お嬢様は、侍女候補を絞る!
まさか、愛人を探すパーティーがあるなんて。
リュシアンは口元に手を当てて、驚く。コンスタンタンも、頭を抱え込んでいた。
「ティエール侯爵夫人は、ご存じだったのでしょうか?」
「ええ、知っているはずよ。彼女はそういったことに興味がないから、どこか別室にいると思うわ」
なんでも、この立食パーティーは大々的に愛人を探す出会いの場だということは表面上は知れ渡っていない。ただ、参加者は周知だという。
「王都で昔から開催される、伝統的なパーティーみたい」
リュシアンとコンスタンタンは、言葉を失う。
「そ、そんなものが、あったのですね」
「ええ。社交を伴う公的な場では、愛を探すのが難しいとかなんとかで、代わりに出会いの場を提供するために、わりと頻繁に開催されているらしいわ」
エレーヌの話を聞きながら、リュシアンは「なんてはしたない」などと考えていた。
だが、貴族社会に愛人文化はつきものである。
貴族において結婚というものに、愛はない。家と家の繋がりを強くするための、手段である。
リュシアンの両親は仲がいいため、愛人がいて当たり前、という貴族の慣習を受け入れられないのだ。
ちらりと、コンスタンタンを見る。彼もまた、げんなりしていて、顔色を悪くさせていた。
コンスタンタンの両親は恋愛結婚で、グレゴワールは妻一筋だったという。今も、亡くなった妻を深く愛しているように思えた。
そのため、コンスタンタンも愛人文化に嫌悪感を覚えているのだろう。
「貴族って、大変ね。愛だけで結婚できないなんて。例外もあるようだけれど」
エレーヌはちらりと、コンスタンタンとリュシアンを見た。
男女が出会い、恋が愛に変わり、将来を約束し合うのは奇跡なのだろう。改めて、リュシアンはコンスタンタンと出会えたことに感謝した。
「まあでも、自由に結婚できないだけで、貴族は恵まれた環境にあるのだから、愛が欲しいならば探せばいいじゃないって、なるわよね」
エレーヌは結婚はしていないという。今後、するつもりもないと。
なぜ、結婚するつもりはないのか。口に出さなかったが、表情から読み取ったのかもしれない。エレーヌはぽつり、ぽつりと話し始める。
「二十歳のときに、運命的な恋をしたのよ。でもそのころの私は、女優の仕事で忙しくて。恋と仕事を天秤にかけた結果、仕事のほうに傾いたわ」
結婚の話を断り、エレーヌは舞台に立ち続けた。その結果、彼女は女優として大成功した。
「それも、過去の栄光よ。舞台女優の命は、とても短いの。王都には才能ある若くて美しい娘が、どんどんやってくるから」
エレーヌは惨めになる前に、自らの舞台人生の幕を閉じた。
「今は、貴族相手に、商売をしているの。主な内容は、これまでと変わらないわ」
エレーヌの仕事は、依頼に応じて“演じる”ことである。
「今日は、どこぞの貴族のご夫人って感じだったでしょう?」
「はい」
「私、庶民の出なの。でも、上手く演じられていたでしょう?」
リュシアンは目を見開く。
エレーヌは貴族の出身者だと思っていたのだ。まったくそういうことはなく、振る舞いのすべては、彼女の演技力だったという。
「今日紹介したご夫人方は、すべて依頼者だったの。まあ、なんていうか、言いにくいんだけれど、浮気をするときは、家の侍女を連れて歩けないでしょう? そういう場合は、私を雇うのよ」
「な、なるほど」
エレーヌの舞台人生は終わったが、女優人生は終わっていないわけだ。
「でも、これ一本で稼ぐのもなかなか大変なの。社交期は忙しいけれど、そうでないときは一週間仕事の依頼がないときがあるから。定職につこうにも、紹介状がないから、いい仕事には就けなくて」
リュシアンはここでピンとくる。
「あの、でしたら、王妃様の、侍女になりませんか?」
「は!?」
リュシアンの言葉を聞いたエレーヌの目は、点となる。
「あなた、貴族のご夫人の中から、侍女を選ぶんでしょう?」
「その予定でしたが、私は、エレーヌさんと一緒に働いてみたいと思いました」
人と話すときの様子や、物腰、喋りなど、なんら貴族女性と遜色はない。
人前で発揮する度胸は、持ち合わせているように思える。
何より、エレーヌのことを王妃も好きになりそうだと思ったのだ。
「王妃様は、エレーヌさんみたいな方が、きっと大好きだと思うんです」
「でも、舞台女優崩れが侍女をするなんて……」
「謙遜しないでくださいませ。エレーヌさんは、立派な女性ですわ」
紹介してもらった人達の印象は、悪くない。礼儀に反した恰好をしたリュシアンを見ても、差別しなかった。
けれど、今回は場所がよくなかったのだろう。愛人を探すパーティー会場で、まともに選考などできるわけがないのだ。
「しばらく、考えていただけますか?」
「本気、なのね?」
「はい」
きっと、エレーヌは王妃を助けてくれる存在となるだろう。
どうか、前向きに考えてもらうよう、リュシアンは深々と頭を下げた。コンスタンタンも、それに続く。
「わかったわ。考えておく」
「よろしくお願いします!」
後日、リュシアン宛にエレーヌから手紙が届いた。
王妃の侍女として、働く決意ができたと。
手紙を読んだリュシアンは、ぴょこんと跳び上がって喜んだ。




