堅物騎士と奥さまの、新婚……家族旅行 その一
リュシアンとの結婚から季節が巡り、春となった。
新婚旅行をしようという計画は立っていたものの、共に忙しく、なかなかタイミングが掴めずに今に至ってしまったのだ。
新婚旅行の計画が再浮上したのは、フォートリエ子爵から届いた一通の手紙がきっかけである。コンスタンタンに向けて、妻クリスティーヌにフォートリエ領に戻るよう言ってくれないか、と懇願する内容が届いたのだ。
リュシアンには、すでに何通かにわたって手紙を送っていたらしい。しかし、いっこうに帰ってこないと。
リュシアンに尋ねたところ、何回か領地へ戻るように促していたようだ。しかし、聞く耳はもたなかったと。
なんでも、ここ最近はリュシアンが心配だからというよりも、自分の楽しみのために王の菜園に滞在しているらしい。
喫茶店に立ったり、菜園で野菜の世話をしたり、やってきた客と話したりする毎日が楽しいようだ。
クリスティーヌ曰く、子どもを八人も産んだし、きちんと教育してきた。女主人としての役割も、果たしてきたつもりである。少しくらい、羽を伸ばしてもいいのだろう、と。
つまり、クリスティーヌは望んでここにいるようだ。
コンスタンタン個人としては、クリスティーヌがいると心強い。リュシアンも、頼りになる母親が傍にいることは、精神的な支えになっているだろう。
好きなだけ、滞在してほしいと考えている。
けれど、フォートリエ子爵が戻ってくるように望む以上、一度話し合ったほうがいいのではないか。
そんなことを、リュシアンと共に語り合う。
おそらく、コンスタンタンからクリスティーヌに話しても結果は同じだろう。
どうすればいいのか。
考えた結果、リュシアンが名案を思いついた。
新婚旅行先をフォートリエ領に選び、クリスティーヌも同行してもらうのだ。
新婚旅行に義母が同行するなど前代未聞だろう。
しかし、そうでもしないと、クリスティーヌはフォートリエ領に戻らない可能性がある。
フォートリエ子爵からの要望は伏せ、クリスティーヌに新婚旅行について話してみた。
すると、クリスティーヌは「新婚旅行なのですから、二人で行きなさいな」と返す。
作戦失敗かと思ったが、リュシアンが「一度、家に戻って、領民に顔を見せておくべきでは?」と言った。眉間に皺を寄せて、悩んでいるように見える。
あと、もう一押しだろう。
コンスタンタンは、ある提案をした。それは、グレゴワールも一緒に同行するというものである。
グレゴワールまで同行したら、新婚旅行ではない。家族旅行である。
だが、今後このような機会など、もうないかもしれない。そう訴えると、「そうですね」と納得してくれた。
そんなわけで、クリスティーヌを伴った新婚旅行が決定したわけである。
バタバタと過ごしているうちに、新婚旅行当日となった。
この日のために、国王夫婦から純白の馬車が贈られた。車体を引く馬までも、白い。車内も、白を基調とした美しい内装であった。
「まあ、素敵です」
「本当に」
リュシアンとクリスティーヌは、たいそうお気に召したようだ。
コンスタンタンは心の中で、国王夫婦に感謝する。
これから三日間、クリスティーヌと共に旅するのだ。
密閉された空間で、場が保つのか。
無口なコンスタンタンがいるせいで、しらけたりしないか。心配でならない。
どうにかクリスティーヌが上機嫌のまま、フォートリエ子爵領にたどり着くことを祈る。
新婚旅行には、ロザリーも同行する。彼女もまた、久しぶりの里帰りとなるわけだ。
緊張しつつの出発となったが――コンスタンタンの心配は杞憂に終わった。
リュシアンとクリスティーヌ、そしてロザリーは、実に楽しそうに会話していた。
グレゴワールも、久しぶりの遠出に笑顔が絶えない。
忙しい日々を過ごすばかりだったので、旅行はいい息抜きとなっていたようだ。
一日目、二日目、三日目と順調に進み、やっとのことでフォートリエ子爵領へとたどり着く。
事前にフォートリエ子爵が帰省について話をしていたのか。
大勢の領民達が出迎えてくれた。
王妃の筆頭侍女となったリュシアンは、英雄のようにもてはやされた。
同じく王妃の侍女となったロザリーも、平民の星として賞賛の声が上がった。
コンスタンタンやグレゴワールも、王の菜園の騎士として尊敬の眼差しを浴びる。
そしてクリスティーヌが帰ってくるやいなや、ワッと領民達が沸く。主に反応しているのは、女性陣であった。
人気ぶりに呆然としていたら、ロザリーが解説してくれた。
「クリスティーヌ様は、領民から大人気なのですよ。フォートリエ子爵領で、女性の自立のためにさまざまな活動をしたので」
「そうなんだな」
このように、大歓迎を受けたのは初めてである。気恥ずかしかったが、嬉しくもあった。
ワイワイともてはやされながら、フォートリエ子爵邸を目指す。




