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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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お嬢様は、堅物騎士と共に立食パーティーに参加する!

 一応、リュシアンとコンスタンタンはグレゴワールにも変装して侍女の選考をする旨を話しておいた。

 グレゴワールは「フォートリエ子爵夫人が賛成ならば、問題ないだろう」と言っていた。


 リュシアンとコンスタンタンは、ドラン商会の縁者、という設定になった。

 グレゴワールの提案に、ちょうど訪問していたドニが面白がって了承したという。

 ドニの親類は大勢いるというので、一人か二人紛れ込んでもバレないだろうと。

 ちなみにリュシアンとコンスタンタンの関係は、いとこで幼なじみ、それから婚約者同士ということに決まった。

 考えたのはクリスティーヌである。意外とノリノリで、設定を用意していたようだ。

 それだけではない。コンスタンタンがあまりにもきびきび歩くので、商人一家の息子はそのような歩き方などしないと注意する。リュシアンにも、お辞儀が貴族然としているので、もっと肩の力を抜くようにと熱心に演技指導していた。


 パーティー当日を迎えるまで、リュシアンとコンスタンタンはクリスティーヌ指導のもと、商家の者になりきる練習を重ねた。

 短い時間であったが、いい息抜きになった上に、リュシアンはコンスタンタンと楽しい時間を過ごしたのだった。


 コンスタンタンの変装の衣装やカツラを用意したのは、ドラン商会のドニである。貸衣装もやっているようで、仕立てのよい品を貸してくれたようだ。


「このように明るい髪色は、落ち着かないな」

「コンスタンタン様、よくお似合いですわ」

「そうだろうか? いまいち、しっくりこない。悪目立ちをしないといいのだが」


 コンスタンタンは自らの顔立ちが整っている意識がないのだろう。普段は髪を短く刈り、派手な恰好や行動はしない。それゆえ、どこに行っても目立たないのだ。

 一方で、今宵のコンスタンタンは、見た目から華やかである。悪目立ちなんてするわけがない。注目を集めるとしたら、素敵な男性がいると女性陣の中で囁かれるレベルだろう。


「こういうのは初めてなので、緊張しますわね」

「そうだな」


 そんな話をしているうちに、パーティー会場に到着した。

 エントランスに入った途端、執事らしき男性に個室へと案内される。

 人目のない部屋でティエール侯爵夫人と落ち合い、侍女候補を紹介してくれる人物と言葉を交わした。


「はじめまして、エレーヌ・ロランスですわ」


 王妃の侍女であるティエール侯爵夫人が会場を回って頻繁に交流をしていると、変に勘づく人がいるかもしれない。そのため、代わりに紹介してくれる者を雇ったという。

 エレーヌは舞台女優として活動しており、ティエール侯爵家が陰で支援をしている者らしい。

 貴族の知り合いが大勢いるようで、侍女候補となった女性達とも交流があるという。

 まさにうってつけの者を、ティエール侯爵夫人は連れてきてくれたようだ。


 年頃は三十前後だろうか。

 艶のある黒髪に、コバルトブルーの瞳を持つ美女であった。

 肌は驚くほど美しく、輝いているようにも見えた。

 全身から、自信があふれ出ているようだった。これが、舞台女優なのか。リュシアンは羨ましく思ってしまう。


「あとのことは彼女に頼んだから。もしも、疲れたらここの部屋を使って休んでもいいらしいわ」

「ティエール侯爵夫人、何から何まで、ありがとうございます」

「前にも言ったけれど、あなたのためにしていることではないので!」


 耳まで顔を真っ赤にさせつつ、ティエール侯爵夫人は部屋から去って行った。

 それから十分ほど時間をおいて、会場へと向かった。


 すでに、大広間には大勢の人達がいる。

 今回、招いているのは貴族だけではないので、野暮ったい恰好をしているリュシアンが足を踏み入れても、まったく目立たない。


 逆に、想像通りコンスタンタンは目立っていた。

 すれ違っただけで、頬を赤くする娘もいる。

 明らかに注目の的であったが、コンスタンタン自身は自覚していない。


「なんだか、皆、アンを見ていないか?」

「いいえ、見られているのは、わたくしではないかと」


 コンスタンタンはエレーヌのほうを見る。注目されているのは彼女かと、結論づけたようだ。


 リュシアンは内心はらはらしつつ、人の多い会場を進んでいく。


 まず初めに紹介されたのは、ジード子爵夫人。周囲には大勢の人がおり、交友関係は広いように見える。


 エレーヌがリュシアンとコンスタンタンを紹介する。

 ジード子爵夫人は人当たりがよく、明らかに地味で場にそぐわない恰好をしたリュシアンを見ても蔑むような視線を向けることはなかった。

 その代わり、熱っぽい視線をコンスタンタンに向け、先ほどから何度も腕に触れたり、服の袖を摘まんだりしている。

 初対面の者に対して、接触するのはどうなのか。

 じっと見つめるのも、あってはならないものだろう。

 リュシアンの中で珍しく、黒くドロドロした感情が生まれていた。


「大丈夫?」


 エレーヌに声をかけられ、リュシアンはハッとなる。

 任務を忘れて、考え事をしてしまった。リュシアンは己を恥じる。


 ジード子爵夫人は話し足りないようだったが、エレーヌがスッパリ中断させた。


「他にもご挨拶をしなければならないので、ごきげんよう!」


 エレーヌはリュシアンの腕を取り、コンスタンタンの背中を押してどんどん移動する。

 二人目、三人目、四人目と紹介してもらったのだが、もれなくジード子爵夫人と同じような反応だったのだ。


 数人紹介してもらっただけなのに、リュシアンは酷く疲れてしまった。


 エレーヌが休憩しようと提案するので、先ほどの個室へ移動した。

 コンスタンタンはぐったりしているように見えた。それも無理はないだろう。行く先々で、女性達に色目を使われたのだ。


「どうしてこうなった……」


 頭を抱え、ぼやくコンスタンタンに、エレーヌが衝撃の情報をもたらす。


「だってこの立食パーティー、愛人を探す催しですもの」


 リュシアンとコンスタンタンは、同時に叫んだ。「なんだって!?」と。


 

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