊かさの象徴なのだ」


 宝物庫に金銀財宝があり、宮廷に美しい庭園を持つのと同じように、国王専用の菜園を持っているということは、一種のステータスであるのだ。


「処分する野菜については、上にかけあってみる」


 リュシアンは本日一番の微笑みを浮かべて頷く。

 それは、太陽よりも眩しい笑顔だった。


「アン嬢は、野菜について、どのような有効活用を考えている?」

「王の菜園の野菜という、ブランドを付けて貴族に売りますの」

「それは、いいかもしれない」


 商売相手が貴族ならば、儲けることができる。

 その資金を、どうするかも問題ではあるが。


「とりあえず、許可が必要だな」

「ええ」


 王の菜園は、リュシアンの導きで新しい一歩を踏み出そうとしていた。

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