堅物騎士と奥さまの、新婚……家族旅行 その五
リュシアンの姉達は、それぞれの嫁ぎ先で元気にやっているという。
その中で、妊娠中で結婚式に参列できなかった姉がいた。
コンスタンタンはリュシアン、クリスティーヌと共に、姉リリアーヌに会いに行くのだ。
そこは馬車で一時間半離れた場所にある、のどかな保養地であった。
秋から冬にかけて、貴族が狩猟をしにやってくるのだという。
今は社交期真っ只中なので、街は閑散としているに違いない。
リリアーヌの子は、数ヶ月前に生まれた。
クリスティーヌは久しぶりに孫の顔が見たいというので、同行することとなったのだ。
「お姉様の子ども、可愛いでしょうね」
「ええ、とっても可愛いですよ」
リュシアンは頬に手を当てて、うっとりしていた。
一方で、コンスタンタンは一人緊張している。
結婚式のときに、四名のリュシアンの姉達と会った。
まるでクリスティーヌが分裂したかのように錯覚するほど、苛烈な面々である。
質問攻めに遭い、リュシアンに相応しい男かどうかもみくちゃにされたのだ。
当時の記憶は、悪夢としか言いようがない。
姉達の猛攻を止めてくれたのは、クリスティーヌであった。
手と手を合わせて、感謝したのは言うまでもない。
「コンスタンタンさん、具合でも悪いのですか?」
クリスティーヌが鋭い目で、コンスタンタンを見つめていた。
「あら、コンスタンタン様、顔色が、悪いですね」
何か薬を飲んだほうがいいのではないか。リュシアンは馬車の座席の下にある薬箱を取り出しながら問いかける。
「馬車酔いですか? それとも、偏頭痛でしょうか?」
「いや、体調が悪いのではなく、その、これから姉君と会うので、緊張しているだけだ」
正直に告げると、リュシアンは「大丈夫ですわ」とコンスタンタンを元気づける。
「リリアーヌお姉様は、姉妹の中でもおっとりしたお人で、コンスタンタン様に厳しい目を向けるような人ではありませんわ」
「そうか。だったら、安心した」
「結婚式の日は、姉達が申し訳ありませんでした」
「いや、上手く交流できなかった私が悪かっただけだ。気にするな」
「コンスタンタン様……」
リュシアンと手と手を取り合っていたが、クリスティーヌがゴホンゴホンと咳払いする。
二人の世界に入り込んでしまったと、コンスタンタンは我に返った。
「あの娘達には、二度とあのようにコンスタンタンさんに絡まないよう、叱っておりますので、安心なさって」
「義母上、ありがとうございます」
コンスタンタンには、頼もしすぎる仲間がいた。
◇◇◇
到着したのは、美しいブーゲンビリアが咲き誇る村。
家の壁を覆いつくすように、赤紫の花が咲いている。
圧倒的な花に、コンスタンタンはしばし言葉を失っていた。
「いつ来ても、ここは美しいですね」
「ええ、見とれてしまいます」
現在は花祭りをしているようで、各地から集まった観光客がブーゲンビリアの花冠を被って祭りを楽しんでいた。
大通りには屋台が並んでおり、伝統工芸やブーゲンビリアの苗、街の名物料理などが売られている。
祭りの空気を楽しみながら、一行はリリアーヌの嫁ぎ先を目指した。
小高い丘に、立派な屋敷が建っていた。
「あちらが、リリアーヌお姉様のお家です」
見たときはすぐ近くだと思ったが、いざ歩いてみると遠い。
三十分ほどかけて坂を登った先に、屋敷はあった。
村と同じくブーゲンビリアが咲く庭を通り抜け、玄関にたどり着く。
執事が出迎え、客間に案内してくれた。
待つこと五分――リリアーヌがやってきた。
「まあ、みなさま、遠方はるばるいらっしゃいまして、まことにありがとうございます」
やってきたのは、リュシアンと面差しが似た美女であった。
顔を合わせた姉妹の中で、リリアーヌはもっともリュシアンとそっくりである。
立ち上がると、リリアーヌはコンスタンタンのもとへとやってきて優雅なお辞儀を見せてくれた。
リュシアンが、コンスタンタンを紹介する。
「リリアーヌお姉様、こちらが、コンスタンタン様ですわ」
リリアーヌはリュシアンに微笑みを向けつつ、頷いた。
「初めまして、アランブール卿。リリアーヌと申します」
「コンスタンタン・ド・アランブールです」
「お会いできて、光栄ですわ」
リュシアンの言っていたとおり、リリアーヌはクリスティーヌ似ではなかった。おっとりしていて、凜とした貴婦人である。
侍女が、赤子を抱いてやってくる。
リュシアンとクリスティーヌが、頬を赤く染めてとろけそうな表情を浮かべた。
「まあまあ! なんて愛らしいの!」
「いつ見ても、天使のようです」
抱き上げた赤子は、人見知りせずに目を細めている。
それを見たクリスティーヌは、「全財産を捧げても、惜しくありません」などと呟いていた。
続いて、リュシアンが抱き上げる。
「コンスタンタン様、赤ちゃんは、ミルクのいい匂いがするんですよ」
リュシアンは微笑みながら、そんなことを教えてくれた。
赤子を覗き込むと、たしかにミルクのような甘い匂いがする。
コンスタンタンを見ても泣かない、いい子であった。
リュシアンが赤子を抱く様子を見ていると、感動を覚えてしまう。
いつか自分達にも――と思わずにはいられない。
幸せな時間を過ごした。




