堅物騎士と奥さまの、新婚……家族旅行 その三
騒動のあと、ロザリーがバスケットを持ってきて、差し出す。
「アランブール卿、アン奥さま、お弁当を用意してもらいました。お二人で、ピクニックに行かれたらどうですか?」
「ロザリー、ありがとうございます」
途端に、リュシアンは笑顔になる。
「お外を、歩きたいと思っていたのです」
「そうだと思って、すぐにお願いしにいったのですよ」
「ロザリー、さすがです!」
ロザリーは本当に気の利くよい娘だ。
密かに王の菜園の騎士達にも人気で、婚約者がいるのか聞かれることもある。
しかし、ロザリーは誠実で、真面目な男と結婚させたい。
騎士達は以前よりもまともになったが、それでもコンスタンタンが顔をしかめる瞬間がある。
いい男が見つかったら、いち早く彼女に紹介するつもりであった。
そんな考えをリュシアンに話したところ、「コンスタンタン様はロザリーのお父様みたいですわね」と言われてしまった。
父……と呟いた瞬間、リュシアンは赤面する。
いつか自分達にも子どもが生まれたらいいと、照れつつ話してくれた。
リュシアンの子ならば、男でも女でも天使のように愛らしいだろう。そんな子ども達に囲まれたら、幸せだ。
しかし、子は授かりものである。かならずしも生まれるとは限らない。
リュシアンが傍にいるだけでも、コンスタンタンは幸せだ。その上子どもまで強く望んだら、罰が当たってしまうだろう。
と、考えている間に、リュシアンに腕を引かれた。
「コンスタンタン様、フォートリエ領を、ご案内いたしますわ」
「ああ、頼む」
ロザリーは実家に帰るよう、言っておく。
「いいのですか?」
「ああ。元気な顔を、見せてこい」
「ありがとうございます」
結婚前であったならば、ロザリーの同行が必要だっただろう。
今、コンスタンタンとリュシアンは夫婦である。
王都であれば、侍女の一人や二人は連れていないといけない。
ここはのどかな田舎町。夫婦二人が寄り添って歩く様子は、あちらこちらで見かける。
リュシアンと二人きりでも、まったく問題なかった。
「では、行ってくる」
「アランブール卿、アン奥さま、行ってらっしゃいませ!」
ロザリーと別れ、外に出る。
登ってきた小高い道を下り、若葉萌ゆる木々を愛でながら歩いた。
大きなバスケットには、みっちりと物が入っているわけではなかった。なぜ、この大きさのをロザリーは選んだものか。
その理由は、すぐに明らかになる。
畑道を通ると、すぐさま領民に声をかけられた。
「あら、アンお嬢様じゃないか!」
「おい、お嬢様は結婚されたから、奥さまと呼ぶんだ」
「そうだったわねえ」
奥方は結婚を祝福するのと同時に、採れたての春野菜を差し出してくれた。
「このキャベツ、甘くておいしいよ」
「まあ! ありがとうございます」
リュシアンの顔より大きい、立派なキャベツである。手に持ってみたが、ずっしりと重たい。
感謝の言葉を伝え、この場を去る。
「コンスタンタン様、キャベツはバスケットに入れましょうか」
「ああ、そうだな」
大きなバスケットに、キャベツはすっぽりと収まった。
それから、次々と声をかけられ、野菜が差し出される。
バスケットの中はたちまち満たされた。
アスパラガスにサヤエンドウ、タマネギにジャガイモなどなど。
コンスタンタンは気づく。ロザリーはこれを見越して、大きなバスケットを持たせてくれたのだなと。
「こうやって、ただ歩いているだけで、いろいろもらってしまうのですよ」
「あたたかい人達だ」
「ええ」
領民が、そしてこの豊かな環境が、リュシアンをのびのびと育ててくれたのだろう。
このフォートリエ領という土地に、コンスタンタンは心の中で深く感謝した。
リンゴの樹の下に敷物を広げる。
風が強くなってきたからか、リュシアンはキャベツやタマネギを置いて、敷物が飛ばないようにしていた。
弁当は春野菜をふんだんに使ったものである。
アスパラベーコンサンドに、ジャガイモ肉団子、オニオンリングに、サヤエンドウ炒めなど。
中でも、アスパラガスとベーコンのサンドイッチが絶品であった。
ほどよく火が通ったアスパラガスは、驚くほど甘い。そして、まったく筋張っておらず、味わい深いものである。バゲットも表面はカリッと香ばしく、中はもっちりとしていて、小麦が豊かに香る。実においしいパンであった。
食後は軽く歩き回る。
リュシアンがよく木登りをした樹や、ロザリーと見つけた大きな岩、美しい野花が咲く湖のほとりなど、案内してもらう。
一時間半ほど歩いただろうか。
再び、リンゴの並木道へ戻ってきた。
目を細め、リンゴの花を眺めるリュシアンの目が、わずかに赤いことに気づく。
「アン、昨晩は、あまり眠れなかったか?」
宿に泊まる際、リュシアンはロザリーと同じ部屋だった。
ロザリーと一緒のほうが、ゆっくりできると思ったのだ。
「母君のことが、心配だったのか?」
「いえ、夜更かしして、ロザリーとお話ししてしまったのです。大丈夫ですので」
そう口にした途端に、リュシアンはふわ~~っと欠伸をした。
頬を染め、恥ずかしそうに潤んだ目をコンスタンタンに向けている。
「ならば、しばしここで眠るといい。膝を貸そう」
再び敷物を広げて、腰を下ろす。ぽんぽんと膝を叩いて勧めた。
「そんな! コンスタンタン様のお膝を借りるなんて」
「私の脚では、硬くて眠れないか?」
「いいえ、眠れます」
「だったら、しばし横になれ」
リュシアンは遠慮気味に敷物の上に入り、ゆっくり座る。そして、ぎこちない動きで横たわった。
いっこうに眠らないので、コンスタンタンはリュシアンの目元を手で覆う。
すると、一分も経たずにすーすーという寝息が聞こえた。
手を外すと、愛らしい寝顔を見せてくれる。
なんて幸せな時間なのかと、コンスタンタンは思いながら昼下がりを過ごした。




