堅物騎士は、挑戦状を叩きつけられる
ここ数日、リュシアンの侍女選考問題でゴタゴタしていたが、無事解決したようだ。
新しい侍女となったのは、エレーヌという元舞台女優。貴族の生まれではないが、舞台で貴族の役をすることが多かったようで、ふるまいは優雅だった。
侍女としても問題なく働いているようで、王妃も大変感謝しているという。
それから一ヶ月後に、新たに五名の侍女を新しく迎えたようだ。
彼女らは、国の政策の影響で没落してしまった貴族の娘達。親世代が長年にわたって貴族という特権を振りかざした結果、新しい時代についていけずに凋落してしまったのだ。
これからの時代、貴族といえど贅沢三昧な暮らしは許されないという。
新しい王は、国民すべてが同じように幸せな暮らしができることを望んでいる。
また、王族や貴族が特別な時代は、もう終わったのだと宣言していた。
もちろん、王の政策に不満を持つ貴族は大勢いる。
国王を亡き者にして、貴族派の王族を王に据える、などというきな臭い噂話も浮上していた。
だが、その情報はどこからか漏れ、その貴族は民衆に襲われる。
国王を守るために、国民が自ら動いたのだ。
以降、貴族派は過激な発言や活動を控えるようになった。
国民から絶大な支持のある王を敵に回したら、大変なことになる。
もしも暗殺などしたら、国民一人一人が武器を持ち、貴族達に刃を向けるだろう。
貴族と国民が対立すれば、多勢に無勢となるのは目に見えていた。
以前ほどではないが、貴族の特権は残っている。その中で慎ましく生きるしかないと自覚したようだ。
すっかり平和になった中で、思いがけない事件が起きる。
それは、空が澄み渡った昼下がりの話であった。
◇◇◇
コンスタンタンはリュシアンと共に、のんびりとした休日を過ごしていた。
これほどゆっくりとした時間を共にするのは、いつ振りか。
結婚式の準備も整い、あとは当日を迎えるばかり。
リュシアンはコンスタンタンの隣に腰掛け、革の手袋を縫っている。
それは、コンスタンタンのための手袋である。
これから寒くなり、王の菜園を見回る仕事が辛くなるだろうからと、内側に起毛生地を合わせた手袋を作ってくれるようだ。
革製の手袋なので、生地は大変硬い。リュシアンは時折気合いの声をあげながら、縫っていた。
コンスタンタンはリュシアンが使うナイフの手入れをしている。
リュシアンが農作業に使うナイフは、大変切れ味がいいものの、錆びやすいのだ。
コンスタンタンは研磨剤を使って錆を落としてから、刃を研石で磨く。仕上げにオイルを薄く塗ると、赤錆が発生しにくい。
ピカピカになったナイフを見て、リュシアンはぱーっと表情を明るくさせていた。
「まあ! ナイフがとってもきれいになりました。コンスタンタン様は、魔法使いですか?」
あまりにもリュシアンが喜ぶので、照れてしまう。
「ナイフの手入れは、従騎士時代によくやっていたのだ」
「そうだったのですね」
そんな話をしていたら、扉がトントンと叩かれる。
リュシアンが「どうぞ」と言うと、誰かが勢いよく中へと入ってきた。
「姉上、結婚するというのは――うわあ!!」
現れたのは、リュシアンに面差しがよく似た少年である。年頃は、十七、八歳くらいか。
ナイフを握ったコンスタンタンを見て、驚いたようだ。
「誰だ、お前は! 姉上から離れろ!」
「エリク、コンスタンタン様に、何を言っているのですか?」
「なっ、この男が、コンスタンタンだと!?」
話の内容から、エリクと呼ばれた少年はリュシアンの弟のようだ。
たしか、寄宿学校で寮生活をしているとリュシアンが話していたような……。コンスタンタンは記憶を甦らせる。
ナイフを手早く納め、立ち上がった。
「初めてお目にかかる。私は、コンスタンタン・ド・アランブールだ」
手を差し出したら、キッと睨まれてしまった。だが、すぐにリュシアンから「エリク、コンスタンタン様にご挨拶なさい」と言われ、渋々といった感じで手が握り返される。
「僕は、エリク・ド・フォートリエ」
「よく、来てくれた」
エリクは目も合わせずに、こくんと頷く。
「エリク、あなた、どうしてここに? 寄宿学校は、どうしたのですか?」
「今日から三日間、王都見学なんだ。今は、自由時間」
「まあ、そうだったのですね」
茶と菓子を振る舞うと、気持ちがいいくらいぱくぱく食べてくれた。育ち盛りなのだろう。
「それにしても、驚いた。姉上が、結婚目前だったなんて」
「お父様やお母様から、お話を聞いていなかったのですか?」
「手紙は届いていたけれど、試験前だったし、読んでいなかったんだ。いつも、同じ内容が書かれているから。そのあと、読むのを忘れてしまって……」
その発言を聞いたリュシアンは、遠い目となる。彼女も以前、同じような失敗をしていたからだ。
つい先日、エリクに結婚式の招待状が届き、驚きと共にアランブール伯爵邸を訪問したというわけである。
「まあ、いい」
何がいいのか。コンスタンタンとリュシアンは、エリクを見つめる。
「この僕が、姉上に相応しい男か、確認してやる!」
突然の挑戦状に、コンスタンタンは目をぱちぱち瞬かせることしかできなかった。




